2023.06.13

認知症になると寝てばかり?傾眠傾向の原因や対処法を解説

最終更新日:2023.06.13
増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

「認知症の家族が寝てばかりいて、症状が進行しないか心配」「寝てばかりいる原因や対処法について知りたい」と考えておられる方もおられるでしょう。認知症の方が日中に寝てばかりいるのは、傾眠傾向と呼ばれる症状かもしれません。

傾眠傾向とは、「軽く肩を叩かれると目が覚める程度に浅く眠った状態」のことであり、意識障害の一種です。居眠りと同じように感じるかもしれませんが、生命に関わる重大な疾患が潜んでいることもあります。また傾眠傾向は日中に眠気を感じるため、誤嚥や転倒などの重大事故に発展するリスクもあるのです。

病気に関して正しい知識を持って、早期に対処することが必要です。そこで今回は、傾眠傾向の原因や対処法について詳しく解説します。

傾眠傾向とは

考えごとをする女性

傾眠傾向とは、軽い刺激を受けると目を覚ますような浅い睡眠状態のことで、意識障害の一種です。高齢者に多く見られ、認知症や薬の副作用が原因であることも多くあります。

通常の寝不足とは異なり、目を覚ました時に直前の記憶が抜け落ちていることも珍しくありません。声を掛けると目を覚ましますが、しばらくすると再び眠りの状態に戻ってしまいます。傾眠傾向は意識が覚醒していない状態であり、長期間継続すると誤嚥や転倒などのリスクが高くなるので注意が必要です。

意識障害のレベル

意識障害のレベル

傾眠傾向は、意識障害の一種です。意識レベルは、「意識清明」「傾眠」「昏迷」「半昏睡」「昏睡」の5段階に分けられます。

それぞれについて、どのような状態であるかを解説します。

1. 意識清明

意識がはっきりしている状態です。自分の状況を把握できており、周囲のできごとに対しても適切に判断・対応できます。

2. 傾眠
やや意識がもうろうとしている状態です。軽く肩を叩かれたり声を掛けられると目を覚まし、呼びかけにも応じられます。ただし、しばらくすると再び眠りの状態へ戻ります。

3. 昏迷
深く意識がもうろうとしている状態です。軽く肩をゆする程度では覚醒しません。皮膚をつねるなどの強い刺激や大きな声で、やっと反応する状態です。

4. 半昏睡
意識はほとんどない状態です。強い刺激には、わずかに反応することもあります。生命を維持するための呼吸や循環は行えている状態です。

5. 昏睡
意識が全くなく、どんなに強い刺激を与えても一切反応しません。ただし刺激に対して無意識に反応する脊椎反射は見られることもあります。

傾眠傾向は寝不足による居眠りとは違う?

はてなマーク

傾眠傾向と寝不足は同じような状態に見えますが、まったく異なります。傾眠傾向は、高齢者に多く見られます。意識障害の一種であり、誤嚥など生命に関わる重大なリスクが潜んでいるのが特徴です。

以下に、傾眠傾向と居眠りの違いを表で解説します。

  傾眠傾向 居眠り
状態 軽い刺激を受けると目を覚ます状態(ウトウトしている) 眠ってはいけないときに、不意に眠ってしまった状態
時間 長時間にわたる 比較的短い
対象者 高齢者に多い 年齢を問わない
原因 認知症・脱水症状など 睡眠不足・睡眠の質の低下など
リスク 誤嚥・転倒や転落 交通事故・仕事や学業でのミス

傾眠傾向の原因

傾眠傾向の原因

ここでは、傾眠傾向の原因について紹介します。認知症や内科的疾患など、生活に大きな影響を与える病気が原因となっていることもあるので注意が必要です。早期発見し対処するための参考にしてください。

