2021.09.14

移動介助|下肢の力の観察とフットケア

最終更新日:2022.07.25
増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

移動介助の基本について

介護士②

移動介助(移乗介助)とは、日常生活を送るうえで必要になる、「寝返る」「起き上がる」「立ち上がる」「座る」「歩く」の5種類の介助です。それぞれの介助を安全に行うためには、移動介助前に介助される人の体調を確認して、動作のたびに声をかけてから動作と介助内容を伝えるようにします。また自立支援を意識して適切な介助をおこなうためにも、介助される人の身体能力を知ることが大切です。
移動介助(移乗介助)をおこなうときには、周囲の環境にも配慮して細心の注意を払いましょう。

J・ABCランクとは

移動介助の基準としては、J・ABCランク(障害高齢者の日常生活自立度判定基準)が使われています。J・ABCランクは、介護保険制度の要介護認定で認定調査の基準となる指標です。J・ABCランクそれぞれを紹介します。

J1(生活自立)

ランクJは何らかの障害等はあるものの、ほぼ自立して日常生活を送れる程度を言います。ランクJは独力で外出ができる程度であり、交通機関等を利用して外出することができます。例えば足などに障害があってもバスや電車を使って積極的に外出している、遠くまで外出できる場合はJ1に該当します。そのため、病院や買い物など必要な外出は自分でこなすことができるでしょう。

J2(生活自立)

J2もJ1と同様に生活自立に区分されます。J1と同じように何らかの障害などは有するが、日常生活はほぼ自立して行える状態です。ただしJ1もJ2も同じ独力で外に出られる状態だとしても、J1とは違いがあります。J2の場合は隣近所であれば、外出できる状態です。日常の買い物や地域の集まり、老人会などへの参加はできる状態。町内程度の距離や範囲なら一人で出かけられる状態の人がJ2に該当します。これらの状態は、一定期間の生活を確認して日ごろの状況から決定します。

A1(準寝たきり)

ランクAは準寝たきりに分類されます。「寝たきり予備軍」とも呼ばれるグループです。house-boundと表現されることもあります。ランクAに該当する人は屋内でおこなう日常生活、食事や排せつ、着替えに等に関してはおおむね自分ですることができます。また留守番などもおこないます。しかし、近所に外出する場合には介助者の援助が必要です。同じランクAでもA1とA2には大きな違いがあります。A1は介助により外出し、日中はほとんどベッドから離れて生活している状態。介護者がいれば比較的頻繁に外出する人がA1と判断されます。

A2(準寝たきり)

A2はA1と同様に日常生活の食事や排せつ、着替えに関してはおおむね自分でおこなえる状態です。しかし、外出の頻度が少なく、日中も寝たり起きたりの生活をしているケースが該当します。A2の場合は、ベッドから離れている時間のほうが多いものの、介護者がいてもまれにしか外出しません。

B1(寝たきり)

ランクBはいわゆる「寝たきり」に該当するグループです。chair-boundと分類されることもあるでしょう。ランクBは座位、つまり座った状態で一日の大半をベッドの上で過ごします。ただし、食事や排せつ、着替えのいずれかはベッドを離れる状態です。この時、夜だけオムツが必要になる場合は、介助が必要とはみなしません。ランクBのB1とB2を分けるポイントは座位を保てるかどうかです。車いすに乗るときやポータブルトイレに座るときに介助が必要か、自力でおこなうかの違いで区分します。B1は介助なしに車いすに乗って、食事も排せつもベッドから離れて行う場合に該当します。

B2(寝たきり)

B2もB1と同様に寝たきりに該当しますが、B1と違って介助がないと車いすやポータブルトイレに座ることができない状態です。また日常生活についてもB1とは違いがあります。B2は食事や排せつに関しても介助者のサポートを必要とします。座った状態を独力で保つことも難しく、座位保持のために介助が必要です。

C1(重度寝たきり)

ランクCはランクBと同じように「寝たきり」に該当します。しかし、ランクBよりも障害の程度が大きい場合にランクCに該当します。ランクBがchair-bound に分類されるのに対して、ランクCはbed-boundとして扱われます。ランクCでは日常生活活動である食事や排せつ、着替えのいずれにおいても介護者の援助が全面的に必要です。また日中もずっとベッドの上で過ごします。C1とC2を分けるポイントは自力で寝返りがうてるかどうかです。C1は自力で寝返りをうつことができます。常にベッドで寝ている状態ではありますが、自分で体位を変えることができる状態です。

C2(重度寝たきり)

C2はC1と違って自力で寝返りがうてない状態を言います。そのため体位を変えることなく、ベッドの上で常に横になっています。

フットケアについて

フットケア

介護の現場で移動といえば、体を支えて動かすことというイメージが強いかもしれません。しかし移動の前提となるのがフットケアです。足の爪の役割は体を支えて安定させること。また歩くときにも足の指がけりだす力を足の爪が伝えています。安全かつスムーズに移動するためには、足や足の爪にトラブルがないことが不可欠です。高齢になると肌が乾燥するように爪もまた乾燥します。乾燥することで足の爪は硬く分厚くなっていきます。新陳代謝も衰えるため、爪も伸びにくくカットしにくくなり割れやすくなるでしょう。

フットケアの基本として足の皮膚や爪は日ごろから観察、チェックしてください。また歩きにくそうにしている、歩き方が変わったという場合も、足の爪やできてしまったタコが原因の場合があります。

足の状態をチェックするときには、足の色や温度、ひび割れの有無などをみて必要に応じたケアをおこないます。クリームを使った保湿やお風呂の後のフットマッサージなどで足をいたわってください。爪の状態が悪くなることで足に力を入れにくく歩行が困難になるだけでなく、転倒の危険も大きくなります。動作の要である足は日ごろからこまめにメンテナンスしておくようにします。手や足が触れ合うスキンシップは、気持ちを安らげる効果も期待できるでしょう。

靴や靴下を選ぶこと

高齢者_靴下

お年寄りにとって足にあっていない靴や靴下も、足と足の爪のトラブルの原因となります。若いときから気に入った靴や靴下を履き続けている人もいるかもしれません。しかし、気に入っていても足に合わない靴は歩きにくく転倒リスクが高まります。

早い段階で自分に合う靴と靴下を選ぶようにしてください。靴を選ぶポイントは足幅が合うかどうか、土踏まずのアーチやサイズ感、足が固定されるかどうかなど複数あります。可能であればシューフィッターにみてもらうようにしてください。靴下もサイズ感や履きやすさで選ぶようにしてください。

指が動かしやすい5本指タイプの靴下もよく見かけますが、高齢になると履きにくいことがあります。履きやすいタイプの靴下や2本指タイプの靴下も試してみましょう。足や足の爪の状態を保つためにも靴下の素材にもこだわります。化繊よりも肌へのあたりが優しい綿や絹を100%の靴下を選ぶようにすると良いでしょう。

増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。