近年高齢化が進み、家族の介護は多くの人が直面する出来事になっています。足のむくみは高齢者に生じやすい症状の一つですが、足のむくみがあると歩行などの日常生活に支障をきたします。その結果として、身体の活動が低下して介護度も大きくなることから、足のむくみにきちんと対処することが重要です。本記事では、足がむくむ原因やその対処法について説明していきますので、現在家族の介護をしている方、または将来家族の介護が必要になりそうな方は、本記事をお読みいただければと思います。
高齢者のむくみとは

高齢者の足のむくみは別名「浮腫」と呼ばれます。足のむくみは、基本的に下肢の血液やリンパの流れが悪くなることで生じます。高齢になるにつれ、心肺機能や足の筋力が低下することから、下肢の血液が滞りやすくなり、むくみが起きやすくなるのです。また、高齢者は一般的に身体を動かす機会が少なくなるため、足を動かす機会も減ることでもむくみが起きやすくなります。
高齢者のむくみの原因

高齢者は心肺機能や足の筋力の低下で下肢の血液が滞りやすくなり、結果としてむくみが起きやすくなる点を述べましたが、むくみの原因については具体的にどのようなものがあるのでしょうか。ここでは病気によるもの、薬によるもの、生活習慣によるものに分類して具体的に説明していきます。
病気によるもの
病気によりむくみが出るメカニズムとしては、心不全や腎不全で体の水分量が増える、ネフローゼ症候群で血中の蛋白(アルブミン)が低下して血液中の水分が血管外に出やすくなる、足の静脈が血栓で詰まり(深部静脈血栓症)、血液の流れが悪くなるなどがあります。
心不全や腎不全が起きると腎臓から十分に尿を出せなくなり、身体の水分量が増えるため、むくみ以外にも様々な症状が出現します。胸に水(胸水)が貯まって息苦しくなったり、体重が増えたり、倦怠感が出現したりします。ネフローゼ症候群では尿中の蛋白質が増え、尿の泡立ちが目立つことが特徴です。深部静脈血栓症では、むくみ以外に足の痛みや皮膚の色調変化が出現します。両足にむくみが出る病気、片足にむくみが出る病気としては、それぞれ以下のような病気があります。
両足にむくみが出る病気:心不全、腎不全、甲状腺機能低下症
片足にむくみが出る病気:深部静脈血栓症、リンパ浮腫、外傷
薬によるもの
また、薬の副作用で足のむくみが生じることがあります。代表的なものとしてはロキソニンなどのNSAIDs系の痛み止め、カルシウム拮抗薬やACE阻害薬といった血圧を下げる薬(降圧剤)、抗生剤、抗がん剤などです。浮腫が起きるメカニズムは薬によって様々ですが、腎血流低下により尿量が減る、毛細血管圧が上昇して血流が悪くなるなどがあります。
生活習慣によるもの
病気や薬以外に、生活習慣が原因で足のむくみが生じることもあります。下肢の血液が滞るとむくみが生じやすくなりますが、生活習慣により下肢の血液の流れが悪くなることがあります。具体的には、長時間同じ姿勢でいる、塩分の多い食生活になっている、運動習慣が乏しく加齢に伴う筋力低下が起きやすい、体が冷えやすくなる習慣がある、などが挙げられます。それぞれについて、具体的に説明していきます。
長時間同じ姿勢でいる
長時間同じ姿勢でいると、足を動かさなくなるため下肢の血液の流れが悪くなり、足がむくみやすくなります。長時間座り続けている、あるいは長時間立ち続けているとむくみが起きやすいです。
長時間座り続けていると、足を動かさないだけではなく、お尻やふとももが圧迫されます。圧迫されることでお尻や太ももの血液の流れが悪くなり、結果として下肢の血液が心臓の方へ戻りづらくなり、下肢の血流が滞って足のむくみが生じるようになるのです。
また、長時間立ち続けていると、ふくらはぎの筋肉が動かなくなることで静脈の収縮が妨げられ、下肢の血流が悪くなります。
塩分の多い食生活
塩分の多い食生活は足のむくみを引き起こします。塩分は水分を身体にため込む性質があり、塩分の多い食生活を送ることで体の血液量も増えます。詳しく説明すると、体内の塩分濃度は0.9%に保たれており、摂取した塩分量が多いと、塩分濃度を一定にする作用が働いて血液中の水分量も増えてしまうのです。血液量が増えると、下肢の血流が悪くなった際に、下肢にうっ滞する血液量も増え、結果としてむくみが生じやすくなるのです。
加齢による筋力や循環機能、排泄機能の低下
加齢による筋力や循環機能、排泄機能の低下も足のむくみの原因となります。足の筋肉は下肢にたまった血液を心臓に戻す役割を担っていますが、筋力が低下することでこの作用が弱まり、下肢の血液がうっ滞しやすくなります。循環機能が低下することも、血液の流れが悪くなることにつながり、むくみを引き起こす原因となります。また、加齢に伴い腎機能が低下し、排泄機能も低下することで水分を尿として排出しづらくなり、むくみが生じやすくなります。
体の冷え
体の冷えもむくみにつながります。体が冷えると筋肉が硬直し、下肢にたまった血液を心臓に戻す作用が弱くなり、むくみが起きやすくなります。また、冷え自体が血管を収縮させ、血流不良を引き起こします。夏の冷房や冬の寒さにより、体が冷えないよう注意した方が良いでしょう。
高齢者のむくみの危険性

