親の介護は、決して楽とは言えません。また、身近な人だからこその嫌な面が見えてくることもあるでしょう。介護を必要とする親の困った行動にはどのようなものがあるか、また、幸せな老後を過ごすためにどんな心のケアをしていくことができるのかについて解説します。
目次
高齢になった親の困った行動
高齢になることで、また、認知症などの病気に罹患することで、親が若いときには見られなかったような困った行動をすることがあります。困った行動としてどのようなものがあるのか、なぜ親が困った行動をするのか、また、困った行動に対してどのような対応をすれば良いのかについて見ていきましょう。
自分で隠したものを見つけられず、盗まれたと疑う
認知症の方に多いのですが、親自身が盗まれないようにと自分でお金やモノを隠して、見つけられずに盗まれたと疑うことがあります。このようなときは、「私は盗んでいない」と言っても、親は聞く耳を持ってくれないでしょう。それどころかますます疑念を強めることがあります。親が盗んだと疑う場合は、真っ向から「盗んだのか、そうでないのか」を言い争うのではなく、モノがないという状況に着目し、「困りましたね。一緒に探しましょう」と共感して協力することができるでしょう。また、普段から寂しい思いをしていて、家族の注目を集めたいばかりに騒動を起こすケースもあります。用事がないときもできるだけ多く声掛けし、寂しさを感じずに過ごせるようにサポートしていきましょう。
車の運転を辞めない
年を取るにつれて判断力や反射神経が鈍くなっていきますが、危ない運転をしていたり、車に傷がついても運転を辞めずに免許証を返納しなかったりする親もいるでしょう。好きなように運転させてあげたい気持ちはあっても、交通事故を招く恐れがあるだけでなく他人に傷害を与える恐れがあるため、放置しておくことはできません。「車がないと生活が不便になる」と考えて返納を拒む方もいますので、車がなくても移動に困らないように交通手段を調べたり、できるだけ車で送迎したりすることで説得することができるかもしれません。また、自治体で免許返納の特典を実施している場合には、どんなお得なことがあるのか調べて、親に紹介してみましょう。
1人暮らしにこだわる
同居をしようと提案しても1人暮らしにこだわり、同居をしようとしない親もいます。慣れていない家や地域に住むことが嫌だから、あるいは、愛着のある自分の城を手放すことに拒否反応を覚えるからなど、様々な理由があるでしょう。親が地域や住居にこだわる場合は、子の家に呼ぶのではなく親の家で同居できないか考えることができます。また、仕事や学校等の事情により、どうしても親の家に子世帯が移り住むことができない場合は、どうすれば同居してくれるのか親の率直な気持ちを尋ねてみましょう。親の言葉の中に解決策が潜んでいることもあります。
家事が雑になる
高齢になると、家事が雑になることがあります。食器の汚れが落ちていなかったり、洗濯物をしわくちゃのまま干したりなどが観察される場合には、認知症などの病気や、年齢により視力や注意力が落ちていることなどが考えられます。しかし、雑だからといって家事をさせないようにしていると、親が自分でできることが減ってしまう可能性や運動量が低下する恐れもあるでしょう。また、家事などを頼られることが親の活力になることもあります。「洗い残しがある」「きちんと干して」と文句を言うのではなく、できていない部分は親の自尊心を傷つけないようにフォローし、お互いが助け合って生活するようにしましょう。
賞味期限に無頓着
冷蔵庫の中をチェックしてみると、賞味期限の切れた食材や腐ったものが入っていたりすることがあります。高齢者でなくても、ついうっかり賞味期限を切らすことはあるので、強く叱るのはやめましょう。例えば、冷蔵庫にホワイトボードを貼り、賞味期限や中に入っているモノを食品ごとに書いておくことができます。食べたものは消しておけば、いつでも冷蔵庫の中身が一目で分かるでしょう。
物を捨てられずに溜め込む
「もったいないから」という理由で明らかな不用品であっても捨てずに溜め込んでしまう親もいるでしょう。このようなときは「片付けよう」や「掃除しよう」という言葉は効果的ではないことがあります。いずれも「捨てる」という言葉を想起させるため、自分が大切にしているモノがなくなってしまうと思わせてしまうことがあるからです。ポジティブに整理をしていくためにも「使いやすくしましょう」「部屋をきれいにしましょう」という声掛けをしてみましょう。子供が勝手に片付けるのは親の大切なモノや自尊心を奪うことになりかねないので、親自身が片付けできるように「不便なところはない?」「手伝おうか?」とあくまでもサポートに徹して声がけするようにしてください。
ネガティブな発言ばかりする
「私なんていても邪魔でしょ?」などのネガティブな発言ばかりを親がする場合は、発言に真っ向から答えてもあまり意味はありません。高齢になり、どんどんできることが減っていき、自分自身に自信を持てなくなっていると考えられるので、積極的に家事などの日常的なことをお願いしてみましょう。また、してくれたことに対して感謝をし、親によって助けられているということを表現することも大切です。自分自身に自信を持てるようになると、ネガティブな発言が減っていくこともあるでしょう。
幸せな老後を過ごすための心のケア
年を取れば誰でも老いていきます。老いた親の姿は、将来の自分の姿であるということを踏まえて親に向き合っていきましょう。老いた親が幸せな老後を過ごすためには、介護者である家族は、親が寂しさを感じないように、また、頼られているという実感を持てるように心のケアを行っていくことが必要です。年を取ってできないことが増えたとしても、叱ったり嘲笑したりするのではなく、「そういうことは誰にでもあるよ」と共感を示して、親が気楽に暮らせるようにしていきましょう。
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多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。