2023.01.16

身寄りがないと老後が不安な方へ、老後に向けた対策や制度を紹介

最終更新日:2023.01.18
増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

身寄りがいない人が老後を迎えたときに起こるリスク

身寄りがない人が老後を迎えたときに起こるリスク

核家族や少子化の背景がある現代では、老後の不安があるかもしれません。人によっては、子どもや親戚などがおらず、老後に身寄りがない場合もあります。そんな老後は、さまざまな不安があると思われます。まずは、身寄りがいない人が老後を迎えたときに起こるリスクにはどのようなことがあるのか、知っておくことが大切です。

入院や施設入居時の身元保証人がいない

身元保証人とは、保証人、身元保証人、身元引受人、連帯保証人などの名称に限らず、病院、施設で慣習的に用いられている「ある人の身元を保証する人」のことをいいます。今までは、入院や施設入居の際には、本人の家族や親族等が身元保証人となり、本人が入院費や施設の入居費用を支払えない場合は、身元保証人となった人がそれらを支払うケースが多かったと思われます。しかし、社会状況の変化に伴い、家族や親族等のいない高齢者が増え、そうした身寄りがない人に対する入院や施設入居の際の対応は、本人と病院・施設の双方にとって大きな課題となっています。

厚生労働省は、身元保証人がいないことのみを理由にして、入院や入居を拒むことがないように、都道府県に対して通知(平成30年4月27日付け医政局医事課長通知、同年8月30日付け老健局高齢者支援課・振興課通知)を発出しています。

しかし現状では、多くの病院や施設では、様々なリスク(日用品の準備、入院・入居の手続き、入院費・入居費の支払い、退院・退居後の身元引受け、遺体・遺品の引取り・葬儀など)を回避するために、入院や入居時に身元保証人を求めており、身元保証人がいない場合、入院や入居を受け入れないとするところもあるといわれています。

認知症になる

認知症とは、成人が脳や身体の病気によって認知機能が低下し、記憶力や判断力などに障害をもたらし、普段の社会生活に一過性や一時的ではなく、持続的に支障をきたす病気のことをいいます。身寄りがない人が認知症になった場合、その人を見守る人が近くにいないため、認知症の早期発見が遅れることになります。

身寄りがない人が、認知症のため判断能力が低下したときの支援制度としては、法定後見制度と任意後見制度があります。

いずれの制度も、後述する成年後見人等や任意後見人に財産管理を担当してもらえる制度です。

意図しない財産承継が行われる

身寄りがない人の場合、遺言書がなければ、相続人がいないので、手続き的には相続財産は法人となり、清算の対象となります。そして、利害関係人(被相続人である身寄りがない人の債権者、身寄りがない人から特定遺贈を受けた者、身寄りがない人の特別縁故者など)又は検察官の請求によって、家庭裁判所は相続財産管理人を選任します。

相続財産管理人は、身寄りがない人の債権者等に対してその債務を支払うなどして清算を行い、また特別縁故者に対する相続財産分与をし、清算などの後に残った財産を国庫に帰属させることになります。

つまり、身寄りがない人が遺言書を残すなどの措置を講じなければ、相続財産は国庫に帰属することになるので、身寄りがない人にとっても、意図しない財産承継が行われることになります。

身寄りがない人の老後の対策

身寄りがない人の老後の対策

身寄りがいない場合、急に体調が悪くなっても、誰も助けに来てくれない不安があると思われます。近所の人や友人がいたとしても、毎日会うわけではありません。また、判断力が低下した際の金銭的管理の不安も考えられます。介護が必要な状態になったら、誰に頼ればいいか悩む場合もあります。老後に身寄りがない人は、老後の対策を考える必要があります。

