2022.03.18

福祉用具のレンタル前に知っておこう|歩行器や杖でのヒヤリハット

最終更新日:2022.08.18
長谷川 大祐
介護福祉士、福祉用具専門相談員、住環境コーディネータ2級

介護サービスに詳しくない人は、在宅介護で必要な福祉用具が分かりませんよね。足腰が弱ったら杖を使うイメージを持つ人もいると思いますが、専門家の知識を持っていなければ、選ぶことも探すことも一苦労ですよね。「合わない福祉用具を使って転ばないか心配」「介護負担で疲れてしまった」など疑問や悩みごとは尽きません。ここでは正しく福祉用具を使わないことで起こる事故の事例を紹介します。ご家族様のケガ防止のために、ぜひ最後までご覧ください。

福祉用具によるヒヤリハットとは

ヒヤリハットとは、仕事などで「危ない!」「もう少しでケガをするところだった」といった、危険なことが起こったけれど幸い災害や事故に至らなかった事例や事象のことです。ヒラリハットを解説する際、よく「ハインリッヒの法則」という言葉が出てきます。

ハインリッヒの法則とは、ハインリッヒというアメリカの技師が労災事故を調査していく中で導き出した法則で、1件の重傷事故が起こるまでには29件の軽い事故があり、さらに300件のヒヤリハットが隠れているというものです。また同時に、事故を防ぐためには1件の事故だけを調査しても防ぐことはできないということです。この法則を福祉用具に当てはめると、前方を確認せずに歩行器を使用していたら人や物に衝突したり杖でバランスを崩して転倒し骨折したりなど、さまざまな事故が起きてしまう危険性があります。

このような事故を起こさないために、福祉用具をレンタルや購入する際は、使用者は正しい利用方法を確認するとともに、福祉用具を管理する福祉用具専門相談員なども事故の危険性や利用方法を使用者に伝えることが重要です。

歩行器によるヒヤリハット事例

歩行器で歩く女性

歩行器の種類とヒヤリハット事例について解説します。歩行器は、病院での歩行訓練やリハビリなどで利用する屋内向け歩行器、荷物を入れるかごや座ることのできる座面が付いた屋外向け歩行車、買い物に便利な大きめのカゴが付いた自力歩行が可能な人向けのシルバーカー、モーターを動かし移動をサポートしてくれる歩行が難しい人向けの電動カートなど、主に四種類に分けることができます。

では実際に、歩行器で起こるヒヤリハットにはどのようなものがあるのでしょうか。具体的な事例としては、シルバーカーで転倒しそうになったり、立ち上がる際に歩行器が倒れそうになったり、歩行者に座る際バランスを崩したり、歩行車が使用者よりも先に進んでしまい足がもつれたりなどがあります。

事例1.シルバーカーで転びそうになった

屋外で移動するためにシルバーカーを運転中、段差を乗り越えようとしたが車輪が引っかかり転びそうになることがあります。起きる原因としては、使用する人が段差においてシルバーカーを持ち上げるだけの身体能力を有していなかったり、使用する場所での環境とシルバーカーが適合していなかったりすることです。このようなことが起こらないためには、使用する人の身体能力に合わせた歩行器を導入すること、使用する場所において歩行器を安易に操作できる環境なのかを把握しておくことが必要です。

事例2.立ち上がる際に中型歩行器が倒れそうになった

自宅で立ち上がる際に、手すりの代わりにつかまったため、歩行器にすべての体重がかかり歩行器自体が倒れそうになることがあります。起きる原因としては、手すりの代わりに使用した歩行器に体重がかかりすぎ不安定になったり、歩行器のグリップの高さが使用する人の体格に適合していないことです。このようなことが起こらないためには、使用する人の体格に合わせたグリップの高さに調整すること、屋内用の手すりを用意することが必要です。

事例3.小型の歩行車に座る際、歩行車が動きバランスを崩す

自宅から距離がある病院へ通院中、疲れたため途中で休憩しようと歩行車の椅子に座った際、歩行車が後退してバランスを崩し尻もちをつくことがあります。起きる原因としては、椅子に椅子に浅く座ったため後輪が浮いて歩行車が動いたり、車輪にブレーキがかかっていなかったため歩行車が動き出してしまうことです。このようなことが起こらないためには、低重心で安定性がある歩行車を使用すること、介護者が付き添って声掛けを行うこと、使用する人がブレーキ操作を行ったかを最低2回以上確認することが必要です。

