高齢者の病気のひとつとして、耳の聞こえが悪くなる難聴があります。加齢が原因となるもの以外にも、薬が引き起こすものや突発的に起こるものもあるため、違いを正しく理解しておくことが大切です。今回は、難聴の症状についてわかりやすく解説します。前兆や予防法などもあわせて紹介していきます。
目次
難聴とはどんな病気か
聴力が低下し、耳の聞こえが悪くなることを難聴と呼びます。外耳・中耳・内耳といった耳の部位に、何らかの問題が起きている状態です。高齢者の難聴は、原因によって以下の3つに分類されます。
● 老人性難聴
● 薬剤性難聴
● 突発性難聴
「老人性難聴」は、加齢が原因で起こるものです。そのため、誰にでも起こりうる自然の現象だと言えます。「薬剤性難聴」は、薬剤が原因で引き起こされる難聴です。「突発性難聴」は、前兆なく突発的に起こります。早期発見につなげるためにも、それぞれの特徴についてくわしく確認していきましょう。
老人性難聴
老人性難聴は、蝸牛(かぎゅう)の有毛細胞の減少により、聴力が低下した状態です。有毛細胞は、空気として伝わった音の振動を、電気信号へと変換する役割を持ちます。そのため、年齢を重ね有毛細胞が減少すると、脳は音を認識しづらくなってしまうのです。加齢が影響する老人性難聴は、年齢を重ねるほど発症しやすくなります。85歳以上の高齢者の、約8割は老人性難聴であると言われているのです。加齢がリスクを高める高血圧や糖尿病、脳血管系疾患なども、老人性難聴の要因となります。
薬剤性難聴
抗生物質をはじめとする、病院で処方される薬も難聴の要因となります。心不全などに使用するループ利尿薬、抗がん剤である白金製剤、解熱鎮痛剤であるアスピリンなども原因となる薬剤です。要因である薬により、耳の聞こえ方や症状は異なります。高音域が聞こえにくくなり、体温計や電子レンジの音に気付かないケースもあるでしょう。
突発性難聴
ある日突然起こる突発性難聴は、原因が明確化されていません。内耳のウイルス感染や循環障害、過度なストレスなどが影響していると考えられています。突発性難聴を治療する人は30~60歳代が中心ですが、誰にでも起こりうる病気であり、高齢者も例外ではないと言えるでしょう。
難聴の症状
難聴は耳が聞こえにくくなる病気ですが、要因によって症状は異なります。老人性難聴・薬剤性難聴・突発性難聴の症状の違いについて確認していきましょう。
老人性難聴
老人性難聴は、人の話す内容が分かりづらくなることが大きな特徴です。クラクションやアラームのような単純な「音」より、「言葉」を捉える能力が低下してしまいます。そのため、近くでゆっくりと会話をしないと、話の内容を理解しづらいことが多いのです。会話がスムーズにいかないため家でひきこもりがちになり、うつ病や認知症の発症につながることもあるでしょう。
薬剤性難聴
アミノグリコシド系の抗菌剤が原因の場合は、高音域の音が聞こえづらくなります。耳鳴りのほか、耳の閉塞感が生じることもあるでしょう。サリチル酸製剤やループ利尿剤が影響すると、低音域から高音域全般に症状が現れます。
突発性難聴
突発性難聴の症状は、多くが片耳のみに現れます。耳の聞こえにくさだけでなく、耳鳴りやめまいを伴うのも特徴です。耳鳴りがおこる理由には、聞こえに影響する神経系の異常興奮が関係しています。また、めまいの要因となるのが、三半規管や前庭神経の異常です。難聴の障害が強くなるほどこれらの器官に影響が生じ、強い耳鳴りやめまいが引き起こされることになります。
難聴の前兆の見極め
高齢者の難聴は、以下のような様子から前兆を見極めることができます。
● 会話中に話を聞き返すことが多くなった
● アラーム音に気付かない
● テレビの音が大きくなった
● 話しかけても振り向かない
● めまいや耳鳴りを訴えるようになった
会話中に話を聞き返す様子は、老人性難聴の大きな特徴です。音だけでなく、会話の内容が聞きとりづらくなっていることが要因となります。薬剤の影響で高音域が聞こえにくくなると、アラーム音に気付かないこともあるでしょう。突発性難聴では、聞こえの悪さ以外にめまいや耳鳴りといった前兆が見られます。早期治療のためにはこういった前兆を見逃さず、要因に合わせた対応をとることが大切です。
難聴の予防
難聴のなかでも、老人性難聴は誰にでも起こりうる症状です。そのため、「歳だから仕方がない」と諦めてしまうこともあるかもしれません。しかし老人性難聴には、進行を遅らせたり加齢以外の原因を避けたりといった予防法もあります。まず大切なのは、耳にやさしい生活を心がけることです。イヤホンやヘッドフォンで直接大きな音を聞き続けることは、耳にとって負担となります。騒音で仕事を続ける場合には、耳栓の使用を心がけましょう。老化を遅らせるためには、生活習慣を見直すことも大切です。老人性難聴は、高血圧や糖尿病も要因となります。規則正しい睡眠とバランスのとれた食生活を心がけ、生活習慣病を予防しましょう。適度な運動や禁煙も、生活習慣病予防に効果的です。
難聴の対応と治療
難聴の治療や診断は、耳鼻咽喉科で行います。老人性難聴の場合、軽度のうちに補聴器を使い、聴覚刺激を与えることが大切です。前述したような予防法と並行しながら、進行を遅らせるよう努めます。また、補聴器を使うときには訓練が必要です。耳に合わない場合、補聴器を導入することでかえって雑音が増えてしまうこともあります。補聴器を使用する際は、医師や補聴器店と相談しながら調整を重ねていきましょう。薬によって生じる難聴は、回復が難しいため早期発見と予防が重要です。投与前から耳鼻咽喉科を受診し、聴力を管理する必要もあるでしょう。親近者に薬剤性難聴の方がいる場合は、投薬前の遺伝子検査も求められます。突発性難聴は、発症後1週間以内の治療が重要であり、ステロイドホルモン剤を中心に対応します。完治は難しく、耳鳴りが残ることもあるでしょう。
早期発見、早期治療をしよう
高齢者に起こる難聴には、さまざまケースが考えられます。もっとも多い老人性難聴は、加齢により引き起こされるものです。そのため、加齢の進行を遅らせる生活習慣を意識し、補聴器を適切に使用することが重要となります。病気を治療している場合は薬剤の影響も考えられるため、その都度医師に相談することが大切です。どのタイプの難聴も、早めに症状を発見し、適切な治療を心がけましょう。
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看護師資格修得後、病棟勤務・透析クリニック・精神科で『患者さん一人ひとりに寄り添う看護』の実践を心掛けてきた。また看護師長の経験を活かし現在はナーススーパーバイザーとして看護師からの相談や調整などの看護管理に取り組んでいる。