2021.06.10

これから介護予防をしたい方へ|介護予防運動① 事前の注意点

最終更新日:2022.05.06
小池 涼太
理学療法士

介護予防の目的

ハート

介護予防は、QOL・ADLの向上・維持目的があります。QOLとは「生活の質」のことで、ADLは「日常生活動作」のことです。どちらか片方だけではなく、両方のバランスを保っていくことで、その人らしい生活を維持することができます。ADLは、食事・移動・トイレ・入浴など日常に必要な動作です。最低限必要な動作ですが、自分の身の回りのことができれば、身体も心も安定しやすいでしょう。さらにQOLで幸福感を高めることが大切です。介護予防は、本人の生活のためだけでなく、同居する家族の幸福感にもつながっていきます。

加齢に伴う体の変化を把握する

困っている男性

介護予防運動をする前に、加齢によりどのように体が変化していくのか知っておきましょう。変化を理解せずに始めてしまうと、故障の原因になる場合があります。無理せず続けるためにも、加齢により体の変化を理解しておいてください。加齢による体の変化は、可動域・筋力・持久力・バランス力・俊敏性の低下が挙げられます。若いころとは体の動きが変わってくるため、どのように低下するのか確認しておきましょう。自分がやれると思っている以上に、体の機能が低下していることがあります。

可動域

加齢に伴い、関節や軟骨の変化がみられるようになります。関節や軟骨が薄くなり、弾力性が低下して、可動域が低下していくでしょう。また、関節周りのじん帯や腱の組織が弱くなり、関節が固く動かしづらくなっていきます。とくに、体幹関節可動域が低下すると、寝返りや起き上がりの際に痛みを感じるようになります。無理に動かそうとすると痛みを伴うため、運動で動きをスムーズにさせていきましょう。運動により可動域が広くなると、痛みを解消できます。

筋力

加齢による筋力低下は、40代くらいから見られ始め、60代になると顕著になってきます。20代と80代の筋肉量を比べると、半分くらいまで低下しているともいわれています。筋肉量の低下を防ぐなら、体の中でも筋肉量が多い下半身の筋肉を増やしましょう。下半身の筋肉量は、上半身と比べても加齢による低下がみられやすいとされています。とくに高齢者で多い筋力低下の原因は、サルコペニアによるものです。サルコペニアでは筋線維と数も減少しやすくなります。筋肉量が低下すると、歩く際に躓きやすく転倒しやすいため注意が必要です。転倒で腰を大きくぶつけてしまうと、寝たきりになる場合も少なくありません。

持久力

加齢や運動不足の原因で、持久力が低下していきます。持久力が低下すると、少し歩いただけでも疲れやすくなるでしょう。長時間歩くことが難しい場合は、持久力アップのための運動を取り入れてください。加齢による持久力の低下は、心肺機能が落ちることが原因です。何も対策をしなければ、心肺機能が年々低下していき、体力の衰えを感じるようになります。持久力が低いと、酸素を取り込む量が少ないため、少し動いただけで息が上がります。無理に運動をしようとすると血圧が上昇しやすいため注意が必要です。また、持久力アップの運動は、筋肉痛予防にも役立ちます。トレーニング後に足腰が痛みやすい方は、疲労回復目的で持久力アップの運動がおすすめです。

バランス能力

高齢になると、さまざまな要因によりバランス能力が低下していきます。筋肉量の低下や関節の柔軟性、平衡感覚や感覚機能の低下などが原因になります。バランス能力が低下すると、立ったまま靴下をはくのが難しくなるでしょう。歩いている際のふらつきや転倒の恐れも出てきます。バランス感覚は、立っているとき、座っているとき、歩くとき、ジャンプするときなど、さまざまな動作で必要です。専用の運動を取り入れると、転倒防止に役立ちます。体をスムーズに動かしやすくなり、疲れやすさの軽減にもおすすめです。

体形・姿勢

高齢になると、腰が曲がり前傾姿勢になっていきます。腰が曲がるとバランスを取りづらくなり、転倒しやすくなるでしょう。若いころと比べて関節の可動域が狭くなり、肉の付き方も変化していきます。以前着られた服であっても、加齢とともにきつく感じられることがあります。同じサイズの服であっても、着心地に変化がみられるでしょう。加齢による姿勢や体形の変化は、運動で予防することができます。背中が曲がれば腰痛の原因になりやすいため、腰をささえる筋肉を鍛えて、関節の動きをスムーズにさせましょう。

