2022.01.31

「終活でやることリスト」自分らしさを支える制度とは

最終更新日:2022.07.22
増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

終活でやることリスト1

自分らしさを支える制度の活用

生前三点契約書

終活でやることリストの1つ目は、成年後見制度の活用です。成年後見制度とは、「民法」のものと「任意後見契約に関する法律」のものの2種類があり、認知症などにより判断能力が欠け、それが通常である方(以下ではこのような方を「本人」ということにします。)を保護する制度です。民法に基づく成年後見制度は、法定後見制度と呼ばれており、主に次の方々が請求できます。
・本人
・ 配偶者
・ 四親等内の親族
請求先である家庭裁判所が「この人は法定後見制度を適用すべき」と審判した場合には、本人を保護するために成年後見人という方が選任されます。そして、その成年後見人が本人の利益を考えながら、本人を代理して契約などを行ったり、本人がした不利益な契約などを後から取り消すことができます。次に、任意後見契約に関する法律に基づく成年後見制度について触れてみましょう。この制度は、任意後見制度と呼ばれており、本人と、本人が信頼する方との間で締結する契約であって、公正証書(公証役場で、裁判官・検事・法務事務官などを長く務めた法律実務の経験者にお願いして作成してもらう契約書をいいます。)を作成しなければいけません。これを任意後見契約書といいます。そして最近ではこの任意後見契約書を含む「生前三点契約書」を作成することが、老後あるいは死後のことを考えると望ましいのではないかと考えられています。

終活でやることリスト2

老後までに各書類を準備

生前三点契約書

終活でやることリスト2つ目は、老後までに各書類を準備することです。準備しておく書類の代表格は、遺言書です。また、遺言書と同じくらい最近注目されている「生前三点契約書」があります。遺言書に加え生前三点契約書を準備することにより、老後や死後に、本人の望む結末を迎えることができる可能性が格段とあがります。

生前三点契約書

生前三点契約書とは、①財産管理等の委任契約書、②任意後見契約書、③尊厳死宣言書です。生前三点契約書を準備しておくことがなぜ大切か。これは、老後に備えるための書類だからです。遺言書は死後に本人の望みを実現するための書類ですが、これとはまた別に、老後に本人の望みをなるべく実現するためには、生前三点契約書を準備しておくことが大切なのです。このような価値観を踏まえて、生前三点契約書の詳しい内容を見ていきましょう。

財産管理等の委任契約書

財産管理等の委任契約書とは、本人が相手方に「これをやってくれない?」とお願いし、相手方がこれを承諾したことを示す契約書です。例えば、終活をする際、私が認知症になって入院した場合にはこういうことをしてほしいとか、財産を管理してほしいという委任契約書を作成し、相手方と取り交わすことで、老後の突発的な入院などに備えることができます。特に老後は、転倒や体調不良等によって入院のリスクが高まりますので、財産管理等の委任契約書を準備する需要は高まります。終活をする際には、信頼できる相手を探して、契約書を取り交わしておきましょう。

 任意後見契約書

任意後見契約書とは、任意後見契約に関する法律に沿って公正証書によって作成した契約書をいいます。任意後見契約書を作成することにより、任意後見契約(認知症などにより判断能力が不十分となったときに、本人の生活・療養看護・財産の管理を相手方にお願いして、代理権を与える契約をいいます。)で定めた範囲内で代理をしてもらうことができます。ところで、任意後見制度の内容については、比較しながら見ていくとわかります。まず、財産管理等の委任契約書とどこが違うかというと、財産管理等の委任契約書は、本人の判断能力がしっかりしている場合に強いです。お願い事を意思疎通しながら行うことができるからです。他方、任意後見契約書は、本人の判断能力が将来心配な場合に強いです。判断能力が不十分な場合には、お願い事は意思疎通しながら行うことができないからです。そうすると、本人のお願い事を相手方が誠実にしてくれないことも考えられます。そのような場合に備えて、事前に任意後見契約書を作成しておくと、任意後見契約に関する法律に基づき、任意監督後見人という人を家庭裁判所が選任することが可能となり、主に次のことをもって、相手方の不正を予防します。
・相手方の監督
・相手方に不正がないか家庭裁判所に定期的に報告
任意後見契約書を作るメリットは、このような任意後見制度を利用することができるという点が挙げられます。また、財産管理等の委任契約書とどちらか迷うという方は、まだ判断能力はあるが将来認知症などが心配というときには、任意後見契約書の作成がおすすめです。

