2022.08.24

訪問介護で介護ヘルパーに頼めること、頼めないこと|要介護者の身の回り編

最終更新日:2023.04.11
増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

自宅にヘルパーが訪問し、必要な身体介護や家事援助を行う訪問介護。実は訪問介護のヘルパーは、頼んだことを何でもやってくれるわけではありません。それでは、どのような介助を頼むことができ、どのような介助は頼めないのでしょうか。今回は、訪問介護の介護ヘルパーに頼むことができるのか判断が難しいサービス内容について詳しくご紹介していきます。

介護ヘルパーに頼めること頼めないこと

介護士の男性

訪問介護のヘルパーができる仕事内容は、介護保険制度にて明確に決められています。提供が認められている介護の種類は以下の2つです。

 身体介護(入浴、食事摂取、排泄、家屋内の移動などの介助)
 家事援助(日常の範囲内の調理や掃除、買い物、薬の受け取りなど)

例え介護保険制度で提供が認められている場合であっても、訪問してきたヘルパーにその場で仕事内容を頼んでやってもらうわけではありません。仕事の具体的な内容は、ケアマネジャーのケアプランに基づいて事前に打ち合わせを行い、ヘルパー事業所が作成する支援計画書に同意することで決まります。ここからは、実際に「これってヘルパーに頼めるの?」と事業所にお問い合わせが多いサービス内容の中でも、特に要介護者の身の回りに関する支援についてご紹介します。

湿布を貼ることは頼めるか

ヘルパーが利用者の依頼に応じて湿布を貼ることは、可能です。

厚生労働省が平成17年7月26日に通知した「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」によって、条件を満たした場合はヘルパーが利用者に対し湿布を貼る行為は医療行為に該当しないと通達されました。

具体的に申し上げると、以下の3つの条件に当てはまる場合は利用者の依頼に応じて「湿布の貼り付け」「褥瘡の処置を除く軟膏の塗布」「点眼薬、点鼻薬、坐薬の使用介助」「一包化された薬剤の内服介助」を行うことができます。

1. 患者が入院・入所して治療する必要がなく容態が安定していること
2. 副作用の危険性や投薬量の調整等のため、医師又は看護職員による連続的な容態の経過観察が必要である場合ではないこと
3. 内用薬については誤嚥の可能性、坐薬については肛門からの出血の可能性など、当該医薬品の使用の方法そのものについて専門的な配慮が必要な場合ではないこと

ただし、ヘルパーが湿布の貼り付けを実施できるのはあくまで使用方法通りの対応に限られる点に注意しましょう。また、訪問介護は最低でも1回当たり20分以上の支援が必要な場合に介護保険対象となることにも注意が必要です。湿布の貼り付けのみを目的にヘルパーを依頼することができない点も覚えておきましょう。

布団の出し入れは頼めるか

ヘルパーに布団の出し入れを頼むことは、可能です。

本人が日常生活において使用している布団であれば、起床後に畳んで押し入れに片づけたり、就寝準備のために敷いたりすることが認められています。また、布団を干すことも家事援助として実施可能です。足腰の弱った高齢者が自分で布団の出し入れをすることは転倒の危険を伴うので、不安な方は相談してみることをおすすめします。

ただし、同居家族がいる場合は家事援助に該当するため実施できませんし(同居家族の全てが疾病や障がいなどで実施できない場合は可)、たとえ独居であっても本人以外が使用する布団の出し入れ(例えば本人の家に来訪し宿泊する人物を迎え入れるための準備)は対象外になるので覚えておきましょう。

シーツや枕カバーの交換は頼めるか

ヘルパーにシーツや枕カバーの交換を頼むことは、可能です。

シーツや枕カバーの交換だけでなく、時間が許せば洗濯をして干すこともできます。利用者の自宅にシーツなどの大物に対応した洗濯機がない場合、ケアプランに位置づけられたサービス提供時間の範囲内であれば近くのコインランドリーを利用してもらうことも可能です。この際のコインランドリー使用に必要なお金は介護保険制度の給付対象外なので、利用者の実費負担となります。

ただし、シーツや枕カバーの交換は布団の出し入れと同様に家事援助に該当します。同居家族がいる場合は基本的に実施できませんし、本人以外が使用する寝具の交換はできません。

壁掛け時計の電池交換は頼めるか

壁掛け時計の電池交換は、頼むことができます。

壁掛け時計の電池交換だけでなく、例えば照明器具や暖房器具のリモコン・使用したスティック型掃除機の充電やワンタッチで可能な場合のバッテリー交換、切れた電球の交換も実施が可能です。ただし家事援助に該当する支援内容であることから、上記2件と同様に実施可能なのは利用者が原則独居である場合に限られます。また、本人が日常生活で使用しない部屋に関しては依頼できません。なお、自治体によっては交換可能な範囲に制限を設けている場合があります。不安がある場合はお住いの市町村の介護保険担当課に確認してみるとよいでしょう。

