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住み慣れた住宅で安全・安心に暮らす住宅改修

ここでは介護保険を利用した住宅改修について解説します。要介護状態になっても住み慣れた自宅で暮らし続けたいと考える方は約7割になります。その理由は、介護を受ける人にとって、地域は特別な場所だからです。近所の人たちや友人に声をかけられる環境は、精神的な豊かさを得ることができます。外出する際も、住み慣れた地域なら移動への安心があり、体が不自由になっても暮らしやすいと感じるでしょう。また地域の人の目は、介護を受ける人だけでなく、介護をする家族にとっても、温かい存在になります。周りの人が気にかけてくれるだけで、介護に疲れている家族が「また頑張ろう」という気持ちになれるものです。自宅で家族の介護をするなら、介護を受ける人も家族も安心して暮らせる工夫が必要です。そのためには生活環境を整えることが大切なため、介護保険で住宅改修が適用されます。
介護保険の住宅改修とは?
介護保険による住宅改修は、かかった費用の一部を助成してくれる仕組みのことです。
支給の対象となる人
対象となる人は、要支援1~2、または要介護1~5の認定を受けた方で、自宅に住んでいる方です。施設に入所している方は対象外のため注意しましょう。ただし、現在施設に入所していても、自宅で介護することが決まっているなら介護保険の適用対象となります。
住宅改修を行うメリット
介護保険による住宅改修を利用するメリットは、介護者に合わせた暮らし方に変えられる点です。体が不自由な人に対する工夫や、介護のしやすさに配慮した改修ができます。まだ自宅での暮らしにくさをそれほど感じていなくても、早めに改修しておけば、将来の事故予防にもなります。介護が必要な人にとっても、暮らしやすい工夫があれば、自分のことは自分で対応できるでしょう。自宅改修は、自立を促し、介護予防のためにも重要なことです。
住宅改修費の支給額について
介護保険における住宅改修は、申請できるのは最大20万円までです。いくら支給されるかは所得によって、7~9割の支給となる違いがあります。
支給額
介護保険の対象による住宅改修支給額は、所得により割合が異なります。所得がない方は9割、一定の所得がある方は8割、所得が高い方は7割の支給額です。つまり、申請できるのは最大20万円までのため、所得がない人は18万円支給されます。一定の所得がある方は16万円の支給額で、所得が高い人は14万円支給額です。なお、上限を超えた金額は全て自己負担になります。
支給方法
介護保険による住宅改修の支給は、償還払いです。償還払いとは、改修する人が業者に費用を支払い、後で支給額を受け取る方法です。保険者(市町村)によっては、自己負担額だけを支払う方法の場合もあります。
支給限度額基準額の分割利用と利用回数の例外について
支給限度額基準額の分割利用とは、限度額20万円を分割して使用することです。一度の改修で限度額に達しないときは、分割して使用できます。例えば、5万円の手すり取り付けと、15万円のトイレ改修などの使い方です。利用回数は原則1回ですが、介護状態が3段階上がったときや、転居した際は例外です。介護状態が重度になれば、一度20万円の限度額を使い切っても、もう一度20万円が使えます。転居した際も、新たに転居先で20万円の限度額が使えるようになります。
住宅改修費の支給対象となる工事
介護保険における住宅改修の対象は、次のようなものがあります。
・手すりの取り付け
・段差の解消
・滑りの防止及び移動を安全にするための床材の変更
・引き戸への変更
・洋式便器への取り替え
・その他付帯する工事
手すりの取り付け
手すりの取り付けは、移動のしやすさや転倒を防止するものです。トイレ・廊下・階段・玄関・浴室などに手すりを設置することができます。
段差の解消
段差の解消は、リビング・廊下・トイレ・浴室・玄関などが当てはまります。改修工事は、敷居を低くする、スロープを設置する、床をかさ上げするなどです。屋外であっても道路に出るために必要な改修であれば対象となります。ただし、浴室内のすのこ設置は福祉用具購入費の支給、取り付け工事をしないスロープの設置や踏み台は福祉用具の貸与対象です。
滑りの防止及び移動を安全にするための床材の変更
滑り止め工事は、滑りやすい材質から滑りにくい素材へと変更します。畳から板張りやビニール素材への変更や、浴室の床材を滑りにくい素材に変える際も対象です。室内で車イスの利用を検討する場合には床材の変更も検討しましょう。また、庭の砂利道や飛び石など移動の妨げとなる場合も対象です。
引き戸への変更
引き戸への取り替えは、開き戸から引き戸やアコーディオンカーテンに交換する工事です。握力が弱くなり開閉しにくいドアの交換や、ドアノブの変更も含みます。
洋式便器への取り替え
洋式便器への取り替えは、和式便器からの交換が対象です。すでに洋式便器で向きを変えるときや、洗浄機能付き便座に変える、暖房つきに変える場合も対象となります。
その他付帯する工事
その他、上記の改修に付帯する工事も、支給対象です。例えば、下地補強・給排水工事・柱の改修などがあります。
住宅改修費の支給申請の方法
介護保険における住宅改修を利用する際は、申請が必要です。申請と必要な書類について、事前に確認しておいてください。
支給申請から支給されるまでの流れ
住宅改修の交渉は工事前に行う事前申請と、工事が終わった後に行う事後申請があります。申請する前に、担当のケアマネージャーに現状の課題について相談しましょう。ケアマネージャーは、必要な住宅改修を判断してくれます。住宅改修が必要だと判断されたときは、申請の前に工事費用の見積もりを出してもらいます。工事業者を自宅に呼んで、下見と具体的な費用のプランを出してもらってください。業者は1社のみで検討する必要はなく、費用や内容で比較しても構いません。工事を依頼する業者が決まったら、事前申請として申請書類を市区町村の保険者に提出します。支給対象だとわかったら、業者に工事を依頼し、工事が終わったら領収書など必要書類を受け取り事後申請を行います。
必要な書類について
申請に必要となる書類は、申請前に必要なものと、申請後に必要なものがあります。
申請前に必要となる書類は次のとおりです。
・住宅改修費支給申請書
・住宅改修が必要な理由書
・工事費見積書
・完成予定の状態がわかる書類
住宅改修費支給申請書は、各自治体で用意されているものを使います。なお、「住宅改修が必要な理由書」はケアマネージャーが作成してくれます。見積書や完成状態がわかる書類は、写真や図面などを業者に作成してもらってください。注意したいのが見積書の宛名で、要介護・要支援認定を受けている人の名前にしてもらいます。
申請後に必要となる書類は次のとおりです。
・住宅改修費支給申請書
・居宅サービス計画書
・領収書
・工事費用内訳書
・住宅改修費請求書
・完成状態を確認できる書類
住宅改修費支給申請書は、各自治体で用意されています。ケアマネージャーには、ケアプランの作成をしてもらってください。業者からは、住宅改修費請求書・領収書・工事費内訳書・完成後の状態を確認できる写真をもらいます。領収書は要介護・支援認定を受けている人の名前にしてもらってください。工事費用内訳書は、介護保険の対象となる工事の種類を明記し、費用が書かれているか確認しましょう。なお、要介護支援を受けている人と住宅の所有者が異なる場合は、住宅の所有者の承諾書が必要です。
まずはケアマネージャーに相談しよう

介護保険を利用した住宅改修は、介護を受ける方も家族も助かる制度です。これからの生活を暮らしやすくするため、住宅改修を検討してみてください。ただし、住宅改修はトラブルが発生しています。まずはケアマネージャーに相談して、必要な改修のみを行うようにしてください。支給費用や利用回数の上限があるため、本当に必要なのか、事前に相談するようにしましょう。
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多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。


