2021.06.23

健康寿命と日常生活動作の関係|介護予防運動⑤ 日常生活動作訓練

最終更新日:2021.06.23
加藤 隆三
理学療法士 地域リハビリテーション推進員"理学療法

日常生活動作(ADL)とは

運動をする高齢者

日常生活動作(ADL)とは、Activities of Daily Livingのことです。直訳すると「Activities of Daily Living」で、「Activities」は動作、「Daily Living」は日常生活の意味があります。つまり、日常生活を送るための動作のことです。ADLが重要なのは、介護の必要性を判断する目安に、ADLができるかできないかがあるためです。日常生活の項目は、基本的日常生活動作(BADL)と、手段的日常生活動作(IADL)に分かれています。BADLは、起居動作・移乗・移動・食事・更衣・排泄・入浴・整容が含まれます。IADLは、掃除や料理など、日常生活で複雑な動作のことです。基本的な日常動作ができるかはBADLで判断し、季節による服装の変化や身だしなみを整えることはIADLで判断されます。介護が必要な場合は、どの段階の動作まで自分で行えるか判断しなければなりません。

健康寿命と日常生活動作

健康寿命は、健康な状態で日常生活を送れる期間のことです。高齢者が健康でいるためには、ADLの維持や向上が重要です。健康寿命を縮める要因は、病気だけでなく転倒による怪我や運動機能障害も含まれています。日常生活が正しく送れる状態は、適切な栄養バランスが摂取でき、健康を維持する運動も取り入れられるでしょう。中でも、健康寿命を延ばす方法として、適切な運動が求められています。毎日の生活に運動を取り入れると、生活習慣病の予防や、転倒リスクの防止になります。健康寿命を延ばしてADLの維持や向上が期待できる運動は、家庭でも取り入れることは可能です。介護予防として運動を取り入れて、寝たきりを予防しましょう。

自分の日常生活動作の状態をチェックする

日常生活動作が正しくできているかチェックする方法として、「FIM」があります。「FIM」は、「Functional Independence Measure」の略語で、機能的自立度評価法という意味です。点数による評価が利用できるため、介護予防のためのセルフチェックとしてもおすすめです。家族と一緒に点数をチェックして、必要な介護予防を選ぶこともできます。評価に必要な項目は、運動項目と認知項目があります。全部で18項目をチェックして、7段階で評価が可能です。運動項目は、13項目あります。食事、トイレ、歩行などをチェックします。衣類を自分で脱ぎ着できるのか、階段を登れるのかなどのチェック内容です。認知項目は、5項目あります。コミュニケーションがとれるのか、社会的交流ができるのか、記憶力はどうなのかなどをチェックします。

日常生活動作を改善するための日常生活動作訓練

運動をする男性

ADLを維持・向上させるには、毎日の生活での訓練が有効です。日常動作訓練は、ご飯を食べる、トイレに行くなど、生活で必要な動作を訓練していきます。まだ日常生活で問題が出ていなくても、介護予防として取り入れるのがおすすめです。将来、体の機能に低下がみられてから訓練を行うのではなく、訓練をしておくことで予防ができます。日常に必要な動作は、その人が家庭で生活するために必要なため、衰えないよう対策をしておきましょう。

日常生活動作訓練の具体例

日常生活動作訓練は、多数のやり方があります。立ち上がりに問題がある方や、歩行に問題があるなど、その人に合わせた訓練を選びましょう。寝返りや起き上がりなど、睡眠時に必要な動作の訓練方法もあります。どの訓練も、本人の意思を尊重することが大切です。無理強いするのではなく、本人が自分のことを自分でやれるために訓練するようにします。また、訓練をしておけば、介護をしている家族の負担も軽くなります。

立ち座り

立ち座り動作の訓練は、椅子やベッドからの立ち上がりや、トイレでも役立ちます。椅子から立ち上がる動作は、下半身の筋力が必要です。訓練では、下半身を鍛えるトレーニングを取り入れていきます。具体的には、椅子を使ったスクワットや、座ったままできる下半身筋力トレーニング方法です。また、椅子から立ち上がるには、腰を深く曲げる必要があります。普段の生活で腰を曲げる動きは少ないため、訓練で曲げる動きを取り入れていきます。

