親の介護をしていると、身体能力や生活の変化に戸惑うこともあるのではないでしょうか。高齢の親をサポートするには、変化の理由を理解したうえで、そのつど適切に対処することが大切です。今回は、親の介護をする方に向けて高齢になった親の困った生活習慣と、対処方法について解説していきます。
目次
高齢になった親の困った生活習慣
人は年齢を重ねると、体力や意欲などさまざまな面に変化が訪れます。介護する家族としては、その変化に困惑することも少なくありません。親を介護するうえで困る生活習慣と、その対処法を確認していきましょう。
料理に無頓着になった
親が料理に無頓着になった場合、原因として生活不活発病やうつ病、認知症が考えられます。生活不活発病は、生活が不活発になったことで身体機能が低下する病気です。動かない生活が続くことで筋力が低下し、さらに動けなくなり、活動量が減るという悪循環が生まれるのです。生活不活発病は、意欲低下を生むうつ病によっても引き起こります。認知症の場合は、集中力の低下によって料理ができなくなるでしょう。このようなケースには、責め立てたり無理を言ったりするのは逆効果です。「おいしかった。また作ってよ」「〇〇の作り方今度教えて」と声をかけながら、できることに目を向け本人の意欲を引き出していきましょう。
味付けが濃くなった
加齢により、味覚を感じる味蕾(みらい)という細胞が減少すると、味を感じにくくなるといわれています。甘み、酸味、苦み、塩味のなかでも、特に低下を感じやすいのが塩味です。塩味の感度が低下すると、調味料の分量が増え味付けが濃くなります。どんな料理にも醤油をかけるような様子が見られるときも、味覚変化の原因を解消することが大切です。口の中の乾燥を防ぐために唾液の分泌を促したり、口内を清潔に保ったりするのもひとつの方法。味覚を保つために必要な、亜鉛を積極的に摂るのも良いでしょう。味覚の変化は食欲低下につながる恐れもあるため、「最近味付けが濃くない?」「食事はおいしく食べられてる?」と確認しながら、必要であれば専門医を受診するように働きかけましょう。
聞こえていないのに聞こえたふりをする
聞こえていないのに聞こえたふりをして、会話がかみ合わないというときには聴力の低下が考えられます。聞き間違いのほか、テレビの音が大きくなることもあるでしょう。加齢による難聴は老人性難聴と呼ばれ、高音域から聞き取りにくくなっていきます。自分の声も聞こえづらいため、人との会話が億劫になってしまうのが特徴です。老人性難聴は、健康的な食生活と適度な運動が予防につながるとされています。親が聞こえていないからと、大きな声で話しかけるのはかえって逆効果です。静かな場所で顔を見ながら、小さく低い声で話しかけると聞きとりやすいケースもあります。コミュニケーション不足にならないよう、話し方に工夫を取り入れてみましょう。
体重の増減で病気であると不安がる
体重の増加による肥満は、糖尿病や脂質異常症、脳梗塞などのリスクを高めます。また、週単位で急激な体重増加が見られる場合は、体内に体液がたまっている可能性も考えられるでしょう。心不全や腎不全などで臓器が正常に機能しなくなると、体内の水分を排出できなくなってしまうのです。体重減少が見られる場合は、がんや心不全のような慢性疾患や、筋力低下、低栄養が考えられます。フレイルと呼ばれる低栄養状態の場合、急激な運動が筋肉量を減少させる恐れもあるため注意が必要です。体重の急激な変化があった場合は、原因に合わせた早めの対応が求められます。本人が不安に感じている場合は、体重以外の最近の変化に耳を傾け、医療機関を受診するように心がけましょう。
頻尿と尿漏れ
頻繁にトイレに行きたくなる頻尿や尿漏れは、加齢とともに起こるトラブルです。原因となるのは、過活動膀胱や膀胱炎、骨盤を支える筋力のゆるみなどです。それらの病気自体は重大ではないものの、頻尿や尿漏れはQOL(生活の質)の低下につながります。排尿トラブルを解消するには、生活習慣の見直しや体操などが効果的です。直腸内に便が残ると尿失禁の原因になるため、バランスのとれた食事と規則正しい生活習慣で便秘予防を心がけましょう。また、規則的にトイレの声かけをし、排尿のリズムを整えることも大切です。肛門や膣をゆっくりと強く締め、5秒間保持する骨盤底筋体操も尿漏れ予防につながります。
便秘で便秘薬を何種類も飲む