高齢者のむくみを放置していると、慢性下肢浮腫になる危険性があります。慢性下肢浮腫とは、病気によって生じる足のむくみではなく、高齢者によくみられる生活習慣(長時間同じ姿勢でいる、塩分の多い食生活など)によって生じる足のむくみのことを指します。
慢性下肢浮腫が起きると足のだるさや痛みなどが生じ、生活の質が低下するため、予防や対策が重要です。慢性下肢浮腫にならないよう、ウォーキングなど足を動かす運動を積極的に行ったり、長時間同じ姿勢をとるのを避けたりした方が良いでしょう。
高齢者のむくみの予防と解消方法

高齢者のむくみの予防と解消方法について説明していきます。予防および解消方法としては、①水分が正しく循環するように血行改善を図る②塩分や水分の摂りすぎに気を付ける③着圧ソックスを積極的に活用する④足を高い位置に挙げるなどが挙げられます。それぞれについて、具体的に説明していきます。
水分が正しく循環するよう血行改善
足の筋肉や関節が硬くなり体内の水分や血液の流れが滞るとむくみが現れやすくなります。したがって、むくみの改善・予防のためには足の筋肉や関節を柔らかい状態に保つことが重要です。以下で、筋肉や関節を柔らかい状態に保つためにご自身で手軽に行える足の運動とマッサージを紹介します。
運動
ふくらはぎの筋肉をしっかり動かす
足の血流に最も強く関わる筋肉はふくらはぎの筋肉です。立った状態でどこかに掴まりながら行う背伸びの運動はふくらはぎの筋肉をしっかりと伸び縮みさせてくれるため、むくみの改善・予防に効果的。10回×1~3セット程度を目安にやってみましょう。
足首の関節をしっかり動かす
むくみが現れると足首がごわついて動かしにくくなることが多いので、ついつい足首を動かすことが少なくなりがちです。しかし足首が硬くなると前述したふくらはぎの筋肉も硬くなりやすくなるので、積極的に動かすようにしましょう。つまさきを上げたり下げたりする動きも大切ですが、足首を大きく回す動きも取り入れると足首周りの筋肉や関節をしっかりと動かすことが出来ます。つま先を上げたり下げたりする運動を10~30回程度、足首を回す運動を右回し左回し各10回程度やってみましょう。
足の指をしっかり動かす
意外と盲点になりやすいのが足指の運動です。むくみは足の甲にも強く出るケースが少なくありませんが、こういったむくみは足首を意識して動かすだけでは中々良くならない場合も多くあります。足指の曲げ伸ばしは、足の甲のむくみを減らすのに効果的ですのでぜひ取り入れてみましょう。足の指でぐーぱーを10回×1~3セット程度行うだけでも効果が期待できます。
マッサージ
足の指をほぐす
むくみ改善・予防のマッサージは心臓から遠い部分から心臓に向かって行うのが効果的とされています。まずは足の指を曲げたり伸ばしたり、痛みのない範囲で揉んだり捻じったりして筋肉や関節をほぐしましょう。
足の甲をほぐす
足の指が少し軽くなったら次は足の甲を中心にマッサージしましょう。つま先側から足首側にむくみを押し流すようなイメージで優しくほぐしていきます。
ふくらはぎやスネ周りをほぐす
足首から膝の方に向かってマッサージしていきます。むくみが強いとすねのあたりは押すと痛みがあるかもしれません。その場合は痛みを感じない程度の力で行いましょう。むくみが引いてくると痛みも少なくなっていきます。
塩分や水分の摂りすぎに気を付ける
塩分や水分の摂りすぎに注意することも大切です。塩分の多い食生活の項でも述べましたが、塩分は水分を身体にため込む性質があります。塩分や水分を摂りすぎると身体の血液量が増え、下肢の血液がうっ滞した際にむくみが生じやすくなります。味付けの濃い食事が好きな方は、醤油やソースなどのかけすぎに注意した方が良いでしょう。
