2023.08.14

世帯分離とは?メリットデメリット、手続きを介護の専門家が解説

最終更新日:2023.11.09
増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

親が介護状態になったら、介護費用が気になるでしょう。できるだけ自己負担額を減らしたいなら、世帯分離を検討してみてください。この記事では、世帯分離の基礎知識から、有利になるケースを紹介します。判断に迷ったら、世帯分離のメリット・デメリットで比較してみましょう。手続きの方法や、おすすめの相談先についても紹介します。

世帯分離とは

世帯分離とは、同じ住所に住む家族を2つの世帯に分けることです。

例えば、世帯主が父親で、同じ住所に親夫婦、自分と夫・子供の世帯があるとしましょう。父親が亡くなり母は独り身になったので、母親を世帯分離することにしました。この際の世帯主は、母親と自分の夫がなります。同じ住所に世帯が複数あっても、それぞれが家計で独立していれば世帯分離が可能です。

または、介護が必要な親と同居している場合も、世帯分離することがあります。認知症や身体的な問題により、親と同居を検討している場合も、世帯分離を考慮してみましょう。住民票登録の世帯とは、世帯の生計を維持する代表者のことです。家族単位でなく1人でも、1世帯として分離することができます。

世帯分離のデメリット

世帯分離のデメリット

世帯分離は、ケースによってデメリットになる場合があります。デメリットも把握したうえで、世帯分離をすべきか判断しましょう。

国民健康保険料が増える

親世帯だけでなく子供世帯も国民健康保険に加入していると保険料が増える場合があります。世帯分離の前は1つの支払いだけで済みましたが、世帯分離後は支払いが2つになるためです。

扶養手当や家族手当が使えない

勤務先から親の扶養手当や家族手当をもらっていると、世帯分離によりもらえなくなる場合があります。扶養手当や家族手当は勤務先の独自の制度で公的な制度ではないため、支給基準は明確ではありません。ただ、一般的な勤務先であれば、扶養手当は社会保険の扶養が、家族手当は生活をともにしている家族がいるかが支給の基準となっている場合が多いようです。どちらにしても勤務先の独自の制度であるため、扶養手当や家族手当について勤務先に確認してみましょう。

手続きに時間がかかる

世帯分離の手続きには複数の書類が必要なため、多く時間がかかってしまいます。マイナンバーカードを保有していない人は住民票の写しが必要です。また、親が市区町村の役所・役場まで行くことが難しく子が届け出をする場合は、委任状の提出が必要な場合が多いようです。ただ、市区町村によって世帯分離に必要な書類が異なるため、世帯分離をする場合は事前に必要な書類を確認し、時間に余裕を持った対応をおすすめします。

会社の健康保険を使えない

会社の健康保険が使えるのは、扶養家族のみです。世帯分離をすると親世帯が扶養家族ではなくなるため、子供世帯が会社で加入している健康保険が使えなくなります。会社の健康保険が使えるのは、扶養家族のみです。世帯分離をすると親世帯が扶養家族ではなくなるため、子供世帯が会社で加入している健康保険が使えなくなります。また、親世帯が扶養家族でなくなれば、会社からの扶養手当も支給されないことが一般的です。先ほど解説したように扶養手当は、社会保険(健康保険)の扶養に入っていることが、支給の条件になって場合が多いからです。社会保険の扶養から外れると扶養手当ももらえなくなるとして、世帯分離をするかどうか考えていきましょう。

介護サービスの費用を世帯合算できない

1世帯に2人以上の要介護者がいる場合、世帯合算で払い戻し請求ができます。ただし、世帯分離すれば介護サービス費用の世帯合算ができなくなります。世帯分離になれば、それぞれが介護サービス費用を負担することになり、割高になるケースがあるでしょう。

世帯分離のメリット

世帯分離のメリット

同じ住所に住む家庭で世帯分離をすると、いくつかのメリットがあります。税金軽減対策として利用したい場合や、介護サービスの利用料軽減目的があるなら、世帯分離がおすすめです。

