2023.08.15

杖の種類や選び方とは?福祉用具専門相談員がおすすめの杖を紹介

最終更新日:2023.08.15
長谷川 大祐
介護福祉士、福祉用具専門相談員、住環境コーディネータ2級

近頃、「散歩すると疲れやすくなった気がする」「小さな段差で転びそうになった」などと感じたことはありませんか?日常生活の中で足腰の衰えやヒヤッとすることが増えてきたら、杖が必要になってきたサインです。中には杖をつくことに抵抗のある人もいると思います。しかし、早い段階から杖を使い始めることでスムーズに歩きやすくなり、運動量が減らずに済みます。外出は筋力維持に不可欠です。転倒を回避するために出かける回数を減らすのではなく、杖を使って快適に出かけるようにしましょう。

今回の記事では
• 杖の役割を深く知ることで、杖を取り入れるメリットが理解できる
• その人に合った最適な杖を選ぶことができる
• 杖の使い方を理解でき、安全な歩行が可能になる
などを解説します。足腰の衰えを感じる方は杖を使用することで、歩くことが楽しくなり、元気な毎日を過ごすことができます。

杖の役割

杖の役割

杖には、主に「安心して歩行することができる」「歩行の安定をサポートする」「足腰の負担を減らす」の3つの役割があります。

杖を使用することで、2本の足の他に体を支える支点(ポイント)が、もう1つ追加され、杖を使用していないときよりも転倒する危険性はかなり抑えることができます。また、両足への負荷が分散されるため、長い距離を歩いても足腰への負担を軽減することができ、体全体が疲れにくくなります。

歩くことに抵抗感がある方は、杖を使用すると、転倒への不安が軽減され、安心して歩行できます。長い距離を歩き続けることができれば、筋力や心肺機能の維持にもつながり、生き生きとした毎日が送れます。

杖の種類

杖の種類

杖には、選ぶ際に迷ってしまうほど、さまざまな種類と性質があります。
その中でも代表的なものとして
• 一本杖(T字杖)
• 多点杖
• 二本杖(ノルディックウォーキングポール)
• ロフストランドクラッチ
• 松葉杖
の5種類があります。それぞれの杖の形状や特徴について、以下で詳しく解説していきます。

一本杖(T字杖)

一本杖

支柱の長さを調節できる一本杖は、加齢により姿勢に変化が現れたりして、「歩くことがちょっと不安だな」と思われる方におすすめの杖です。折りたたみができる一本杖は、歩行に不安がない人が長い距離を歩いたり、疲れた時にだけ使用したりする場合などに便利です。

杖の形状

一本杖

シャフトと呼ばれる支柱と、グリップと呼ばれる握り手の部分が、T字の形状をしていることからT字杖ともいわれています。グリップには、他にもL字杖、オフセット杖があります。

杖の特徴

一本杖は、シンプルな形でありながら、さまざまな機能を備えています。例えば、支柱の長さを調整できるものや折り畳みができるもの、夜間に使用する際に便利な握り手の部分にライトが付属しているもの、杖らしさを感じさせないおしゃれな装飾を施したものなどがあります。(※介護保険制度を利用してレンタルできる商品ではないため、自費で購入する必要があります)

一本杖は、接地面が一点のため、杖を扱いやすいメリットがあります。一方、接地面が一点であるがゆえに、杖に体重をかけて歩くことには適しておらず、歩行に不安を抱える人はバランスを崩して転倒するリスクが高いというデメリットがあります。

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多点杖

多点杖

多点杖は、一本杖では足元が安定しない方や、脚力が低下している方におすすめの杖です。

杖の形状

デイケアやデイサービスの機能訓練などでよく見かけるタイプで、杖の先端が三点や四点に分かれて支える構造になっているのが多点杖です。

杖の特徴

一点杖と比べ支持基底面が広く、面で支えているため、安定感に優れているのがメリットです。また、体重をかけて歩くことも一点杖より適しています。さらに、介護保険制度を利用してレンタルできるため、使用してみて身体にフィットしないようであれば交換できることも便利です。

一方で、一本杖よりも重さがあり、整地されていない道路や段差、階段などがある場所では、三点や四点でしっかりと接地できないため、使用には向いていないというデメリットがあります。

