2021.08.24

施設で暮らして介護を受ける|特別養護老人ホームとは

最終更新日:2022.07.25
増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

施設で暮らして介護を受けることを考えたとき、選択肢の一つとして特別養護老人ホームを希望する人は多いのではないでしょうか。入居できたら何年も過ごすことになる施設なので、特別養護老人ホームとはどんな所なのか、他の施設との違いを知っておくことが大切です。今回特別養護老人ホームについて詳しく説明するので、ぜひ参考にしてみてください。

特別養護老人ホーム(特養)ってどんなところ?

老人ホーム

特別養護老人ホームという名前を聞いて、どんなことをイメージするでしょうか。介護施設は色々あって、それぞれどのように違いがあるのか分かりにくいかもしれません。まずは概要から説明していきます。

特別養護老人ホームとは

特別養護老人ホームとは、常時介護を必要とし、自宅で生活するのがむずかしい高齢者に入居してもらい食事や排せつ、入浴など様々な療養上の世話をする介護保険施設の一つです。また、介護保険制度が始まる前の「措置入所」の時代から存在する特別養護老人ホームは、今も措置による入所が残り、困っている高齢者の命を守る介護老人福祉施設としての役割も持っています。入居するには基本的に要介護度3以上で、医療依存度や認知症状、感染症の有無や家庭環境を総合的かつ客観的に判断したうえで、入居が認められる必要があります。申し込みは自治体に行い、申し込み順ではなく必要度や緊急性が高い方から入居できるようになっています。

サービスの内容

食事_介護

介護施設によって、充実しているサービス分野は異なり、それが特徴でもあります。特別養護老人ホームの場合、寝たきりに近い重度の方に対しても身体介護が手厚くなされているので安心して介護を受けることができるでしょう。反面、介護老人保健施設のようにマンツーマンのリハビリテーションは少ないといえます。

一日の流れ

特別養護老人ホームではほぼ決まった時間で必要なケアが提供されています。しかし、「起きますか?」「トイレに行きますか?」など、あくまで本人の意思を確認したうえで介護するのが基本です。また介護職員が入居者一人ひとりの生活リズムを把握していると、定時より早め、または遅めに声掛けしてくれることもよくあります。

5:00  オムツ交換・排泄介助 
7:00  起床・朝食・歯磨き・排泄介助
9:00  バイタルチェック 
10:00  水分補給・受診など
12:00  昼食・歯磨き・排泄介助
14:00  入浴・レクリエーション・リハビリ
15:00  水分補給・おやつ
18:00  夕食・歯磨き・排泄介助
21:00  消灯
0:00  オムツ交換・排泄介助

このほか随時家族との面会や往診、訪問歯科や理美容などが行われています。また施設によっては午前中も入浴を行うところもあります。

具体的なサービスの内容

特別養護老人ホームの具体的なサービスは、都道府県が定めた運営基準に沿って行われるので、基準が一定です。医師や看護師が体調管理を行うほかにも、介護に関するサービスが包括的に提供されます。

食事や排せつなどの身体介護

管理栄養士が献立を立てているので、高齢者に合わせてカロリーや成分バランスが計算されています。食事形態もそれぞれの噛む力や飲み込む能力に合わせて普通食からミキサー食まで様々用意されているので安心です。入居者の最も大きな楽しみである食事を、季節や行事に合わせて工夫して提供してくれるでしょう。快適に暮らすために最も重要な排泄を、できるだけ自分でできるよう見守りつつ、自尊心に配慮しながら必要に応じて介助します。

掃除や洗濯などの生活援助

特別養護老人ホームにおける生活援助とは、掃除や洗濯、食事の準備や配膳、買い物のほか通院介助などを指しています。掃除は施設の職員や専門業者が定期的に行い、洗濯はクリーニングに出す場合を除き介護職が行い、追加料金はありません。些細な頼み事から買い物や受診の付き添いまで生活全般における援助を担います。

レクリエーションやイベント

担当の介護職が中心になりながら、畑や花壇の手入れ、手芸やクイズなど、身体や認知機能の維持に役立つレクリエーションを行います。また、生活にはりを持つために、季節ごとの催しや誕生会など、年中行事に合わせてイベントを用意していることも。介護度が上がってくると、家族が高齢者を花見や紅葉狩りなどに連れて行くのは負担が大きいですが、特別養護老人ホームでは看護師や介護士が付き添い、必要な設備を使って外出レクリエーションに連れ出してくれます。出張板前を呼んで握り寿司を食べるレクリエーションをする特別養護老人ホームもあるようです。事前に管理栄養士を交えて準備し、万が一に備えて看護師が付き添っているので、安心して楽しむことができるでしょう。

