フィジカルアセスメントとは、患者の身体状況を観察したり評価したりすることです。直接声をかける問診のほか、視診や聴診などで状態を把握します。近年は、介護現場でも医療的なケアを必要とする高齢者が増加中です。今回は、高齢者におけるフィジカルアセスメントの観察ポイントを解説します。また、考えられる病気や対処法も紹介します。
目次
フィジカルアセスメントとは?
主に医療現場で求められるフィジカルアセスメントは、これまで看護師に必須のスキルとされてきました。医療を必要とする高齢者が増えるなか、介護職がフィジカルアセスメントの知識を身に付けることは、高齢者の命を守ることにつながるとされています。身体状況に応じたケアにより、QOLと呼ばれる生活の質を改善できることもポイントです。
高齢者の観察ポイント
フィジカルアセスメントにおける高齢者の観察ポイントは、表情から目や口、睡眠や排泄の状態と多岐にわたります。それぞれの観察ポイントや考えられる病気、対応についてひとつずつ確認していきましょう。
表情や顔色
高齢者と対面したときの表情や顔色は、その日の健康のバロメーターです。顔色が青白くなっているときは、貧血で赤血球が減少していると考えられます。青紫色のときに心配されるのが、酸素が不足したチアノーゼの状態です。また、表情の乏しさは「認知症」や「うつ病」が原因の場合もあります。血圧や脈といったその他の数値と照らし合わせながら、異常が見られる場合は早急に他職種と連携を図りましょう。
眼
高齢者に多い眼の病気が「白内障」「緑内障」「加齢黄斑変性症」です。これらは自覚症状がないままに進行するため、少しでも早く異変に気付く必要があります。いずれも重度になるまでは見た目で気付きにくいため、フィジカルアセスメントでは高齢者に問診をしたり、ものを見る様子を観察したりする必要があるでしょう。
鼻
高齢者は、加齢によって嗅覚が低下しやすくなります。嗅覚が低下すると食欲不振になるほか、濃い味付けで塩分過多になる恐れもあるため注意が必要です。また、認知症になると脳障害が嗅覚に影響を及ぼすケースもあります。フィジカルアセスメントでは、調理する料理の味付けがおかしくなったり、食品の腐敗臭に気付かなかったりしていないか確認しましょう。
耳
高齢になると耳の中の有毛細胞が減少し、音を察知する機能が弱まります。加齢による難聴は、初期段階で対処すれば進行を緩やかにすることが可能です。フィジカルアセスメントでは、高齢者との会話のなかで耳の聞こえづらさを確認します。テレビの音が大きくなるといった、日常生活の変化にも気を付けてみましょう。
口
高齢者の健康維持に欠かせないのが口腔ケアです。虫歯や歯周病により口内の状態が悪くなると、食事ができずに栄養状態の悪化につながります。入れ歯が合わなくなると、ばねが歯茎を傷つけることもあるため注意が必要です。また、寝たきりになると唾液の分泌量が減り、口内が乾燥しがちです。唾液を分泌するためのマッサージも含め、よりよい口腔ケアの方法を検討していきましょう。
のど
のどは、話したり呼吸をしたりするほか、食べ物を飲み込む役割を持っています。のどの機能が低下すると、リスクが高まるのが誤嚥(ごえん)です。誤嚥は、食べ物が気管に入り込んでしまう状態です。誤嚥で入り込んだ細菌が肺に感染すると、「誤嚥性肺炎」を引き起こします。誤嚥性肺炎は、命にかかわることもある疾患です。高齢者と会話や食事をするときには、ものを飲み込む力が低下していないか、むせがないかなどを観察しましょう。
体重の増減
体重は、高齢者の栄養状態や健康の指標となります。急激に体重が増加した場合、病気により体液が臓器に溜まっている可能性もあるため注意が必要です。心不全や腎不全、肝不全などが体内に体液を溜める疾患としてあげられます。命にかかわる恐れもあるため、早急に受診し治療を進めましょう。また、急激な体重の減少は、筋力低下や栄養状態の悪化が考えられる状態です。慢性的な疾患が原因の場合もあるため、医師と連携を取りながら原因をつきとめましょう。
皮膚
