2021.10.04

老化による心身の変化、高齢者ケアの基本

最終更新日:2022.07.25
増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

老化とは

男性

加齢により生じる、身体機能の低下や精神状態の変化を老化と呼びます。この世に生を受け、成人するまでのあいだに起きる身体的、精神的変化は成長ですが、そこから死を迎えるまでに生じる変化は老化と呼ばれます。多くの方が、いつまでも若くありたいと考えますが、人間である以上それは不可能です。老化が進むほどに人の体は少しずつ機能が低下し、考え方や物事の受け止め方などにも変化が生じます。老化によるさまざまな変化について詳しく見ていきましょう。

老化による機能低下

老化に伴う機能低下はさまざまですが、ひとつには筋力の低下が挙げられます。人の体は筋肉によって動かされますが、老化により筋力が衰えてしまうと、運動能力も低下してしまいます。その結果、歩くスピードが遅くなる、小さな段差でつまづき転倒してしまう、といったことも起こるのです。呼吸機能の低下も、代表的な老化の症状です。人間の肺は、加齢に伴い細胞の数が少なくなり、呼吸機能が低下します。また、消化機能や認知機能の低下なども、老化とともによく見られる症状といえるでしょう。

老化による心の変化

「年をとると涙もろくなる」といったことを耳にしたことはありませんか?老化は、肉体だけでなく精神面にもさまざまな影響を与えます。若いころに比べ悲観的になったり、消極的になったりといった症状がよく見られます。エネルギーに満ち溢れた若いころは、誰もが前向きな気持ちで物事に取り組めます。しかし、老化が進むと意欲が低下してしまい、それがさらなる老化を招き、さらに意欲を低下させるといった悪循環に陥ってしまうケースが少なくありません。

男性と女性の老化の違い

性別に関係なく老化は訪れます。男性でも女性でも、老化による身体機能の低下や、精神面の変化は起こります。平等に老化はやってきますが、実は女性の寿命が男性よりも延びていることをご存じでしょうか。世界的に見ても、男性に比べ女性のほうが平均寿命は長くなっているのです。理由はさまざまですが、男性よりも女性が生物学的に強いともいわれています。また、一家の大黒柱として働く男性は仕事でストレスを受けやすく、それが寿命を縮めているとの見方もあるようです。

老年症候群について

高齢者

加齢に伴うさまざまな症状のことを総じて老年症候群と呼んでいます。具体的には、老化の進行により介護や医療を必要とする症状を老年症候群と呼んでおり、症状の数はおよそ50以上あります。老年症候群は、複数の症状を発症するケースが珍しくありません。そのため、場合によっては一度にいくつもの診療科で診察を受けなければならないこともあります。以下、介護を必要とする症状や慢性疾患、急性疾患に関する症状などをまとめました。

介護が必要となる症状

日常生活に支障をきたす症状なら、介護が必要です。さまざまな症状が挙げられますが、ひとつには骨粗鬆症が挙げられます。骨がもろくなる病気で、些細なことで骨折してしまうおそれがあるため、日常的な介護が必要です。ほかにも、嚥下障害やうつ、尿失禁、認知症なども介護を必要とします。介護は、家族が担うケースもありますが、外部のサービスを利用するケースも少なくありません。要介護や要支援の認定を受ければ、介護保険の介護サービスが受けられます。

慢性疾患に関連する症状

慢性的な症状が確認できる疾患を慢性疾患と呼びます。突如発症するケースは少なく、少しずつ体や精神を侵していくケースが多くを占めています。症状の進行や治療が長期におよぶケースがほとんどで、中には悪化する一方の疾患もあります。慢性疾患に関する症状としては、認知症や脱水などが代表的です。ほかにも、麻痺や視力低下、発熱、食欲不振、吐き気、嘔吐、便秘、呼吸困難なども慢性疾患に属します。

