2023.06.26

【介護の専門家が解説】在宅介護のメリット・デメリットとは?

最終更新日:2023.10.06
増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

同居する家族に介護が必要になってきたけど、このまま在宅介護を続けるか、施設へ入居してもらうべきか悩んでいる方は多いのではないでしょうか。本人や家族の希望で、在宅介護を続けたいという思いもあるでしょう。在宅介護だからこそメリットもあれば、デメリットももちろんあります。それは施設介護においても同様です。

本記事では、在宅介護のメリットやデメリット、在宅で受けられる介護サービスなど、在宅介護に関する情報を紹介します。在宅介護を続けるべきか悩んでいる方は、ぜひ本記事を読んで、今後の介護方針を決める際の参考にしてみてください。

在宅介護のメリット・デメリット

在宅介護のメリット・デメリット

はじめに、在宅介護のメリットとデメリットを見ていきましょう。

良い面と悪い面を把握し自分の生活に当てはめてみることで、今後も在宅介護を続けるべきかどうかの判断基準になるので、ぜひ一緒に考えていきましょう。

在宅介護のメリット

在宅介護のメリットは、以下の3つです。

・住み慣れた自宅で生活できる
・介護費用を抑えることができる
・必要な介護サービスを選択し、利用できる

どれも在宅介護を続けていく上で、大きなメリットと言えます。それでは、それぞれの詳しい内容を見ていきましょう。

住み慣れた自宅で生活できる

在宅介護のメリットは、なんと言っても自分が住み慣れた自宅で生活できることです。

日本財団が、67歳~ 81歳の方(当事者)と35歳 ~59歳の高齢の親を持つ方(子世代)に対して行った全国調査によると、人生の最後を迎えたい場所について、以下のような結果でした。

・自宅:58.8%
・医療施設:33.9%

自宅と答えた理由としては「自分らしくいられる」「住み慣れているから」などがありました。住み慣れた場所で自分らしく最期を迎えられることは、在宅介護の最大のメリット言えるでしょう。

※日本財団.「人生の最期の迎え方に関する全国調査結果」 .https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/pr/2021/20210329-55543.html,(参照2023-06-26)

介護費用を抑えることができる

在宅介護は施設介護に比べて、介護費用を安く抑えることができます。なぜなら、在宅介護では基本的な介護サービス費以外はかかりませんが、施設介護の場合は住居費や食費など、経済的な負担が増加します。

以下は、在宅介護と施設介護でかかる費用の一例です。

要介護5の場合の費用の一例
在宅介護 施設介護(特養)
約3万6千円 約10万円

このように、在宅介護は施設介護よりも費用を大きく抑えられます。

※厚生労働省.「サービスにかかる利用料」 .https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html,(参照2023-06-26)

必要な介護サービスを選択し、利用できる

在宅介護の場合は、必要なサービスのみを選択できるため、介護の自由度が高くなっています。また、不要なサービスを受ける必要がないため、先ほど紹介した費用面のメリットにもつながるでしょう。

施設介護の場合、日常生活全般の介護サービスがパッケージ化されて提供されるイメージのため、こまかくサービスを選択できず費用も高くなります。介護を受ける本人にとって、本当に必要なサービスだけを無駄なく提供できるのは、在宅介護の大きな魅力でしょう。

在宅介護のデメリット

一方で、在宅介護のデメリットは、主に以下の2つが挙げられます。

・家族の負担が大きい
・不足の事態に対応できない

家族の負担に関しては、身体面以外でもさまざまな負担があります。それぞれ詳しい内容を解説していくので、在宅介護を選択する際の参考にしてみてください。

家族の負担が大きい

在宅介護では、介護する家族の負担が大きくなるデメリットがあります。

家族負担は、主に以下の3つに分けられます。

・身体的負担
・精神的負担
・経済的負担

それぞれの詳しい内容を見ていきましょう。

身体的負担

在宅で介護する場合は、以下のような身体介護を行う必要があり、体力的な負担が大きくなります。
・食事を準備して提供する食事介助
・オムツ交換やトイレへの誘導などの排泄介助
・ベッドから起き上がり椅子に移動するなどの移乗介助

