2022.10.17

在宅介護の限界点とは?見極め方をわかりやすく解説

最終更新日:2023.04.11
増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

在宅介護をする中で、「いつまで在宅介護を続けよう」「最近、在宅介護の限界を感じてきた」とお悩みの方もいると思います。一般的に多いケースとしては、在宅介護ではヘルパーやデイサービス等の介護保険サービスを利用し、在宅介護の限界を感じたら施設や病院に入り、最期を迎えられます。しかし、在宅介護の限界とは具体的にどのような状況なのでしょうか。

在宅介護の限界と感じる時は、大きく分けて、医療的な問題・家族の問題・要介護者本人の問題の3つがあります。こちらの記事では、在宅介護の限界を感じる3つの問題についてわかりやすく解説いたします。正しい見極め方を知り、必要に応じて介護施設への入所を検討しましょう。

在宅介護の限界を感じる時とは

在宅介護の限界を感じるときは

在宅介護はあくまでも自宅で過ごせるような方を自宅で介護することです。つまり自宅で見ることが出来ない方は介護をすることが出来ません。在宅介護の限界を感じる時は、医療的な問題、家族の問題、要介護者本人の問題の大きく分けて3つあります。それぞれの問題にはどのような理由や原因、解決策があるのでしょうか。

医療的な問題

医療的な問題

医療と在宅介護は深くかかわっており、病院での医療がどうしても必要な場合は自宅でみることができません。医療と在宅介護、どのようなポイントがあるのでしょうか?

病院での医療的な援助が必要な場合

病院での医療的な支援が必要な場合とはいったいどのようなものがあるのでしょうか。

例えば、人工呼吸器を装着している場合は、基本的に自宅でみることが出来ません。医療器具も必要で、機器の定期的なメンテナンスなどもあります。また、人工呼吸器に伴う中心静脈栄養や胃ろうなどの栄養管理、痰吸引なども必要になります。胃ろうや痰吸引だけであれば自宅でも問題なくみることができますが、やはり人工呼吸器をつけている場合は、胃ろうや痰吸引もリスクがありますので、医療関係者が対応する必要があります。

さらに注意したいこととしては、治療が必要な場合です。家族や本人がどうしても自宅で過ごしたいと思っている場合によく起こることなのですが、治療が必要であるにも関わらず自宅で過ごすことを目的にしているために、入院や施設に入ること=悪いことだという認識で、病院には行かず自宅で過ごすことを選択してしまうケースです。治療が必要な場合は、やはり病院などの医療的な環境が整っている所の方が望ましいと言えるのです。無理せずに自宅から離れて治療をする方が望ましいといえます。

自宅で医療的な援助が受けられる場合

昔は少しの医療が必要な場合でも入院することが望ましいとされていましたが、現在ではそのような考え方ではありません。簡単に操作できる医療機器があり、自宅にいながらでも医療を受けることが出来やすい世の中になっているのです。

例えば、看護師が訪問する訪問看護を受けることができ、場合によっては医師の往診を受けることもできます。居宅療養管理指導という介護保険のサービスがあるので、薬も薬局から持ってきてもらうことができ、歯科の往診や栄養士による栄養指導も受けることが出来ます。医療が必要なら即座に入院という訳ではないので、そのあたりの見極めが大切になってきます。

家族の問題

家族の問題

在宅介護を行う上で必要なのは、家族の支援と介護保険サービスの支援です。もちろん家族の支援も受けられない方もいますが、その場合は介護保険サービスの支援だけを受けることになります。

家族がいる場合

家族がいて、介護を受けられる場合は、認知症になったとしても在宅介護を続けていくことが出来るでしょう。

家族介護のポイントとしては、家族の生活が成り立つうえで、介護を続けていけるかどうかということです。例えば、家族が仕事をしており仕事をしないと生活が成り立たない状況や、家族が在宅介護を続けていく中で強いストレスを抱えてしまっている状況では、デイサービスやショートステイ等の施設型の介護保険サービスを受けることによって在宅介護を続けることが出来ます。

