食事介助と言うと、施設で介護士が利用者さんに食べさせてあげる場面をイメージするかもしれません。でも高齢者の食事介助はもっと身近なところから始める必要があります。自宅で暮らす高齢者が要介護状態になるのを防ぐため、身近な家族ができる食事介助とはどんなことなのでしょうか。今回は、食事介助の環境作りについて説明していきます。
目次
食事介助で大切なこと
高齢になると、飲み込む力や噛む力が弱くなるなど、食べるための機能が低下してきます。自宅での食事介助で最も大切なのは「本人が自分で口から食べられる」方法を考えるという視点です。少しでも長く住み慣れた自宅で暮らすために、本人の力で食べてもらう工夫をしましょう。
・フレンチトーストやおにぎりを小分けにして冷凍しておく
・肉団子やつみれなど食べやすく調理する
・茶わん蒸しやゼリーなど、食欲がなくても食べやすいものをこまめに出す
・果物はコンポートにして冷凍し間食として栄養補給できるようにする
なども食事介助の一環と考えていいでしょう。
また家族と会話をしながら食事をするといった、楽しく食べられる環境作りも大切です。他には季節の食材を使う、ひな祭りやお月見など、昔ながらの行事に合わせた食事や思い出のメニューなどは身体だけでなく心の栄養にもなります。
食事の姿勢で気を付けること
高齢者が飲み込みやすく、むせにいくい姿勢をとる必要があります。イスに座って食事をとる場合、骨盤を垂直にしっかり立て、座面に深く腰掛けましょう。床にしっかり足の裏が着いていることや、膝が90度くらいに曲がっているか確認します。適切なテーブルの高さは、テーブル上に手を出したとき、ヒジが90度に曲がる状態です。高齢になると背中が丸くなり、これまでのテーブルが高すぎていることもあります。テーブルの高さを変えられない時は、椅子の座面を高くして、足裏が着くように足台を置くなどして調整しましょう。姿勢を保つのが難しい時はクッションを背中に入れたり、ひじ掛けのある椅子にしてみたりするといいでしょう。
食べやすい食形態にする
年を重ねて若い時のように色々なものを食べられなくなると、食べる楽しみや意欲がなくなってしまうものです。食事量が減るにつれ必要な栄養素が摂れなくなるので、要介護状態に近づいていってしまいます。それを防ぐためにも健康な状態を維持するには状態に合わせた食形態にし、まずは「自分で食べられる(苦痛や疲れがなく噛んで飲み込める)」と感じてもらう必要があります。
介護食を選ぶときの目安
では、介護食を選ぶときの目安はどういったものでしょうか。介護施設で提供している食事は、一口大、刻み食、ソフト食、ミキサー食、とろみ食などがあり、上体に合わせて管理栄養士や介護士が見立てたものを提供しています。ただし、一般の人が高齢者の状態に合わせた介護食と選ぶのはなかなか難しいものです。そこで目安として
・かかりつけの医師に相談する
・「ユニバーサルデザインフード(UDF)」や「スマイルケア食」のフローチャートを参考にする
など、専門的な判断材料を用いるのも手です。そして、健康状態が変わる都度見直していくことも大切になってきます。
原因に合わせた対応方法
食べる行為には「咀嚼」「食塊形成」「嚥下反射」という3つの段階があります。
咀嚼とは口の中に取り込んだ食べ物をかみ砕くこと。その後、咀嚼でできた食物の塊は集められ舌の奥に移動します(食塊形成)。嚥下反射は、食塊が咽頭に移動すると同時に舌根の部分が動いて無意識で通路を作ることです。それぞれの段階で問題があったときの対応方法を見ていきましょう。
咀嚼
まずは咀嚼に問題がある場合について解説します。咀嚼は、自分で意識して行うことができるものですが集中力が散漫になっているとつい噛む回数が減ってしまいます。テレビを消すなどして、食事に集中できる環境を作る必要があります。ときどきよく噛むような声掛けをしてあげましょう。また、舌や顎、頬を動かす筋肉の低価により食べ物を処理できなくなることもあります。日ごろからガムなどを噛んで、筋肉を鍛える習慣を採り入れるといいでしょう。
食塊形成
次に飲み込み(嚥下)のスタートである食塊形成に問題がある場合について説明します。処理された食べ物は、口腔内にバラバラに散らばった状態になるため、まずはこれを飲み込むために舌の上で塊にすることが必要となります。本来であれば、舌が前方から盛り上がり食塊を口腔の後方へと送っていきますが、高齢者は舌の力が衰えてくるので食塊形成が不十分になりがちです。それを予防する意味でも、食事前に舌の運動をする、またはあんかけの料理を活用するなどが有効になってきます。
嚥下反射
嚥下反射に問題があった場合について説明していきます。嚥下反射に支障をきたすと、飲み込む力が弱くなり、むせたり飲み込みにくかったりするため疲れてしまいます。あるいは唇を閉じる力が弱くなり口から食べ物やよだれが出やすい場合も。また食事中や食後に話をすると、飲み込み切れなかった食物がのどに残っているため痰が絡んだような声になったりすることもあります。さらに、食物が誤って気道に入って肺が炎症を起こす誤嚥性肺炎につながる恐れもあるため気を付けなければなりません。嚥下反射に問題が見られるときは嚥下に関わる首や肩、口腔器官の運動を行い、飲み込みやすくするようにしましょう。食事の前に氷を一粒なめてもらい嚥下反射がしやすい状態になってから食事をしてもらうのもよい方法です。献立では、シチューやカレー、煮凝り、ゼリー寄せ、ムースなどを取り入れていきましょう。また口腔内に残った食物が細菌の温床となり、誤嚥性肺炎にならないよう、口腔ケアが重要です。
食べてもらう前に、生きる意欲を持たせること
高齢になって生きる意欲を失い食事量が減る場合は、どのような毎日を送っているかに目を向けましょう。一日中家に引きこもっていては、食欲はわきません。適度な運動や人との交流といった活動をすることで、自然な食欲が維持されるのです。しかし日中の活動を増やすといっても、目的がなければ長続きしません。親しい仲間と会う、可愛い孫と散歩をするといった「人とのつながり」が気持ちに潤いを与え、活動する目的になります。以上のように、自宅で生活する高齢者への食事介助は家族でも十分可能です。メニュー選びから姿勢、口腔機能の訓練まで様々な角度から行うことが大切になってきます。身近なところから始めていきましょう。
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多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。