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二本杖(ノルディックウォーキングポール)

二本杖_ノルディックウォーキングポール

ノルディックウォーキングポールとも呼ばれる二本杖は、山登りや散歩をしている人がよく利用している杖です。歩行時のふらつきやつまずきが気になり始めた方におすすめです。

杖の形状

両手の杖で、2本のポールで体を支え、左右のバランスを取ります。

杖の特徴

杖を両手に持つことで背筋が伸び、左右のバランスが取れ、重心が安定します。歩行時にかかる負担が2本の杖に分散するため、膝や腰の負担の軽減も期待できます。さらに、2本のポールを使用し上肢の筋肉を動かすので、エネルギーの消費量も向上し、身体機能の維持にも効果的です。

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ロフストランドクラッチ

ロフストランドクラッチ

カフが付いていることにより、上腕で体重を支えることができるため、握力が弱くグリップを強く握れない方におすすめです。

杖の形状

ロフストランドクラッチのカフ

ロフストランドクラッチは、輪やU字の形をしたカフと呼ばれる固定具が杖の上部に取り付けられていて、そのカフに腕を通して手でグリップを握り、腕と手のひらの二点で体を支えます。

杖の特徴

単脚杖と松葉杖の中間の支持性を持っており、しっかりと体重を支え、腕と手のひらに荷重を分散できることがメリットです。

カフには、転倒しやすい人向けのオープンカフと、よりしっかりと体を支えてくれるクローズドカフの2種類があります。
一見、しっかりと体を支えてくれるクローズドカフは安全のように感じますが、腕から杖が外れにくいため、転倒した際に前腕部分が骨折しやすいというデメリットがあります。さらに、利用する人の状態に合わせて高さを調整し適切に使用しないと、むしろ歩行しづらくなります。

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松葉杖

松葉杖

主に足の骨折した際、体重の足への負担を軽くする場合に使用されます。慢性の関節炎や疼痛などにより片足に体重をかけることができない、またはかけてはいけない、歩行バランスが悪いといった場合にも使用されます。

杖の形状

通常は2本組で、杖の上部に付いているクッション部分を両腋に挟み、グリップを手で握り、腋と手のひらの二点で体を支えます。

杖の特徴

日常的に使用することはほぼありませんが、特殊な歩き方をするため、使用する場合は、操作のコツを覚える練習を重ねる必要があります。また、ある程度の腕の力が必要です。腋に挟んで使用する松葉杖は、神経や血管を圧迫してしまい、腕や肩の周辺に頻繁に痛みを感じてしまうのがデメリットです。

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杖の選び方のポイント

杖の選び方のポイント

杖の選び方には、主に3つのポイントがあります。
• 杖の合わせ方
• 杖の軽さと丈夫さ(材質)
• グリップの握りやすさ

年齢がいくつになっても安全に歩くために、杖の選び方はとても重要です。それぞれのポイント別に、以下にて詳しく解説します。

【目次】
00:00 動画の概要
00:51 杖の種類
06:21 杖の選び方のポイント3選
12:16 杖の使い方のポイント
15:04 この動画のまとめ

杖の合わせ方

一般的な杖の合わせ方として、身長を用いた合わせ方や床から足の付け根までの長さで合わせる方法がありますが、この方法で合わせると、手の長さや腰の曲がり具合などが反映されにくい為、間違った杖の長さになりやすいです。

杖の合わせ方1

杖の合わせ方 杖の合わせ方

足の小指の外側15㎝のところに杖をついたとき、肘関節が約30度の角度になる長さが適切です。なぜ30度が良いかというと、肘を伸ばすために使われる筋肉が働きやすい角度だがからです。

杖の合わせ方2

杖の合わせ方

腕を垂直にした時の手首の高さに合わせると良いです。この方法で杖を合わせると、自然と肘の角度が適切な30度になります。

杖が長すぎると体重をうまく支えられず、短すぎても姿勢が前かがみになりバランスが安定しません。持つ人の身長に合わせた長さに調整できる製品を選びましょう。

杖の軽さと丈夫さ(材質)