家族がいないといるとでは、在宅介護の限界点は大きく変わっていきますので、そのあたりもポイントとして押さえておきましょう。家族が強いストレスを抱えてしまっている状態は2つあります。

① 閉鎖的になることが多い

介護者と要介護者が同じ家で過ごすことで、外部との交流が少なくなり、介護者は精神的に追い込まれてしまいます。主たる介護者が1人で抱え、同居するほかの家族からも孤立してしまう場合があります。さらに、家族が慢性的な疲れから、病気になってしまうことや、介護鬱などにより介護への意欲が急速に落ちてしまうことがあります。介護の意欲が減退し、ストレスから要介護者に向かう心配も出てくるので、注意しましょう。

② 仕事中にも連絡が来る

家族の生活のために、仕事をしながら在宅介護をしている方もいると思います。仕事中にもかかわらず、要介護者や要介護者が通っている病院の主治医から連絡が入り、やむを得ず電話に出なければならない場合があります。そのたびに、話を聞いたり、職場から自宅へ戻ったりと、職場に迷惑をかけてしまい、強いストレスを抱えるようになってしまう場合があります。

家族がいない場合

家族がいない、家族から介護を受けることが難しいという方は増加してきています。特に独居で暮らしている高齢者の場合は、それが当てはまるでしょう。こういった方の場合は、介護保険サービスだけを受けて過ごすことになります。介護保険サービスは、訪問介護やデイサービス、訪問看護など様々な種類のサービスがあります。

介護保険サービスの唯一の弱点としては、継続して長時間サービスを受けられないということです。例えば、訪問介護の場合は長くても1時間ほどのサービスしか受けることが出来ません。デイサービスは8時間ほどのサービスが受けられ、ショートステイは1週間ほど介護のサービスを受けることが出来ますが、基本的には24時間365日のサービスを受け続けることが出来ないのです。つまり、24時間365日介護を受ける必要がある方(認知症で問題行動があり、常に見守りが必要な方等)は難しいでしょう。

要介護者本人の問題

要介護者本人の問題

要介護者が住み慣れた家での生活を希望している場合でも、様々な問題により、自宅での生活が困難な場合があります。日常生活や住まい、外出時で危険と判断されるサインについて是非チェックしてみてください。

日常生活の危険サイン

食事や入浴、排せつや着替えなど、日常生活に必要なことを親は自分自身で行えていますか。

高齢になると温度に無頓着になり、冬に冷房と暖房を間違えて入れてしまっても気づかない場合があります。また、食べ終わった食器も洗わずそのままにしたり、洗濯物をためてしまったりと、不衛生にしている場合は注意が必要です。特に料理をしていて、火を消し忘れてしまうなど火の始末は命にもかかわります。

親の様子が明らかにおかしくなってきた場合には、自宅での生活が困難であるかもう一度判断し直したほうが良いです。

住まいでの危険サイン

高齢になると身体機能が低下し、転倒リスクが高まります。手すりがついていても、玄関や階段の昇降が難しくなる場合があります。転倒をきっかけに入院すると、退院後、自宅に住み続けることが出来ないリスクがあります。自宅に危険な段差はないか確認してみましょう。

外出時の危険サイン

通いなれた道であれば帰れるが、横道に入ったとたんに戻れなくなり、道に迷うことが多くなってきたら注意が必要です。帰り方がわからずに、かなり遠くまで歩いて行ってしまう可能性があります。警察から保護の連絡が来てしまった場合には、その時点で在宅介護は難しいと考えたほうが良いかもしれません。

