認知症になると、認知機能が低下するため、日常生活にも大きく影響を与えます。認知症にも種類がありますが、最も多いアルツハイマー型認知症では、脳神経が変性して脳の一部が萎縮することにより、物忘れなどが発症することが知られています。また、脳梗塞、脳出血が原因の認知症は、障害が起きた脳の部位によって症状が違うことも覚えておきましょう。認知症の周辺症状やその対処法について紹介します。
目次
認知症の周辺症状とは
認知症の周辺症状は多岐にわたります。体調と感情それぞれで、どのような変化があるのか知っておきましょう。
体調の変化
認知症に気づくきっかけとしては、物忘れや理解力の低下が一般的です。集中力や作業能力も下がるため、本を読んだり、手芸ができなくなったりといった趣味も楽しめなくなることがあります。これらの変化は日常生活にも大きな影響を及ぼします。例えば買い物の計算が難しくなったり、危険な信号を無理にわたったりすることも認知症の症状の一つです。また、無口になったという場合は、周囲の会話の速度についていけない、理解できないことが原因の場合があります。
感情の変化
体調の変化は感情にも影響します。例えば楽しみにしていた外出や趣味をやめてしまったり、人付き合いを避けるようになったりすることも変化の一つです。また、やる気を失ったり、イライラして怒りっぽくなったりもします。自分の変化を一番間近で感じるのは、認知症になった本人です。今まで楽しんでいたことができなくなる、簡単なことが難しくなることで苛立ちを覚えてしまいます。急にできないことが増え、わからないものが出てくれば自信を喪失して意欲減退にもつながるでしょう。周囲と話がかみ合わなくなれば、漠然とした不安や恐怖感、混乱も生じます。感情の変化があまりに大きい場合はうつ病の可能性もあります。家族だけでケアするのではなく、外部の専門家の力も頼りましょう。
周辺症状の原因
認知症の症状は大きく中核症状と周辺症状に分けられます。中核症状とは、脳の変化が影響し、認知機能が低下して起こるものです。つまり理解力や判断力、集中力の低下や記憶障害、失語、失認を指します。これらの中核症状は、認知症が進行するとともに重くなっていきます。一方で中核症状と、周囲の環境や対応、その人の性質がかかわって起こるのが周辺症状です。中核症状と違って副次的に生じるもので、イライラや不安感、攻撃的になるなどの行動が周辺症状といわれています。周辺症状のような行動、心理症状は周囲にいる人々のかかわりや、生活のあり方、歴史によって変わるもの。置かれた環境や周りの接し方によって症状が軽減、消失することもあります。周辺症状は全ての認知症の人に出るものではありません。中には介護の拒否や徘徊、異食のように問題行動と捉えられる行動をとるケースもありますが、変化に適応するために模索した結果かもしれません。適切なケアによって周辺症状は緩和される可能性があります。
周辺症状がある方への対応の仕方
「百人いれば百の認知症がある」といわれるほど、認知症の症状には違いがあります。どのような症状が出ているかによって、適した対応を考えなければいけません。どういった対応が必要になるのかまとめました。
周辺症状について強く指摘をしない
周辺症状への対応として必ず守っておきたいのが、強い否定や指摘をしないことです。周辺症状には必ず理由があります。介護している際に、問題行動の理由に気づけないこともありますが、それでも強く指摘することは避けましょう。その時気づくことができなくても、後からわかるケースもあります。もしも問題行動を強くいさめたり、無理やりやめさせたりすれば、問題行動の裏にある理由はそのままになってしまいます。周辺症状の理由を理解することで対応できるケースも多いので、根気強い対処が必要です。認知症の人が感情的になっているときには、時間をおいてから落ち着いて話をしてみるなど、さまざまなアプローチを試してみください。
認知症の方に頼ってもらう存在になる
周辺症状により、日常生活にも大きな影響を与えます。多くの場合は、問題行動に対して直接、早急に対処しようとするでしょう。しかし、時間をかけて認知症の方と向き合い、認知症の方に頼ってもらうことが、周囲の家族や認知症となった本人の気持ちに変化をもたらします。まずは症状を受け止めてから、適切な支援を受けることで症状との付き合い方を知ることができれば、本人も周囲の人々も暮らしやすくなるでしょう。
ケース別の対応の仕方
介護には、多くのパターンがあり、ケースによりその対応も違います。決まったパターンだけで対応できるわけではありません。ここではケース別に対応方法を紹介します。
介護者が嫌われている場合
特に何かしたというわけではないが、認知症の方から嫌われてしまう介護者がいるかもしれません。認知症の人にとっては、介護者は急に現れた知らない人と感じられてしまうことがあります。そんなときには、その人が「頼りにしている人の知人役」や、「子供の友達」になったりして、まずは親しみを感じてもらうようにします。心配がないと理解すれば、いずれ気持ちもほぐれていくでしょう。
お年寄り同士の言い争い
認知症のお年寄り同士(夫婦や知人同士など)で言い争いをしている場合もあります。認知症になると、感情がコントロールできなくなったり、周囲の感情に巻き込まれてしまったりすることがあります。ケンカを見かけると、すぐに止めなくてはと感じる人もいるかもしれません。しかし、いきなり中断させても感情がくすぶり続けて問題解決にならないこともあります。それぞれに危険がないようであれば、まずは見守る方法もあります。どうしてもケンカが続く場合は、顔を合わせないように配慮したり、第三者を交えて話し合ったりすることも解決の糸口になるでしょう。
頼られる介護者になるには
認知症の方から頼りにされる介護者になるためには、まず信頼関係の構築が必要です。認知症の人は、自分の変化や周囲の環境に不安を感じています。しかし、助けて欲しいと感じていても、恥ずかしさや恐怖からそれを口に出すのは難しいことも。助けてほしい気持ちを言えないジレンマの中で、精神的な負荷も大きくなるでしょう、信頼関係が築けていれば、精神的な支えになれます。信頼関係を築くためには、きつく当たられた時でも、変わらずに対応して、味方であると伝え続けることです。認知症の進行につれて、物忘れは増えますが、感情は心に残りやすくなります。周辺症状について、強く否定、叱責すればその時の感情だけが残ってしまうかもしれません。信頼関係を築くためには、まずは相手のペースに合わせて、良い感情を残すように努めましょう。
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多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。