しゃがみこみ

しゃがみこみは、床に落ちた物を拾うときに必要な動作です。物を拾うときに必要な動作は、腰を曲げて物をつかみ、腰を落として腰を上げる動作が必要になります。これらの動作には、下半身の筋肉が必要なため、訓練では下半身トレーニングを行います。具体的な訓練は、スクワットなどの下半身トレーニングです。椅子を使いながらのスクワットなら、筋力が弱い方でもふらつかずにトレーニングできます。また、壁を背にしながらしゃがみ込む動きも、下半身トレーニングにおすすめです。

方向転換

歩行時の方向転換が難しいときは、歩行器や杖を使ったトレーニングが有効です。自分の足で歩けるなら、補助器具を使って体を方向転換させましょう。歩行器も杖も、効果的な使い方があります。方向転換では、足や腰の動きを使っているため、それらを補助するために器具が必要です。また、方向転換の訓練として、サイドステップやクロスステップの練習法があります。足をサイドにずらすことができるようになってから、足をクロスさせて方向転換をスムーズにさせる訓練です。

歩行(屈曲歩き)

高齢者で膝を曲げるように歩行している場合は、歩行訓練がおすすめです。屈曲歩きになってしまうのは、足腰の筋力低下が原因です。また転倒による恐怖感が残っている精神的な問題もあります。足が上がりにくくなったときは、下半身の筋力トレーニングが有効です。バランス感覚の低下で転倒しやすくなったときは、平衡感覚を鍛えるトレーニングを活用します。歩行訓練といっても、さまざまな種類があります。後ろ歩き、横歩き、大股歩きなどです。体の状態に合わせながら、歩行訓練をしていきましょう。

寝返り

寝返りの補助が必要な人でも、適切な訓練で寝返りできるようになることがあります。自分で寝返りするには、重心の移動訓練が必要です。手や腰を使って重心を移動させる必要があります。重心の移動は、手を高く上げて重心を左に移動させると上手くいきます。また、膝を立てて腰を横に倒すと、自力で寝返りしやすくなるでしょう。筋力が低下して寝返りができない人でも、コツをつかむ訓練で寝返りしやすくなります。介助が必要な際にも、出来る部分を自分で動かすと、機能低下の予防になります。

起き上がり

自分で起き上がりができない人でも、少ない力で起き上がりができるようになります。仰向けになったまま起き上がりが難しいときは、一度上半身を横に倒します。体を横にすると、手を使って起き上がれるようになるでしょう。また、筋力が低下している人は、クランチでお腹周りの筋力をアップさせます。仰向けになったまま、上半身を起き上がらせると、腹筋のトレーニングになります。上半身を持ち上げるのが難しい人は、仰向けになり手足を上にあげキープさせる方法もおすすめです。

ADLを取り入れて、体の機能を維持しよう

高齢者の介護予防に興味があるなら、日常生活動作訓練を取り入れてみてください。家庭でできる訓練もあるため、毎日の生活に取り入れてみましょう。日常動作がスムーズになれば、体の機能も保ちやすくなります。できるだけ介助が不要になるよう、体の機能を維持または向上させるトレーニングを取り入れてみてください。

加藤 隆三
理学療法士 地域リハビリテーション推進員"理学療法

資格取得後は整形外科におけるリハビリテーション部の立ち上げに従事。その他、中学や高校の野球チームでトレーナーとして携わる。現在は介護サービスにおいて、お客様の生きがいや生活の質を高めることをコンセプトとした生活リハビリの業務に従事している。その他、地域リハビリテーションに力を入れており、静岡市を中心に介護予防教室を30回以上開催し、自立支援型ケア会議に参加している。その他、福祉用具専門相談員に対して、福祉用具の選定方法などの講演を行う。