在宅介護を続けるための対処法

在宅介護をする家族

在宅介護が大変になってきたと感じた場合、自宅での生活を続けるためにはどうしたらいいのでしょうか?次の2種類の方法を試してみましょう。

・介護保険サービスを見直す
・1人で悩まず、家族やケアマネジャーに相談する

現在困っていることの解決方法が分かれば、これからも在宅介護を続けていく自信につながるでしょう。

介護保険サービスを見直す

対処法の1つ目は、現在利用している介護保険サービスを見直すことです。「介護が大変になってきた」と感じるようになったときは本人の状態が変化し、現在のサービス内容や量では対応しきれていない状況になっていると考えられるからです。

例えば、介護者が休息する時間を設けるためにデイサービスの回数を増やすことが考えられます。夜間の介護が大変なのであれば、一時的に施設に入所して介護を受けるショートステイの利用もよいでしょう。認知症によって徘徊の心配があって目が離せないというのであれば、家から出ようとしたときに家族へ知らせる「認知症老人徘徊感知器」を介護保険でレンタルする方法もあります。

1人で悩まず、家族やケアマネジャーに相談する

対処法の2つ目は、1人で悩みを抱え込まずに家族やケアマネジャーに相談してみることです。

他の人と一緒に考えることで、思わぬ解決方法にたどり着く可能性があります。まずは家族に相談して協力を求めてみましょう。また、ケアマネジャーに相談すれば、介護保険サービス以外にも民間事業者で行っている便利なサービスや行政サービスなどを教えてくれることもあります。

在宅介護はゴールの見えないマラソンを走っているようなものです。「自分1人ではどうしようもない」と思うことは、決して恥ずかしいことではありません。決して独りで抱え込まず、周囲の人に助けを求めるようにしてください。

在宅介護の限界を感じたら、施設入居を検討する

在宅介護と費用

施設の種類は非常に多く、判断に困惑するかもしれません。

公的施設は、介護保険施設とも呼ばれており、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設(令和5年度末廃)、介護医療院があります。これらの施設は所得による軽減措置もあり、比較的低コストで入居ができますが、多くの人が入居したいと考えているため、入居までに時間がかかる場合があります。それ以外は、民間施設の位置づけで、各施設に特徴があり、自立の方も受け入れています。

施設入居の手続きは、見学、仮予約から入居申し込み、本人面談、受け入れ審査となります。健康診断書も必要となります。入居を急ぐ場合は、行く数の工程を同時に進めていくので、初めての時は1人では難しいかもしれません。その場合は、施設探しを無料で相談に乗ってくれる会社もあるので相談してみましょう。

家庭にあった方法を選ぼう

笑顔の夫婦

在宅介護に限界を感じた際、どうしたらよいか悩んでいる方も多いと思います。1人で抱え込まず、まずは家族や友達など身近な人に相談してみましょう。そのほかにも相談窓口などに相談してみるのも良いでしょう。

そして、これ以上限界を感じないよう、介護保険サービスを利用したり、施設入居を検討したり、それぞれの家庭にあった方法を選びましょう。介護者も要介護者も、共倒れしないように今の在宅介護を見直してみることが大切です。

池田正樹
介護福祉士、介護支援専門員、社会福祉士、福祉用具専門相談員、福祉住環境コーディネーター2級 等

大学卒業後、通所介護・訪問介護・福祉用具貸与・居宅介護支援・グループホーム(認知症対応型共同生活介護)・有料老人ホーム・障がい者施設などを運営するNPO法人にて様々な種別の事業所に所属。高齢者支援だけでなく、障害者総合支援法に基づく業務の経験や知識も併せ持っている。事業所の新規立ち上げや初任者研修・実務者研修の設立・運営にも携わる。その後は地域でも有数の社会福祉法人に転職し、特別養護老人ホーム・ショートステイの事業所に所属した。現在は在宅高齢者を支援するケアマネジャーとして約50件を受け持つ。3児の父で、自身の祖父と父を介護した経験もあり、サービス利用者側・提供者側双方の視点を持ち、読者に寄り添う記事の執筆をモットーとしている。

増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。