杖の重量や材質は、杖を使用する頻度や場所を考慮して選びます。杖の重量は材質の影響を受けやすいので、筋力に応じた重さの杖を選びましょう。軽い物は使いやすさに優れ、重い物は安定性に優れるという特徴があります。まずはアルミ製の杖を試し、使用感や好みによって軽い物や重い物に切り替えを検討するとよいでしょう。丈夫さを重視する場合は、支柱がアルミ合金製やカーボンファイバー製のものを選ぶと、耐久性に優れ長持ちします。

一本杖は、使用する場所を問わず操作がしやすく、軽量です。多点杖は、使用する場所を問わず安定性に優れている分、重さを感じます。二本杖は、使用する場所は屋内よりも屋外が多く、軽量です。ロフストランドクラッチや松葉杖は、使用する場所を問わず操作にコツが必要で、重さを感じます。杖は、あくまで歩行を補助する道具ですが、歩くたびに体重の負荷がかかりますので、転倒のリスクも抑えるためにも、十分な強度があるものを選びましょう。

グリップの握りやすさ

グリップが手に馴染み、力を入れやすい太さのものを選びます。グリップの太さは、細く小さい杖から太く大きい杖までさまざまです。一般的にグリップが細く小さいタイプは女性向け、大きく太い杖は男性向けとして販売されています。使う人の手の大きさや握力に合わせたグリップの杖を選びましょう。グリップを握って歩いた際、力が入りにくいことや、指や手首に痛みが出るものは、グリップが合っていないことが原因と考えられます。また、杖のデザインは豊富で、シンプルなタイプからシーンや好みに合わせて使い分けができるタイプまであります。

杖の使い方について

杖をついて歩く男性

自分に合った種類の杖を見つけ、こんなことをやってみたい、あんなところへ出かけてみたいという想いが強くなってきたかと思います。しかし、最適な杖でも、使い方を誤ってしまうと、転倒や骨折などの事故につながってしまいます。以下では、杖を使った正しい歩き方と使用する際の注意点について解説します。

杖を使った正しい歩き方

杖は原則、障害や痛みのある足と反対側の手に持ちます。
・右側に障害や痛みがある場合…左手で持つ
・左側に障害や痛みがある場合…右手で持つ

杖を使った歩き方には、主に2動作歩行と3動作歩行の2種類があります。

2動作歩行

2動作歩行とは、杖と障害や痛みのある足を同時に出して、「いち、に」と2拍子で歩く方法です。

①1歩目に杖と障害や痛みのある足を一緒に前に出す
②2歩目に健側の足を出す

この2動作歩行は、股関節を伸ばせるとともに、後ろに伸ばした足で地面を蹴ることで、長い距離を効率的に早く歩けます。

3動作歩行

3動作歩行とは、先に杖を体の前に出し、その後障害や痛みのある足、健側の足を出して、「いち、に、さん」と3拍子で歩く方法です。

①1歩目に杖のみを出す
②2歩目に杖と障害や痛みのある足を一緒に出す
③3歩目に健側の足を出す

この3動作歩行は、2動作歩行と比べ、足が振り出しやすく安定して歩けます。

ちなみに、杖を使って階段を昇降する場合は、コツが必要です。主に1足1段歩行と2足1段歩行の2種類があります。
・1足1段歩行
片足で1段ずつ昇降する方法で、効率よく昇降できます。しかし、常に片足立ちの状態になるため、筋力の低下している人などは、バランスを崩しやすく、転倒や転落の危険を伴います。
・2足1段歩行
1段を昇降するたびに、両足を同じ階段に乗せる方法で、昇降に時間を要しますが、安定性は増します。階段を昇る際は、まず杖を1段上げ、次に健側の足を上げ、最後に患側の足を上げます。階段を降りる際は、まず杖を1段下げて、次に患側の足を下げて、最後に健側の足を下げます。

杖を使用する際の注意点

使用する際は、周囲の状況を把握し、できる限り手には杖だけを持つように心がけます。周囲の状況を把握するとは、杖を使って歩く場所は、すべてが舗装された平坦な道ではありません。段差もあれば未舗装の道もあり、傾斜もあれば道幅が狭い道もあります。このような場所において、舗装された平坦な道と同じような杖の使い方をすると、転倒やつまずきなどの事故のもとです。杖を使用する際は、周囲の状況を確認し、安定して杖を接地できるようにしましょう。

また、買い物といった外出で荷物を持って歩く必要がある場合は、リュックを利用すると安心です。これは、片手で杖を持ち、空いている片手に荷物を持つと、バランスを崩しやすく事故につながりやすくなります。買い物などに出かける際は、リュックを利用して荷物を背負う状態にすることで、杖と体のバランスを保ちながら歩くことができます。

よくある質問

自分に合った杖の選び方は?

