家族の中で介護が必要になった場合、仕事との両立に悩む人は多いです。特に、周囲に相談できる人がいなかったり理解してくれる人がいなかったりすると、家庭と職場の板挟みになってしまい、心身ともに不調をきたすこともあります。そこで活用したいのが介護休暇です。介護休暇を取得することで、仕事を続けながら大切な人の介護を行うことも可能になります。今回は、家族の介護が必要になっても困らないために、介護休暇について、取得条件や介護休業との違いを解説します。
目次
介護休暇とは
介護休暇とは、要介護状態(負傷や疾病、または身体上精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態)にある対象家族の介護や世話を行う労働者に与えられる制度です。
常時介護を必要とする状態とは以下のいずれかの項目に該当する場合です。
- ・介護保険制度の要介護状態区分が要介護2以上であること。
- ・以下に記す、状態(1)〜(12)のうち、2が2つ以上または3が1つ以上該当し、かつその状態が継続すると認められること。
-
項目/状態 1 2 3 ①座位保持
(10分間1人で座っていることが出来る)
自分で可 支えてもらえばできる できない ②歩行
(立ち止まらず、座り込まず、5m程度歩くことができる)
つかまらないでできる 何かにつかまればできる できない ③移乗
(ベッドと車椅子、車椅子と便座の間を映るなど乗り降りの動作)
自分で可 一部介助、見守り等が必要 全面的介助が必要 ④水分・食事摂取 自分で可 一部介助、見守り等が必要 全面的介助が必要 ⑤排泄 自分で可 一部介助、見守り等が必要 全面的介助が必要 ⑥衣類の着脱 自分で可 一部介助、見守り等が必要 全面的介助が必要 ⑦意思の伝達 できる 時々できない できない ⑧外出すると戻れない ない 時々ある ほとんど毎日ある ⑨物を壊したり衣類を破くことがある ない 時々ある ほとんど毎日ある ⑩周囲の者が何らかの対応をとらなければならないほどの物忘れがある ない 時々ある ほとんど毎日ある ⑪薬の内服 自分で可 一部介助、見守り等が必要 全面的介助が必要 ⑫日常の意思決定 できる 本人に関する重要な意思決定はできない ほとんどできない
・厚生労働省 .「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/otoiawase_jigyousya.html#01,(参照2022-8-18)
「介護休暇」と「介護休業」の違い
介護休暇は、通院の付き添いやケアマネジャーとの話し合いなど、単発で介護のための休みを取得する場合で、介護休業は長期的あるいはまとまった日数の休みの取得する場合に使用します。それぞれどの程度の休みがとれるのか、また、休み中の給与や申請方法の違いについて詳しく解説します。
対象者の違い
介護休暇 | 介護休業 |
入社6カ月以上の人が対象。 | 同一の会社(事業主)に1年以上雇用されている人が対象。 93日を経過する日~6カ月を経過する日までに契約が満了し、更新されないことが明らかでないことの要件を満たすことが必要。 |
取得可能な休暇日数の違い
介護休暇 | 介護休業 |
要介護状態にある家族(親か祖父母、兄弟姉妹、子、孫、配偶者、配偶者の父母)が1人の場合、1年に5日まで取得可能。 (対象家族が2人以上の場合は、年10日まで取得可能) |
上限回数は3回、上限日数は93日取得可能。 |
介護休暇の休暇日数取得例:
例えば1回目が30日、2回目と3回目が20日の休業を取得した場合、93日までにはあと23日残っていますが、すでに3回取得しているので、同じ家族の介護のためにこれ以上は介護休業を取得することはできません。また、日数は1年ごとにカウントされるのではなく、通算でカウントされます。介護が長引く場合は、家族とも協力して休業を分散することを検討しましょう。
賃金・給付金の有無
介護休暇 | 介護休業 |
原則として給与は支払われない。 | 会社で特別な取り決めがない限り、原則として給与は支払われないが、雇用保険による給付金として、休業開始時の賃金月額の67%を受給可能(※)。 |
介護休暇中、会社によっては有給となることもあるため、事前に調べておくと良いでしょう。また、雇用保険による給付もない為、場合によっては、介護休暇ではなく休んだ当日も給与が支給される「有給休暇」を先に使うことも検討できます。
※申請書類を休業取得する労働者が記載し、事業者側が手続きを行います。休業終了日の翌日~2か月後の月が属する月末までに、忘れずに提出しましょう。給与が高額な場合や事業所で休業中の給与を設定している場合は、月額賃金の67%を受けられないことがあります。
例えば賃金月額の上限は502,200円(令和3年7月31日まで)のため、休業開始時点で月額502,200円を超える給与を受給している方は、受給額は月額賃金の67%未満です。ただし、月額賃金が77,220円を下回る場合は、原則として30日分の介護休業給付金として支払われる金額は77,220円です。この場合は、月額賃金を上回ることになるでしょう。
また、事業所で休業中も給与が支払われる取り決めがある場合は、給与と介護休業給付金の合計額は月額賃金の80%を超えないように調整されます。そのため、休業取得前までの月額賃金の13%以下の給与が支払われる場合は給付金を全額受給できますが、13%を超える場合は給付金の一部が減額されることになるでしょう。いずれも事業所を通して手続きが行われますので、必要とされる書類は早めに提出し、雇用保険制度が適用され給付金等を滞りなく受けられるようにしておきましょう。
申請方法の違い
介護休暇 | 介護休業 |
書面や口頭での申請が可能。 | 所定の書面を通して、休業開始予定日の2週間前までに申請。 |
介護休暇は、急な時もスムーズに申請できます。なお、書面に関しては事業所ごとにルールが定められていることがあります。後日提出することが出来る場合もあるので、事前に申請方法も確認するようにしましょう。