むくみを解消するためには、カリウムやビタミンE、蛋白質などを積極的に摂取することをおすすめします。カリウムには身体の中にある余分な水分排泄を促す作用があります。また、ビタミンEは血流や新陳代謝を改善する働きがあります。蛋白質が不足して血中のアルブミンが低下するとむくみが出やすくなるため、蛋白質の摂取も心がけた方が良いでしょう。カリウムやビタミンE、蛋白質を多く含む食材としては、以下のようなものがあります。
カリウム:じゃがいも、ほうれん草、白菜、大豆、グレープフルーツ、りんご、バナナ
ビタミンE:アーモンド、落花生、カボチャ、アボカド、たらこ、植物油
蛋白質:豚肉、鶏肉、卵、大豆、魚
着圧ソックス
着圧ソックスもむくみの予防と解消に効果的です。着圧ソックスとは、足首やふくらはぎなどを適度に加圧してくれる靴下のことです。着圧ソックスによりふくらはぎが加圧されることで、血流が良くなりむくみも起きにくくなります。また、保温効果も高いことから冷えの防止効果もあります。
着圧ソックスを履く時間帯は、日中がおすすめです。日中は立ったり歩いたりする時間が多く、足が心臓よりも下の位置にある時間が多いため、どうしても下肢の血液が滞りやすくなります。その時間帯に着圧ソックスを履くことで、足のむくみが予防できます。一日中履いていると皮膚のトラブルを招いてしまうこともありますので、日中に履くのが良いでしょう。
足を高い位置に上げる
足を高い位置に上げることもむくみの予防と解消につながります。着圧ソックスの項でも述べましたが、足が心臓よりも下の位置にある時間が多くなると、下肢の血液が滞りやすくなります。足を高い位置に上げることで、下肢の血液が心臓に戻りやすくなり、血流が改善してむくみが起きにくくなります。
足を高い位置に上げる動作の一例として、ふとんの下に台を置き、その台に足をのせ、足を心臓より高い位置に保つ方法があります。足を心臓よりも高い位置に保つことが大切です。
足のむくみは何科に受診すればよい?
むくみの原因は様々であるため、かかりつけ医があるのであればまずかかりつけ医で相談してみましょう。採血からある程度の原因を予測できるため、かかりつけ医の指示の元でその後受診する科を決めるのが最も確実な方法です。
もしかかりつけ医がないという場合であれば、内科を選びましょう。また、初診で受診する際はむくみ以外の気になる症状の有無(足に力が入りにくい、歩くと足がだるくなる、食欲がない、など)についても聞かれます。むくみの原因を予測するための重要な情報になりますので、他にも思い当たる症状がある場合はしっかりと説明できるよう、メモ等に記しておきましょう。
足のむくみが改善しない場合は、病院へ受診しよう

上記で述べた生活習慣の改善①水分が正しく循環するように血行改善を図る②塩分や水分の摂りすぎに気を付ける③着圧ソックスを積極的に活用する④足を高い位置に挙げるなどを心がけてもむくみが改善しない場合、心不全や腎不全など、何らかの病気を背景にむくみが生じている可能性があります。そのため、その場合は内科を受診された方が良いでしょう。なかなか改善しないむくみには、重篤な疾患が隠れている可能性がありますので、自己判断で放置せず、早めに病院で精密検査を受けた方が良いです。
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看護師資格修得後、病棟勤務・透析クリニック・精神科で『患者さん一人ひとりに寄り添う看護』の実践を心掛けてきた。また看護師長の経験を活かし現在はナーススーパーバイザーとして看護師からの相談や調整などの看護管理に取り組んでいる。