「杖の合わせ方」でもご紹介したように、自分に合った杖の選び方は2つあります。

① 足の小指の外側15㎝のところに杖をついたとき、肘関節が約30度の角度になる長さ
② 腕を垂直にした時の手首の高さに合わせる

足が痛い時、杖はどっち側にもつ?

「杖を使った正しい歩き方」でもご紹介したように、杖は原則、障害や痛みのある足と反対側の手に持ちます。

・右側に障害や痛みがある場合…左手で持つ
・左側に障害や痛みがある場合…右手で持つ

福祉用具専門相談員がおすすめする杖

ウェルファン「夢ライフステッキ 柄杖伸縮型(スリムタイプ)」9714

福祉用具専門相談員がおすすめする杖_夢ライフステッキ柄杖伸縮型スリムタイプ

「ウェルファン 夢ライフステッキ 柄杖伸縮型(スリムタイプ)」は、計10色展開のおしゃれなからバリエーション豊富な杖です。折り畳み式の杖で、折りたたみの接合部にペンシルタイプを採用しているため、安定感に配慮した造りになっています。持ち手に専用のストラップを付属しているため、使用する際には手にかけてお使いください。

夢ライフステッキ柄杖伸縮型スリムタイプについて詳しく見る

シナノ「あんしん2本杖」650190

福祉用具専門相談員がおすすめする杖_あんしん2本杖

「シナノ あんしん2本杖 650190」は、安定性を重視した設計になっています。他の2本杖では先ゴムが球体になっているものもありますが、あんしん2本杖は先ゴムが平らになっています。底面が平らな形状だと地面との接地面が広がり、歩行の安定が期待できます。長さ調節を行うことも簡単です。他の2本杖では回転式やレバー式で長さ調節を行う杖もありますが、あんしん2本杖はラチェットピンで長さ調節が可能です。ラチェットピンであれば、握力が弱い方でも使用して、簡単に長さ調節することができます。

あんしん2本杖について詳しく見る

日進医療器「アルミ合金製松葉杖“合わせてパッチン” 」TY156S/M/L

福祉用具専門相談員がおすすめする杖_アルミ合金製松葉杖合わせてパッチン

「日進医療器 アルミ合金製松葉杖“合わせてパッチン”(1本) 」はワンタッチで簡単に握りの高さ調節ができます。脇あてを外す、蝶ネジを外すなどの面倒な作業がありません。長さ調節はプッシュボタン式で、長さ調節も簡単です。サイズが小・中・大に分かれており、ご希望のサイズをご選択ください。

アルミ合金製松葉杖合わせてパッチンについて詳しく見る

その他の杖は、こちらからご覧ください。

ヨイケア

より安全な生活を送るために

杖をもつ高齢女性と介護士の女性

「転ばぬ先の杖」といわれるように、安全に配慮しながら、長い距離や時間を歩けるようになるのが杖です。身体機能を維持するためにも、必要な場面では杖を使用することが大切です。ただし、なるべく杖を使用しないようにと、外出そのものを減らしてしまっては逆効果です。外出を優先し、杖に頼らずに歩くことは、無理のない範囲で努力するようにしましょう。

長谷川 大祐
介護福祉士、福祉用具専門相談員、住環境コーディネータ2級

福祉用具貸与事業所に勤務し、住み慣れたご自宅での在宅生活で、お客様が安全・快適に過ごしていただけることをミッションとして福祉用具・住宅改修業務を通して携わる。また地域包括支援センターと連動して地域の老人会や自治会に向けて、住環境整備の大切さを啓発する勉強会を開催するなど、地域に根付いた活動に力を入れている。