治療可能な認知症もある
認知症が治るのか治らないのか。認知症の兆候がある高齢者をもつ家族として、気にならないはずはありません。結論からいえば、認知症は治療可能なものもあります。治療可能な認知症としては、正常圧水頭症が挙げられます。正常圧水頭症とは、脳脊髄液が脳を圧迫してしまい、脳機能を麻痺させてしまう病気です。脳が圧迫されて麻痺することにより、ふらつきや失禁などを起こしやすくなるほか、記憶障害も引き起こします。慢性硬膜下血腫も、治療できる認知症のひとつです。頭部へ何らかの衝撃が加わり、内部で出血した血液が脳を圧迫することにより発症します。頭痛や倦怠感、ろれつが回らなくなるなどの症状が出るほか、歩行困難になる、尿失禁をするなどの症状が出ることも少なくありません。時間が経てば回復するケースもありますが、血種の大きさによっては手術で対処します。
治らない認知症としては、アルツハイマー型認知症が挙げられます。脳の神経細胞が減少してしまう病気で、詳しい原因は今でもよくわかっていません。判断力の低下や記憶障害、注意力が散漫になるなど、さまざまな症状が現れます。基本的に、アルツハイマー型認知症には根本的な治療法がありません。そのため、治療では進行を遅らせる薬を投薬することしかできません。また、レビー小体型認知症や脳血管性認知症なども、アルツハイマー型認知症と同様に治療が困難な病気です。治療ができない認知症でも、早期発見、早期治療に取り組めば、進行をずいぶん遅らせられるといわれています。認知症の兆候が見られるのなら、なるべく早めに医師へ相談しましょう。
認知症に間違われやすい病気
家族が認知症になったからと、絶望感に打ちひしがれてしまう方も少なくありません。しかし、その病気は本当に認知症なのでしょうか。実は、認知症に間違われやすい病気や症状があるのです。たとえば、うつ病は認知症に間違われやすい病気として知られています。高齢者の場合、うつ病を発症すると妄想が激しくなったり、見聞きしたことをすぐ忘れたりといったことが起きます。そのため、認知症に間違われやすいのです。また、せん妄も認知症と勘違いされやすい病気です。脳に何らかの障害が発生し、認知症に似た症状が現れます。情緒不安定になりやすく、今自分がどこにいるのかわからなくなる、といったことも起こります。妄想症と呼ばれる、被害妄想が強くなる症状も、認知症と間違われることが少なくありません。ただ、妄想症は記憶障害がなく、普段の生活も普通に送れていることがほとんどであるため、そこで判断できます。認知症かどうかの判断は、素人には難しいものです。心配になったら、かかりつけ医に相談してみましょう。
軽度認知症障害とは
認知症にいたる手前の症状を、軽度認知症障害と呼びます。健常な状態とは言えないものの、認知症ともいえない、双方のはざまに位置する症状です。認知症にいたる手前の症状とはいうものの、必ず症状が進行し認知症になるわけではなく、治るケースも見受けられます。軽度認知症障害の代表的な症状は、注意力の散漫です。ひとつのことへ集中できなくなり、些細なミスを頻繁に繰り返すようになります。また、集中力が低下し、記憶障害を起こすことも少なくありません。もし、会話の中で何度も同じ話をする、お金の管理を自分でできない、好きだったものに興味をもたなくなったといった状態が確認できれば、軽度認知症障害を疑ってみましょう。早期に発見し、適切な対処をすれば治る確率が高まります。なお、軽度認知症障害の場合、認知症ほど顕著な症状が現れないため、周りが判断しにくいのも事実です。そのため、「ただの勘違いだろう」と放置してしまい、結果的に認知症を発症してしまうおそれもあります。軽度認知症障害でないとしても、脳に何らかの障害が生じている可能性は考えられるため、少しでも普段と違うと感じたのなら、早めに医療機関へ相談しましょう。
認知症かなと思ったらまずは検査
認知症の治療は、早期発見、早期治療が鉄則です。軽度認知症障害にしても、早期に発見でき、治療を進めれば治る見込みは十分あります。そのため、少しでも認知症と疑うような行動が確認できたら、かかりつけの医師へ相談することをおすすめします。自治体が、公式ホームページで認知症の治療が可能な医療機関を公開していることもあります。もの忘れ相談医として、医療機関をリストアップしていることもあるため、まずは自治体の公式ホームページをチェックしてみてはいかがでしょうか。
認知症の治療法
正常圧水頭症なら、手術により症状を改善できます。脳に溜まった水を、チューブなどを使って出すのです。慢性硬膜下血腫も、血種が大きいのなら手術で取り除くのが一般的です。血種を取り除けば、認知障害のような症状が改善し、短期間で日常生活に戻れます。ただ、慢性硬膜下血腫は、症状が再発してしまうこともあるため、注意が必要です。確率としては8~9%程度だといわれていますが、手術後も定期的に診察を受け、再発がないか確認しましょう。アルツハイマー型認知症のような、治らない認知症の場合は、進行を遅らせる薬を処方してもらいます。根本的な治療方法が確立されていないため、現状では進行を遅らせることしかできません。投薬だけでなく、積極的に家族や他者とコミュニケーションをとることで、進行を遅らせられるといわれています。そのため、認知症治療では、医師によるアドバイスのもと、他者との積極的な交流が行われます。レビー小体型認知症も、アルツハイマー型認知症と同様に治療法が確立されていません。パーキンソン病の治療薬に、治療効果が認められたとの話しがありますが、医療機関や医師によって治療の手立ては異なります。
認知症についてまずは医療機関へ相談しよう
「認知症になってしまうと治らない」と思い込んでしまう方は多いようですが、決してそうとは限りません。本記事でお伝えした通り、治る見込みがある認知症もあります。周りが勝手に判断し、諦めてしまうと治るものも治らなくなってしまうかもしれません。認知症の治療は、早期発見と治療が何より大切です。治療できるかどうかも含め、まずは医療機関へ相談することを考えましょう。アルツハイマー型認知症でも、投薬により進行を遅らせることは可能なため、まずは相談することです。また、認知症の進行を遅らせるには、本人と周囲の方とのつながりも重要です。積極的にたくさんの人と交流し、楽しい時間を過ごすことで進行を遅らせられるといわれています。認知症だからと家に閉じこもるのではなく、楽しく日々を送れる環境を整えてあげましょう。
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多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。