親の介護費用で悩まれている方が多いでしょう。親の介護が必要になって、初めて介護費用の額の大きさに驚かれる方もいるようです。事前に介護費用や軽減制度などを把握できたら、親の介護が必要になったときも慌てずに対応できるかもしれません。この記事では、介護費用の平均額や軽減制度、準備方法などについて紹介します。親の介護に慌てずに対応するためにも、当記事を最後までご覧ください。
目次
親の介護にかかる費用
親を介護するようになると多くの介護費用が必要です。2021年度の生命保険文化センターの調査では、親の介護費用の平均額は以下のとおりでした。
・介護が必要になったときの一時的費用: 74万円(住宅改修・介護用品などの費用)
・月額費用:8.3万円(介護保険サービスの自己負担分・おむつ代など)
また、介護期間の平均は61.1か月でした。これらのデータから親の介護費用の総額を算出した結果がとおりです。
・74万円(一時的費用)+8.3万円×61.1か月=581.13万円
なお、一時的費用と月額費用は、要介護度が上がるにつれて増えていく傾向があります。
参考:生命保険文化センター 2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査
在宅介護の平均費用
介護には在宅介護と施設介護の2つがあります。在宅で介護をした場合に毎月かかる介護費用の平均額は4.8万円でした。在宅の介護費用としては以下の費用があります。
・介護保険サービス自己負担分:訪問介護・通所介護・ショートステイなど
・福祉用具レンタル代:車椅子・介護ベッド(介護保険制度でレンタル可能。自己負担割合は1~3割。購入も可能)
・介護食:食べやすく調理された介護食が必要になる場合もある
・その他:紙おむつ・紙おむつ用袋など
介護施設の平均費用
介護施設の介護費用は、在宅介護よりも多くかかります。介護施設で毎月かかる介護費用の平均額は12.2万円でした。介護施設の介護費用としては以下の費用があります。
・賃料:住み続けるために必要
・管理費:介護施設を維持・管理のためには必要
・食費:1日3食分
・水道光熱費:介護施設で使用した水道代・電気代・ガス代
・その他:医療費・日用品費・医療費・娯楽費など
また、特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの公的施設よりも、有料老人ホームやサービス高齢者向け住宅などの民間施設のほうが、介護費用は高くなる傾向があります。
親の介護費用は誰が支払う?
親の介護費用は、介護をされる親本人に支払ってもらいましょう。なぜなら、子が支払うと兄弟姉妹の間でトラブルの原因になるからです。
例えば、在宅で毎月かかる介護費用は5万円弱ですが、2年間続くと100万円以上の支出です。後になってから兄弟姉妹に請求しても、高額なお金の請求に難色を示すでしょう。
親の介護費用の支払いは親本人が支払うことを基本としてください。もし介護費用が足りないようなら、民法上で扶養義務がある子である兄弟姉妹が支払うようにしましょう。
親の介護費用が足りない時に抑えておくべき制度
様々な軽減制度の利用によって親の介護費用の不足に対応できます。軽減制度は目的に応じて以下のような分類が可能です。
・税金など
・介護費用
・医療費用
ここでは、目的に応じた軽減制度について一つひとつ解説しています。
税金などを軽減するための制度
我々は課税所得に応じて1年間に多くの税金を支払っていますが、所得控除の利用によって支払っている税金を軽減できます。また、税金の算定のもとになる世帯を分ける世帯分離も税金の軽減には有効です。
所得控除
所得控除とは、1年間の所得から費用を差し引くことで、税金や国民健康保険料の算出のもとなる課税所得を算出する仕組みです。所得控除によって課税所得を少なくすることで、所得税や住民税、国民健康保険料などが少なくなり、結果的に手元に残るお金が増加します。所得控除には複数の控除があり、後ほど解説する障害者控除や医療費控除のほかに、以下のような控除があります。
・基礎控除
・扶養控除
・地震保険料控除
・生命保険料控除
・住宅ローン控除
会社勤務の方は年末に行われる年末調整で対応できる控除もありますが、世帯主自身が確定申告をして初めてできる控除もあるため、所得控除についてしっかり理解しましょう。
障害者控除
障害者控除とは、所得控除の一つで、自分を含め家族に障害者がいる場合に適用される控除です。障害者控除の区分や該当者、控除額は以下のとおりです。
区分 | 該当者 | 控除額 |
障害者 | 障害者手帳交付者 (特別障害者を除く) |
27万円 |
特別障害者 | 障害者のうち比較的重度な方 | 40万円 |
同居特別障害者 | 同居している特別障害者 | 75万円 |
障害者は高齢者とは関係ないように思われるかもしれませんが、車椅子を利用している方は身体障害者手帳が、認知症の方は精神障害者保健福祉手帳が交付される場合があります。障害者手帳が交付されると障害者控除が利用できるため、気になる方は主治医や自治体の障害者福祉関連の部署に問いあわせてください。
医療費控除
医療費控除とは、所得控除の一つで、自分や自分と同じ生計の家族の医療費が一定額以上のときに適用される控除です。医療費控除の金額は以下の計算式で計算できます。
・医療費控除額=医療費合計額-(補填された金額※1)-10万円※2
※1保険金・高額療養費・出産育児一時金など
※2その年の課税所得が200万円未満の方は、課税所得の5%の金額
医療費控除の医療費の対象となるのは、医療機関や薬局の窓口で支払った費用だけではなく、以下の費用も対象です。
・医療系の介護保険サービス:通所リハビリ・訪問看護などの
・通院にかかる交通費:電車賃・タクシー代など
電車賃は領収書が出ないため、しっかり記録しておきましょう。
世帯分離