事例4.歩行車につかまろうとしたらそのまま先に進み足がもつれた

公園のベンチに座ってのんびりくつろいだ後、帰宅するために歩行車を引き寄せて立ち上がろうとつかまった際、歩行車が前進してしまい足がもつれて転倒しそうになることがあります。起きる原因としては、歩行車のブレーキがかかっておらずキャスターが固定されていなかったため前進した歩行車に腕を引っぱられてしまったり、歩行車と身体の距離が遠すぎて歩行車を十分に引き寄せていなかったりすることです。このようなことが起こらないためには、ブレーキがかかっていることを最低2回以上確認すること、歩行車を身体に引き寄せ、安定した立位姿勢を取ってから歩行車をつかむことが必要です。

杖によるヒヤリハット事例

杖で歩く人
次に、杖の種類とヒヤリハット事例を解説します。杖は、軽量で折りたたんだり伸縮したりできる一本杖、3本〜4本の脚で安定性に優れた3多点杖、前腕でも体重を支えることができる前腕固定型杖、重い荷重にも耐えることができる松葉杖など、主に四種類に分けることができます。杖の中でも一本杖は、福祉用具のレンタル対象外となるので注意が必要です。

では実際に、杖で起こるヒヤリハットにはどのようなものがあるのでしょうか。具体的な事例としては、雨でぬれた床を歩行中に一本杖が滑ってしまい転びそうになったり、多点杖の使用に慣れていないために廊下で転びそうになったりなどがあります。

事例1.雨でぬれた床で一本杖が滑り、転びそうになった

病院へ通院した際、一本杖を突きながら病院の玄関へ入ったところ、雨降りのために床がぬれており滑って転びそうになることがあります。起きる原因としては、体重がかかったときにバランスを崩しやすい一本杖の特徴を理解していなかったり、杖先のゴムがつるつるに摩耗し滑りやすくなっていたりすることです。このようなことが起こらないためには、日頃から杖先のゴムが摩耗していないかをチェックすること、滑り止め効果がある杖先ゴムに変更すること、雨の日は歩幅を小さくして安定した歩行に心がけることが必要です。

事例2.使い始めたばかりの多点杖で、廊下で転びそうになった

歩行の安定を図るために使い始めた多点杖で廊下を歩いていた際、身体のバランスを崩して転びそうになることがあります。起きる原因としては、多点杖の長さが自身の身長に合っていなかったり、廊下の小さい段差に気づかず杖先を斜めに着いてしまったりすることです。このようなことが起こらないためには、多点杖を使用する前に自身の身長に合った長さに調整すること、使用する際に周囲に段差や傾斜など障害物がないか確認することが必要です。

使い方について介助者も詳しく知っておこう

高齢者と介護士

今回は、福祉用具をレンタルする前に知っておきたい、歩行器や杖でのヒヤリハットについて、起きる原因や防止策を交えてご紹介しました。歩行器や杖をレンタルする際は、安全かつ安定した歩行を実現するためにも、使用する場所の安全性と使用方法を事前に確認しておくことが重要です。また併せて、歩行器や杖を管理する福祉用具専門相談員などが、レンタル品に不具合がないか、使用する人の身体状況に合っているかを、定期的に点検することも必要です。

平野たけし
介護福祉士、介護支援専門員、 第一種衛生管理者、 社会福祉主事任用資格、 認知症ライフパートナー3級 、福祉住環境コーディネーター2級 、メンタルヘルス・マネジメント検定試験2種 、ファイナンシャル・プランニング技能士3級

2018年9月まで、老人保健施設の介護士として14年間従事し、身体介護だけでなくイベントのプロジェクトリーダーを経験。介護福祉士・介護支援専門員・社会福祉主事、第一種衛生管理者、他多数の資格を習得する。2021年よりWebライター・電子書籍(Amazon Kindle)編集者として活動開始。様々なジャンルの書籍編集(加筆修正・構成・タイトル提案など)に8件携わり、ベストセラーを獲得。2年間の育児休業の経験があり、介護・子育ての記事執筆を得意とする。

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長谷川 大祐
介護福祉士、福祉用具専門相談員、住環境コーディネータ2級

福祉用具貸与事業所に勤務し、住み慣れたご自宅での在宅生活で、お客様が安全・快適に過ごしていただけることをミッションとして福祉用具・住宅改修業務を通して携わる。また地域包括支援センターと連動して地域の老人会や自治会に向けて、住環境整備の大切さを啓発する勉強会を開催するなど、地域に根付いた活動に力を入れている。