ボタン付けなどの修縫は頼めるか

ボタン付けなどの衣類の修縫は、頼むことができます。

ただし、衣服の修縫が可能なのは日常的に使用する衣服であり、特別な技術や器具を必要としない簡単な裁縫に限ります。例えば裾上げや衣類のリフォームといったことはできず、あくまで修繕の範囲内に限られています。また、衣類の修縫も家事援助に該当する内容であるため、同居家族がいる場合は基本的に依頼できません。例えば夫と2人暮らしで、「夫は健康だが、単に裁縫技術がない」という場合も介護保険対応の対象外になります。

花や植木の水やりや庭の草むしりは頼めるか

花や植木の水やりや庭の草むしりについては、介護保険のヘルパーに頼むことはできません。

水やりや草むしりは家事に該当すると考えられます。しかし、植物の世話や庭の手入れは介護保険法においてヘルパーが実施できる家事援助の中に入っていません。仮に植物の世話や庭の手入れをしなくても、要介護者の生命や日常生活の維持には直接影響しないと考えられているからです。

例え、いくら利用者が困っているからと言っても介護保険制度のヘルパーが実施することはできないので注意しましょう。ただ、利用しているヘルパー事業所が介護保険外サービスにも対応している場合は別料金で依頼できる場合があります。詳しくは担当のケアマネジャーやヘルパー事業所のサービス提供責任者に相談してみるとよいでしょう。

ペットの散歩を頼めるか

ペットの散歩については、介護保険のヘルパーに頼むことはできません。

例え生きている動物の世話だとしても、介護保険制度上はヘルパーが実施できる家事援助の内容に含まれていないからです。理由は、ペットの世話は利用者の生命や日常生活の維持に直接影響しないと考えられているからです。

ただ、いくら介護保険の対象外だからと言っても、利用者からみればペットは大事な家族です。利用者の想いを無下に断ってしまった場合、最終的にペットが死亡したときに喪失感によって生活意欲の低下を招き、ひいては心身機能の低下につながる可能性も捨てきれません。例えばペットの散歩に対応している自費サービスやペットシッターなどに関する情報を提供するという対策が考えられます。

手紙の代読や代筆は頼めるか

手紙の代読や代筆は、それのみをもってヘルパーに依頼することはできません。

なぜなら、私的な手紙の代読や代筆は介護保険制度上の身体介護や家事援助の範囲として認められていないからです。ただし、例えば日常生活上必要な手続きの支援(市役所から届いた申請書類の作成など)や、視覚障がいがある方が行う食材や生活必需品の通信販売の利用に必要な読み上げ等は認められる場合があります。また、介護保険制度のヘルパーでは利用できなくても、障害者総合支援法のヘルパーであれば対応が可能なケースもあります。困ったときは、まずは担当のケアマネジャーやお住いの市町村に相談してみるとよいでしょう。

様々な業者も活用しよう

介護士の女性

ここまでは、訪問介護でヘルパーに頼める要介護者の身の回りの支援内容について、下記の通りご紹介してきました。

 湿布を貼ること → 〇
 ふとんの出し入れ → 〇 ※本人の物に限る
 シーツや枕カバーの交換 → 〇 ※本人の物に限る
 壁掛け時計の電池交換 → 〇 ※本人の物に限る
 ボタン付けなどの修縫 → 〇 ※本人の物に限る
 植物への水やりや草むしり → ×
 ペットの散歩 → ×
 手紙の代読や代筆 → ×

このように、介護保険制度のヘルパーでは提供可能なサービス内容が明確に定められています。しかし諦める必要はありません。

介護保険制度のヘルパーよりは割高ですが、保険外サービスの自費ヘルパーや民間企業の家事代行サービスや便利屋サービスを利用することで、困りごとが解決する場合もあります。仮に利用中のヘルパー事業所があれば、まずは自費サービスに対応しているかどうか確認してみましょう。対応していなければ、ケアマネジャーから他の自費サービス事業所を紹介してもらったり、介護保険と自費ヘルパー両方に対応した事業所に変更してもらったりすることも可能です。

池田正樹
介護福祉士、介護支援専門員、社会福祉士、福祉用具専門相談員、福祉住環境コーディネーター2級 等

大学卒業後、通所介護・訪問介護・福祉用具貸与・居宅介護支援・グループホーム(認知症対応型共同生活介護)・有料老人ホーム・障がい者施設などを運営するNPO法人にて様々な種別の事業所に所属。高齢者支援だけでなく、障害者総合支援法に基づく業務の経験や知識も併せ持っている。事業所の新規立ち上げや初任者研修・実務者研修の設立・運営にも携わる。その後は地域でも有数の社会福祉法人に転職し、特別養護老人ホーム・ショートステイの事業所に所属した。現在は在宅高齢者を支援するケアマネジャーとして約50件を受け持つ。3児の父で、自身の祖父と父を介護した経験もあり、サービス利用者側・提供者側双方の視点を持ち、読者に寄り添う記事の執筆をモットーとしている。

増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。