そのほかにも、介護度によっては入浴介助や着替えの介助なども必要です。こういった身体的負担を少しでも減らすためにも、さまざまな介護サービスを効果的に使うことが重要になるでしょう。

精神的負担

在宅介護をすると体力的な負担だけでなく、時間を取られるというデメリットがあります。介護によって限られた時間が奪われることで、自分の時間がなくなり、リフレッシュできないことでストレスになることが考えられます。

また、家族が認知症で意思の疎通が上手くいかなかったり、驚くような言動をされたりすることでイライラするかもしれません。人によっては責任感が強く、完璧な介護を求めてしまい、上手くいかない時に自分を責めてしまう心配もあるでしょう。

経済的負担

先述では、在宅介護は施設介護に比べて、経済的負担は少ないとお伝えしましたが、基本的な介護サービス費はかかります。また在宅介護の場合、介護する家族の時間が奪われるため、その時間は仕事ができず収入が減るという不安があります。

このように、お金だけでなく使える時間が減ることも、経済的負担が増えることにつながるため、お金と時間のバランスを考えながら、在宅介護か施設介護を選ぶといいでしょう。

不測の事態に対応できない

在宅介護の場合は、急な体調不良や転倒による怪我などが発生しても、専門職がいるわけではないため、すぐに適切な対応ができません。また食事中の窒息や、転倒による頭部出血など、命の危険がともなうケースでは、パニックになる可能性も考えられます。

その点、施設介護では、常時専門職による見守りがされており、医師や看護師などがすぐに駆けつけられる体制が整っているため、不足の事態が起きても安心です。

ただ在宅介護でも、24時間体制で訪問してくれるサービスもあるため、必要であれば利用を検討してみるといいでしょう。

在宅介護で受けられるサービス

在宅介護で受けられるサービス

ここからは、在宅介護で受けられる以下3つの介護サービスの種類を紹介します。

・訪問型サービス
・通所型サービス
・宿泊型サービス

在宅介護を続けるためには、どれも重要なサービスなので、ぜひ知っておいてください。では、それぞれ詳しい紹介に入っていきましょう。

※厚生労働省.「各介護サービスについて」 .https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000608309.pdf令和2年版, 2020. (参照2023-06-26)

訪問型サービス

訪問型サービスは、以下のとおりです。

・訪問介護…介護士が自宅に来て介護サービスを受けられる
・訪問入浴介護…寝たきり等の方を対象に自宅に浴槽を持ち込み入浴介助してくれる
・訪問看護…看護師が自宅に来て病気や障害に応じた看護が受けられる
・訪問リハビリテーション…専門職による心身機能の維持や回復を目的としたリハビリを受けられる
・居宅療養管理指導…医師が自宅に来て療養上の管理や指導、助言などをしてくれる
・定期巡回・随時対応型訪問介護看護…介護士または看護師が定期的に自宅に来て24時間体制で介護と看護を提供してくれる
・夜間対応型訪問介護…訪問介護の内容を夜間でも対応してくれる

基本的な介護サービスであれば、訪問介護を利用すればいいでしょう。寝たきりで自宅での入浴が難しい方の場合、訪問入浴介護を利用すれば入浴が可能です。それぞれの特徴を調べて、家族の状況にあった訪問型サービスを選びましょう。

