2022.11.16

認知症の徘徊対策とは?原因や対処法をわかりやすく解説

最終更新日:2022.11.16
増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

認知症高齢者による徘徊で、身体的・精神的な負担を強いられているご家族は少なくありません。徘徊によってご本人がケガをしたり、事故に遭ったり、また他の人へ迷惑をかけたり、と心配は尽きません。この記事では、認知症高齢者の徘徊が起きないように未然に防ぐ方法や、実際に徘徊が起きた際の対処法、行方不明になった場合にしなければならないことを解説します。

認知症の徘徊とは

雪道を歩く高齢女性

厚生労働省は「みんなのメンタルヘルス」にて、認知症を『脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態』と定義しています。つまり、正常に働いていた脳の機能が加齢によって低下することで、記憶や思考への影響が見られる病気です。

また、我が国における65歳以上の認知症の人の数は約600万人(2020年現在)と推計されており、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されています。高齢社会の日本では認知症に向けた取組が今後ますます重要になります。

認知症にはいくつか周辺症状があります。周辺症状とは、認知症の中核症状に付随する日常生活面・心理面での症状で、全ての認知症患者に症状が出る訳ではありません。
・徘徊
・不安
・抑うつ
・不眠
・妄想
周辺症状のなかでも、家族が対応に苦慮するのが「徘徊」です。

Weblio辞書によると、徘徊とは「あてもなく、うろうろと歩きまわること」を指します。認知症高齢者の徘徊は、端から見れば目的が無いように見えますが、本人にとっては、目的のある行動である場合が多いです。ただし、徘徊によって思わぬ事故(行方不明、交通事故)に巻き込まれたり、何かしらのケガ(転倒による骨折、熱中症や低体温症等)を負ったりと危険が伴います。

社会問題化している徘徊

2007年12月に認知症の高齢男性が徘徊の末に電車にはねられ亡くなり、遺族が鉄道会社から高額な損害賠償を請求された訴訟がありました。結果、最高裁判決で遺族が逆転勝訴しましたが、世間に与えたインパクトは小さくありませんでした。

警察庁は「令和3年における行方不明者の状況」において、2021年の1年間における行方不明者は約7.9万人であり、そのうち認知症の疑いのある行方不明者は1.7万人だったと発表しました。割合として約22%を占め、認知症高齢者の徘徊が行方不明と繋がる恐れがあると見ることができます。

厚生労働省は、認知症高齢者の徘徊を社会的な課題としてとらえており、「身元不明の認知症高齢者等に関する特設サイト」を開設し、家族等がホームページを通じて情報を得て、問い合わせができるようにしています。これを受けて各都道府県はホームページにて、身元が分からないまま保護された認知症高齢者等の情報を掲載し、いつでも家族等がアクセスできるようにしています。

このように認知症高齢者の徘徊は社会問題化しているため、法整備を含め国の早急な対策が求められています。

徘徊には目的がある

前述のとおり、徘徊という言葉には「あてもなく、うろうろと歩きまわること」という意味があります。しかし、当事者にとっては目的があって外出したものの、結果として道が分からなくなってしまい、これが周囲から「徘徊」と受け取られています。正確にいえば、本人なりの理由があっての行動なのです。

以下、例を挙げます。
・自宅にいるにもかかわらず、「家に帰りたい」といって外出する
・おなかの調子が悪く「トイレへ行きたい」といって外出する
・「喉が渇いたのでお水を飲みたい」といって外出する など
徘徊の理由を探ってみると、実は本人なりの理由や背景があり、外出という手段に結びついてしまうのです。とはいえ、家族を悩ます行為であることには変わりはありません。

徘徊の原因

徘徊の要因

徘徊の根本的な原因は、記憶障害、見当識障害、その他の要因から起きるものとされています。以下、それぞれの具体的な症状を説明します。
・記憶障害:新しいことを記憶できず、さっき聞いたことも思い出せなくなる
・見当識障害:時間や季節の感覚が薄れ、遠くへ歩いて行ったり迷子になったりする
・その他の要因:身体的、精神的、環境的な要因
ここからは、事例を取り上げて詳しく見ていきましょう。

道に迷ってしまった

道に迷ってしまう症状は、見当識障害によって引き起こされる症状です。認知症高齢者が自宅から外出して帰り道が分からなくなり、道に迷ってしまい、結果として徘徊するというケースです。特徴としては、夕方からこのような症状・行動が出ることが多いです。これは記憶障害・見当識障害によって引き起こされ、路上のみならず室内において同じ症状が出ます。室内で起きる症状には、次のようなものがあります。
・トイレの場所が分からなくなる
・自分の部屋や場所が分からなくなる
・室内をあてもなく歩き回る 等

