2022.08.24

訪問介護の生活援助とは?介護ヘルパーに頼めること・頼めないこと

最終更新日:2023.03.06
増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

訪問介護は介護保険制度により方向性や内容が決められているものの、実際に介護サービスを体験しないと分からない部分が多くあります。介護事業所から来るヘルパーだとしても、他人を家に入れる抵抗感がある人もいるでしょう。たとえインターネットで調べたとしても、具体的なケアの質まで分かりません。そこで今回は、在宅介護中の人や訪問介護を検討されている人に向けて、訪問介護の「生活援助」について解説します。訪問介護では主に、直接肌に触れて介助する「身体介護」と、日常的な身の回りの生活を支援する「生活援助」の2つのサービスに分けられます。介護保険ではヘルパーに頼める援助は決められていますので、本記事でお伝えする「訪問介護で頼める身の回りの世話」について理解を深めてください。

介護ヘルパーに頼める生活援助・頼めない生活援助

悩んでいる医師と看護師

介護サービスを利用したことがない人は「ヘルパーには常識の範囲内なら生活に必要なことを頼める」といった思い違いを持っている人がいます。しかし、訪問介護でヘルパーに頼める生活援助の内容は「掃除・料理・洗濯など利用者の自立支援の範囲」と決められていますので、要介護者の要求や願いを全て叶えられるとは限りません。場合によっては介護サービスではなく、自費のサービスやボランティアに頼る必要もあるでしょう。具体的な事例を交えて解説します。

手浴、足浴は頼めるか

外出後の手浴・足浴の準備はヘルパーに頼めます。特に暑い時期は、麻痺側の手や足の指は蒸れて水虫や臭いの原因になり、不衛生になりがちです。衛生管理は重要です。しかし、生活援助では「準備」しかできません。利用者様の体に触れて手浴・足浴は、入浴介助の洗髪・洗身と同じく「身体介助」として区別されています。例えば、体を拭くための蒸しタオルの用意は生活援助ですが、体を拭く行為そのものは身体介護に当たります。生活援助では手浴・足浴の用意しか準備しかできないものの、1人では入浴できない人も手軽に清潔を保てます。

自転車のタイヤの空気入れや洗車は頼めるか

自家用車や自転車のメンテナンスはできません。日常生活で使うものだとしても、家事の範囲を超えているからです。介護保険は私的な利用ができないため、自転車などの手入れが必要な場合は自治体のボランティアを頼ってください。また、空気入れに関連して「車椅子を日常的に使う人」は、空気圧の確認や空気入れをヘルパーに頼めます。車椅子は生活で欠かせないものであり、空気圧不足によりブレーキの利きが甘くなり危険です。行動に大きな制限がかかったり、ケガの可能性があったりするため、生活援助として対応できます。

話し相手は頼めるか

話し相手のみの訪問介護はできません。サービス提供中に雑談はできますが、高齢者は誰とも関わらないと、認知症の進行や引きこもる原因にもなります。日中は同居している家族がいない人や、独居の人は外で交流したほうがいいでしょう。例えば、自治体の高齢者向けのサロン・日帰りで他者との交流や支援が受けられる通所介護(デイサービス)・市町村が主催している傾聴ボランティアなどがあります。訪問介護の利用者はヘルパーと話すことが楽しみの人もいますが、滞在時間が限られています。誰かと交流を望まれる場合は、ボランティア団体やサークルなどをご検討ください。

肩や腰のマッサージは頼めるか

ヘルパーはマッサージの提供ができません。訪問介護の生活援助は自立支援が目的のため、マッサージが必要であれば、訪問マッサージを検討してください。訪問マッサージは歩行が難しい・病院に通えないなどの条件と、かかりつけ医との相談(医師の同意書)が必要ですが、医療保険が適用されます。しかし、リラクゼーションが目的だったり、医療保険の条件に当てはまらなかったりした場合でも、自費で訪問マッサージを受けられます。また、介護保険では訪問リハビリがあり、病気などでマヒや拘縮などがある人に向けたマッサージや、日常生活に必要な体の動作の訓練を受けられます。公的なサービスだけではなく、自費で受けられるサービスもあるため、個人に合わせて組み合わせてください。

留守中に自宅の掃除や洗濯を頼めるか

本人が留守中のサービスは提供できません。訪問介護は「利用者本人に直接サービスできることに限る」からです。同じ理由で留守番もできません。そのため、留守中の掃除は「ハウスクリーニング」や「家事代行サービス」を利用してください。自費になりますが、外出中でも清掃作業を行ってくれる業者もあります。家の中を他人に預けることに抵抗がある人は、貴重品を持って外出するか、金庫などに保管しておくとトラブルが防げます。介護保険はなんでも対応できるわけではありません。本人の直接援助に該当しないサービスは、代行サービスを検討すると選択肢が増えます。

預金の出し入れは頼めるか

ヘルパーは利用者の預金の引き出しや、ATMの操作の代行はできません。訪問介護では、預金管理の責任が持てないため、資産管理は成年後見制度や金融機関のサービスの活用、担当のケアマネジャー・地域包括支援センターに相談したほうが安全です。一方、預金の引き出しのために銀行などへ付き添うことは可能です。とはいえ「ケアプランにないサービスは提供できない」ため、生活資金の調達を介護サービスの範囲内としておくといいでしょう。

宅配便や郵便物の受け取りは頼めるか

ヘルパーは利用者に代わって宅配便や郵便物を受け取れません。郵便物は「利用者の資産を代わりに受け取る行為」になるため、預金管理と同じく責任が持てません。しかし、利用者が受け取ったあと、宅配物が重たいなどの理由があるときはヘルパーが運べます。また、ヘルパーが手紙などのポストへの投函も「直接支援ではない」ため行えませんが、書類の郵送などの目的がある場合は、ポストや郵便局への同行はできます。

自費サービスを利用しよう

ここまで、訪問介護の生活援助の範囲をお伝えしました。まとめると「利用者本人の自立援助・直接支援」に当たるものは、訪問介護で対応できますが、介護保険の制度上、公平なサービスしか提供できません。利用者の希望が多岐にわたるときは、民間企業のシニア向けのお手伝い・代行などの自費サービスを利用したほうがいいでしょう。介護保険を活用しつつ、サポート範囲外は自費サービスを使って、不自由のない生活を送ってください。

平野たけし
介護福祉士、介護支援専門員、 第一種衛生管理者、 社会福祉主事任用資格、 認知症ライフパートナー3級 、福祉住環境コーディネーター2級 、メンタルヘルス・マネジメント検定試験2種 、ファイナンシャル・プランニング技能士3級

2018年9月まで、老人保健施設の介護士として14年間従事し、身体介護だけでなくイベントのプロジェクトリーダーを経験。介護福祉士・介護支援専門員・社会福祉主事、第一種衛生管理者、他多数の資格を習得する。2021年よりWebライター・電子書籍(Amazon Kindle)編集者として活動開始。様々なジャンルの書籍編集(加筆修正・構成・タイトル提案など)に8件携わり、ベストセラーを獲得。2年間の育児休業の経験があり、介護・子育ての記事執筆を得意とする。

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増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。