2022.07.13

尿が近いとお悩みの方へ|頻尿の原因と治し方についてわかりやすく解説

最終更新日:2022.08.01
東海林 さおり
看護師

頻尿とは

頻尿で悩む女性

「尿が近い、尿の回数が多い」という症状を頻尿といいます。一般的には、朝起きてから就寝までの排尿回数が8回以上の場合を頻尿といいます(注)。一方、夜間に限って「尿が近い、尿の回数が多い」という症状もあり、これは夜間頻尿といいます。夜間頻尿とは,夜間に排尿のために 1 回以上起きなければならない症状です。

(注1)1日の排尿回数は人によって様々であり、一概に1日に何回以上の排尿回数が異常とはいえない場合があります。逆に、8回以下の排尿回数でも自分自身で排尿回数が多いと感じる場合には頻尿といえます。

頻尿の原因

頻尿で悩む人

頻尿の原因は様々ですが、過活動膀胱、残尿(排尿後にも膀胱の中に尿が残ること)、多尿(尿量が多いこと)、尿路感染・炎症、腫瘍、心因性に分けることができます。一方、夜間頻尿の原因の1つとして、日中に摂取した水分がふくらはぎの部分にたまってしまうことがあります。加齢とともに血液を循環させる機能が低下すると、足に流れた血液が心臓に戻ってこず、足の血管から水分が漏れ、ふくらはぎの部分にたまってしまうのです。その結果、夜、横になったときに水分が再び血管に戻り、増えた血液を減らそうとするため、尿量が増えると考えられます。

過活動膀胱

過活動膀胱

過活動膀胱とは、膀胱に尿が十分に溜まっていないのに、膀胱が自分の意思とは関係なく勝手に収縮するという症状であり、急に尿がしたくなって我慢ができず(尿意切迫感)、トイレに何回も行くようになります。過活動膀胱の原因は「神経因性」と「非神経因性」の2つあります。「神経因性」とは、脳や脊髄の障害によるものであり、主に脳血管障害(脳梗塞など)、パーキンソン病、アルツハイマー性認知症、脊髄損傷、多発性硬化症があげられます。「非神経因性」とは、前立腺肥大症などの下部尿路閉塞、加齢、骨盤底の脆弱化があげられます。

残尿量の増加

残尿量の増加

残尿とは、排尿後も膀胱内に尿が残る状態をいいます。一般成人が膀胱に貯められる尿量は平均して500mLです。膀胱に貯まっている尿量が300mLぐらいまでは膀胱内圧がほとんど変化しないため、尿意を感じません。貯まっている尿量が400mLを超えると膀胱内圧が高くなり、膀胱壁が伸長し、その刺激が尿意につながります。前立腺肥大症などにより排尿障害が進行すると残尿が発生します。また、糖尿病、腰部椎間板ヘルニア、子宮がん・直腸がんの手術などにより膀胱を収縮させる神経が障害されると、膀胱がうまく収縮できなくなり、排尿障害を引き起こし残尿が発生します。膀胱内の残尿量が増加すると、結果的に尿をためられる膀胱のスペースが減少するために、1回の排尿量は少なく、何回もトイレに行くようになります。

多尿

お腹を押さえる女性

 多尿とは、1日の尿量が著しく多い状態です。一般成人の排尿量は平均して1~2Lであり、3Lを超えると多尿と診断されます。尿量が多いとトイレに行く回数が増えることから、頻尿になると同時に、体内から多くの水分が排出されるため、のどが乾きやすくなり、多くの水分を摂取する多飲症を発症することもあります。多尿の原因としては、「水分の摂りすぎ」、「心因性多飲症」、「尿崩症」、「糖尿病」などがあります。
一般成人の1日の水分摂取量は食事以外では1~1.5Lですが、これを大幅に上回る「水分を摂りすぎ」の場合、多尿になります。また、カフェインが含まれるコーヒー・緑茶・コーラや、アルコール、または利尿作用のなる薬(利尿剤)を摂取すると尿量が増加して多尿になることがあります。
「心因性多飲症」とは、精神的ストレスにより口渇感が生じ、大量の水分を摂取することで精神的な安定を保とうとする一種の精神疾患です。
「尿崩症」とは、体内に一定量の水分を保持する機能が失われ、多尿となる疾患です。尿崩症は、原因によって「中枢性尿崩症」と「腎性尿崩症」の2つに分類されます。「中枢性尿崩症」とは、脳下垂体が障害され、体内への水分の再吸収を促す抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌が低下あるいは分泌ができなくなることにより、体内への水分の再吸収ができずに多尿となる疾患です。「腎性尿崩症」とは、抗利尿ホルモンが正常に分泌されているが、それが作用する腎臓の受容体が何らかの要因によって障害され、抗利尿ホルモンが作用しないことにより、体内への水分の再吸収ができずに多尿となる疾患です。
「糖尿病」は血糖値が高い病態です。高血糖になると血管内の浸透圧が高くなるため、血液を薄めようとするために他の細胞から水分を血管内に引き抜きます。水分を取り込んで増えた血液は腎臓でろ過されますが、余分な糖分を排出する際に水分も共に排出されるため、多尿となります。

