2021.12.28

睡眠がもたらす効果とは|人によって異なる、脳の深く眠る部位とは

最終更新日:2022.07.25
東海林 さおり
看護師

睡眠と脳のメカニズムとは

睡眠がもたらす効果とは|人によって異なる、脳の深く眠る部位とは

人や動物など脳を持つ生き物は必ず睡眠をとり、とらなければ死亡するといわれます。疲れると倒れる前に睡眠をとって休む行為は、命を守るためにも欠かせません。毎日同じ時間に眠り同じ時間に目覚める規則正しいリズムは、日中の活動の疲れによる睡眠欲求と体内時計が指示する覚醒力がバランスをとり、つくり出しています。睡眠中も自律神経やホルモンなど生きるために必要な機能は働き続けます。寝ている間、朝の目覚めに向けて睡眠中はレム睡眠とノンレム睡眠が約90分ごとに入れ替わり、準備を整えます。レム睡眠は脳は働いている状態で眠りが浅いため夢を見やすく、ノンレム睡眠は深い眠りで大脳を休める時間です。

睡眠欲求と覚醒力

睡眠欲求とは脳や体が疲れて休みたいときに高まり、目覚めてから経った時間が長いほど睡眠欲求は高くなります。脳の疲労は熱がこもるため冷まして正しく機能するために睡眠欲求が生じ、眠ろうと促します。いったん眠り始めると少しずつ睡眠欲は解消され、十分睡眠がとれたところで睡眠欲求はなくなります。覚醒力とは体内時計が発信する目覚めの信号で、睡眠欲求に打ち勝つための力です。一定時間に覚醒力が高まると睡眠欲求に勝ち、起床します。睡眠欲求だけでは昼頃に既にまた眠くなってしまいますが、覚醒力があることで眠気を抑え活動を可能性にしています。

1日の睡眠リズムは明け方に近づくと覚醒作用のある副腎皮質ホルモンが分泌され、次第に脳の温度が上昇します。すると睡眠欲求が消えて覚醒力の方が強くなるため、眠りから目覚めます。夕方から夜では活動で生じた熱を外へ出し、メラトニンが分泌されて眠りを促します。メラトニンは催眠作用のあるホルモンで、覚醒力を低下させ睡眠欲求が強い状態にし睡眠に入らせます。睡眠欲求と覚醒力のバランスがとれた成人の場合、夜11時~翌朝6時までしっかり眠る単層性睡眠になります。

睡眠がもたらす効果

睡眠がもたらす効果とは|人によって異なる、脳の深く眠る部位とは

睡眠は人にとって欠かせない行動で、睡眠中にはあらゆる効果が期待されます。寝て起きたとき心身にもたらす効果と脳の活動について解説します。

1日の疲れを取り除くことができる

夜寝て朝起きると前日の疲れがとれて、また今日も活動ができることは睡眠の役割のひとつです。睡眠中に疲れを回復する理由は、眠っている間は大脳や自律神経は昼間ほど働かずにすみ、タンパク質の一種である疲労回復物質の働きにより脳の疲労をとるためです。質の良い睡眠をとると疲労回復物質が十分働き、疲れを翌日に残さないといわれます。また疲れを感じさせる要因もタンパク質の一種である疲労因子です。自律神経などの細胞が活性酸素に酸化されダメージを受けたとき、老廃物が増えて発生します。そして疲れを感じて眠ると疲労回復物質が働いて疲れをとり、また活動可能になります。

レム睡眠中、脳に膨大なネットワークが作られる

睡眠は脳は働いた状態のレム睡眠と、脳が休んだ状態のノンレム睡眠の入れ替わりサイクルで成り立ちます。レム睡眠は眠りの浅い状態で脳は活発に働いており、思考の整理や記憶の定着、新しい記憶を過去の経験と結びつける大事な働きを行います。レム睡眠の間は体は休めて脳だけ動く状態であり、体を動かすための指令を脳は出さずにすむため、記憶情報の整理に集中できる時間です。脳を休めるための睡眠でなぜ脳が働くレム睡眠があるか正確な意味はわかっていませんが、大脳の働きを低下させすぎない・外敵から攻撃される危険な状態を減らす・少しずつ脳を目覚めさせる・情報整理の時間との理由が考えられています。きちんとレム睡眠が一定時間あると、例えば前日は解決できなかった難問の糸口が見つかる・なかなか浮かばなかったアイディアが浮かぶ・暗記した内容をしっかり覚えていたなどのメリットを期待できます。仕事や家庭などで解決できない場面に遭遇したときは、寝ずに悩み睡眠不足になるよりも、十分眠った方が良い方法を思いつける可能性があります。

