2021.12.14

誤嚥の予防法・対処法について

最終更新日:2022.07.25
増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

高齢の家族が食事時にむせやすくなったら、日頃の予防・対処が必要です。家族は、誤嚥の予防と原因、対処法、緊急時の対応を覚えておきましょう。この記事では、誤嚥になる複数の原因や予防について紹介しています。家庭でできる食事時の姿勢や食事の工夫等の予防法も紹介しますので、参考にしてみてください。誤嚥は日頃の予防や対処法でも防ぐことができるため、家族は知識を得ておくようにしましょう。

誤嚥とは

誤嚥
この記事では、誤嚥の予防・対処法について解説しています。まず、誤嚥とは、何らかの原因により、食べ物が気管に入ることです。通常食べ物は、咽頭から食道を通り胃に送られています。食べ物が気管に入ると、窒息や誤嚥性肺炎になる恐れがあるため注意が必要です。人にとって食事は、栄養を補給するとともに、楽しみのひとつでもあります。何らかの原因により食べ物が気管に入れば、適切な栄養が補給しづらくなり、食事の楽しみも低下してしまうでしょう。また、人が食べる行為は、実はさまざまな動作が関係しています。口の中に食べ物が入ると脳が判断し、飲み込める大きさになるまで咀嚼します。さらに舌の動きで喉に送られ、鼻の入り口を閉じて食道に送られると、気管の入り口を閉じなければなりません。これらの動作は無意識に行っています。

誤嚥に至る要因

誤嚥に至る要因
高齢者が誤嚥になる主な原因は、神経や筋肉の問題です。飲み込みに関係する神経や筋肉の働きが、何らかの原因で低下しています。神経や筋肉の動きが低下する直接的な原因は、脳卒中やパーキンソン病などです。脳卒中が起きると、舌を動かしにくい、食べ物を感じにくい、スムーズに動かないなどの問題が生じることがあります。結果的に、食べ物を飲み込みづらく、噛めない問題や、食事中にむせることに繋がるでしょう。また、脳卒中は認知機能の低下の原因でもあり、判断の問題で誤嚥になる場合もあります。一方で、パーキンソン病は神経筋疾患のひとつです。神経と筋肉の伝達に問題があるため、誤嚥になりやすくなります。手の震えや歩行障害があるときは、パーキンソン病を疑いましょう。ほかにも加齢による筋肉の低下や、うつ病、口内炎などが誤嚥の原因になることもあります。誤嚥の原因といっても種類があるため、幅広い面で原因を特定しましょう。食事時にむせやすくなり、体重減少があるようなら、医師や専門家の診察がおすすめです。

誤嚥の予防法

誤嚥の予防方法
誤嚥が起きやすくなったら、日常生活の中で予防しましょう。または、加齢に伴う筋力低下を予防する目的でも、適切な対処がおすすめです。家庭でできる予防は、食事やトレーニングがあります。

食事時の姿勢

横になったままでの食事は、誤嚥になりやすいため注意が必要です。むせやすい場合は、上半身を起こすようにして、誤嚥を予防しましょう。ベッドで寝ていることが多い場合でも、リクライニング機能で上半身を起こしてください。自力で体を起こせるなら、椅子に座って食事をしましょう。歩行が難しい場合は、車椅子に座らせると、テーブルについて食事ができます。椅子や車椅子に座る際には、上半身をやや前かがみにして、腕で支えると姿勢が安定します。ベッドでの食事は、上半身40~80度の角度がおすすめです。足のリクライニングも利用しながら、膝を少し曲げると姿勢が楽です。頭を前に倒しやすいよう、首や頭の後ろにクッションを挟むようにしてください。

食事内容の工夫

誤嚥になりやすいなら、次のような食事に注意が必要です。
・味噌汁のような水分の多いもの
・バラバラでまとまりのないもの
・パサパサした乾燥した食べ物
・餅のような粘りの強いもの
・酸味が強い食べ物
・硬くて喉に詰まりやすいもの

汁物やバラバラなものは、とろみをつけましょう。乾燥した食べ物は、適度に水分を加えると食べやすくなります。酸味が強いものはむせやすいため避けて、硬いものは潰します。食事中は水分の多いものから食べさせると、胃酸の分泌を促すためおすすめです。その後は、水分の多いものを交互に加えると食べやすくなります。また急いで食べさせず、時間に余裕を持つようにして、自分のペースで食べさせてください。日頃の食事が誤嚥の予防につながります。

日頃からできるトレーニング

誤嚥を予防するトレーニングは、口や舌の筋肉を動かす方法があります。口を膨らませてしぼませる動きを交互にしましょう。舌は、前に突き出して引っ込める動きをすると、筋肉を鍛えることができます。また、カ行・タ行・ラ行・パ行を発音すると、食べるときと同じ筋肉が刺激できるでしょう。声を出しながら口を動かしトレーニングをします。腹式呼吸を鍛えると、喉に詰まったとき吐き出す力がつきます。ゆっくり息を吐きお腹をへこませるようにしましょう。次は、息をゆっくりと吸い込み、お腹の中に空気を入れるような気持ちで呼吸します。

誤嚥の対処法

誤嚥の対処方法
高齢者が食事をしているときは、家族が見守ることが大切です。食事時に、むせていないか、飲みにくくしていないか確認しましょう。もし誤嚥が起きているようなら、「エヘン」と咳払いをしてもらいます。喉が詰まり自力で吐き出すことができないときは、応急処置が必要です。横向きに寝かせて背中を手のひらで叩くか、片手で胸を支え上半身をうつぶせにして背中を叩いてください。それでも改善しなければ、背中側から両手で胸をかかえ、手を組んだ部分で胸を圧迫します。または、女性で力がないときは、仰向けにさせて胸を圧迫するだけでも有効です。窒息した場合は、救急車を呼びましょう。周りの人に助けを求めながら対処すると、慌てずに済みます。家族に誤嚥しやすい人がいるなら、事前に緊急時の対処法を学びましょう。病院やリハビリ施設で指導してもらえます。専門家から食事の注意点を聞いておくと安心です。

誤嚥について

誤嚥
加齢に伴い、食事時に誤嚥しやすくなります。食事でむせやすくなったら、家族は注意してみるようにしてください。また、家族と一緒に食事やトレーニングの指導を受けておくと、家庭でも予防・対策できるでしょう。とくに注意したいのは、認知症の場合です。誤嚥だけでなく誤飲のリスクも高まるため、食事時は家族がつきそうようにしてください。万が一の際の対処法も覚えて、誤嚥による事故を防ぎましょう。

増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。