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地域包括ケアシステムとは
厚生労働省が早期の実現を目指している地域包括ケアシステムです。近年よく耳にする言葉ですが、概念自体は1980年代からありました。広島県の御調町(現在の尾道市)による、高齢者の寝たきりゼロを目指した取り組みが、やがて地域包括ケアシステムと呼ばれるようになったのです。地域包括ケアシステムを簡単に説明すると、地域が一体となり高齢者のサポートを行うシステムのことです。高齢者住み慣れた街で、自分らしい生活を送れるよう、介護や医療が連携して包括的なサポートを行えるシステムを指します。厚生労働省は、2025年をめどに地域包括ケアシステムを提供できるよう取り組みを始めています。
なぜ地域包括ケアシステムが必要か
我々を取り巻く環境は年々変化しています。核家族化や少子高齢化がますます進んでいる時代であるため、今後家族だけで高齢者の介護を行うのは困難です。これが、地域包括ケアシステムが必要といわれるひとつの理由です。少子高齢化が今後も進むと、介護を必要とする高齢者の数はさらに増えるでしょう。特に、団塊の世代と呼ばれる人々が75歳以上となる2025年以降は、より介護や医療サービスのニーズが高まると考えられています。厚生労働省が、2025年をめどに地域包括ケアシステムの構築、提供を目指しているのもこうした理由があるからです。少子高齢化や核家族化の流れに歯止めがきかない以上、今後の日本社会において地域包括ケアシステムの構築は必要不可欠と考えられます。
地域包括ケアシステムの5つの構成要素
おそらく、多くの方は地域包括ケアシステムと聞いてもピンとこないでしょう。言葉は聞いたことがあっても、具体的にどのようなシステムなのか、どういった内容なのか詳しく理解している方は多くありません。地域包括ケアシステムを理解するには、構成する5つの要素を知る必要があります。地域包括ケアシステムは、住まいと医療、介護、生活支援・介護予防・生活支援の5つの構成要素で成り立ちます。これら5つの要素からひとつ欠けても、地域包括ケアシステムは完成しません。次からは、地域包括ケアシステムを構成する5つの要素をひとつずつ分解して見ていきましょう。
住まい
高齢者に限らず、人間らしい生活を送るには住まいが必要です。住まいは生活の根幹をなすものであることから、まずは住むべき場所を確保しなければなりません。特に高齢者なら、安定した日々の生活を送るのに住まいが必要です。
医療
高齢になると、筋力や体力が衰えます。若いころに比べると骨ももろくなり、転倒しただけで骨折やじん帯断裂といったケガをするケースも珍しくありません。高齢者が安心して生活を送れるよう、適切な医療サービスが求められます。
介護
身体能力の低下により、日常生活を送りにくくなる高齢者は少なくありません。自立した生活を送れない高齢者に対しては、専門家のサポートを加えた適切な介護サービスの提供が必要です。
生活支援・介護予防
自立した生活を送れなくなった高齢者に対し、専門家や近隣住民による生活サポートが必要です。また、高齢者が要介護状態にならないよう、症状が今以上に悪化しないよう介護予防にも取り組まなければなりません。
生活支援
高齢者の中には、掃除や洗濯、買い物といった日常生活を送ることが不自由な方もいます。日常的な家事以外にも、外出や交流においてサポートが必要になるため、専門家や地域住民が適切な支援を行える体制が必要です。
地域包括ケアシステムにおける4つの「助」
地域包括ケアシステムでは、自助や共助、互助、公助の4助をうまく連携させ、高齢者が抱えるさまざまな生活課題を解決に導きます。ここからは、地域包括ケアシステムにおける4つの助について詳しく見ていきましょう。
自助
自分で自分を助けることを自助といいます。高齢になると、自分の力でできないことが増えてしまいますが、だからといってすべて他人任せではいけません。安心かつ快適な暮らしを実現するには、自身の努力も必要です。介護予防への積極的な取り組み、自費での介護サービス利用なども自助のひとつです。
共助
制度に基づいた助け合いのことを共助と呼びます。介護保険や社会保険制度、医療や年金などは共助の概念に含まれると考えられます。加入者から集めたお金を使って、必要な方にサービスを提供する保険は、まさに共助の概念を具現化しています。
互助
互いに助けあうことを指します。仲のよい友人が困っているときに助けた、そのお返しに今度はこちらが助けられた。これも互助です。お互いが自発的に相手を助けるために行動を起こすことを、互助と呼びます。
公助
公共の制度やシステムを利用して助けることを指します。生活保護や虐待対策、人権擁護などをはじめ、生活保障制度や社会福祉制度なども公助に含まれます。
地域包括ケアシステムと地域包括支援センター
高齢者の介護や支援に関するさまざまな相談に対応しており、保健師や社会福祉士、ケアマネージャーなどにアドバイスをしてもらえます。地域包括支援センターを利用できるのは、施設が管轄するエリアで暮らしている人です。地域に根ざした福祉の増進を包括的に支援するための施設であり、地域包括ケアシステムとも大きく関わっています。厚生労働省でも、地域包括ケアシステムの構築において中核をなすのは地域包括支援センターだと考えています。医療や福祉機関との連携、地域ケア会議の主導、介護支援専門員同士のネットワーク構築などを行っている地域包括支援センターだからこそ、地域包括ケアシステムを実現するにあたり重要な施設と考えられています。
地域包括ケアシステムの課題
地域包括ケアシステムを実現するには、医療と介護が密に結び付く必要があります。医療に携わる側と介護に携わる側が連携、協力しないことには地域包括ケアシステムは完成しません。言葉にすると簡単ですが、医療と介護それぞれの関係者同士には見えない壁があるといわれています。お互い担当する業務領域が異なり、価値観や考え方も異なるからです。医療と介護、双方の関係者が協力し合える関係性をまずは築かねばなりません。また、地域包括ケアシステムにおいて必要となる互助ですが、地域によっては難しいのが現実です。昔と違い、現代の日本では地域との関わりをあえて避ける人が増えています。近所づきあいもなくなり、隣に誰が住んでいるのかわからないことも珍しくありません。地域社会の力、互助を活用するという理想は素晴らしいのですが、現実的には難しいのではないかとの声が上がっているのも事実です。地域包括ケアシステムを実現するには、こうした問題もクリアしなければなりません。さらに、地域包括ケアシステムはサービスの主体が国から自治体へ移行するため、サービスの質に違いが生じる問題も懸念されています。自治体によって、財源や人的資源に大きな違いがあるからです。
地域包括ケアシステムについて理解を深めよう
日本の少子高齢化と核家族化が今後もますます進むと考えられます。介護を求める高齢者の増加と、家族だけでの介護が難しくなる状況を打破するため、地域包括ケアシステムの実現が急務です。ただ、本記事でもお伝えしたように、地域包括ケアシステムにはクリアしなければならない課題がたくさんあるのも事実です。課題をクリアするには、国や行政の努力も必要ですが、国民の理解も必要不可欠です。
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多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。