帰宅しようとする

認知症高齢者が、そわそわして落ち着きがなくなり「家に帰らせてもらいます」と帰宅行動を取る場合があります。この症状は、記憶障害・見当識障害によって引き起こされます。このような帰宅行動は、本人の自宅にいても出る場合があります。本人の自宅、自室にいたとしても、「家に帰る」との訴えが出て、周囲を困らせてしまいます。

なぜここにいるのか忘れてしまった

なぜここにいるのか忘れてしまい、結果として徘徊に結びついてしまうケースです。この症状は、記憶障害によって引き起こされます。自分が今どこにいるのか、これまでの経緯や、前後関係を理解できない(思い出せない)ため、このような症状が出てしまいます。

過去の習慣の再現

長らく習慣化していた過去の出来事を、認知症になって再現してしまい、結果として徘徊となってしまうケースです。例えば、若い頃に専業主婦だった女性が、認知症になってもなお、夕方前になると「主人の夕食を準備しないといけない」とそわそわし始め、「魚屋に行って酒の肴を買わなきゃ」と考えるようになり、外出の要を訴えます。記憶障害が原因となり引き起こされます。他の例を挙げれば、仕事帰りに外で一杯飲む習慣のあった男性が、夕方になると落ち着かなくなり、酒屋さんを探しに外へ出掛けてしまうのも同じようなケースです。

自分の居場所を探している

前述の帰宅行動と関連しますが、徘徊する認知症高齢者のなかには自分の居場所を探す人がいます。ご本人に帰宅行動があって、悩んだ家族が「若い時に住んでいた家に行きたいのかな」と推測して以前の住宅へ連れて行っても、「家に帰る」との訴えを繰り返してしまいます。家族としては、「一体、家とはどこを指しているか?」と混乱してしまう例です。ご本人は「家」という表現を使いますが、結局は、より安心できる環境を探しているのでしょう。これは、見当識障害が原因で引き起こされます。

不安やストレス

ご自身の抱える不安やストレス等の精神的要因から徘徊に繋がるケースがあります以前していたことが能力的にできなくなった、環境的にできなくなったことで不安になり、焦燥感に駆られ、外へ出掛けてしまう例です。例えば、次のような事例です。
・子どものお迎えをしていたのに、今はできなくなった。
・家族の三食の調理をしていたのに、今はできなくなった。
・町内会の役員や、民生委員の役割を担っていたのに、今はできなくなった。 ほか

高齢期になると、これまで担っていた役割を家族に取り上げられ、ご本人が塞ぎ込むようなことがあります。これが認知症の進行に影響を与えることがあります。この対策としては、できるだけ本人がストレスを感じないように、穏やかな表情での声かけ、安心できるような配慮をしつつ、一部でもいいので役割を継続して担ってもらえるようにすることが重要です。

前頭側頭型認知症

前頭側頭型認知症とは、脳の前方部分で障害が起こり、次のような特徴的な症状が出ます。
・ 病気であるという自覚がなく、身なりや周囲のことに関心がなくなる
・ 同じことを繰り返し行う常同行動が起こる
・万引きをしたり、暴力的になったりするなど情緒障害・人格障害・異常行動が起こる

同じことを繰り返してしまう常同行動は、次のようなものがあります。
・毎日同じコース、同じ時間に歩く
・買い物に行くと必ず同じ物(特に甘いもの)を買ってしまう
・毎日同じメニューの食事を作る

なお、常同行動は他者から途中で遮られるとご本人が興奮することがあるため、そうならないように注意しましょう。また、上記のとおり徘徊に繋がる恐れがあるため、見守りが大切です。

認知症の徘徊を予防する対策

認知症の徘徊を予防する対策

ここからは、認知症高齢者の徘徊を予防するための対策法を4つ紹介します。

生活リズムを整える

良好な生活習慣を送り、体調を整えストレスがたまらないようにすることで、徘徊を予防することに繋がります。具体的には、早寝早起きを心がける、三食しっかり食べる、適度に水分補給する、お通じを良くする(努めて食物繊維を取る等)ことです。
特に早寝早起きは重要です。なぜならば、早寝早起きによって睡眠の量と質を確保することにより規則正しい生活を送ることができ、認知症の予防・進行を遅らせることになります。結果として徘徊を防ぐことにつながるでしょう。
言い換えれば、不眠、睡眠不足や昼夜逆転は認知症の進行を早めることが考えられ、結果として徘徊を誘発してしまうのです。また、早寝早起きを始め生活リズムを整えるのは認知症の進行を防ぐだけでなく、ADL(Activity of Daily Living:日常生活動作)の低下を防ぐ効果があります。