認知症

認知症に見られる2つの症状が、傾眠傾向の原因となっているケースがあります。

まずは「昼夜逆転」です。認知症の人は夜間に活動的になり、日中に強い眠気を感じることがあります。この昼夜逆転が傾眠傾向を引き起こすことがあるのです。

もうひとつは認知症による「意欲低下」です。何もやる気が起こらない無気力状態から、活動量が低下し傾眠傾向を引き起こします。

加齢に伴う体力低下

加齢に伴う体力低下によって、以下の症状が起こりやすくなります。
・神経伝達機能も少しずつ衰えていく
・夜の眠りが浅くなりやすい

このような原因により、日中にウトウトと眠気を感じる傾眠傾向を引き起こすことがあるのです。

脱水症状

脱水症状は高齢者に発症しやすく、めまいや倦怠感などの「意識レベルの低下」を引き起こします。その結果、傾眠傾向を招くのです。高齢者は水分を体内に蓄える機能が低下しているため、食事をきちんと摂り定期的に水分補給することが大切です。

内科的疾患

発熱や頭痛、腹痛などの内科的疾患が原因で、意識がもうろうとして傾眠傾向を引き起こすことがあります。長い期間、症状が継続すると傾眠傾向だけでなく命に関わることもあるので注意が必要です。発熱などの症状が収まれば状態は安定する傾向にあります。

慢性硬膜下血腫

慢性硬膜下血腫とは、頭を強く打つことにより脳と硬膜の間に血腫(血が溜まったもの)ができる病気です。血腫は時間と共に大きくなり、脳を圧迫します。圧迫された脳は、働きが低下し傾眠傾向の症状が現れるのです。早期に発見し治療することが必要とされます。

薬の副作用

薬の種類によっては、副作用で傾眠傾向の原因となるものがあります。

以下に、傾眠傾向を引き起こす薬を紹介します。
・抗てんかん薬
・花粉症対策の薬に含まれる「抗ヒスタミン薬」
・睡眠薬
・鎮痛剤

薬の副作用は、服用する量や個人によって大きく異なります。市販で手に入る薬にも、傾眠傾向を引き起こす成分が含まれる場合もあります。傾眠傾向が見られる場合には、服薬について主治医と相談することが必要です。

食後の低血圧

食事性低血圧と呼ばれ食後30分から1時間程度で、急速に低血圧の状態になります。血圧が低下することによって脳の血流が悪くなり、めまいや傾眠傾向を引き起こすのです。

食べたものを消化するために血液が消化器官に集中するので、低血圧の状態になります。しかし動脈硬化や糖尿病などの重大な病気が関係している可能性もあるため、早期に医師に相談する必要があります。

傾眠傾向による問題

医師に相談する男性

傾眠傾向は意識障害の一種であり、ウトウトしている状態です。眠っているような状態なので、安全に食事や歩行をすることが難しくなってきます。ここでは、傾眠傾向により引き起こされる「誤嚥」「転倒や転落などの事故」について解説します。

誤嚥

誤嚥とは、食べ物や唾液が食道ではなく気管に入ってしまうことです。傾眠傾向の人は食事中にもウトウトしてしまうことがあり、誤嚥してしまう危険性があります。

高齢者は食べ物を飲み込むための「嚥下機能」が低下していることが多いため、注意が必要です。誤嚥は肺炎や窒息など、生命に関わる重大な事態を引き起こすリスクがあります。

転倒や転落などの事故

傾眠傾向では意識がはっきりしていないため、無理に移動しようとすると転倒や転落などの介護事故を引き起こすことがあります。

また座っているだけの場合でも、眠気が原因で姿勢を保てず車椅子からずり落ちてしまうことも珍しくありません。姿勢が崩れてきたら声を掛けるなどの刺激を与え、体勢を整えることが重要です。

認知症の人が寝てばかりいるとどうなる?

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認知症の人が寝てばかりいると、以下のように様々な問題が発生します。
・昼夜逆転
・筋力や関節の可動域が低下する
・床ずれ(褥瘡)など

昼夜逆転は夜間に活動的になるため、日中に眠気を感じやすくなります。その結果、認知症や傾眠傾向の進行に拍車をかけてしまうリスクもあるのです。また、筋力など身体機能が低下したり褥瘡ができたりすると、さらに活動量が減りベッドで過ごす時間が多くなってしまいます。

つまり認知症の人が寝てばかりいると、病気を進行させる悪循環に陥ってしまうリスクが高くなってしまうのです。次章では、傾眠傾向の対処法について紹介します。

傾眠の対処法

傾眠の対処法ここでは傾眠傾向の対処法について5つを紹介します。
1. 医師に相談をする
2. こまめに水分補給をする
3. 積極的にコミュニケーションをとる
4. 日中の活動量を増やす
5. 昼寝をする場合は短時間にする