介護費用の自己負担額を軽減できる

介護費用の自己負担額は、「本人の収入」や「世帯の収入」で決まります。世帯分離をすることで、上記の収入が減るため、介護費用の自己負担額を減らすことができます。

介護サービスの費用は全額払うのではなく、自己負担額は1~3割です。1~3割のどの割合になるかは、所得により変わってきます。

親世帯が1人で所得が年金のみの場合、年金収入280万円未満で介護費用の負担は1割です。年金収入280万円以上なら2割、年金収入340万円以上なら3割負担になります。とくに介護サービスの費用が減りやすいのは、要介護度が重いケースです。また、自己負担額の上限が下がる効果もあります。

親世帯が1人で非課税所得だった場合、自己負担額の上限は月額1.5万円で済みます。

介護費用の自己負担額の上限を下げられる

高額介護サービス費制度と高額介護合算療養費制度という2つの制度は、親世帯を世帯分離することで介護費用の自己負担額の上限が下がります。高額介護サービス費制度とは1か月の介護費用の限度額を定めた制度で、その限度額を超えた介護費用が戻ってきます。高額介護・高額医療費合算制度とは、1年間の医療費用と介護費用の自己負担額をあわせ、その限度額を定めている制度です。そして、限度額を超えた分が戻ってくる仕組みになっています。

介護保険施設の居住費と食費を軽減できる

親世帯を世帯分離することで、介護保険施設やショートステイの利用でかかる居住費と食費を軽減できる場合があります。これは住民税が非課税で保有している資産が一定額以下の人を対象としている助成制度です。居住費と食費の軽減額は保有している資産額によって異なり、該当する資産は預貯金や有価証券、現金などです。なお、この制度を利用するためには、お住いの市区町村に資産を証明する書類を添付して申請する必要があります。

国民健康保険料が安くなる

親世帯が住民税非課税世帯になることで、国民健康保険料が安くなる効果があります。国民健康保険料の支払額は、前年の所得で計算されています。年金生活の親世帯を分離すると、翌年から国民健康保険料が安くなるでしょう。

後期高齢者医療制度の保険料が下がる

75歳以上の親を世帯分離することで、後期高齢者医療制度の保険料が下がる場合があります。後期高齢者医療制度とは、原則75歳以上の後期高齢者を対象とする医療制度です。前年の所得によって保険料は異なるため、世帯分離をすることで大きな軽減効果が得られます。また、世帯分離によって医療機関に支払う医療費の負担割合が1~2割に下がる場合もありますが、前年の所得や年金収入が多い人は負担割合が3割になることもあります。

住民税の軽減効果

今まで1つの世帯としていたものを2つに分離すると、住民税軽減効果があります。住民税の軽減効果が高いのは、所得が少ないほうです。例えば、親世帯と子供世帯で1つの世帯としていた場合で考えてみましょう。親世帯は年金のみの所得の場合、世帯分離で親世帯は住民税非課税世帯となります。住民税非課税世帯になると、住民税の支払いがありません。また、子供世帯も親の年金所得を含めなくてよくなり、課税所得が減る効果があります。

世帯分離に適する人・適さない人

世帯分離に適している人_適していない人

前述したメリットとデメリットで世帯分離することに対してどのような影響があるのかはおわかりいただけたかと思います。デメリットもあるため、どんな方でも世帯分離した方がいいとは限りません。では、具体的にどのような方が世帯分離をしてメリットを得られるのでしょうか。

介護サービスの自己負担を抑えられるというメリットがあります。介護サービスの自己負担割合は世帯収入で決められます。世帯収入に応じて1割負担の世帯、2割負担の世帯、3割負担の世帯に分けられます。現状で2~3割負担の人は1割負担にできる可能性が十分にあります。具体的には、65歳以上の人が1人の場合、世帯の合計所得が280万円を超えると2割または3割負担になります。65歳以上の人が2人以上の場合でも346万円 を超えると2割または3割の負担になるので、346万円 というのは1つ基準にしていいラインになってきます。

介護サービスの自己負担が減っても他の部分での負担が大きくなる可能性があるので世帯ごと一概には言えませんが、トータルでお得になる方法を検討することで世帯分離のメリットを得られるので検討が必要です。