看取り看護

特別養護老人ホームは終の棲家としての役割も担っています。落ち着いて静かに最期のときを迎えたいと考える入居者も多く、「看取り」をしてくれるところが増加中です。一定の状態になったときから医師をはじめとする専門職たちが共同して看取りのための介護をします。

医療的な処置

特別養護老人ホームは医師と看護師の配置が義務付けられていて、喀痰吸引や経管栄養、インスリン投与などに対応することになっています。日中は必要な医療処置を受けることができるでしょう。ただし、夜間は介護職員だけになるので夜間も常に医療処置が必要な場合は看護師が24時間常駐する介護付き有料老人ホームや介護医療院、介護療養病床を検討しましょう。施設によっては喀痰吸引の研修を受けた介護職員が代わるがわる夜勤に入る体制をとっているところもあるので情報収集してみてください。

リハビリテーション

本人の状況に合わせながら、生活していくのに必要な動作の獲得や体力・筋力の維持のため、リハビリが行われています。特別養護老人ホームで一定の基準を満たし、個別機能訓練加算という加算を算定したうえでリハビリを行っているのは49.38%とされ、約半数が理学療法士などの専門職を配置しているようです。ただし、毎日個別リハビリが受けられるというものではなく、介護職員の付き添いで行う生活リハビリが中心となるでしょう。「トイレにひとりで移る」「自分の力で食べる」という残っている能力を活かしたリハビリを行うことがとても大切です。

費用について

費用

特別養護老人ホームは、入居一時金がある民間の有料老人ホームとは異なり、費用が比較的安い施設です。原則介護度別施設サービス費の1割(前年度の所得に応じて2~3割)に、居住費や食費、日常生活費などが加わります。施設サービス費は施設の形態(従来型・ユニット型)や居室の種類、職員の配置状況によって異なるので、ひとくちに特別養護老人ホームはといっても差があります。

実際の利用料の目安

実際に要介護5の方が多床室を利用した場合の、ひと月にかかる費用を例にあげてみます。

施設サービス費の1割 約25,000円
居住費 約25,200円(840円/日)
食費 約42,000円(1,380円/日
日常生活費 約10,000円(施設により設定されます)
合計 約102,200円

                            
尚、低所得の方の利用を妨げないために、特定入居者介護サービス費という制度があります。世帯の所得に応じて居住費や食費を軽減できるので、ケアマネージャーに相談してみることも大切です。

特別養護老人ホームのメリットデメリット

メリット_デメリット

特徴を整理してみましょう。

メリット
・入居金がなく、月々の費用も安い
・24時間365日切れ目のない介護が受けられる
・入居期間に期限がなく、原則終身にわたって介護を受けられる
・公的な施設なので補助金や税制優遇があるので経営が安定している

デメリット
・原則要介護3以上でないと入居できない
・待機者が多く、すぐには入居できないことがある
・看護師が夜間不在施設も多く、医療依存度が高い方は入居できないことがある

特別養護老人ホームの居室タイプについて

老人ホーム

特別養護老人ホームの居室タイプを紹介します。

ユニット型個室
10個ほどの個室が、台所やリビングなどの共有スペースを中心に配置されているタイプ
個別性が尊重され、ある程度決まった介護職員が担当します。きめ細かい対応が可能で、馴染みの関係が安心感をもたらします。

ユニット型準個室
ユニット型に似ているが、一つひとつの個室が完全な個室ではなく、間仕切りなどで仕切られているタイプ。

従来型個室
ユニットの中の個室ではなく、病棟の個室のようなタイプ。従来型個室と多床室を併用する特別養護老人ホームが多いのが現状です。

多床室
家具やカーテンという可動式のもので区切られている2人以上の相部屋で、プライバシーが保たれにくいといえるでしょう。

特別養護老人ホームが向いている方

高齢者

今回は特別養護老人ホームを具体的に解説しました。ひとりで生活するのがむずかしい、家族が介護していたが負担が大きいという要介護度3以上で、終の棲家としての施設を探している方が、特別養護老人ホームの対象になります。医療依存度が高い、認知症状が落ち着いていない方は他の施設も検討する必要がありますが、まずはケアマネージャーに相談してみましょう。

増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。