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睡眠不足による、様々なリスクとは
仕事で残業が多い、家族の介護でなかなか眠れない、趣味を楽しむ時間が欲しいなど、睡眠不足になる原因はあらゆるところにあります。しかし睡眠不足はできるだけ早く解消し、十分な睡眠をとる習慣づけがおすすめです。なぜなら睡眠不足により引き起こされる日常生活のリスクがあるためです。ここでは睡眠不足が原因で生じやすい、自分や周囲への影響を解説します。
前頭葉に影響が出て、怒りっぽくなる
睡眠不足は心臓病や脳卒中、高血圧などを引き起こす恐れがありますが、それ以上に怖い脳への影響もあるといわれます。前頭葉の働きは睡眠不足によって低下し、日常生活に必要なスキルも下がってしまいます。前頭葉が持つ働きは、脳の記憶を引き出す・論理的思考・クリエイティブな発想・適切な判断などです。自制心のある賢い人として動くために欠かせない機能で、どの仕事や日常生活のシーンにも欠かせません。しかし睡眠不足で前頭葉の働きが下がると自制がききづらくなり、イライラから怒りっぽくなる場合もあります。その結果、どこかに体をぶつけてケガをしやすくなる、じっとしていることが難しくなるなどの状態が現れるかもしれません。
代謝機能や免疫機能が低下する
代謝機能とは生き物の体の中で行われる化学反応全てをさします。腸管から吸収した栄養素から体内の活動に必要なものをつくり出す同化作用と、つくり出したものを分解しエネルギーを生み出す異化作用の2種類があります。免疫機能とは、体内で発生したがん細胞・細菌やウイルスなどの微生物・その他異物から自分の体を守る仕組みです。睡眠不足には体のあらゆる代謝を低下させ、グルコース代謝異常が起きると血糖値が上がりやすくなり、2型糖尿病を引き起こしやすいといわれます。体重減少や体力の低下、体調不良などが起きる場合もあります。あわせて脂質代謝にも影響があり脂肪がたまりやすく肥満になる可能性もあがります。睡眠不足は食欲も増しやすいため、肥満のリスクは高い状態です。肌細胞の代謝も低下しがちになり、メラニンが排出されずにたまってシミやそばかすができる、古い角質がたまり肌荒れやニキビができる場合もあります。睡眠中は成長ホルモンの分泌がさかんになり、日中の活動で傷ついた細胞の修復を行います。しかし睡眠不足の場合は十分な修復をしきれず、免疫細胞が減少する恐れもあります。
感情のコントロールが効かなくなる
いわゆるキレやすい人は感情のコントロールが効かなくなった状態です。キレやすい人の具体的な行動には、できごとに対してすぐ怒り、その度合いが大きい・怒り続ける・怒りを暴言や暴力で表すなどがあります。以前までは素行の悪い人、マナーのなっていない人で片づけられる場面もありましたが、現在の精神医学では極端な場合に病気と位置づけています。実は、睡眠不足が続くことで精神病に繋がる可能性もあります。ある実験結果によると、2日程度睡眠不足になっただけで前頭葉へ影響を与えることがわかりました。前頭全皮質は論理性や意思決定を司る働きをしますが、偏桃体とうまく結びつかず感情のコントロールができなくなるといわれます。怒りや恐怖を司る偏桃体の反応が60%増幅するともいわれているのです。
男女とも、生殖機能が低下する
まず男性の場合、ノンレム睡眠という深い眠りにあるとき男性ホルモンのテストステロンが分泌されます。睡眠不足のときはノンレム睡眠の時間が短くなり、テストステロンが大幅に減少します。テストステロンは異性をひきつけるフェロモンを発生させ、興奮作用のある神経伝達物質のドーパミンを増やす働きがあります。しかし減少すると精子数や正常形態率が低くなるといわれ、生殖機能の低下につながります。筋肉量が減り脂肪が増えてメタボになりやすくなるほか、精神的に落ち込みがちでうつのような症状が出ることもあります。
次に女性の場合、卵巣から分泌される女性ホルモンは脳の視床下部や下垂体から分泌の指令を出します。脳と卵巣がうまくつながれば卵胞刺激ホルモンなどの分泌がスムーズになり生殖機能を維持しやすいですが、睡眠不足の影響を受けるとバランスが崩れ分泌が乱れます。他に無理に痩せることや強いストレスも重なると、女性ホルモンの分泌が低下し排卵や月経周期に影響することがあります。女性ホルモンの分泌が低下すると、肌の水分量が減って乾燥する、髪がパサつくなどの身体への影響や情緒不安定・怒りっぽくなるなど精神的な影響も現れやすくなります。
DNAに異常が起きる
DNAとはデオキシリボ核酸の略称で、人の体全ての細胞に存在します。DNAにもとづいて体細胞・器官・臓器をつくる、いわゆる体の設計図です。毎日規則正しい生活を送り、十分な睡眠をとる前提でDNAは活動するため、睡眠不足の状態では遺伝子を正常に伝えられず、遺伝子異常やDNA構造への攻撃が発生しやすくなります。DNA異常が起きると例えば肌荒れが発生し、肌状態が悪くなって実年齢より老けて見えることがあります。ニキビや敏感肌を引き起こす場合もあり、健やかな肌を目指すには十分な睡眠が欠かせません。
仕事の生産性が激しく低下する
睡眠不足で判断力や集中力が低下すると、自分の業務だけでなく所属する企業全体の生産性を著しく低下させ、日本全体では約15兆円の経済損失が生じるとのデータがあります。また、睡眠不足で自分のミスをカバーする方法を考えられず他人のせいにする、手柄を立てたいあまり横取りするなどの傾向も強くなりがちです。十分な睡眠がとれて感情の自制がきき判断力も欠けていなければ、自分の仕事や周りに対する配慮もできます。例えば上司やリーダーが睡眠不足で周囲を考えられない状態にあれば、部下や仲間の士気が下がり成果がなかなか上がらない負の連鎖が起きるでしょう。もし残業続きで十分な睡眠時間の確保が難しければ、自分ひとりで抱えず周囲やさらに上の立場の人、ときには会社へも相談し業務改善に取り組みましょう。
生活リズムを見直そう
日本の成人の多くが常に睡眠不足の状態にありながら、それを普通ととらえる人もいます。中には忙しい毎日で充実していると感じる人もいますが、睡眠不足は気持ちで補えるものではありません。睡眠不足は2日続くだけでも、前頭葉の機能低下・代謝や免疫機能の低下・感情制御ができない・生殖機能低下・DNA異常・生産性低下などのリスクを生じる可能性があります。睡眠不足はあとから寝ればすぐ回復するものでもなく、体の働きを整えるには時間がかかります。日頃の生活リズムを見直し改善できるところから取り組んで、十分な睡眠時間を確保しましょう。
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看護師資格修得後、病棟勤務・透析クリニック・精神科で『患者さん一人ひとりに寄り添う看護』の実践を心掛けてきた。また看護師長の経験を活かし現在はナーススーパーバイザーとして看護師からの相談や調整などの看護管理に取り組んでいる。