地域のサークルやボランティア活動に参加する

まずは、気軽に相談できる仲間を増やしてみましょう。たとえば、地域のサークルに入る、ボランティアに参加するなどの方法です。身寄りがいなくても、誰かとつながりがあれば不安は軽減できます。サークル仲間と親しい間柄になれば、よく顔を合わせるようになります。同じ年齢の人が集まる環境があると、仲間同士で顔を見せなくなった人を心配してくれるものです。また、同じ趣味がある人とおしゃべりするだけでも、ストレス解消になります。老後の不安があるのは、誰かに相談できずストレスが溜まっているだけかもしれません。

行政へ相談する

自治体の社会福祉協議会では「日常生活自立支援事業」を行っています。

「日常生活自立支援事業」とは、認知症高齢者、知的障害者、精神障害者などの判断能力が不十分な人々に対して、福祉サービスの利用援助、日常的な金銭管理、書類の預かり、日常生活に必要な事務に関する手続きなどの支援を内容とするものです。

この事業で行える財産管理は、日常的な範囲での支援に限定されています。具体的には、日常生活に必要な範囲での銀行預金の払戻しや期日管理の必要のない重要書類の預かりなどです。したがって、不動産や金融資産の処分などは支援対象には含まれていません。

支援が必要となった場合には、介護事業者などを通じて社会福祉協議会に相談すれば、その事業を利用することができるため、特に何かを準備しておかなければならないというわけではありません。

この事業を利用するには、社会福祉協議会との間で日常生活自立支援事業利用契約を締結することが必要になります。契約するには、本人に契約締結能力があること、及び本人にこの事業を利用する意思があることが確認できることが必要です。

そして、この事業を利用する契約を締結することによって、社会福祉協議会の専門員や生活支援員による日常生活自立支援のサービスが提供されることになります。

この事業では、本人の自己決定を最大限に尊重して支援することを徹底しております。たとえば、預金の払戻しを受ける場合でも、社会福祉協議会の専門員や生活支援員が本人と同行して、本人が払戻しを受けることを原則としています。同行が困難な場合には本人が払戻請求書に署名して銀行窓口での手続きを代行することができます。払戻手続きや署名ができない場合に最後の手段として代理することとしています。

身元保証サービスを利用する

身元保証サービスとは、身元保証人を代行する企業・団体によって提供されるサービスのことです。

サービスの内容は、企業・団体によって大きく異なるとされています。一般的なサービスの例を紹介いたします。

①身寄りがない人の入院や入居に関して、身元保証人を代行すること

②日常生活支援を行うこと

 具体的な内容は、次の通りです。

❶定期的に電話連絡や訪問をすることによる見守り

 ❷入院や入居時の手続きや身の回りのサポート

 ❸外出(通院・買い物等)への付き添い

 ❹各種手続きの代行

 ❺金銭管理、財産管理

③死後事務を代行すること

 ❶病院や施設からの身柄引受け

 ❷病院や施設への未払い代金の清算

 ❸葬儀や納骨の手配

 ❹行政機関への各種届出

 ❺遺品整理

※具体的な内容は、後述の見出し「死後委任契約をする」をご覧ください。

身元保守サービスを利用するメリット

身元保証サービスを利用するメリットについてご説明いたします。

①身元保証サービスにはいつでも連絡ができ、急速を要するときでもすぐに対応してもらえること

②入院や入居に関する手続きに不安を感じる必要もなく、身元保証サービスに任せられるので、誰にも気兼ねする必要がないこと

身元保証サービスを利用する注意点

①自分が何をしてほしいのかを明確に伝えること

②費用がどれだけ必要かを確認し、自分の支払い能力を検討すること

③企業や団体が提供できないサービスを確認し、納得した上で契約するとともに、書面を取り交わすこと

④契約内容を変更したり解約したりする場合の手続きについて、説明してもらうとともに、その手続きに関する書面の交付を受けること

⑤企業や団体が倒産するリスクがあるので、悪質な企業・団体と契約しないようにすること

⑥契約内容に疑問や不安があるときは、福祉の相談窓口となる近くの地域包括支援センターや、消費生活センターなどに相談すること

成年後見制度を利用する

成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害、発達障害などによって判断する能力が十分ではない方(以下「本人」という)について、本人の権利を守る援助者(「成年後見人」等)を選ぶことで、本人を法律的に支援する制度です。成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度があります。