高齢者の皮膚は汗や皮脂の分泌が減少し、バリア機能が低下した状態です。乾燥しやすく、かゆみや傷も生じやすくなります。また、寝たきりの状態が続くと血流が悪くなり、皮膚の一部が赤くなる褥瘡(じょくそう)につながることもあります。床ずれとも呼ばれるこの症状は、進行すると皮膚の内部組織まで傷つけてしまいます。早期発見治療につなげるためにも、更衣や入浴の際は皮膚観察を心がけましょう。
指先や爪
高齢者の指先に起こる症状のひとつが、腫れや痛み、変形といった関節症です。多くが痛みを伴いますが、意思を訴えることができない高齢者の場合は介護者が観察する必要があります。また、合わせて観察したいのが足の爪トラブルです。高齢者の爪は厚くなり、割れやすかったりはがれやすったりといった問題を抱えています。剥がれた部分をそのままにしておくと細菌により化膿を引き起こし、歩行に影響するケースも考えられるので注意が必要です。
睡眠
高齢になると、寝つきが悪く眠りが浅くなります。また、心や体の不調を抱えると、不眠症のような睡眠障害にかかりやすくなることもあります。アルツハイマー病でも睡眠障害の症状が現れるため、睡眠時間に変化が現れたときは注意が必要です。認知症の方に睡眠障害が現れたときには、周囲と相談しながら住環境や生活習慣を整えましょう。
便・尿
1日の尿量の目安は、1000ml~1500mlです。回数の目安は5~8回ですが、高齢者の場合は10回以上になるケースもあります。排便回数の目安は1日に1~2回ですが、2日に1回の排便でも快適な排泄であれば問題ないとされています。大切なのは、回数や量だけでなく、においや血液が混じっていないかという点です。便であれば、下痢をしていないかも大切な観察ポイントになります。突然の便・尿失禁がみられるときは、脳になんらかの障害が起こっている可能性もあります。すぐに他職種と情報共有し必要な対応に努めましょう。
姿勢・歩き方
高齢者に多い猫背をそのままにしていると、腰が曲がり、円背(えんぱい)という状態を引き起こします。背中が丸まった円背は、歩行にも悪影響を及ぼす状態です。円背を予防するには、猫背のうちに予防体操で筋力を使うのが効果的といえます。また、歩行状態に異常が見られる場合は、筋力低下や関節異常が考えられます。リハビリスタッフをはじめとする他職種と連携を図り、原因をつきとめましょう。
痛み
高齢者の痛みの訴えは、どこがどの程度痛いのか確認することが大切です。特に、頭の痛みはくも膜下出血や脳梗塞の症状である可能性もあります。痛みだけでなく、嘔吐やけいれんといったほかの症状がないか問診で確認しましょう。脈の回数やリズム、血圧を確認することも大切です。看護師や医師に早急に報告し、適切な対応をとる必要があります。
言葉
「言葉が出ない」「話す内容がおかしい」といった言葉の異常は、脳になんらかの障害がおきていると考えられます。脳卒中や認知症などがその一例です。脳卒中の初期症状として言語障害が起きている場合は、早急に受診し治療しなくてはいけません。「文字が書けない」「はしが持てない」といった行動異常も合わせて確認しましょう。
意識障害
高齢者の意識障害は、認知症との区別が難しく本人が気付かないケースが大半です。そのため、周囲の家族や介護者が普段との異変を観察しなくてはいけません。呼びかけで意識を確認するほか、体を揺さぶったり、あえて痛み刺激を与えたりするのもひとつの方法です。重症度が高い場合は、血圧や酸素濃度を測定しながら、ただちに医療機関への受診へと移行しましょう。
異変に気づいたらすぐに対応しよう
フィジカルアセスメントは、高齢者の異変に素早く対応するために必要なスキルです。それぞれの異常が意味する病気を把握しておけば、緊急時にも必要な対応がとれます。高齢者の体調は、日々のささいな変化の影響を受けやすいものです。普段から異変を観察するよう心がけ、健やかな生活を支援していきましょう。
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看護師資格修得後、病棟勤務・透析クリニック・精神科で『患者さん一人ひとりに寄り添う看護』の実践を心掛けてきた。また看護師長の経験を活かし現在はナーススーパーバイザーとして看護師からの相談や調整などの看護管理に取り組んでいる。