急性疾患に関連する症状

慢性疾患の対極に位置するのが急性疾患です。急激に症状が現れ、進行スピードが速いことも特徴です。慢性疾患のように兆候がなく、突然発症してしまうため、本人はもちろん家族が戸惑ってしまうケースも少なくありません。急性疾患には、めまいや息切れ、頭痛、腹痛などが挙げられます。ほかにも、低体温や意識障害、睡眠障害、転倒、骨折なども急性疾患に含まれます。症状が悪化するスピードも速いため、発症が見られた場合は迅速に対応しなければなりません。

高齢者ケアの基本

介護

家族に高齢者がいるのなら、高齢者ケアの基本を押さえておく必要があります。今はまだ必要なくても、老化に伴い介護や医療が必要となるシーンに直面するため、今から覚えておいて損はありません。以下、高齢者ケアの基本をまとめました。

高齢者ケアで目指すもの

ひとつには、QOLの向上が挙げられます。QOLとは、クオリティオブライフのことを指し、日本語にすると生活の質と訳せます。つまり、高齢者のケアを行うにあたっては、生活の質を向上させ生涯にわたり快適かつのびのびと暮らせるよう務めなければなりません。高齢者のQOLを向上させるには、生活しやすい環境を整えてあげる必要があります。たとえば、自宅をバリアフリー化し、安全かつ快適に生活できる空間を実現することが挙げられます。ほかにも、定期的なリハビリテーションの実施や、経済的支援、日常生活におけるさまざまなサポートなども、QOLを高めるのに効果的です。また、高齢者自身が新たな生きがいを見つけられるよう、支援してあげることも大切です。

高齢者の介護の基本とは

高齢者に代わり、何から何までしてあげることを介護だと勘違いしている方が少なくありません。しかし、介護の基本は高齢者の自立支援です。高齢者自身が、自立した生活を送れるよう、サポートしてあげることが本当の意味での介護です。そのため、高齢者の介護においては、周りの方が何から何までしてあげるのはおすすめできません。このようなケアを受けていると、本人も意欲をなくしてしまい、自ら何かしようとする気持ちをなくしてしまいます。家族や介護者が心配な気持ちは理解できます。何から何までしてあげたい、手助けしたいと考えている方もいるでしょう。そのような行動が必要なときもありますが、できるだけ高齢者には自分でできることは自分でしてもらい、自立を目指してもらうのが基本なのです。

ICF「国際生活機能分類」とは

世界保健機構WHOにより採択された概念です。高齢者や病気を患っている方の、できないことではなく、できることに着目しようとする考え方です。現在では、医療や介護など、さまざまな分野においてICFの考え方が導入されています。ICFを介護に用いることで、本人の身体機能や生活機能、背景因子といったさまざまな情報を、介護スタッフたちにも共有できます。つまり、ICFを介護に用いれば、よりレベルの高いサービスを提供でき、高齢者のQOLを高められるメリットがあるのです。

高齢者の生理的特徴

夫婦

高齢になると、生理機能にも変化が生じます。たとえば、高齢者は脱水症状を起こしやすい傾向がありますが、これも老化による影響のひとつです。特に、嚥下障害を生じている高齢者は、体内への水分補給が不足してしまうため、脱水症状を引き起こしやすい傾向があります。同じ理由で、低栄養にも陥りやすいため注意しましょう。嚥下障害や食欲不振に陥ると、食事量が少なくなり摂取できる栄養が必然的に少なくなってしまいます。その結果、栄養の偏りや不足を招くのです。ほかにも、便秘や廃用症候群などを引き起こすケースも多いため注意しなければなりません。

高齢者に対する理解

老化

高齢者だからこうと決めつけてケアを行うのはリスクがあります。まずは、高齢者に対する理解を深めることから始めてみてはいかがでしょうか。老化による機能低下や精神面の変化を理解し、介護における基本や大切なポイントも把握したうえで、高齢の家族へ接しましょう。

増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。