法定後見制度とは

法定後見制度とは、本人の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所によって選任された成年後見人等が本人を法律的に支援する制度です。

本人の判断能力の程度に応じて、「補助」「保佐」「後見」の3つのタイプに分かれます。「補助」「保佐」「後見」は、対象となる方がそれぞれ「判断能力が不十分な方」「判断能力が著しく不十分な方」「判断能力が欠けているのが通常の状態の方」で、援助者がそれぞれ「補助人」「保佐人」「成年後見人」となります。

法定後見制度のメリット

①家庭裁判所が、補助人、保佐人、成年後見人(以下「成年後見人等」という)に、本人の身上監護、財産管理を適正に行ってくれる人を選任する

②成年後見人等は、「補助」「保佐」「後見」のタイプに応じて、一定の範囲で代理したり、本人が締結した契約を取り消したりすることができる

③成年後見人等は、その事務(財産管理や身上保護に関する法律行為や法律行為に付随する事務行為)について家庭裁判所に報告するなどして、家庭裁判所の監督を受ける

④家庭裁判所は、成年後見人等による適切な後見事務等をサポートするため、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門家を補助監督人、保佐監督人、後見監督人(以下「後見監督人等」という)に選任することがある

法廷後見制度の注意点

①後見開始等の審判を申し立てた人が、特定の人を成年後見人等に選任してほしい旨を希望しても、家庭裁判所が希望どおりの人を成年後見人等に選任するとは限らない

②成年後見人等の仕事は、本人が病気などから回復し判断能力を取り戻すか、本人が亡くなるまで続く

③成年後見人等や後見監督人等は、家庭裁判所に報酬付与の申立てを行った場合には、家庭裁判所の定めた報酬を本人の財産から受け取ることができる

④後見開始等の申立てをした後は、家庭裁判所の許可を得なければ取下げができない

⑤成年後見人等の権限は、基本的に法律で定められており、何でもできるわけではない

⑥身寄りがないなどの理由で、申立てをする方がいない認知症の高齢者、知的障害者、精神障害者の保護・支援を図るため、市町村長等に法定後見(補助・保佐・後見)の開始の審判の申立権が与えられている

任意後見制度とは

任意後見制度とは、本人が十分な判断能力を有する時に、あらかじめ、任意後見人となる方や将来その方に委任する事務の内容を公正証書による契約で定めておき、本人の判断能力が不十分になった後に、任意後見人が委任された事務を本人に代わって行う制度です。

任意後見制度のメリット

①自分の判断能力が正常なうちに、自分が信頼できると考える人や団体をいざというときに備えてあらかじめ任意後見人に選んでおくことができる

②任意後見人になってもらう人に、どのような範囲で代理権を与えるかについては、本人と任意後見人になってもらう人との話し合いで自由に決めることができる

③任意後見契約は、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した後にその効力が生じるとされ、始期が明確になっている

④任意後見監督人は、任意後見人の仕事について、それが適正になされているか否かをチェックし、家庭裁判所も、任意後見監督人からの報告を通じて、任意後見人の仕事を間接的にチェックする仕組みになっている