心因性頻尿

頻尿で悩む男性

 心因性頻尿とは、トイレに行く回数が増えているのにかかわらず、尿道や膀胱に病気の兆しが見られず尿の量が通常の範囲である場合、精神的な要因が考慮される症状です。精神的な要因であるため、就寝中は頻尿がでにくいのも特徴の1つです心因性頻尿は、小学校に入学したばかりの小学生、10代後半~20代、更年期に差し掛かった女性に多くみられます。「心因性」とは、学校の授業中やテスト中、または交通機関を利用中などのトイレに行けない状況時に、尿意を感じてもトイレに行けなかった辛い経験(トラウマ)のことです。そのトラウマが誘因となり、トイレに行ってはいけない場面に直面すると、「以前のようにトイレに行けなかったらどうしよう」という「ストレス」や「不安」を想像し、強い尿意を感じるようになります。そうなると、外出先ではトイレを確認しないと気がすまない、知らない場所に出かけるのが怖い、つい外出を控えてしまう、など日常生活にネガティブな思考があらわれてしまいがちです。

頻尿の治療方法

薬を飲む女性

頻尿の治療方法は、

・生活習慣の改善を目的とする生活指導
・骨盤底筋体操や膀胱混錬などの行動療法
・薬物療法
・手術

に分類されます。

薬物療法

お薬手帳と薬

頻尿は、その原因によって使用される治療薬も異なります。
「過活動膀胱」は、膀胱が自分の意思とは関係なく勝手に収縮するという症状です。「過活動膀胱」の治療薬としては、膀胱平滑筋に存在するムスカリン受容体を遮断することにより膀胱の収縮を抑制する抗コリン薬(プロピベリン、オキシブチニン、ソリフェナシン、イミダフェナシン、フェソテロジンなど)があげられます。また、膀胱平滑筋のアドレナリンβ3受容体を刺激することにより膀胱収縮を抑制するアドレナリンβ3受容体作動薬(ミラベグロン)があります。以上は飲み薬ですが、オキシブチニンについては貼り薬(®ネオキシテープ)もあり、1日1回、下腹部、腰部又は大腿部に貼ることにより24時間効果が持続します。これらの薬の注意点として、抗コリン薬は、口腔内乾燥、便秘、かすみ目、残尿などの副作用が発現しやすいといわれています。アドレナリンβ3受容体作動薬は、高血圧や不整脈の副作用があるため、心血管疾患の患者に私用する場合は注意が必要です。

男性に特徴的な「前立腺肥大症」による排尿障害が原因である場合、排尿障害を改善する必要があります。
アドレナリンα1受容体作動薬(タムスロシン、シロドシン、ナフトピジル)は、排尿に関わる交感神経の刺激を抑え、前立腺や尿道の筋肉を緩めるため、尿道をゆるめ、尿を出やすくします。アドレナリンα1受容体は血管にもあるため、副作用として血管が拡がり、急激に血圧が低下し、めまいや立ちくらみを起こす場合があります。また、シロドシンは射精障害の副作用を呈することがあります。
ホスホジエステラーゼ5阻害薬(タダラフィル)は、前立腺や・胱・尿道に多く存在し、その血管や筋肉を収縮させる働きのある酵素であるホスホジエステラーゼ5の働きを阻害して、血管を拡げ、筋肉を緩めることで排尿障害を改善します。血管を拡げる作用があるため、ほてりや動悸、一過性に血圧低下を起こす副作用がでることがあります。また、陰茎内の血流もよくするため、持続勃起する副作用もあります(タダラフィルは、勃起不全治療薬としても用いられます)。
5α還元酵素阻害薬(デュタステリド)や抗アンドロゲン薬(クロルマジノン)は、前立腺肥大の原因となっている男性ホルモンの働きを弱めて前立腺を小さくします。男性ホルモンの働きを弱めるため、勃起不全や性欲減退といった性機能障害をおこすことがありあす。また、男性ホルモンの働きが弱くなると相対的に女性ホルモンの働きが強くなり、女性のように乳房が膨らんでくることがあります。
その他、エビプロスタット、セルニルトンは、前立腺の炎症を抑える場合や、症状の緩和に使用されます。植物由来の製剤であるため、効果が穏やかである分、副作用も少ないです。また、八味地黄丸、牛車腎気丸などの漢方薬は、前立腺肥大による症状の緩和に使用されます。

