2021.07.08

移動介助|廊下と階段での介助方法・住まいの中での動線づくり

最終更新日:2023.03.16
増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

廊下と階段での介助方法

階段_手すり

足腰が弱くなった高齢者にとって、慣れた自宅の廊下や階段でも転倒のリスクは高まります。特に廊下や階段は基本的にクッション性がないため、転倒すると骨折につながる恐れがあります。今回は廊下と階段昇降の移動介助方法や環境・動線づくりについてご紹介します。

階段での環境整備について

階段は転倒しやすいだけでなく、転倒すると大ケガにつながる可能性もある場所です。そのため、事故を防ぐために環境を整える必要があります。2000年に改正された建築基準法によって新築の階段には必ず手すりが付けられるようになりましたが、それ以前に作られた住宅には手すりが付いていない場合もあるでしょう。手すりを取り付けるだけでも転倒を防げる可能性が高まるため、手すり設置は第一に考えるべきです。また、床材を滑りにくい素材に変更すると、より転倒リスクを低減できます。例えばクッション性の高いコルク素材を使うと、万が一転倒した場合でも軽傷に抑えられるかもしれません。床材を変えなくても滑り止めテープやスプレー、マットなども販売されているのでうまく活用していきましょう。テープなら暗くても蛍光塗料で光るものを選んでおけば、停電時などで移動する際にも安心です。

階段での介助方法

階段環境を整えたら、介助方法についても覚えておきましょう。上り下りで、介助の仕方は異なります。

階段で上るとき

階段での移動介助の基本は、介助者は要介護者の斜め後ろに立ち、脇と腰を支えながら1段ずつ上っていきます。要介護者がまずは手すりを掴み、悪くない方の足を先に出します。足全体が1段目に乗ったら、介助者は脇と腰を支えつつ、要介護者と一緒に体を持ち上げて悪い方の足を1段目に乗せましょう。ポイントとして、要介護者は悪くない方の足に体重が掛かるように意識してもらうことが大切です。杖を使って階段を上ることもできますが、基本的には手すりを使った方が安全でしょう。片マヒが見られる場合、介護者はマヒ側に立ち、後ろからサポートしてあげてください。

階段で降りるとき

階段を降りるときは上るときと違って、介助者は要介護者の斜め前に立ちます。これは、万が一要介護者がバランスを崩した場合、前のめりになって落下する恐れがあるためです。介助者が支えるのは、上るときと同様で脇や腰に手を掛けながら、1歩ずつ降りていきましょう。また、上るときは悪くない方の足を先に出していましたが、降りるときは逆に悪い方の足から出していきます。降りるときは先に出す足よりも後から出す足の方に重心が乗るためです。重心を乗せる足は、上るときと降りるときで順番が変わるので注意しましょう。もう1つ、降りるときに注意しなくてはいけないのが、踏み外しです。人間の目は年齢と共に視力だけでなく、視野も狭くなっていきます。視野が狭まると段差も見えづらくなり、踏み外す恐れがあるため、介助者はきちんと段差に足全体が置かれているかチェックしながらゆっくり降りるようにしましょう。

廊下での環境整備について

廊下で注意しなくてはいけないのが、段差や手すり、暗さです。廊下から部屋に入るとき、ちょっとした段差で躓いてしまうこともあるでしょう。ほんの数ミリメートルの段差でも、すり足になりやすい高齢者は転倒の原因につながってしまうため、注意が必要です。また、手すりは設置していても途中で途切れていれば先に進みづらくなってしまいます。連続手すりと呼ばれる長いタイプであれば途切れる心配もないため、設置する時はできるだけ途切れないものを選ぶようにしましょう。夜、お手洗いへ行く際に面倒だからと電気もつけずに廊下を歩き、転倒するケースも少なくありません。人感センサーで照明が付くようにしたり、足元にライトを設置して歩きやすくしたりするなど、廊下の照明にも注目しながら、環境整備を行っていきましょう。車いすで生活している方は、廊下の幅にも配慮する必要があります。車いすで暮らしやすくなる廊下の幅は、75cm以上と言われており、この幅だと自走式・介助式問わずスムーズに通れます。その代わり、部屋の入口は幅を100~110cm確保しなくてはいけません。

廊下での介助方法

廊下での介助は主に、両手を引きながら介助する方法と、寄り添いながら介助する方法の2種類があります。両手を引きながら介助する方法では、介助者と高齢者が向き合って両手を取り歩きます。この方法だと前後に転倒するリスクが抑えられ、歩行障害が重度な人にも向いている介助方法です。ただし、介助者が後ろ向きで歩かなくてはいけないため、自身が転倒してしまう可能性もあるでしょう。寄り添いながら介助する方法は右利きの高齢者なら左側に、左利きの高齢者なら右側に立ち、相手の脇に腕を差し込んで、もう片方の手で高齢者の手を取りながら歩きます。お互いがきちんと前を見ながら進むことができるため、両手を引きながら介助する方法よりも安心です。また、歩行介助に慣れていない方をサポートする場合は、腰や腕を直接支えるのではなく、ベルトなどの身に付けているものを掴んで支えましょう。

住まいの中での動線づくり

手すり

移動介助をより安全に行えることを目的に、廊下や階段の環境整備についてご紹介してきました。在宅介護は明確に「いつ終わるか」は決まっていません。長期的な介護が必要だと考えたとき、廊下や階段だけでなく、住まい全体の動線づくりを意識して整えていった方が良いでしょう。動線づくりで大切なのは、日常的にどう動いているのか、どのような経路をたどっているのかを確かめることです。例えば、玄関からリビングへ移動するとき、壁に手を当てながら廊下を進み、ドアが外開きになっているので避けながら部屋に入り、近くのタンスを避けていつもの定位置へ座ったとします。この動線で廊下に手すりを設置し、ドアは引き戸にして段差をなくし、タンスは別の場所に移動したら、きっと高齢者の転倒リスクやぶつかるリスクは軽減されるはずです。このように、どんな動きをしているか、どんな経路をたどっているかが分かると、より住みやすい環境づくりが行えるでしょう。

増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。