任意後見制度の注意点

①任意後見契約は、公証人が作成する公正証書により締結することが必要であること

②本人の判断能力が不十分になった後は、任意後見契約を締結することができないこと、

③任意後見人となる方は、本人の判断能力が不十分になった場合には、家庭裁判所に対し、速やかに任意後見監督人の選任の申立てをすることが求められること

④任意後見監督人は、その事務について家庭裁判所に報告するなどして、家庭裁判所の監督を受ける

⑤任意後見人は、任意後見契約で定めた範囲内で代理することができるが、本人が締結した契約を取り消すことはできないこと

身寄りがない人の死後の対策

身寄りがない人の死後の対策

身寄りがない人の死後の対策を4つ紹介いたします。

①遺言書を作成すること

②葬儀やお墓について生前契約をしておくこと

③死後事務委任契約をすること

④遺品や財産の処理の方法を決めておくこと

遺言書を作成する

遺言書とは、遺言者(亡くなった方)が、生涯をかけて築き守ってきた大切な財産を最も有効かつ有意義に活用してもらうために、亡くなった後の財産の処分方法などについて、最終的な意思を書面にして残したものです。身寄りがない人の場合には、最終的には相続財産は国庫に帰属するので、それを望まない場合には遺言書を作成することが必要になります。

遺言書を作成するメリット

遺言書を作成した場合には、遺言が優先されるので、相続財産は遺言に従って扱われます。したがって、特定の人に相続財産を残したい場合には、遺言書を作成するメリットがあります。身寄りがない人が、社会貢献として、公共団体、医療法人、社会福祉法人、学校法人、各種の研究機関などに寄付をしたい場合には、その旨の遺言書を作成する必要があります。このように、特定の団体などに寄付をしたいのであれば、遺言書を作成するメリットがあります。

遺言書を作成する際の注意点

遺言書には、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3種類があります。

遺言書は、遺言者の真意を確実に実現させる必要があるため、厳格な方式が要求されるので、公正証書遺言以外の方式による遺言書の場合、せっかく作成しても無効になってしまう可能性があります。身寄りがない人には、公正証書遺言は法律の専門家である公証人が作成するため、方式の不備で無効になるおそれが全くなく安心です。そして、公正証書遺言は家庭裁判所の検認手続きが省略できるので、遺言執行者を指定しておけば、相続開始後、遺言の内容を速やかに実現でき、身寄りがない人から相続財産を取得した者のためにもなります。身寄りがない人が、遺言書を作成するときの必要な項目は、遺贈、遺言執行者の指定になります。

【遺贈】

遺言書には「遺言者は、遺言執行者において、遺言者の有する財産の全部を換価させ、その換価金から遺言者の一切の債務を弁済し、かつ遺言の執行に関する費用を控除した残金を〇〇(例えば友人)に包括して遺贈する」と記載します。この場合は、積極財産全部を換価して、債務清算後の剰余金を受贈者の〇〇(例えば友人)に遺贈するものです。なお、身寄りがない人は、公正証書遺言の「付言(表題は他に「付言事項」など)」あるいは受贈者(例えば友人)との「死後事務委任契約公正証書」において、葬式の方式、遺体の処理方法(献体や散骨の希望を含む)などを記載することになります。受贈者は、財産を受贈する代わりに、身寄りがない人の事情をくみ、死後事務を承諾することになります。

【遺言執行者の指定】

遺言書には「遺言者は、この遺言の遺言執行者として〇〇を指定する。遺言執行者が任務遂行に際して必要と認めたときは第三者にその任務を行わせることができる」と記載します。なお、遺言執行者を指定しておけば、その地位、権限、職務内容などは民法によって決まるが、遺言執行者として指定された者は、必ずしも法律の専門家とは限りません。そのため、遺言執行者及び遺言の執行対象となる財産の関係者のことを考慮して、遺言執行者の権限について、遺言内容に即して具体的に記載することも行われています。

その場合の記載例は、次のようになります。

「遺言執行者は、この遺言に基づく不動産に関する登記手続き、株式、預貯金等の金融資産について名義変更、解約及び払戻し等をする権限並びに遺言者の権利に属する金融機関の貸金庫について開扉、内容物の引取り及び貸金庫契約の解約等をする権限その他この遺言を執行するために必要な一切の権限を有する」

葬儀やお墓について生前契約をしておく

自分が亡くなった際の葬儀やお墓の不安があるなら、生前契約をしましょう。葬儀会社や墓地などによっては、生前から契約できるところがあります。生前に契約する場合は、自分でプランや費用を比較できて安心です。支払いは生前に済ませておくため、葬儀を任せる人に負担をかける心配がありません。菩提寺がある人なら、お付き合いのあるお寺に葬儀からお墓を任せられます。葬儀会社や墓地によっては、宗派や生前のお付き合いに関係なく利用できるところもあります。

