介護サービスの利用費におむつ代など、介護は何かと費用がかかるものです。そのようなときに役立つ「世帯分離」をご存知でしょうか?こちらの記事では、世帯分離の具体的な内容やメリットとデメリット、手続き方法についてわかりやすく解説していきます。
目次
世帯分離とは

世帯とは、同じ住居に住み生計を共にしながら暮らす人たちの集まりを意味します。ひとりで住居をかまえ、生計を立てている単身者も一世帯です。そのため、ひとつの住民票には、同一世帯の人たちの名前が記載されています。世帯分離をすると、同じ住居に暮らしていても住民票はふたつの世帯に分かれます。ただし、生計を共にしていないことが世帯分離の条件です。世帯分離をすると一世帯あたりの所得額が異なるため、介護費用が軽減される場合もあるといわれています。
軽減できる費用

世帯分離で軽減できるのは、介護サービス費だけではありません。毎月支払う国民健康保険料や、後期高齢者医療保険料なども変化する場合があります。それぞれの仕組みについて、さらに掘り下げて確認していきましょう。
高額介護サービス費
「介護度が高くなるにつれ、必要な介護サービスが増え利用料がかさんでしまう…」ということもあるのではないでしょうか。そのようなときに役立つのが「高額介護サービス費制度」です。毎月支払う介護サービス利用料には上限が設定されており、上限を超えた額は払い戻される仕組みになっています。上限額は世帯の所得によって異なり、所得が少ないほど上限額は低く設定されているのです。つまり、世帯分離をして一世帯あたりの所得が低くなれば、介護サービス費を軽減できることになります。
対象者 | 負担額の月額上限 |
課税所得690万円(年収約1,160万円)以上 | 140,100円(世帯) |
課税所得380万円(年収約770万円)~課税所得690万円(年収約1,160万円)未満 | 93,000円(世帯) |
現役所得者に相当する人がいる世帯 | 44,000円(世帯) |
市区町村民税を課税される人がいる世帯 | 44,000円(世帯) |
全員が市区町村民税を課税されていない世帯 | 24,600円(世帯) |
前年の合計所得金額と公的年金収入額の合計が年間80万円以下の個人 | 24,600円(世帯)15,000円(個人) |
生活保護を受給している世帯 | 15,000円(世帯) |
各月額上限の「世帯」とは、同一世帯で介護サービスを利用した人全員の負担額の合計です。「個人」は、介護サービスを利用した本人の負担額の上限額となります。
国民健康保険料と後期高齢者医療保険料
国民健康保険料や後期高齢者医療保険料は、世帯全体の所得によって算定されます。つまり、世帯分離により所得が減少すれば、保険料の納付額を軽減できる可能性があるのです。例えば、子供夫婦と同一世帯の高齢者が世帯分離をすれば、保険料は高齢者のみの所得に対して算定されます。高齢者単独世帯の所得が以前より少なければ、保険料の納付額は減額されることになるでしょう。
世帯分離のメリット・デメリット

世帯分離には、メリットだけではなくデメリットもあると考えられます。それぞれの側面をふまえた上で、自分たちの世帯にもっとも適した方法を選びましょう。
世帯分離のメリット
前述したように、介護サービス費や保険料の負担軽減は、世帯分離の大きなメリットです。これらの費用は世帯全体の所得に対して算定されるため、高齢者単独世帯の所得が少ない場合には自己負担額が軽減されます。また、介護施設の居住費や食費などの自己負担限度額も、世帯全体の年収をもとに決定されます。そのため、介護施設に入所する期間が長くなる場合にも、世帯分離はメリットがあると考えられるでしょう。
世帯分離のデメリット
ひとつの世帯に介護を必要とする方が複数いる場合には、世帯分離によって逆に負担が増すこともあるため注意が必要です。世帯を分けると、介護費用や高額療養費を合算できなくなります。つまり、世帯分離をしない方が結果的にプラスになる場合もあるということです。実際の負担額の割合に関しては、事前に市区町村の担当窓口によく確認しておきましょう。あわせて確認したいのが「家族手当」についてです。親を扶養に入れている方は、世帯分離によって今まで受けていた控除が利用できなくなります。この場合も、トータル的にどちらがプラスになるのか事前に計算しておくのがおすすめです。さらに、世帯が異なることで、今まで市区町村の窓口でできていた手続きが複雑になる可能性もあります。世帯分離をした親が直接窓口に立ち寄れず、子が代理で手続きをする場合には委任状が必要となるため注意しましょう。
世帯分離の手続き方法

世帯分離の手続きは、住民票のある市区町村の担当窓口で行います。世帯分離をする本人または世帯主以外の方が手続きをする場合には、親族であっても委任状が必要です。ただし、手続き自体はシンプルなため、必要な持ちものを事前によく確認すれば問題はないでしょう。
必要な持ちもの
世帯分離をする際は、「世帯分離届(変更届)」とともに以下の書類を提出します。また、捺印の必要も考えられるため、印鑑を合わせて持参すると安心です。
● 本人確認書類
● 国民健康保険被保険者証
● 後期高齢者医療被保険者証
本人確認書類は、顔写真付きのマイナンバーカードや運転免許証、パスポートであれば1枚の提示で完了します。写真のない住民基本台帳カードや健康保険証、年金手帳や年金証書などは2枚以上の提示が求められるため注意しましょう。また、細かな手続きの内容は自治体によって異なりますので、事前に手続きの流れや持ちものを確認してから足を運ぶことがおすすめです。
世帯分離を行う前に知っておきたいこと

世帯分離は、世帯のケースによっては行えない場合もあります。「世帯分離をしたけれど、やっぱりもとに戻したい」というケースもあるでしょう。ここからは、世帯分離を行う前に知っておきたい、ふたつのポイントについて紹介します。
場合によっては、申請が通らないこともある
世帯の所得に応じた介護サービス費の上限額や保険料の設定は、あくまでも社会的保護が必要な方を守るための方法です。そのため、窓口で世帯分離の理由を聞かれたとき「介護費を減額したいから」と答えると、申請が通らないケースもあります。生活保護の受給を目的に、世帯分離を申請した場合も同様です。世帯分離をしても、実際には同居家族と生計を同一にしていると、不正受給とみなされることもあるため注意しましょう。
世帯分離を元に戻す「世帯合併」
「世帯分離したけれど以前の方がメリットが大きかった」「世帯分離によって思わぬ事態が生じた」という場合には、元に戻す手続きが可能です。世帯分離を行ったときと同様に、住民票のある市区町村の窓口で「世帯合併」の書類を提出します。持ちものは、本人確認書類や健康保険証、印鑑などです。場合によっては委任状が必要となるため、こちらも事前によく確認しておきましょう。
地域の担当窓口に相談してみよう

世帯分離は、メリットやデメリットを事前によく把握した上で手続きを進めることが大切です。介護をする方が会社に勤めている場合、要介護者を扶養家族にしている方が負担が軽減される場合もあります。それぞれの世帯のケースや介護度によっても負担額は異なるため、お住いの地域の担当窓口に確認しながらベストな方法を検討していきましょう。
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多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。