日中に適度な運動をする

日中に適度な運動をすることで、夜間徘徊を防ぐことができます。言い換えれば、日中に運動不足が続くと、身体の筋肉・関節を使わないためカロリーを消費できず、余ったエネルギーが徘徊へと結びついてしまいます。ラジオ体操やNHKが放映している健康体操の内容でも、十分に適度な運動となります。すぐにでも実践できる方法なので、該当する番組放映をしている時間帯にテレビやラジオを点けて、適度な運動を促すなどしてぜひ試してみて下さい。

楽しめる趣味や役割のある仕事を与える

楽しめる趣味がなく、毎日を無為に過ごすことは、認知症の進行を早めてしまい、結果として徘徊へと繋がってしまいます。畑いじりを日課にしたり、孫の登校時間に玄関までお見送りをしたり、洗濯物を畳んだり、日常の他愛もない作業でも役割を担うことで、「自分の居場所はここだ」と認知し、自己肯定感が満たされ、落ち着いていられることが多いです。特に趣味を持たない人は、新たに趣味を見つけることが必要となりますが、高齢者でもできる趣味としては、ウォーキング、ジョギング、水泳、写真撮影、家庭菜園などがあります。

地域の社会福祉協議会等がシニア向けの趣味発見の場を提供していることがあり、自治体によってはこういった体験教室などを開催しているので、参加してみるのも一つの方法でしょう。同じような課題を抱える当事者や家族との交友関係を広げるきっかけにもなるでしょう。

デイサービスなどの介護サービスを利用する

デイサービスを利用すると、日中の運動量・活動量が増え、生活にリズムが出ます。また、デイサービスへの参加で交友関係が広がったり、新たな役割ができたりと本人にとってより良いでしょう。このようにデイサービスを始めとした介護サービスを適切に利用すれば、徘徊をする機会が少なくなり、結果としてご本人のみならず、家族の身体的・精神的負担の軽減につながります。
なお、介護サービスを利用する場合には、お住まいの市町村窓口または、地域包括支援センターへ相談してみると良いでしょう。介護支援専門員(ケアマネジャー)が相談に乗ってくれて、適切な介護サービスの利用へと繋げてくれるはずです。

認知症の徘徊対策グッズ

認知症の徘徊対策グッズ

認知症の徘徊には、予防するためのグッズがあります。これを効果的に使うことで徘徊を防ぐことができます。ここからは、認知症高齢者の徘徊を予防するためのグッズや、徘徊対策に一役買うグッズを紹介します。

徘徊に気づくための対策グッズ

認知症高齢者の徘徊にいち早く気づくためには、次のタイミングで家族が気づくことができるように仕組みがあれば良いです。
・日中、高齢者が玄関に近づいたタイミングで家族が気づく
・夜間、ベッドから離れたタイミングで家族が気づく
具体的な方法としては、玄関に人感センサー(人を感じると自動的にアラームが鳴る)や、ドアが開いた際に音が鳴るドアベルの設置、ベッドには離床センサー(ベッドから離れたら感知して音で知らせてくれる等)を敷いておくなど様々な方法があります。

行方不明になった認知症の方を探すためのグッズ

行方不明になった認知症高齢者を探すためには、次のようなグッズを使ってあらかじめ対策しておくことが有効でしょう。
1. 服や持ち物に名前や連絡先を記しておくこと
2. (目立たない位置に)名札を付ける
3. GPS端末を活用し、位置情報を把握できるようにすること
GPS端末には、高齢者向けのスマートフォンやポケットに入る大きさの機器等、様々な種類があります。

このようなグッズを使う場合、ご本人の自尊心が傷つかないように、本人には分からないように工夫することが大切です。次のような工夫、配慮をすると良いでしょう。
・名札や記名したカードは服の目立たない位置に付ける
・服の内側に名前や連絡先を記す、または記した布を縫い付ける
・バッグのポケット内に連絡先を書いたカードを入れる 等

窓から徘徊してしまう場合の対処法

家の窓

徘徊対策として玄関に人感センサーを設置したり、二重に施錠をしたりすることはよくありますが、意外と盲点になるのが窓です。窓に二重に鍵を取り付けるなどの対策をしていなくて(忘れてしまって)、ご本人が外へ出て行ってしまったということにならないように、窓用の鍵を新たに設置して、施錠しておくと良いでしょう。また、窓用の人感センサー(窓から外へ出る時にアラームで知らせてくれる)もありますので、有効な場合は活用しましょう。