頻尿の原因となる膀胱炎は、尿路からの細菌侵入が原因となることが多いため、男性よりも女性に多く発症します。膀胱炎が原因の場合、原因菌を除くために抗菌剤を使用します。ただし、菌の種類や患者背景により使用される抗菌剤が異なるため、また耐性菌の発現を防ぐため、医師の指示に従い、自己判断で服薬を中止しないことが大切です。

多尿の原因の1つである「中枢性尿崩症」の治療には、分泌が低下している抗利尿ホルモンを補充します。デスモプレシン(作用がより長いバソプレシン)は、1日2回の鼻腔スプレーのほか、ときに錠剤または皮下注射や静脈内注射で投与されることもあります。薬が過剰に投与されると、体液が貯留し、むくみなどの問題が生じるおそれがあるため、投与量は体の水分バランスと正常な尿量を維持できるように調節されます。バソプレシンの分泌が保たれている場合、バソプレシンの産生を刺激する薬としてクロルプロパミド、カルバマゼピン、クロフィブラート、サイアザイド系利尿薬を使用することがあります。一方、「腎性尿崩症」の治療には、腎臓で再吸収されるナトリウムと水分の量を増加させるため、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)やサイアザイド系利尿薬が使用されることがあります。

行動療法

過活動膀胱は骨盤底筋の衰えが原因であることがあり、その場合は、「骨盤底筋体操」は過活動膀胱の対策として有効です。また、「骨盤底筋体操」は腹圧性尿失禁の対策としても有効です。体操により骨盤底筋が強く太くなると、膀胱や尿道をしっかり支えることができ、排尿コントロールがしやすくなります。急に尿意を感じても骨盤底筋に力を入れることにより尿失禁を防ぐことができるようになります。「骨盤底筋体操」はできれば毎日15分間行いましょう。続けることで徐々に筋肉がついてきて、2~3か月で骨盤底筋が十分強く太くなってきます。
「骨盤底筋体操」の動画 https://www.youtube.com/watch?v=a4Pdzg61E-U

膀胱の柔軟性が失われている過活動膀胱に、「膀胱訓練」も有効です。「膀胱訓練」とは、尿意を感じたときにトイレに行くのをできるだけ我慢して膀胱に貯められる尿量を少しずつ増やしていく訓練です。「膀胱訓練」を行うと、膀胱は徐々に柔軟性を取り戻し、尿量を増やすことができるようになります。膀胱訓練は以下の流れで行います。
・尿意を感じたら椅子に座り、まずは1~2分間我慢します。このとき、なるべく尿意のことは考えず、気を紛らわせるようにするのがコツです。
・尿失禁がある場合は、尿意が強いと漏れやすいので、尿意が弱まったときにトイレに行きます。
・我慢できるようになってきたら、徐々に我慢の時間を延ばしていきます。すぐに効果を実感できなくても焦らず、根気よく続けて行きましょう。

突然、尿意に襲われたときは、以下のように対処しましょう。
・肛門と尿道(もしくは膣)をギュッと締め、5秒締めたら5秒緩める動作を繰り返します。
・上記動作中、なるべく尿意から気を紛らわしましょう。
この動作をすると、「会陰排尿筋抑制反射」が起こって膀胱の異常収縮が抑えられ、強い尿意を落ち着かせる効果が期待できます。