死後事務委任契約をする

死後事務委任契約とは、本人(委任者)が第三者(個人、法人を含む)に対し、本人が亡くなった後の諸手続き、葬儀、納骨、埋葬に関する事務等についての代理権を付与して、死後事務を委任する契約のことです。

本人には身寄りがないため、死後のことはやはり心配になると思われます。そのような場合に、関係者への訃報などの連絡、死亡届の提出、健康保険や年金の資格抹消申請、公共料金などの解約と清算、病院や介護施設などの清算、納税、遺品(デジタル情報を含む)整理などの後始末を委任するのが死後事務委任契約です。身寄りがない人の死後事務委任の内容はどのようなものか、具体的に紹介いたします。

身寄りがない人の死後事務委任の内容

①知人、関係者等への死亡の連絡に関する事務

②家賃、公共料金等の解約や清算に関する事務

③病院、介護施設や老人ホーム等の退所や清算に関する事務

④通夜、告別式、火葬、納骨、埋葬、永代供養に関する事務

⑤遺品整理(家財道具や生活用品の処分)に関する事務

⑥健康保険や年金の資格抹消申請に関する事務

⑦相続財産管理人の選任申立て手続きに関する事務

⑧住民税や固定資産税の清算に関する事務

⑨役所への死亡届の提出、戸籍関係手続きに関する事務

⑩以上の各事務に関する費用の支払い

成年後見制度(法定後見制度と任意後見制度)では、成年後見人等や任意後見人の職務は、いずれも本人(委任者)の死亡と同時に終了します。また、遺言書で定める遺言執行者の職務は、遺言によって定めた財産の処分や分配、登記などの財産上の手続きを行うものに限られます。そのため、死後事務を頼みたい場合には、別途に「死後事務委任契約」を締結する必要があります。死後事務委任契約は、任意後見人に任意後見契約と併せて公正証書により委任することもできるし、親しい友人に委任しておくことも可能です。

死後事務委任契約のメリット

①身寄りがない人でも、本人の望む委任事項を盛り込んだ契約書を作成しておけば、本人の意思を反映した形で死後事務をしてもらえる

②委任事項が契約書に明確に記載されていれば、受任者も本人の意向に沿って死後事務を行いやすい

③死後事務委任契約を公正証書により作成すれば、公証人のチェックが入るため、委任事項について把握漏れや対応漏れを防ぐことができる

④身寄りがない人でも、信頼できる受任者さえいれば死後事務を依頼できるし、仮にそのような人がいない場合でも、弁護士などの専門家や死後事務等を業務とする企業・団体に委任することができる

死後事務委任契約の注意点

①本人が認知症などにより判断能力がないと判断された場合には、死後事務委任契約を締結できないこと

②本人の銀行口座の解約や不動産の処分は死後事務委任に該当しないため、それらを死後事務委任契約に盛り込んでも履行できない(本人の預貯金や不動産は相続財産であり、受任者が銀行口座の解約や不動産の処分を行うためには、別途遺言書で遺言執行者に指定してもらう必要があります)

③身寄りがない人は、死後事務を第三者である友人などに依頼することになるので、内容の偽造・変造を防ぐためには、公正証書により作成するのが望ましい(公正証書は一般的に信頼性が高く、手続きをスムーズに進めることができます)

遺品や財産の処理の方法を決めておく

思い出のある遺品を持っている場合は、誰に何を残すのか決めておきましょう。または、財産がある人は誰に分け与えるのか、生前に決めておくと安心です。生前から準備しておけば、価値のあるものを誰かに譲ることができます。準備せず業者に任せてしまうと、価値がわからずゴミとして廃棄されるかもしれません。大切に扱ってきたものでも、本人やコレクターでしか理解できない場合もあります。遺品や財産の処理に対しても書類に明記しておけば、業者に委託した場合に安心です。