尊厳死宣言書

尊厳死宣言書とは、延命措置を中止することを宣言する書類です。医療技術の進歩により、人々は長く生きることができるようになりましたが、その一方でいわゆる植物状態になった場合に、最期にどのような選択肢を選ぶべきかという問題提起がされることもあります。尊厳死宣言書は、そのようなときに尊厳死を選ぶ方々にとって、作成されることが多い書類です。ところで、尊厳死宣言書がある場合でも、医療現場では、当然それに従わなければならないとまでは考えられていません。この点で、尊厳死宣言書を作成した場合でも、必ず尊厳死が認められるとは限らないことに注意が必要です。もっとも、医師が尊厳死を許容する割合は、近年は9割を超えているとされています。このことから、医療現場でも尊厳死が容認されつつあることがうかがえます。尊厳死を迎えるためには、いわゆる植物状態になる前に、担当医師などに尊厳死宣言書を示す必要があるとされています。また、これを公正証書で作る方もいらっしゃいます。公正証書で作成した場合には、本人が尊厳死を望んでいるということについて、さらに信ぴょう性が増すことになるでしょう。

遺言書

最後に、死後に備えた書類の代表格である遺言書について説明します。遺言書は、法定遺言事項と付記事項に分けられ、法定遺言事項という部分に法的拘束力が生ずる書類です。付言事項は本人の生前の想いなどを伝えるもので、法的拘束力はありません。遺言書は、本人の死後、相続トラブルを防ぐために極めて重要です。遺言書は、主に①秘密証書、②公正証書、③自筆証書の方法があります。それぞれメリット・デメリットがありますので、専門家と相談しながら方法を決めるのがよいでしょう。どの方法でも、遺言書は相続トラブルを防ぐためには欠かすことができない書類です。終活する際には、積極的に作成を検討しましょう。

秘密証書

秘密証書とは、文字通り遺言書の内容を秘密にできる方法です。これは、公証役場へ行って作成するものであり、手数料と証人の用意が必要です。しかし、自筆ではなくワープロや代筆でも作成可能な点と、遺言書の内容を秘密にできる点が魅力です。形式的な不備にさえ注意すれば、手軽に作成できます。

公正証書

公正証書とは、公証人に口述する方法です。秘密証書同様、公証役場へ行き手数料と証人の用意が必要です。そしてこちらは公証人というプロが作成して公証役場で遺言書を保管してくれますから、偽造のおそれや形式不備の可能性が非常に低い点で人気です。年間約10万件作成されています。

自筆証書

自筆証書とは、全文、日付及び氏名を手書きする方法です。作成に手間はかかりますが、費用がかからないため、一度遺言書を作成した後に状況が変わっても再度作成することが簡単な点で人気があります。

終活は1人で抱え込まずに相談しよう

生前三点契約書

終活をする際の老後や死後の制度については、様々な情報が錯綜しています。また、多種多様な制度に対して、終活が面倒くさいなどの印象を抱いてしまうことも否定できません。しかし、多種多様な制度が存在することで、終活のやることリストを事前に準備をしておけば、ある程度本人の希望する結末を迎えられるというメリットがあります。終活が面倒くさい、手続きが複雑という点については、専門家などに相談して、一つひとつ問題を解決していけば大丈夫です。また、周りの親しい人も含めて、老後や死後にむけた終活準備ほど事前にしておいてよかったと思うものはありません。ぜひ、ご相談や実際に準備することをご検討ください。

増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。