高齢者の便秘は、弛緩(しかん)性と呼ばれる大腸のぜんどう運動の低下によって起こります。運動量の低下や、食事量の減少が腸の働きを弱めてしまうのです。加齢とともに、腸内の筋力が衰えることも原因だとされています。また、常用している薬が便秘の要因となる場合も。痛み止めに使用されるモルヒネや、精神疾患に用いられる薬も便秘を引き起こす薬剤です。弛緩性便秘の場合、生活習慣の見直しが第一の治療法となります。食物繊維を含むバランスのとれた食事と、筋力をつけるための運動が効果的です。それでも改善されない場合は、整腸作用のある乳酸菌製剤や、クセになりにくい酸化マグネシウムなどが用いられます。腎臓疾患がある場合、酸化マグネシウムを使いすぎると高マグネシウム血症のリスクが高まるので注意が必要です。一度に多くの便秘薬を服用することは、持病や服用中の薬に影響を与えることも考えられます。家族が便秘薬を何種類も飲んでいる場合は、便秘の状態を把握し、ひどい場合は医師に相談するようにしましょう。
段差がないところで、つまずいたり転ぶ
親が段差がないところでつまずいたり、転んだりしたときには、下肢筋力の低下が考えられます。若い人であれば軽いけがですむつまずきも、高齢者の場合は骨折につながる恐れが考えられるでしょう。そのため、親の歩行に不安を覚えたときには転倒予防のための働きかけが大切です。ウォーキングやストレッチなど、日常生活にかんたんな運動を取り入れるだけでも下肢筋力は鍛えられます。また、転倒リスクの高い浴室や階段、玄関先などの環境整備も必要です。親の介護を始めるときは、手すりの設置や段差の解消など転倒しにくい環境を整えましょう。
口腔ケアを怠る
高齢者の口腔ケアには、口内を清潔に保つだけでなく、誤嚥性肺炎や感染症を防ぐ役割もあります。高齢の親が口腔ケアを怠る場合は、まずはその目的を理解してもらうための声かけから始めましょう。義歯(入れ歯)だからと歯磨きを怠るケースもありますが、義歯だけをきれいにしても口の中には雑菌が残ってしまいます。しっかりとうがいをし、残っている歯はていねいに磨く心がけが大切です。また、認知症の高齢者が口腔ケアを拒否する場合は、コミュニケーションが重要。精神的に安定しているときに、「歯をきれいにしましょうか」「ちょっと見せてもらえますか」などと声をかけながら、不安を与えないようにケアしていきましょう。
寝つきが悪くすぐに目が覚めてしまう
体力が低下し老眼になるように、寝つきが悪くすぐに目が覚めてしまうのも、加齢による現象です。睡眠に変化が現れる原因は、日中の活動量の少なさや体内時計の変化が考えられます。外出する機会が減ると、活動量が減る分、必要な睡眠量も減少してしまうのです。また、加齢により脳内のメラトニンの分泌量が減少すると、体内時計に変化が生じます。日中に活動し、夜は休息するというリズムが崩れ、睡眠障害を引き起こすのです。親の介護で寝つきの悪さが見られる場合は、生活習慣を見直す必要があります。日中はしっかりと活動し、起床と就寝の時刻は一定時刻に定めるように働きかけましょう。
老いた親から学ぶこと
親の介護は、不安や戸惑いの大きなものです。しかし、老いた親からは学べることも多々見えてきます。体が弱り、できないことが増えるほど介護量は増加します。ケアマネジャーや介護士、医師や看護師といった、多くの人と力を合わせる必要があるでしょう。できることを増やそうと頑張る親の姿は、介護する側にも励ましを与えてくれます。また、周囲の親身なケアで力が引き出される様子は、コミュニケーションの大切さを教えてくれるものです。自分が老いたときにどのような介護を受けたいのか、周囲とどう関わればよいのかを考えるきっかけにもなるでしょう。これまでできていたことができなくなったり、生活習慣が変わったりと、親の介護では困惑する場面も多々訪れます。お互いにストレスをためないためには、その背景にある理由を正しく理解することが大切です。マイナス面ばかりに目を向けるのではなく、親の姿に自分の老後を重ね合わせながら、親の介護に前向きに取り組んでいきましょう。
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多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。