生活習慣の改善

肥満の男性

飲水は、頻尿対策として最も影響を与える生活習慣です。過剰な水分摂取は当然控えるべきですが、過度の水分制限は脱水の原因にもなるため、水分摂取量は尿排出量とのバランスを調節する必要があります。
飲む量は同じでも、「アルコール」や「カフェイン」の含む飲料(お茶)は利尿作用があるため、なるべく控えるように心がけましょう。「カリウム」が多く含まれる飲料も利尿作用がつよくなります。お酒では、ワイン、ビール、紹興酒に「カリウム」が多く含まれる一方、日本酒、焼酎、ウイスキー、ブランデーは「カリウム」含量が少ないです。緑茶、紅茶、ウーロン茶、コーヒー、ココア、コーラは、「カフェイン」が多く含まれていますが、麦茶、昆布茶、はと麦茶、そば茶、黒豆茶、ハーブティーは「カフェイン」が含まれていません。
 塩分の摂りすぎは水分も多くとりがちになり、尿として塩分を対外に排出しようとして尿量が増えるため、控えるように心がけましょう。
 トウバラシ、わさび、タバスコ、マスタードなどの辛みの強い香辛料、キムチ、レモン、オレンジ、グレープフルーツジュース、酢やしょう油、みそなどの酸味や塩味が強いものも膀胱を刺激して頻尿を促すことがあります。

冷たいものを触ったりすると、冷感刺激に脳が反応し、膀胱がかってに収縮して尿意を感じることがあります。この場合は「手袋をつける」ことが効果的です。
 服装も頻尿や尿漏れに影響を与えます。腹部を締め付けるようなタイトな服装は常に腹圧がかかった状態になるため、尿もれしやすくなります。体を冷やすと頻尿を悪化させる可能性があり、特に「下腹部の冷え」は禁物です。お腹をひやさないように、腹巻やパンツを身につけましょう。腹巻の上にカイロを貼るのも効果がありますが、その場合は低温やけどに十分注意して下さい。足が締め付けられるような靴を履いていると、足や骨盤内の血流が悪くなり、頻尿や尿漏れの原因となることがあります。

深部体温を上げることは、頻尿対策に効果があります。そのため、入浴は「湯船にしっかり浸かる」ようにしましょう。ぬるめの湯に浸かることで心と体がリラックスし、自立神経のバランスが整うことも期待できます。冷え性の方は、「足浴」もおすすめです。

肥満は、骨盤底筋が衰えて頻尿や尿もれをおこしやすくなります。また、おなかに内臓脂肪がたまると腹圧が高まり、その下にある膀胱が圧迫されて尿もれの原因となります。体脂肪指数(BMI)が25以上の方は肥満といわれるので、体重を減らすことで頻尿や尿もれを改善できる可能性があります。体重5%減を目安に減量していきましょう。

夜間頻尿の対策として、ふくらはぎに水分が貯まらないようにするために、弾性ストッキングや足上げが有効です。弾性ストッキングは、市販のむくみ対策用や締め付ける面積が少ないハイソックスタイプが履きやすくておすすめです。朝起きてから夕方までを目標に着用しましょう。足上げは、足の下に柔らかいものを敷き、足先が10~15cm程度上がるようにして仰向けになります。足上げは、昼から夕方までの間に30分を目安に行いましょう。

頻尿でお悩みの方は早めに病院へ受診しましょう

桜を見る夫婦

頻尿は、それ自体は命にかかわるものではないものの、生活の質(QOL)を著しく悪化させます。近くにトイレがないと外出できないため、人生の楽しみを失い、自宅に引きこもるようになります。また、夜間頻尿は睡眠の質を悪化させ、日常的に不眠に悩むようになります。頻尿は「はずかしい」から周りに相談できない、と考えている方もおられるでしょう。しかし、今の日本人の40代以上の3人に1人は尿トラブルの経験があるそうです。頻尿は中高年であれば、誰でも起こりうる問題なのです。頻尿で悩まれている方は、「はずかしがらず」に早めに病院へ受診しましょう。最近は頻尿に効果がある新薬もあり、手術で症状が改善することもあります。また、医師の指導のもと、自身のライフスタイルに合った生活習慣の改善、運動療法を行うことにより、頻尿の症状を改善させることができるでしょう。

東海林 さおり
看護師

看護師資格修得後、病棟勤務・透析クリニック・精神科で『患者さん一人ひとりに寄り添う看護』の実践を心掛けてきた。また看護師長の経験を活かし現在はナーススーパーバイザーとして看護師からの相談や調整などの看護管理に取り組んでいる。