2022.03.23

福祉用具の購入前に知っておこう|トイレや入浴補助用具でのヒヤリハット

最終更新日:2022.08.18
長谷川 大祐
介護福祉士、福祉用具専門相談員、住環境コーディネータ2級

福祉用具によるヒヤリハットとは

車椅子の男性と介護士

皆さんは、「ヒヤリハット」をご存知でしょうか。ヒヤリハットとは、仕事などで「危ない!」「もう少しでケガをするところだった」といった、危険なことが起こったけれど幸い災害や事故に至らなかった事例や事象のことです。ヒヤリハットを解説する際、よく「ハインリッヒの法則」という言葉が出てきます。

ハインリッヒの法則とは、ハインリッヒというアメリカの技師が労災事故を調査していく中で導き出した法則で、1件の重傷事故が起こるまでには29件の軽い事故があり、さらに300件のヒヤリハットが隠されているというものです。また同時に、事故を防ぐには1件の事故だけを調査しても防ぐことはできないということです。

この法則を福祉用具に当てはめると、ポータブルトイレがしっかりと固定されていなかったため尻もちをついたり、入浴補助用具のシャワーチェアの高さと自身の身長のサイズが合っていなかったため転倒しそうになったりなど、さまざまな事故が起きてしまう危険があります。

トイレによるヒヤリハット事例

トイレのヒヤリハット

トイレについて、ヒヤリハット事例を交え解説します。トイレには、ベッドの横に平行に設置して使用する椅子の形をしたポータブルトイレ、便器に据え付けて使用する立ち座りが安易に行える補高便座、性別に応じて受け口が異なり寝たままでも排泄が安易に行える尿器、ベッド上で排便や排尿する際にお尻の下に差し込んで使用する差し込み便器などがあります。さまざまな種類があるため、使用する人の身体状況に合ったものを選びます。

では実際に、トイレで起こるヒヤリハットにはどのようなものがあるのでしょうか。具体的な事例としては、ポータブルトイレへ座る際に倒れそうになったり、紙オムツのパッドを交換しようとした際にバランスを崩して転倒しそうになったりすることがあります。

事例1.ポータブルトイレが倒れそうになった

要介護者が尿意を感じてベッドから、そばにあったポータブルトイレに移乗する際、ポータブルトイレがグラッと倒れそうになることがあります。起きる原因としては、移乗や立ち上がりの際、ポータブルトイレに体重をかけすぎてしまうことです。このようなことが起こらないためには、移乗に使用するための手すりを設置することが必要です。

事例2.紙オムツのパッド交換の際、前につんのめりそうになった

要介護者がトイレで排尿した後、便座から立ち上がり、いつものように紙オムツのパッドを交換しようとした際、前につんのめりそうになることがあります。起きる原因としては、排尿や排便でいきみ、便座から急に立ち上がると、一時的に血圧が下がる起立性低血圧になることを知らなかったことです。このようなことが起こらないためには、排尿や排便の後は1分~2分程度休み、便座から立ち上がるようにすること、紙オムツのパットを交換する際、介護者が要介護者の様子を観察することが必要です。

入浴補助用具によるヒヤリハット事例

入浴補助用具によるヒヤリハット

次に、入浴補助用具について、ヒヤリハット事例を交え解説します。入浴補助用具には、浴室内での座位の安定を図り洗体や洗髪に使用するシャワーチェア、浴槽のふちに設置して浴槽の出入りを安易に行える浴槽用手すり、浴槽内に設置して浴槽での立ち座りを安易に行える浴槽台、歩行が不安定な人が居室から浴室への移動や洗体などに使用するシャワーキャリー、浴槽用手すりでは浴槽のまたぎが難しい人が浴槽の両方のふちに設置し腰掛けて浴槽の出入りに使用するバスボードなどがあります。さまざまな種類があるため、使用する人の身体状況や介護者の介助能力に合わせたものを選ぶことができます。

では実際に、入浴補助用具ヒヤリハットにはどのようなものがあるのでしょうか。具体的な事例としては、浴槽に足をぶつけそうになったり、浴槽に入ろうとして転倒したり、浴槽内の視界が悪くバランスを崩したり、シャワーチェアが倒れそうになったり、バスボードが外れたりすることがあります。