認知症の徘徊が発生した際の対処法

認知症の徘徊が発生した際の対処法

ここからは、実際に認知症高齢者の徘徊が発生した際の対処法を紹介します。「徘徊をしようとしているのを見かけた場合」と「行方不明になってしまった場合」の、それぞれに対処法があるので、整理して説明します。

徘徊をしようとしているのを見かけた際

徘徊しようとしているのを見かけた場合、どのような対処をすれば良いのでしょうか。方法は2つあります。

他のことに気をそらせる

まずは穏やかな表情で落ち着いたトーンで、ご本人に声をかけます。それに対し、認知症高齢者が「家に帰らないといけない」と言った場合には、「お迎えが来るまでお茶を飲んで待ちましょうか」とお茶を飲むように促したり、「外は寒いのでもう一枚上着を着ましょう」と声をかけたりして、他のことに気が向くように仕向けましょう。お茶を飲んだり上着を着たりしている間に「家に帰る」ということ自体を忘れてしまい、結果として徘徊を防ぐことができます。

無理に止めずに歩かせる

明確な理由や目的が無いまま、ご本人が外へ出ていこうとする場合があります。「とにかくここを出たい」という漠然とした不安やストレスから徘徊に結びつく例です。このようなケースでは、無理に止めずに歩かせることも有効な対処法です。一緒になってしばらく外を歩けば、本人はなぜ歩いているのか分からなくなるばかりか、むしろ疲れてしまい、歩くのをやめたいと思うようになります。その後、そっと帰宅できるように促すのが良いでしょう。ただし、ご本人を一人で歩かせてしまうのは事故やケガに遭ったり、迷子になったりしてしまう恐れがあるため、必ず誰かが付き添うようにしましょう。

行方不明になった際

もし万が一、認知症高齢者が徘徊によって行方不明になった場合、私たちはどのように対応すれば良いのでしょうか。考えられる対処法を一つずつ解説します。

その人にとって馴染みのある場所を探す

認知症高齢者が徘徊する際、よく起こるのがご本人にとって馴染みのある場所へ行っているということです。日頃から散歩する公園や自身の生まれ育った場所、馴染みのある親戚の家などが代表例で、こういった場所をあらかじめ把握しておき、いざという時に重点的に探すようにしましょう。

迅速に警察に届け出を出す

認知症高齢者が行方不明になった際には、自力での捜索だけでなく、迅速に警察に届け出ましょう。家族のなかには大きな出来事にしたくないので、警察への通報をためらう人がいますが、これは誤りです。早くに警察に通報することができれば、ご本人の移動範囲も限られ、結果として範囲を絞って捜索することができます。警察に通報して、結果としてご本人が早く見つかった場合は、それはとても良いことです。大事(おおごと)にしたくない一心で、警察へ通報しないということが無いようにして下さい。

地域包括支援センターに連絡をする

地域包括支援センターへの連絡も忘れないようにしましょう。地域包括支援センターとは、高齢者の介護や、生活上の相談にのってくれる機関です。介護支援専門員(ケアマネジャー)や、社会福祉士が常駐しており、高齢者が住み慣れた地域で生活を送ることができるように、日常生活上の相談、介護サービス・介護予防サービスの利用に関して相談することができます。

彼らは専門職として、認知症高齢者の対応に慣れているばかりでなく、人的ネットワーク(介護支援専門員や民生委員との繋がり)を持っているため、これらを活用することができれば、効果的な行方不明者の捜索をすることに繋がります。できる限り早く警察へ通報するとともに、担当する介護支援専門員(ケアマネジャー)や、所轄の地域包括支援センターへの連絡を怠らないようにしましょう。

徘徊を防ぐためにも徘徊対策グッズを活用しよう

杖をついて散歩をする男性と介護士

人による見守りには限界があります。絶えず見守りを続けることは現実的に不可能で、何よりも家族にとっては身体的・精神的な負担が大き過ぎます。よって、人による見守りと同時に、徘徊対策用のグッズを活用することが効果的です。この記事で紹介した人感センサーの設置や、GPS機器の導入、窓用の鍵の取り付けなど、費用は多少かかるものの、手軽にできることはたくさんあります。様々なグッズを活用することで徘徊を未然に防ぐことができるだけでなく、見守る家族の負担軽減につながりますので、ぜひ導入を検討てみて下さい。

増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。