2021.10.22

大腿骨頚部骨折とは?症状や前兆、予防について説明

最終更新日:2022.07.25
東海林 さおり
看護師

高齢者に多い骨折のひとつに、大腿骨頚部骨折があります。認知症などの病気により、骨折に気付かないまま過ごす方もいるため周囲の注意が必要です。大腿骨頚部骨折はどのような人に起こるのか、また、どのような前兆があるのか見ていきましょう。

高齢者に多い骨折とは

骨折

骨折とは、骨の構造にトラブルが生じた状態のことです。折れることだけでなく、ヒビが入ることや欠けること、一部分がへこむことも骨折と呼びます。骨が健康な状態のときには骨折は起こりにくいものです。しかし、骨密度が低くもろい状態にあったり、骨の一部分に何度も強い力がかかったりした場合、骨の構造が破壊されて骨折につながることもあります。

大腿骨頚部骨折

大腿骨頚部骨折とは、股関節を包む関節包で生じる骨折です。この部分が骨折すると脚の付け根に血流障害が起こりやすくなります。大腿骨は体内でもっとも大きな骨で強度も高いですが、大腿骨頚部に関しては湾曲しているため外部から力がかかると折れたりヒビが入ったりしやすいという特徴があります。そのため、年齢を重ねることなどで骨密度が低くなっていると、少しの刺激、例えば、ひねったりこけたりといった刺激だけでも骨折が起こりかねません。とりわけ骨粗鬆症の方や女性の方など、骨密度が低い傾向にある方は大腿骨頚部骨折になるリスクが高いので、注意が必要です。

腰椎圧迫骨折

腰椎圧迫骨折とは、腰椎が周囲から圧力を受けて折れること、あるいはヒビが入ったりへこんだりすることです。骨密度が低くなっていると、骨の強度が弱まり、腰椎が骨折しやすくなります。骨粗鬆症の方など骨がもろくなっている場合は、腰椎が周囲から強い圧迫を受けなくても骨折することが珍しくありません。また、骨がもろくなくても、激しく転倒して腰部を打つなどの強い衝撃を受けたときや、腰部に負担がかかる姿勢を長時間取り続けることでも腰椎圧迫骨折が起こることがあります。なお、腰椎圧迫骨折も、大腿骨頚部骨折と同じく、骨粗鬆症の方や女性の方など、骨密度が低い傾向がある方に発症リスクが高い骨折です。

骨折の症状と疑われる行動

床に手をつく女性

大腿骨頚部骨折が起こった場合、脚の付け根部分に強い痛みを感じます。そのため、立つことや歩くことが難しくなり、場合によっては寝たきりになってしまうこともあるでしょう。また、寝た状態から膝を立てること、足を持ち上げて移動させることも難しくなることがあります。痛みがあるにもかかわらず我慢して動くと、大腿骨頚部のヒビが亀裂へと発展し、折れて完全骨折になりかねません。骨折がヒビ程度に収まっているときに、脚部に力を加えないように注意しながら早めに医療機関を受診するようにしましょう。高齢者の場合、認知症などで自覚症状に乏しいため、周りの観察が重要です。

見極めのポイント

骨折が疑われるときに早めに対処するためにも、骨がもろくなっている可能性のある高齢者を周囲が注意して観察することが必要です。例えば次のような症状が見られるときは、大腿骨頚部に骨折が生じているのかもしれません。早めに医療機関を受診するようにしましょう。

● あぐらの姿勢などをとると股関節に痛みがある
● 局部に熱感や腫れがある
● 脚の付け根に痛みがある
● 脚の付け根に違和感があり、立ちづらい、あるいは歩きづらい
● 横になった姿勢から脚部を動かしづらい

骨折の予防

食事

骨がもろくなっていると、ちょっとした転倒や打撲といった衝撃でも骨折につながることがあります。骨粗鬆症にならないためにも、普段から骨密度を意識した生活を送ることが必要です。例えば、定期的に骨密度を医療機関で調べ、骨粗鬆症のリスクがあるのか調べることなどが挙げられます。すでに骨粗鬆症であると診断されるときには、薬物治療等により症状の進行をある程度抑えられることも考えられるでしょう。また、骨がもろくならないためにも、普段から栄養バランスの取れた食事をすることも大切です。骨をつくるカルシウムやタンパク質、ビタミンDが含まれた食事を意識して摂るようにしましょう。骨を丈夫にするためには、適度な運動や太陽にあたることも欠かせません。しかし、すでに骨にヒビが入っているときや骨粗鬆症が進行して極度にもろくなっているときは、骨や周囲の組織に負荷のかかる運動は避けるほうが良いこともあります。骨密度を調べた際に、どの程度の運動が適しているか医師に相談するようにしましょう。骨折を予防するためには、骨を丈夫にするだけでなく転倒しにくい環境をつくることも大切です。家の中や庭、玄関周りなどに段差がある場合は、スロープや手すりを取り付けることで転倒予防ができるでしょう。また、浴室やトイレ、洗面所などの滑りやすい場所にも手すりを取り付けておけば、万が一のときに備えておくことができます。

骨折の治療

介護士_問診

骨折の治療が遅れると、ヒビやへこみといった比較的軽症の状態から、骨が完全に折れる重度の状態になってしまうことがあります。脚の付け根などの特定の部位に痛みがあるときは、我慢をするのではなくできるだけ早めに医療機関を受診し、痛みの原因を調べてもらうようにしましょう。骨折であると診断されると、手術が必要になることがあります。骨が折れている場合には骨を金具で固定する「骨接合術」や、大腿骨頭を人工骨頭に取り替える「人工骨頭置換術」などを実施することも少なくありません。また、再度大腿骨頚部骨折やその他の部位の骨折が起こらないように、骨粗鬆症の治療や骨密度を上げる生活も併用して予防対策に努めましょう。骨折治療が終わった後は、リハビリが必要です。筋肉を使わない状態が続くと筋力は低下するので、医師の判断のもと、できるだけ早期から運動とリハビリを実施し、筋力と歩行能力の向上を目指します。

痛みを感じたらすぐに病院に行こう

手すり

大腿骨頚部骨折が生じた際、痛みを我慢して生活していると、完全骨折に発展することがあります。脚の付け根や周辺に痛みがあるときは、できるだけ早期の段階で医療機関を受診するようにしましょう。また、普段から骨折しにくい体と環境を整えておくことも必要です。栄養バランスの取れた食事や適度な運動を習慣にし、家の内外に手すりやスロープを取り付けるなどの工夫もしておきましょう。

東海林 さおり
看護師

看護師資格修得後、病棟勤務・透析クリニック・精神科で『患者さん一人ひとりに寄り添う看護』の実践を心掛けてきた。また看護師長の経験を活かし現在はナーススーパーバイザーとして看護師からの相談や調整などの看護管理に取り組んでいる。