医師に相談をする

傾眠傾向は、認知症などの重大な病気が原因となっている場合があります。まずは主治医に相談するのがよいでしょう。また、薬の副作用が原因の可能性もあります。医師の判断によっては、薬剤の見直しも行われるかもしれません。まずは現在の生活や服薬の状況を主治医に伝え、治療や介護の指示を受けましょう。

こまめに水分補給をする

脱水症は、傾眠傾向の原因のひとつです。高齢者は喉の渇きを感じにくく、水分を体内に蓄える機能も低下しています。よって脱水症状を起こしやすいのです。ひどい場合には、頭痛やめまい、吐き気などの症状が現れます。

高齢者は喉の渇きを感じにくいため、こまめに水分補給を勧めましょう。また食事からも多くの水分を摂取できます。食事や水分を摂りにくい場合は、ゼリーや果汁を含むものを提供することも有効です。

積極的にコミュニケーションをとる

傾眠傾向では、声掛けなどの軽い刺激で目を覚ましてくれます。積極的に話しかけることで、意識レベルを高めることが可能です。本人の興味に合わせた話題を選ぶと、コミュニケーションがとりやすいでしょう。

体調や時間帯によっては、うまく話せないこともあるかもしれません。そんな時は少し時間を置いてみるのも有効です。「どうせ寝ているから」とあきらめずに、無理のない範囲でコミュニケーションをとってみましょう。

日中の活動量を増やす

日中に活動することで、体温が上がり血行も良くなります。また日中の運動は規則正しい生活リズムを生み、睡眠の質を向上させてくれるのです。

また運動することで、気分がリフレッシュする効果もあります。適度な運動は、認知症の進行を予防する効果が期待できます。ただし無理をすると、ケガの原因となってしまいます。運動の量や強度は、本人に合わせましょう。

昼寝をする場合は短時間にする

短時間の昼寝はリラックス効果があり、午前中の疲れを取ってくれます。30分程度の昼寝が最適です。しかし長時間の昼寝は、生活リズムを乱します。夜間の活動が活発になり、日中の傾眠傾向の原因となってしまうのです。昼寝をする場合には、30分程度の短時間が好ましいでしょう。

認知症の末期症状とは?

車椅子の写真

認知症の進行は、初期症状・中期症状・末期症状の3段階に分けられます。初期から中期にかけて記憶力や判断力が急速に低下し、日常生活の動作を一人で行うことが難しくなってしまうのです。

認知症の末期症状では、話しかけても反応がなくなり、筋肉のこわばりも見られます。身体機能の低下から、「食事でむせることが多くなる」「歩行など身体を動かすことが難しくなる」などの症状が見られることも多いです。食べ物を飲み込む嚥下機能も低下するため、誤嚥性肺炎などにも注意が必要になってきます。

介護のお悩みは「介護の広場」へ相談しよう

家族でパソコンを見ている様子

今回は、傾眠傾向について紹介しました。居眠りとよく似ていますが、原因はまったく異なります。寝不足が原因の居眠りに対して、傾眠傾向には認知症や脱水症状、内科的疾患などのリスクが潜んでいるのです。

大切な家族が「傾眠傾向かもしれない」と感じたら、早期に主治医へ相談しましょう。医療や介護の方針について、指示を受けられます。

また家庭でもできる対処法としては、以下の方法があります。
1. こまめに水分補給をする
2. 積極的にコミュニケーションをとる
3. 日中の活動量を増やす
4. 昼寝をする場合は短時間にする

本人に無理のない範囲で日中活動量を増やし、水分摂取を促しましょう。

傾眠傾向や認知症の原因・症状は、人によって様々です。どんなふうに対応すればいいか分からず、不安に思う方も多くおられます。まずは一人で悩まず、主治医や専門家、同じ経験を持つ人へ相談しましょう。

同じ経験を持つ人が近くにいない場合は、「介護の広場」がおすすめです。介護の悩みを持つ方たちが日ごろの悩みを投稿し、介護の経験のある一般の方や専門家からの回答がいただけます。

介護の広場
増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。