2021.09.08

認知症の家族への上手な対応方法①

最終更新日:2021.09.08

認知症になっても心は生きている

夫婦

認知症について、間違った知識を持っている方は少なくありません。たとえば、「認知症になると何もかもわからなくなる」「人間性が失われる」と思っている方も多いようですが、これは誤りです。認知症になっても、本人の心はきちんと生きていることを理解してください。認知症でよく見られる症状のひとつが、物わすれです。過去の体験やできごとを忘れてしまう一方で、習得した技能は体と脳が覚えている、といったことは珍しくありません。そのため、過去の記憶をなくしても、ピアノを演奏できたり、絵を上手に描けたりといったことがあります。認知症になったからといって、心がすべてを忘れてしまうわけではありません。家族が誤った知識をもったまま接してしまうと、大切な家族を傷つけてしまうおそれもあります。まずは、認知症に関する正しい知識を身につけましょう。

家族がたどる4つの心理ステップ

積み木_階段

認知症と診断された結果を、なかなか受け入れられない方もいるかもしれません。おそらく、多くの方は信じたくない、ウソだと言ってほしい、そう考えてしまうのではないでしょうか。ここでは、認知症患者の家族がたどる4つの心理ステップをお伝えします。

第1ステップ「戸惑い・否定」

多くの方は、高齢家族の物わすれがひどくなった、会話がうまく成立しなくなった、などをきっかけに医療機関での診断を決意します。その結果、認知症だと診断されると、多くの場合家族は戸惑ってしまうでしょう。やはり、心のどこかで「認知症でありませんように」との気持ちがあるからです。その気持ちが強ければ強いほど、認知症だと診断されたとき大きな戸惑いが押し寄せます。それと同時に、否定の気持ちも湧きあがってきます。「そんなはずはない」「身内に認知症の人はいないし何かの間違いだ」のように、現実を受け入れられません。医療機関からたしかな診断結果を伝えられても、信じたくない気持ちが強いため否定の感情が生じてしまうのです。

第2ステップ「混乱・怒り・拒絶」

戸惑いと否定の感情が過ぎ去ると、次は頭と心が混乱します。「どうしてこんなことになったのか」「なぜうちの家族がこんな目に遭うのか」などと混乱してしまい、次第に怒りや拒絶といった感情が湧きあがってしまいます。ごく最近まで普通に生活していた家族が、認知症だと診断されたのですから、混乱してしまうのは当然かもしれません。得も知れない怒りの感情が湧きあがってくるのも理解できます。ただ、もっともショックを受けているのは、本人であることを忘れてはいけません。家族が混乱し、ぶつけようのない怒りの感情をまとってしまうと、認知症と診断された方はさらに悲しくなってしまいます。「自分のせいで大切な家族が混乱し悲しんでいる」と自らを責めてしまうかもしれません。大切な家族に、そのような思いをさせたくはありませんよね。

第3ステップ「割り切り・あきらめ」

このステップまでくると、心はだいぶ落ち着きを取り戻しています。認知症でも家族であることには違いない、これからも大切な家族である、と割り切れるようになるのです。ただ、人によってはうまく気持ちを割り切ることができず、あきらめの感情を抱いてしまう可能性もあります。特に、認知症に関して誤った知識を抱いている方の場合、このような心理状態になってしまうことが少なくありません。「認知症になると自分がわからなくなる」「人とコミュニケーションがとれなくなる」など、誤った知識をもっている方がいます。このような誤った知識があると、「これまでのように家族として接することができないかも」とネガティブに考えてしまい、その結果あきらめの感情を抱いてしまうのです。

第4ステップ「受容」

認知症になったことも含め、すべてを受け入れる段階です。ここまでくると、戸惑いや怒り、あきらめといった感情はなりをひそめ、認知症になった家族を支えながら、どのように生きていこうかと考えられるようになります。これまでは、大切な家族が認知症になったことを受け入れられず、苦しい心理状態が続きましたが、ここまでくればひとまず安心です。家族とともに未来を考えられる段階に到達しており、ネガティブな考えにも及ばなくなっています。もちろん、すべての方が受容のステップへスムーズにたどり着けるわけではありません。人によっては、しばらくの間、家族の認知症を受け入れられず、苦しい日々を送るかもしれません。それでも、いつか受け入れなくてはならない日は必ずきます。同じところへ立ち止まらず、家族と一緒に新たな未来を探ってみましょう。

認知症患者に共通する特徴

介護

認知症患者には、共通する特徴があることをご存じでしょうか。それを理解できていれば、認知症を患った家族への対応の仕方が見えてきます。認知症患者に共通する特徴を把握し、接し方の参考にしてください。

新しい事は覚えられない

記憶障害は、認知症患者にもっともよく見られる症状のひとつです。本人が新しいことを覚えたとしても、そのことすらすぐに忘れてしまいます。数分前、数日前に覚えたばかりのことでも、まったく覚えていないケースもあります。たとえば、ゴミ出しの曜日が変わったことを教えたとしても、認知症患者は覚えられないことが多いため注意が必要です。スマホや家電の使い方なども、そのときは覚えていたとしても時間を置かずに忘れてしまうことが多々あります。新しいことを覚えてもらうときには、何度も繰り返すことが大切です。また、一度にいろいろなことを教えるのではなく、ひとつずつ覚えてもらうよう心がけましょう。言葉だけで伝えるのではなく、イラストにする、体で覚えるなど、工夫次第で覚えてもらえる可能性が高くなります。また、たとえすぐに忘れてしまったとしても、怒るのは厳禁です。病気だということを理解しましょう。

体験したことをまるごと忘れる・過去に遡って忘れる

認知症における記憶障害では、記憶が現在から過去にさかのぼって忘れていきます。記憶が過去にタイムスリップしてしまい、現在のことがわからなくなることも珍しくありません。たとえば、家族の顔を忘れてしまうのはよくある話です。夫や妻の顔、兄弟姉妹の顔を忘れてしまい、まるで初めて会ったかのようなリアクションをしてしまいます。ただ、このようなときでも、過去の写真や映像を見せると、自分の家族であることを認識できるケースが多いのです。これは、すなわち記憶が過去にタイムスリップしているということです。若いころの家族の姿は覚えているのに、現在の姿を忘れてしまっているのです。このような場合に、否定したり怒ったりするのではなく、きちんと受け入れてあげましょう。家族としては寂しいかもしれませんが、本人は決して家族のこと忘れているわけではないのです。

信頼している人により強い症状を見せる

こうした認知症の症状は、家族に見せることがほとんどです。友人や知人に対してはしっかりとした態度で接することが多く、認知症といっても信じてもらえないことも。一方、家族には記憶障害をはじめとする、さまざまな症状を見せます。信頼している人にこそ、強い症状を見せることがわかっています。「どうして家族を苦しめるようなことを…」と思った方もいるかもしれませんが、家族を苦しめたいわけではありません。家族を心から信頼し、安心しているからこそこうした症状が強く現れるのだといわれています。

増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者
多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。