世帯分離とは、同じ住所同じ家に住む世帯(家族)を二つに分けて、独立した世帯にすることです。例えば、世帯主(夫)・妻・息子・世帯主の父という4人家族がいたとします。全員が同じ住所同じ家に住んだまま、世帯主の父だけを切り離し家計を分けて、別の世帯にすることが世帯分離なのです。
世帯分離をすると住民税や介護費用などが軽減できるメリットがありますが、国民健康保険料の発生や会社の健康保険料が使えなくなるデメリットもあるため注意してください。世帯分離をするかしないかのラインとしては、65歳以上の方が1人の場合では、所得が280万円あるかどうかといえます。例えば、所得が280万円未満だと介護保険サービスの利用者負担割合が1割、280万円以上だと2割になります。
関連記事:「世帯分離とは?メリットデメリット、手続きを介護の専門家が解説」
介護費用を軽減するための制度
多くの介護費用がかかった場合に、制度を利用することで介護費用を軽減できます。ここでは、介護費用を軽減できる高額介護サービス費と特定入所者介護サービス費について解説します。
高額介護サービス費
高額介護サービス費とは、1か月間の介護費用が大きい場合に、その一部が戻ってくる制度です。高額介護サービス費は、1か月間の介護費用の限度額を定めています。もし、1か月間の介護費用が限度額を超えた場合に、その超えた分が戻ってくるのです。限度額は世帯や個人の課税所得によって異なります。なお、高額介護サービス費の支給の対象となる方は、お住いの市区町村からお知らせが来ます。
特定入所者介護サービス費
特定入所者介護サービス費とは、介護保険施設やショートステイを利用した場合に、その居住費と食費の一部が戻ってくる制度です。特定入所者介護サービス費は、1か月間の居住費と食費の限度額を定めています。もし、1か月間の居住費と食費が限度額を超えた場合に、その超えた分が戻ってくるのです。対象となる方は住民税が非課税の方で、限度額は保有している資産額によって異なります。なお、特定入所者介護サービス費の制度を利用したい方は、お住いの市区町村への申請が必要です。
医療費用を軽減するための制度
多くの医療費用がかかった場合に、制度を利用することで医療費用を軽減できます。ここでは、医療費用を軽減できる高額療養費制度と高額医療・高額介護合算療養費制度について解説します。
高額療養費制度
高額療養費制度とは、1か月間の医療機関や薬局の窓口に支払った費用が大きい場合に、その一部が戻ってくる制度です。高額療養費制度では、1か月間の療養費(窓口で支払った自己負担分)の限度額を定めています。もし、1か月間の療養費が限度額を超えた場合に、その超えた分が戻ってくるのです。限度額は公的医療保険の加入者が70歳以上かどうかや、世帯の課税所得によって異なります。なお、高額療養費制度を利用したい方は、加入している公的医療保険への申請が必要ですが、申請の案内や自動的に高額療養費を口座に振り込んでくれる公的医療保険もあります。
高額医療・高額介護合算療養費制度
高額医療・高額介護合算療養費制度とは、1年間の医療保険と介護保険の自己負担分が大きい場合に、その一部が戻ってくる制度です。高額医療・高額介護合算療養費制度では、1年間の両保険の自己負担分合算額の限度額を定めています。もし、1年間の両保険の自己負担分合算額が限度額を超えた場合に、その超えた分が戻ってくるのです。限度額は70歳以上かどうかや、世帯の課税所得によって異なります。
親の介護費用に贈与税はかからない
親の介護費用を子が支払うと、贈与税に該当するのではと心配する方がいるかもしれません。しかし、親の介護費用を子が支払っても贈与税には該当しません。
そもそも、贈与税とは個人から財産をもらったときに課税の対象になる税金です。しかし、「通常の生活に必要」である介護費用を子が親の代わりに支払うことは、贈与税には該当しません。
例えば、親が介護施設に入居するための入居一時金を、子が代わりに一括で支払った場合も、贈与税には該当しないのです。ただ、高級有料老人ホームへ入居するための億単位の入居一時金を支払うような場合は、「通常の生活に必要」とは認められず、贈与税の対象となるため注意が必要です。
親の介護費用に備えてやるべきこと
介護費用の軽減制度について解説してきました。しかし、実際には多くの介護費用を支払う必要があるため、事前に親の介護費用に対して備えが必要です。親の介護費用への備えとしては、以下のようなものがあります。
・親の資産の把握:介護費用を支払うため
・保険の見直し(子):子が亡くなったとき保険金で介護費用に対応する
・保険の加入(親):民間介護保険・介護年金保険・認知症保険で介護費用に対応する
・携帯電話契約の見直し:割引制度の利用・激安スマホへの転換
・固定電話の解約:携帯電話だけで対応できるなら検討する
資産把握や保険利用だけではなく、電話料金といった支出の見直しも含めて、将来発生する介護費用への備えをしていきましょう。
親の介護をしない兄弟姉妹に介護費用を請求したい
親の介護費用は、兄弟姉妹全員が支払う義務があります。なぜなら、民法で三親等内の親族である子は互いに扶養する義務があるからです。
例えば、自分一人が親の介護をして、介護にかかわっていない他の兄弟姉妹に対して介護費用を請求できます。お金が関係する話はしにくいものですが、親の介護問題の現状を兄弟姉妹に冷静に認識してもらい、介護費用を分担してもらいましょう。
親の介護でお困りの方は介護の広場へ相談しよう
親の介護費用は思ったよりも多くの費用がかかります。この記事で紹介した軽減制度をうまく利用して、介護費用の問題に対応してください。
ただ、実際の介護は予期しないことが次々とおこり、悩むことも多いかもしれません。そのような悩みを「介護の広場」で相談し、同じように介護の体験をしている方々からアドバイスをしてもらいましょう。
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多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。