2021.08.25

血管性認知症とは|具体的な症状や、治療について説明

最終更新日:2022.06.22
増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

血管性認知症という認知症があるのを知っていますか。認知症というとアルツハイマー型認知症が一般的なので、あまりよく知られていないかもしれません。しかし、血管性認知症は「三大認知症」ともいわれる比較的多い疾患です。症状や治療方法を正しく知ることで家族の介護に役立ててください。

良くなったり悪くなったりして進行する

救急車

血管性認知症の大きな特徴は、症状が出たり消えたりを繰り返すことです。あるいは、特定の事柄はしっかりしているが、ほかの部分は全くできなくなるなどまだら症状であることも挙げられます。

血管性認知症の症状

高齢者

脳梗塞、脳出血、くも膜下出血といった脳卒中の発症、再発と共に進行していくのが、血管性認知症とほかの認知症との違いです。障害の重さやダメージを受けた脳の場所によって、どこにどのような障害が出るかなど症状が全く違うのも特徴です。

初期

脳の血管障害である脳卒中の治療が一段落して間もなく、認知症状が現れます。しかし、日によって変動が見られ、しっかりしている部分が多かったりするので家族は戸惑うことがあるでしょう。洋服をうまく脱ぎ着できない着衣失行、目や耳という感覚器に問題なくても、物の意味を理解することができない失認、相手の話す内容が分からない感覚性失語、話そうとしても言葉が出てこない運動性失語など特徴的な症状があります。精神的には意欲低下や感情失禁が見られることがあります。

中期以降

初期で出現した症状は、脳卒中の再発を防ぐことである程度進行が予防できます。ただし、少しずつ血管が詰まっていくことにより脳内の血流が徐々に悪くなり、認知症状が緩やかに悪化することもあります。また、初めの発作で麻痺の後遺症がある場合、転倒しやすくなっているので注意が必要です。頭部打撲で急性硬膜下血腫になると、一時的に認知症状が悪化するほか意識混濁を起こし危険な状態になることもあるので転倒防止は重要です。

血管性認知症の原因

病気_原因

血管性認知症の原因は脳卒中である場合が多いとしましたが、中には大きな発作なく少しずつ進行するものもあります。症状の違いと根底にある共通点とはどんなことなのか、みていきましょう。

脳梗塞、脳出血、くも膜下出血によるもの

アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症のように脳の細胞がゆっくり死滅、委縮していく「変性疾患」とは異なり、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの脳卒中により血液の流れが止まることで脳の細胞が死んでしまうのが血管性認知症です。男性に発症が多く、再発する可能性も高いので、定期的に受診して経過観察していく必要があります。脳の細胞は一度壊死してしまうともとには戻らないので、病気にならないことが大切です。

生活習慣病が根底にある

脳梗塞、脳出血、くも膜下出血は、高血圧、糖尿病、脂質代謝異常などの生活習慣病が原因因子となることが多いとされています。生活習慣病を引き起こすものとしては、飲酒、喫煙、肥満、偏った食生活、運動不足、ストレス、遺伝的要因が示されているので、毎日の生活に気を付けることが大切です。一方、無症候性脳梗塞といって脳卒中発作を伴わず、徐々に認知症状が進行することもあります。生活習慣病は、アルツハイマー型認知症の原因因子でもあることが明らかになっているほか、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症の混合型が多いともいわれていることからも、生活習慣が原因の根底にあるといえます。

血管性認知症の治療

リハビリ

脳卒中予防の内服治療を中心に受診を継続することが大切です。一度死んでしまった脳細胞をよみがえらせることは不可能ですが、意欲低下でさらに悪化するのを防がなければなりません。また麻痺という身体的なハンデも抱えることが多いので、転倒による骨折、急性硬膜下血腫といった新たなリスクに対するアプローチも必要になります。

リハビリテーション

隣接する脳が失われた部分の代わりにその機能を補うことで、機能の可塑性(元に戻る可能性があること)があることが分かっています。そのためには作業療法士の認知症リハビリを受けることが大切です。また、麻痺や失語があっても日常生活を送ることができるように、入院中から理学療法士、言語聴覚士がリハビリを行うことで生きがいを守り、認知症の進行を予防する必要があります。退院してからは余暇活動などを通して、毎日楽しくリハビリを継続していくようにしましょう。

血管性認知症の方への対応

バリアフリー

血管性認知症はほかの認知症が少しずつ進行するのに比べ、急に出現するという特徴があります。本人や家族は精神的にとても大きなストレスを抱えることになるでしょう。いかに柔軟かつ迅速に対応するかが、血管性認知症の方への対応のポイントです。

歩行障害、片側麻痺がある場合

後遺症として麻痺が残ると、食事、排泄、入浴、運転などが難しくなり、生活が一変してしまいます。入院中から、在宅生活に必要な住宅改修や福祉用具について、本人を中心に専門職と検討しておくことが必要です。杖や歩行器、手すりや段差の解消など、住環境を整備することで以前に近い生活ができることが目的です。同時に転倒防止という意味も大きく、再出発する新しい生活ができるだけ長く維持できるよう、専門職のサポートを受けながらしっかりメンテナンスしていく必要があります。

うつ的な症状がある場合

脳卒中後20〜40%に鬱が発症し、抗うつ剤が処方されることがあります。本人は病識がある場合も多いのでショックが大きいことと、脳卒中による脳のダメージ自体が鬱的な症状を引き起こすとされています。家族には、できないことを責めず苦しみに共感する立場をとりながら、感情の波に巻き込まれないよう理解しながらも距離をとることが求められます。ついつい元の状態に戻るよう叱咤激励したくなるかもしれませんが、リハビリには過度な期待を持ちすぎず、頑張りすぎないことも必要です。家族の介護負担が大きいので介護保険サービスを利用する、家族会に参加するなどして疲れを溜めないようにしましょう。気持ちの余裕は「あなたのことを大切に思っています」などのメッセージを伝えるためにも必要です。脳血管性認知症は麻痺やうつ症状に加え、段階的に進行するという特徴があります。生活習慣病や脳卒中予防と住環境の整備、家族の理解が必要になることを理解しておきましょう。

増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。