通所型サービス

通所型サービスは、以下のとおりです。

・通所介護(デイサービス)…デイサービスセンターに通い介護士による介護サービスを受けられる
・通所リハビリテーション(デイケア)…病院や診療所等に併設された施設で専門職によるリハビリを受けられる
・認知症対応型通所介護…認知症の方に限定したデイサービスで認知症に適した介護を提供してくれる
・療養通所介護…主に難病やがん末期者の要介護者を対象に介護や看護サービスが受けられる
・小規模多機能型居宅介護…施設への通いを中心に短期間の宿泊と組み合わせ介護サービスを提供してくれる
・看護小規模多機能型居宅介護…訪問看護と小規模多機能型居宅介護を組み合わせており看護と介護を一体的に提供してくれる

デイサービスを利用すれば、日中は自宅を離れて施設で過ごすため、介護する家族の休養にもなりますし、その時間で仕事をすることも可能です。通所型サービスは、利用する本人にとっても社会とのつながりを持ったり、リフレッシュできる機会になったりするため、効果的に利用してみるといいでしょう。

宿泊型サービス

宿泊型サービスは、以下のとおりです。

・短期入所生活介護…利用者の孤立感の解消や家族の介護負担軽減のために短期間宿泊して介護サービスを受けられる
・短期入所療養介護…短期入所生活介護と似ているが薬の管理やリハビリなどの医療的ケアを中心としたサービスを提供してくれる
・小規模多機能型居宅介護…施設への通いを中心に短期間の宿泊と組み合わせ介護サービスを提供してくれる
・看護小規模多機能型居宅介護…訪問看護と小規模多機能型居宅介護を組み合わせており看護と介護を一体的に提供してくれる

宿泊型サービスは、レスパイトケア(※)を目的としており、家族の介護負担を軽減するのに有効です。在宅介護の負担が増えていると感じた際は、一度宿泊型サービスを利用してみるのもいいでしょう。

※公益財団法人 総合病院 浅香山病院.「レスパイトケア」.https://www.asakayama.or.jp/wp-content/uploads/2016/03/cb7ba6c7507757cdb44849293ce8bead.pdf令和元年版, 2019.(参照2023-06-26)

施設介護のメリット・デメリット

施設介護

最後に、施設介護のメリットとデメリットについても触れておきましょう。在宅介護と比べながら、自分の状況にあった介護を選択するきっかけにしてみてください。

施設介護のメリット

施設介護のメリットは、以下の3つです。

・家族の介護負担を軽減できる
・他の利用者と交流できる
・生活しやすい環境が整っている

施設介護の最大の魅力は、家族の負担軽減でしょう。また施設の場合、介護を必要する方が住みやすい環境になっているため、自宅よりも生活しやすいと感じる方もいるかもしれません。

質の高い介護サービスを受けられるというメリットもありますが、これは施設のレベルによって異なるため必ずあるメリットとは言えないでしょう。

施設介護のデメリット

一方、施設介護のデメリットは、以下の3つです。

・在宅介護よりお金がかかる
・他の方との交流がストレスになる
・環境の変化によって病状が悪化する

施設介護のデメリットは、最もわかりやすい点で言えば、在宅介護よりも費用がかかるという金銭的な部分でしょう。

ただそれ以上に、環境に適応できない場合、病状が悪化する可能性があります。とくに認知症の方は、環境変化によって混乱しやすいため、施設利用当初は変わった言動がないか確認しておくといいでしょう。

在宅介護のことでお悩みの方は「介護の広場」に相談しよう

専門家に介護相談をする親子

今回は、「在宅介護のメリット・デメリット」について解説しました。介護を受ける本人のことを考えると、在宅介護がいいのではと思う方が多いでしょう。しかし、どれだけ本人が望んでいたとしても、介護をする家族の負担が限界を超えてしまっては元も子もありません。現状に不安がある場合は、市区町村や地域包括支援センターの担当者に相談してみるのもひとつの方法です。

介護の広場」では、親の介護で悩みを持つ人たちが介護の悩みを投稿することで、介護経験のある一般の方や介護の専門家から回答をいただけます。介護に悩んでいる方は、ぜひお気軽にご利用ください。

介護の広場
増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。