相手の感情を読み取る機能が強化する

体を休めつつ脳は働くレム睡眠は、相手の感情を読み取る機能の強化にも役立ちます。睡眠不足からレム睡眠の時間がとれないでいると、人の気持ちを察しにくくなる可能性があります。例えば相手が笑顔でいるにも関わらず、実は自分に敵意を抱いていると勘違いするケースです。他に、人と関わる仕事では相手の感情を読み取りづらいと求められた内容を把握しきれず、仕事が不十分な結果になるかもしれません。家族や知人とのコミュニケーションで、気遣いのできない人と思われることもあるでしょう。しかしレム睡眠がきちんととれて感情把握の機能が高めまると、相手の微妙な表情の変化に気づき必要な対応ができる、気遣いのできる人と評価されるはずです。より深く理解したい相手の考えを察知し、お互いの理解を深めるきっかけづくりにもなります。

不要な記憶を捨ててくれる

レム睡眠中は昼間に蓄積された脳の情報を整理し、必要な情報を残して不要な記憶は捨てるメカニズムになっています。起きたとき頭がすっきりして考えがまとまった気分になれる理由は、脳がレム睡眠中に不要な記憶を忘れさせているためです。日中に起きた嫌なこと、例えば上司から叱られた・残業が長く楽しみを削られた・家族とけんかしたなどを、レム睡眠中に脳は全て明確に記憶せずある程度忘れさせます。本人にとってささいな悪いことは何日か寝ると忘れてしまう働きで、強く恐怖心などを抱いた辛いできごとも、日にちが経ち睡眠を重ねるうちに薄らいでいく重要性のある働きです。

脳は使った部分がより深く眠る

睡眠がもたらす効果とは|人によって異なる、脳の深く眠る部位とは

最近の研究によると、脳の部位ごとに睡眠の深さが異なることがわかりました。例えばアナウンサーの場合、前頭葉にある、言葉を話す機能に関する「運動性言語中枢」という脳の部位が深く眠るといわれます。脳の部位のうち大脳新皮質は、情報の識別やそれに対する運動の指示、記憶や情動、認知など高次な精神作用を受け持ちます。大脳新皮質は睡眠が不可欠な部位で、日中フル稼働している部分のため睡眠による休みが必要です。とはいっても睡眠中に脳が全く働かないわけではなく、最低限の働きにとどめ機能を維持しています。脳の部位のうち眠らない脳、つまり生命活動維持のために働きを止めてはならない脳の部位は、視床下部・視床・中脳・橋・延髄です。まとめて脳幹部分と呼ばれ、死ぬまで働き続けます。眠らなくてはいけない脳と眠らない脳が分かれていることで、体の機能を効率的に回復させられます。生命を維持するため24時間365日脳を働かせるとなれば、膨大なエネルギーの消費が必要です。そのため、眠らない脳は節約したエネルギー消費により24時間活動ができるようにし、反対に、集中して使う脳は深く眠りにつくことで、機能をしっかりと回復させられるような仕組みになっているのです。また、よく使う脳を深く休ませることで自律神経の働きも整い、ストレスに対して強くなるなどのメリットもあるといわれています。

質の良い睡眠をとろう

睡眠がもたらす効果とは|人によって異なる、脳の深く眠る部位とは

人が生きる上で欠かせない睡眠は脳が働いているレム睡眠と脳を休めるノンレム睡眠が一定サイクルで入れ替わります。十分な睡眠をとることで脳も休ませることができ、疲労回復や記憶の定着、感情を読み取る力の向上や不要な記憶の整理ができます。睡眠不足にならないよう、日頃から質の良い睡眠を心がけましょう。

東海林 さおり
看護師

看護師資格修得後、病棟勤務・透析クリニック・精神科で『患者さん一人ひとりに寄り添う看護』の実践を心掛けてきた。また看護師長の経験を活かし現在はナーススーパーバイザーとして看護師からの相談や調整などの看護管理に取り組んでいる。