身寄りがない人の遺品整理について

身寄りがない人の遺品管理について

身寄りがない人は、遺品整理を専門業者に依頼するとよいです。遺品整理を業者に依頼する人は、家族が離れており仕分けできない人、身寄りがない人などです。短期間で遺品整理からゴミの処分、部屋の受け渡しまで対応してくれます。遺品整理でかかる費用は、3万円~60万円までです。部屋が少なく、仕分けや清掃の手間が少なければ、数万円程度から利用できます。料金は作業量と時間で変わるため、費用を節約したいなら、自分で対応できることは生前にやっておきましょう。

預金通帳やカード類等

お金に関する通帳やカード類は、1つにまとめておきましょう。複数の場所にあると、遺品整理の際に見落とす恐れがあります。できれば、預金やタンス貯金は1つの口座にまとめて入金するとよいです。使っていない銀行口座があるなら、生前に解約しておいてください。不要となった口座から全額引き出して、メインの通帳にまとめればわかりやすくなります。本人以外の口座の解約は、必要書類が多くあり時間もかかるため避けるのが無難です。銀行キャッシュカードのパスワードは、通帳と一緒に保管するのはおすすめできません。人によっては、ネット銀行やスマホ決済サービスを利用しているかもしれません。通帳がない場合やパスワード等は、メモを残すなど対策しておきましょう。

書籍

書籍の処分は、少しずつやって量を減らしましょう。綺麗な状態の書籍は、本の買い取りショップに引き取ってもらえる場合があります。蔵書があるなら、近くの図書館などの施設に寄贈できるか確認しておきましょう。廃棄処分する場合は、お住まいの自治体の処分方法に従ってください。書籍の量が多いと一人での移動は大変かもしれません。地域の廃品回収で引き取り可能なら、玄関まで回収に来てくれる場合があります。

賃貸物件

自分が亡くなった後のことを考えて、賃貸物件の対応も考えましょう。賃貸では、家賃の支払い、敷金の扱い、原状回復などの手続きがあります。大家さんや管理会社に、亡くなった後の対処は誰がするのか連絡しておくと安心です。

手紙や写真などプライベートなもの

身寄りがない場合は、手紙や写真などの引き取り先がありません。大切な思い出が詰まっていることはわかりますが、生前に数を減らしておきましょう。処分できない場合は、デジタルデータに変えて保管スペースを減らす対策もあります。

エンディングノートの活用方法

エンディングノート

生前にできる対策として、エンディングノートの活用がおすすめです。エンディングノートと聞くと悪いイメージがあるかもしれません。決して後ろ向きのものではなく、自分の生き方を見つめ直し、遺品や葬儀などの取り扱いをまとめることができます。自分の気持ちを書き記すことで、安心感があるためおすすめです。遺言の意味もありますが、思いを整理するためにも活用してみてください。

安心して老後を過ごせるように事前準備しておこう

考え事をする高齢の男性

どんな人でも、年を取ると判断能力が衰えることは避けられません。まして、身寄りがない人にとっては、老後は切実な問題です。

身寄りがない人が、最後まで自分の思ったとおりの生活が送れるように、また、自分の亡くなった後でも自分の意思を貫けるように、自分で判断することができるうちに、遺言書を作成したり、任意後見契約や死後事務委任契約を結んだりして、様々な準備をしておかなければなりません。また、身元保証人がいないことで、入院や施設入居の手続きが進められなくなることのないように、あらかじめ行政に相談したり、身元保証サービスを受けられるようにしたりしておくことも、必要になります。

他方で、判断能力が衰えて自分で自分の財産を管理できない事態になった場合には、家庭裁判所が金銭を管理する人を選任する「法定後見制度」もあります。身寄りがない人に合った老後の準備については、専門家に相談されることをお勧めします。

増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。