俊敏性

加齢による俊敏性の低下は、筋肉の質の変化や神経伝達の低下が原因となります。俊敏に体を動かすためには、速筋が必要です。運動不足や加齢により筋肉量が低下していくと、体を素早く動かしにくくなります。また、加齢による俊敏性の低下は、神経機能の低下による関与が大きいとされています。体を動かすには、脳から指令を出して、神経を通して体に伝えなければなりません。筋肉量の低下を防ぎ神経の働きをスムーズにするため、適切な運動を取り入れていきましょう。とっさに足が出ない場合も、神経の伝わりが鈍くなっている恐れがあります。

介護予防運動を効果的にするコツ

ハート

介護予防のためには運動が必要だと家族が理解していても、本人がやりたがらない場合があります。なぜ運動をやりたくないのか、原因を突き止めるようにしましょう。もしかしたら不安による問題や、運動の必要性を理解していないのかもしれません。運動を継続してもらうために、家族ができる対策を知っておきましょう。

運動への不安を取る

運動をやりたがらない理由は、運動への不安が原因かもしれません。高齢になると、若い頃より運動機能が低下するため、上手くできるか不安を抱えがちです。または、運動を始めたばかりの頃は痛みを感じやすく不安がある方もいるでしょう。運動による不安がある方へは、その人に合った運動を進めることが大切です。最初は無理のない運動から始めて、体への痛みを軽減させながら、少しずつ進めていってください。楽しみながらできる運動を取り入れると、不安感が薄れる場合もあります。

運動の必要性や有効性を理解してもらう

高齢者が運動を嫌がる原因のひとつが、運動の必要性や有効性を理解していない問題があります。誰でも、メリットを感じないものは、積極的に取り組みたいとは思わないでしょう。漠然と運動を嫌がる場合は、家族から運動の必要性を説明してみてください。年を取ってからでも運動の効果が得られることを説明するのがおすすめです。人によっては、「もうやっても遅い」と感じてしまう場合があります。または、運動により自立した生活を送ることができると説明してみましょう。以前楽しんでいた趣味やスポーツができるとわかれば、運動を嫌がっていた人でも取り入れやすくなります。

自信を取り戻してもらう

介護予防で運動を取り入れる理由は、自信を取り戻してもらう目的もあります。運動機能が低下している人でも、運動を少しずつやれば、機能が改善しやすいでしょう。出来なかった動作がスムーズになると、本人も生きがいをもてるようになります。自信を取り戻してもらうためには、家族のサポートが大切です。出来たら褒めて、おだててその気にさせましょう。一人で運動を続けようとしても挫折しやすくなりますが、周りのサポートがあると運動が楽しくなります。

継続的に行う

介護予防のための運動は、できるだけ継続させるようにしてください。運動での機能向上は、一気に上がることはなく、少しずつ効果がみられていきます。途中で運動を止めてしまうと、また振り出しに戻りやすいため注意が必要です。また、普段から運動を続けている人と比べて、止めた人は出来た動作が難しくなる傾向があります。介護予防の運動は、機能の向上だけでなく維持目的でもあるため、効果が目にみえにくくても続けることが大切です。

介護予防運動を行う前の安全対策・事故防止策

公園の遊具
介護予防運動を取り入れる際には、安全対策を心がけてください。運動をしても事故や怪我をしてしまっては意味がありません。高齢者は、若いときと体の機能が違うため、異常が見られたらすぐに中止できるようにしましょう。

運動前にチェック

介護運動を始める前に、医師の診察を受けるようにしてください。病気がないか、血圧が上がっていないか、心臓機能に問題がないかなど確認してもらいましょう。高齢者の場合は、筋肉や関節の問題を抱えている場合もあるため、レントゲンでのチェックも場合によっては必要です。メディカルチェックは、1年に1回は受けるようにしてください。健康に問題がないときでも、どのくらいの運動強度が適しているのか、医師や専門家からアドバイスを受けることが大切です。

運動中の注意点

医師から運動の許可が得られた場合でも、運動中に異常がみられる場合は中止してください。例えば、顔面蒼白になっている、動悸がするときなどです。息苦しさや強い痛みを感じるときも、運動を中止してください。また、高齢者は転倒するリスクがあるため、家族など周りに人がついていると安心です。一人で運動ができる際にも、手すりを使う、滑り止め対策をするなど転倒防止に努めてください。運動で痛みが出るような強度の強い動きも、高齢者の場合は避けるようにしましょう。

小池 涼太
理学療法士

“理学療法士として維持期リハビリとして高齢者が住み慣れた地域でいつまでも生活できるようリハビリを提供してきた。
現在では高齢者の地域での生活を支えるだけでなく、生きがいを持った生活が送れるよう、QOLの向上を目指し、心を豊かにするリハビリを提供できるよう活動している。”