事例1.シャワーキャリーが動き、浴槽につま先をぶつけそうになった

介護者が入浴介助をする際、脇見をして手を離した隙にシャワーキャリーが動いてしまい、浴槽に要介護者のつま先をぶつけそうになることがあります。起きる原因としては、介護者が要介護者から目を離してしまっていること、シャワーキャリーのキャスターをロックしていないことです。このようなことが起こらないためには、浴室内は滑りやすく多くの危険があることを認識すること、シャワーキャリーのキャスターが確実にロックされているか最低2回以上確認すること、入浴介助の際介護者は要介護者から目を離さないことが必要です。

事例2.浴槽用手すりのネジが緩み、転倒しそうになった

要介護者が湯船につかろうと浴槽用手すりに体重をかけた際、ネジの緩みからガタつきが生じ、転倒しそうになることがあります。起きる原因としては、浴槽用手すりのネジを確実に締めていなかったこと、浴槽のふちの硬さに適合した手すりを設置していないこと、浴槽用手すりのメンテナンスを行っていなかったことです。このようなことが起こらないためには、使用する前に浴槽用手すりが確実に固定されているか確認すること、介護者が定期的にメンテナンスを行うこと、浴槽の状況に応じた手すりを設置することが必要です。

事例3.浴槽台の天板の端に足をかけてバランスを崩した

浴槽に入ろうとした際、浴槽台がいつもと同じ位置に設置されておらず、さらにお湯で見えにくい状態であったため、浴槽台の天板の端に足をかけてしまい傾いてバランスを崩すことがあります。起きる原因としては、浴槽台を設置する位置が変わっていることです。このようなことが起こらないためには、浴槽台を設置する位置を固定すること、浴槽内が見えやすいよう換気扇などを使用し、安全に浴槽内に入れるような環境を整えること、要介護者が入浴する際は介護者が付き添うことが必要です。

事例4.シャワーチェアが倒れそうになった

歩行に困難を抱え日頃から杖を使用しており、高血圧気味のため長湯を控えるよう指示されていた要介護者が、こっそりと長時間熱いお湯につかり立ち上がった途端に立ちくらみがしたためシャワーチェアにつかまったが、シャワーチェアが倒れそうになることがあります。起こる原因としては、長湯を控えるよう指示されたにも関わらず長時間熱いお湯につかったこと、シャワーチェアを設置する位置が安定していなかったことです。このようなことが起こらないためには、要介護者が自身の身体状況を把握し指示に従った入浴方法を守ること、シャワーチェアを設置する位置が安定しているか確認することが必要です。

事例5.浴槽内で方向転換した際、バスボードが外れた

家族が新調したバスボードを使い要介護者が心地よく入浴していた際、浴槽内で方向転換しようとしてバスボードが外れてしまい、思わずバランスを崩すことがあります。起きる原因としては、浴槽のふちの幅や形状に適合していないバスボードを使用していることです。このようなことが起こらないためには、バスボードを使用する際、浴槽のふちにバスボートが確実に固定されているか最低2回以上確認すること、新しいバスボードを使用する際は、浴槽のふちの幅や形状に適合しているものを選ぶことが必要です。             

ヒヤリハットを起こさない為の工夫

車椅子の女性と話す介護士

今回は、福祉用具を購入する前に知っておきたい、トイレや入浴補助用具でのヒヤリハットについて、起きる原因や防止策を交えてご紹介しました。トイレや入浴補助用具を購入する際は、要介護者はもちろんのこと介護者においても、トイレや入浴補助用具を使用する前に起こる危険を把握するとともに、起こらないために何ができるかを話し合って対策することが重要です。また購入後のメンテナンスに関して、福祉用具専門相談員などから適切な点検方法を聞いておくことも必要です。

長谷川 大祐
介護福祉士、福祉用具専門相談員、住環境コーディネータ2級

福祉用具貸与事業所に勤務し、住み慣れたご自宅での在宅生活で、お客様が安全・快適に過ごしていただけることをミッションとして福祉用具・住宅改修業務を通して携わる。また地域包括支援センターと連動して地域の老人会や自治会に向けて、住環境整備の大切さを啓発する勉強会を開催するなど、地域に根付いた活動に力を入れている。