介護休業は、事業者側が介護休業の申請期限を2週間よりも短い期間に定めることも可能です。就業規則に記載されていることがあるので、事前に確認しておきましょう。また、休業終了予定日の2週間前までに申請することで、終了予定日を1回限り繰り下げることが可能です。その際に理由を問われることはないため、家族の介護の状況について報告する必要はありません。反対に終了予定日を繰り上げることもできますが、早めに会社側に伝えるようにしましょう。
介護休暇の取得条件
介護休暇の取得には、いくつかの条件がありますので、条件別に詳細を確認してみましょう。
対象者の状況
介護休暇を取得できる対象者は、要介護状態にある対象家族の介護や世話を行う労働者です。ただし、「入社半年未満の労働者」と「1週間の所定労働日数が2日以下の労働者」は、対象外となります。介護休暇を取得する際は、勤務する会社(事業主)に対して、対象家族が要介護状態にある事実や介護休暇を取得する年月日を明らかにして申し出をすることが必要です。
対象者との関係
・厚生労働省.「介護休暇とは」. .https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/holiday/index.html,(参照2022-08-18)
対象者との関係は、以下の通りです。
- ・配偶者(事実婚を含む)
- ・父母(養父母を含む)
- ・祖父母
- ・兄弟姉妹
- ・子(養子を含む)
- ・孫
- ・配偶者の父母
取得可能な休暇日数
介護を必要とする家族が1人の場合、年に5日まで取得することが可能です。この場合の1年とは、就労規則などで特別な規定がない限り4月1日~翌年3月31日のことを指します。介護を必要とする家族が複数の場合は、年に10日まで取得可能です。労使協定で時間単位での介護休暇の取得が認められていない場合を除いて、時間単位でも取得できるので、「付き添い時間だけ」「施設に送迎するだけ」といった短時間のときは何度かに分けて取得することも検討できます。例えば1日8時間勤務の方ならば、合計40時間まで介護休暇を取得可能です。必要なときに必要な休暇を取得できるように計画的に利用しましょう。
介護の範囲
介護休暇の取得が認められる介護の範囲は、育児・介護休業等に関する規則第38条にて以下のように定めています。
- ・対象家族の介護
- ・対象家族の通院等の付添い、対象家族が介護サービスの提供を受けるために必要な手続きの代行その他の対象家族の必要な世話
このように、対象家族を直接介護するものだけではなく、対象家族のために行う家事や買い物なども含まれます。
介護休暇を取得できない人
日雇い労働者は取得が認められていません。また、労使協定を締結している場合には、以下の人も取得できない可能性があります。
- ・入社6カ月未満の人
- ・週の所定労働日数が2日以下の人
- ・時間単位で介護休暇を取得することが困難と認められる業務に従事する労働者(1日単位での取得は可能です)
「介護休暇」と「介護休業」どちらがおすすめか
介護休暇と介護休業を取得する際のおすすめな場合を解説します。
介護休暇がおすすめな場合
- ・ケアマネジャーなどとの短時間の打ち合わせ
- ・自宅から病院への送迎
- ・買い物や通院時の付き添い
- ・市役所への各種手続き代行
- ・要介護者の急な体調不良
介護休暇は、1日または時間単位で取得でき、緊急を要することも多いために書面の提出ではなく口頭での申し出でも申請が可能です。ただし、対象家族が1人の場合で年5日までしか取得できず、無給のケースが多いですので、有給休暇も上手に活用することがポイントです。
介護休業がおすすめな場合
- ・地域包括支援センターやケアマネジャーなどへの相談
- ・民間事業者や地域サービスなど、利用できるサービスを探す
- ・同居して在宅介護をする準備するなど、家族で介護を分担する話し合い
- ・介護サービスの手配
介護休業は、今後仕事と介護を両立させるための体制を整える期間として位置付けられており、対象家族1人につき3回、通算93日まで取得できます。ただし、休業開始予定日の2週間前までに書面等により会社(事業主)に申し出が必要ですので、休業する日程をあらかじめ決めておくことがポイントです。
介護休業給付金制度とは
介護休業給付金制度とは、家族の介護を行いながら働く人が、介護のために休業し賃金が低下した場合に、雇用保険から支給される制度です。社会保険には介護を行っている期間中の給付や保険料免除制度がないため、労働者にとっては大切な制度です。
受給資格は、以下の通りです。
- ・雇用保険の一般被保険者である
- ・介護休業を取得した日より前2年間に、賃金を受けた日が11日以上ある月が通算12カ月以上ある
介護休業給付金の支給額は、原則として休業開始時賃金日額の67%相当額が支払われます。また、一部労働した場合や介護休業中も会社から賃金が支払われた場合などは、支払われた賃金額に応じて、以下のように支給額が調整されます。
- ・支払われた賃金が13%以下の場合は、賃金月額×67%
- ・支払われた賃金が13%超80%未満の場合は、賃金月額×80%−支払われた賃金
- ・支払われた賃金が80%以上の場合は、不支給
介護休業給付金の支給申請は、以下の2つの書類を、会社(事業主)がハローワークに提出します。
- ・雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
- ・介護休業給付金支給申請書
まとめ
家族に介護が必要なときは、日数や時間などに合わせて介護休暇や介護休業を取得することが可能です。しかし、いずれも上限日数が決まっているため、他の家族やケアマネジャーなどの福祉関係者とも話し合って、介護が特定の一人に集中しないように計画を立て、効率よく活用してください。また、介護休業を取得するときには、介護休業給付金を受給することができます。休業終了後2カ月以内に事業所を通して申請手続きをする決まりになっているので、忘れずに申請し、経済的基盤を確保できるようにしておきましょう。
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多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。