世帯分離の手続き

世帯分離の手続き

世帯分離の手続きは、世帯を別にした日から14日以内に行います。手続きは無料で行われるため、手数料はかかりませんが、証明書を発行する場合には、種類に応じて別途手数料がかかります。スムーズに世帯分離の手続きを行うためにも、手続きに必要なものをしっかりと準備して、市町村の窓口へ届け出を提出するようにしましょう。

※市区町村によって手続きの対応が異なる場合もありますので、世帯分離をする際はご自身が住まわれてる市区町村に確認しましょう。

世帯分離によって負担が軽減するのか確認

世帯分離の手続きをする前に経済的負担が軽減するのかしっかり確認しましょう。世帯分離によって経済的負担が軽減するどころか増えてしまうこともあるからです。確認する項目は、先ほど解説したメリットとデメリットです。メリットが大きければ世帯分離をしたほうがよいですが、逆にデメリットが大きければ世帯分離をする意味がなくなってしまいます。確認漏れを防ぐためにも、地域包括支援センターやケアマネジャーなどの専門家に相談してから世帯分離をするようにしましょう。

手続きに必要なもの

世帯分離の手続きには、以下のものが必要です。

  • ・本人確認書類
  • ・国民健康保険証
  • ・世帯変更届
  • ・印鑑

本人確認書類は顔写真付きの運転免許証等なら1つで済みますが、健康保険証や年金手帳など顔写真がないものは2つ必要です。国民健康保険証は、国民健康保険に加入している場合です。世帯変更届は、市町村窓口に置いてあります。本人の届け出なら印鑑は不要な場合がありますが、念のため持参がおすすめです。

市町村の窓口へ届け出を提出する

世帯分離の手続きは、お住まいの市町村の窓口で行います。担当窓口は、世帯変更届ができる場所です。手続きができるのは、世帯分離する本人、世帯主、同一世帯の人のみです。同一世帯の人が手続きをする場合は、委任状が必要なため注意してください。父親が亡くなって母親が独り身になり世帯分離をするなら、母親が手続きをします。母親が市町村窓口に行けないなら、世帯主か同一世帯の家族が手続きしましょう。

世帯分離の判断ポイント

レ点マークを持つ女性

世帯分離をすると有利なのか迷ったら、次のポイントを確認しておきましょう。親の介護が必要になり、介護費用が高額になる際に、世帯分離がおすすめです。高額介護サービス費制度が使えれば、自己負担額の上限のみの支払額で済みます。上限を超えた分は申請により返還されるため、介護サービスにかかる費用が減るでしょう。母親1人が年金収入の場合は、1か月の上限は15,000円です。世帯分離する前で、同じ世帯の中に住民税が課税されている人がいると、1か月の上限は44,000円です。仮に1か月の上限が44,000円から15,000円になれば、29,000円軽減できます。ただし、親が要介護1であれば、上限額には達していない場合が多いでしょう。上限に達していないなら、介護度が高くなってから世帯分離の検討がおすすめです。世帯分離するか迷ったら、国民健康保険料の金額でも比較してください。会社の健康保険を利用したほうが、負担額が軽減できる場合もあります。

世帯分離の相談について

親子の女性

世帯分離を利用すると、介護費用の負担額が減る可能性があります。ただし、市町村窓口で世帯分離をする際には、介護費用軽減のためだと言わないようにしましょう。世帯分離自体は、介護費用の軽減を目的としていないためです。手続きについて不明な点があるときは、ソーシャルワーカーへの相談がおすすめです。ソーシャルワーカーは福祉施設などで活躍する生活相談員で、世帯分離の相談にも乗ってくれるでしょう。または、フィナンシャルプランナーも、世帯分離相談を受けてくれる場合があります。

なお、Q&A方式で質問できる「介護の広場」もおすすめです。介護のお悩みを投稿するだけで、介護経験者や専門職から回答を得ることができます。ぜひ一度アクセスしてみてください。 

介護の広場
増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。