2021.11.01

認知症の進行と家族の対応を中核症状と周辺症状から解説

最終更新日:2022.06.30
増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

家族に認知症の人がいる方は、認知症とはどのような症状が現れるのか、認知症の人の接し方についてどうしたらよいか等、様々な悩みがあると思います。中核症状と周辺症状から詳しく理解することで、認知症の人についてより理解することができます。また、認知症の人の接し方について理解することで、少しでも介護の負担を減らすことができます。こちらの記事では、長年介護施設で認知症の方と接した経験も踏まえて、認知症の症状や家族の接し方について詳しく解説いたします。

初期の症状と発見のポイント

認知症は早期発見、早期治療することで、進行を遅らせたり症状を緩和させたりできる病気です。下記のチェックリストの症状は、認知症だけでなく一般的な老化でも見られるものですが、当てはまる症状が1つでもあったら、早めに検査に行きましょう。

チェックリスト
昼間の居眠りが増えた
聞き返すことが多くなった
物をしまった場所が思い出せない
慣れている場所で道に迷う
意欲がわかなくなり、行動力が衰えた
甘いものが好きになった
つまずいたり、転んだりすることが増えた
別の作業を同時進行することが苦手になった
寝つきが悪くなり、眠りが浅くなった
会話の流れについていけなくなった

認知症の手前にはグレーゾーンがある(軽度認知障害)

軽度認知障害

認知症になると、周りの人や自分のことまで忘れてしまう、といった印象を持つ方は少なくありません。たしかにそれも認知症の症状ですが、実際にはさまざまな症状が存在します。また、認知症には軽度認知障害と呼ばれるものがあり、これはまだ完全に認知症には至っていない段階です。軽度認知障害は、主に老化が原因といわれており、もの忘れが酷くなったような症状が特徴です。また、部分的に記憶が抜け落ちてしまうケースもあります。

軽度認知障害の段階で気付けば、予防も可能

認知症と診断されてしまうと、そこから大きく症状を改善させることは困難です。進行を遅らせることはできますが、根本的な治療が難しいのが現状なのです。ただ、軽度認知障害の段階なら、適切な対策を行うことで完全に認知症へ移行するのを防げます。認知症を予防するためにも、軽度認知障害の症状が確認できたら、なるべく早めに病院で診察を受けることをおすすめします。

中核症状と周辺症状の関係

認知症の症状は、だれにでも共通の「中核症状」と個人差がある「周辺症状」にわけられます。それぞれの症状について記載していきます。少しでも症状を理解することで、認知症本人の気持ちに寄り添った介護につながります。

中核症状と周辺症状の関係

中核症状

中核症状とは、脳細胞がダメージを受け、脳本来の働きが低下するために起こります。中核症状の例を5つ紹介します。

記憶障害

記憶障害

年をとると誰でも記憶は衰えます。しかし、認知症になると、最近の記憶をためる「海馬」と呼ばれる場所の細胞が壊れ始め、直近のことが覚えられなくなります。さらに進行とともに、記憶倉庫も壊れていきます。老化の場合は、海馬や記憶倉庫の機能が衰えますが、働きは保たれます。

主な症状
・言ったことをすぐに忘れる
・新しいことは覚えられない
・1日の生活の中で体験したことを忘れる

見当識障害

見当識障害の男性

見当識とは、現在の年月や時刻、居る場所など、自分の基本的な情報を把握することです。

主な症状
・時間が分からなくなる
長時間待ったり、時間に合わせて外出したりすることが出来なくなる。
さらに進行すると、日付や季節、年齢などもわからなくなる。
・迷子になる
方向感覚がわからなくなり、良く通る道でも迷うようになる。
さらに進行すると、家の中のトイレの場所もわからなくなる。
・人間関係が分からなくなる
過去の記憶が失われると、自分の年齢や家族の顔や生死が分からなくなり、娘を「お母さん」と呼んだりする。

理解・判断の障害

理解や判断の障害がある女性

・考えるスピードが遅くなる
・同時に2つ以上のことをこなせない
・危険に鈍感になる
・銀行のATMや洗濯機など機械の操作が出来ない
・買い物などで計算が出来なくなる
・いつもと違うことが起こると混乱する(突発的な出来事に弱い)

実行機能障害

料理をする女性

・段取りを組んで実行することが出来なくなる
(例)料理など「1番時間がかかる炊飯器のスイッチを入れてからおかずを作ろう」といったことができない。ただし、ご飯を炊く、味噌汁を作るといった、ひとつひとつの動作はできるため、家族の適切な声掛けが大切。

その場の空気が読めない

首をかしげる男性

周囲の状況が判断できない為、世間話をしている人たちに向かって、自分のことだと思って怒りだしてしまうなど、突拍子のないリアクションをします。

周辺症状

周辺症状とは、行動・心理症状(BPSD)とも呼ばれています。周辺症状には「不安症状」と「BPSD」と呼ばれる症状があります。症状が強く出る場合には、家族の介護を困らせますが、周辺症状はすべての人に見られるわけではなく、個人差があります。性格や生い立ち、今の環境など影響を受け、人によって出方が変わります。

周辺症状

中核症状による不自由さに、個人の特性などが複雑に絡み合って起こる症状です。
個人の特性とは以下6つです。
① 生い立ちや社会人になってからの経歴
② 性格、素質
③ 孤独であるかないか
④ 不安であるかないか
⑤ 生き方やポリシー
⑥ 現在の生活環境

特に男性は職業経験(農業・漁業、会社員、公務員など)、女性では子育て経験が行動に現れやすいと言われています。また、介護者の対応によっては症状を軽減させることができます。さらに、本人の性格や、病気について理解をしていれば解決できる症状もあります。
(例)周辺症状である見当識障害により、夜にトイレの場所が分からなくなり失禁してしまう→トイレのドアを開けて電気をつけておく

不安症状

不安症状のある女性

・初期には、自分の症状に違和感をおぼえ、不安・焦燥を感じる
・自発性の低下により、物事に興味を示さなくなる
・落ち込んだり、怒りっぽくなったりするなどのうつ状態
・実際にないものを見たり聞いたりする幻覚・妄想
・意識がもうろうとして幻覚を見るなどのせん妄状態
・喜怒哀楽の感情が鈍くなる情緒障害
・寝つきが悪い、長時間寝れないなどの睡眠障害

BPSD(認知症の行動・心理症状)

BPSDの女性

・当てもなく歩きまわる(徘徊)
・身近な人に暴力をふるう(暴力)
・排泄に失敗する(失禁)
・食品以外のものを口にする(異食)
・急に興奮して騒ぎ立てる(不穏)

認知症の進行

認知症の進行に伴い、中核症状も進行していきます。認知症の初期、中期、後期において、どなたにも現れる中核症状がどのように進行していくのか、また各進行の段階での接し方のポイントや家族の役割についても解説いたします。

認知症の進行「初期」と家族対応

認知症の早期・初期段階においては、急激に症状が悪化するケースは少なく、少しずつ症状が進行していくことが特徴です。

中核症状  初期
記憶障害 ・物忘れがひどくなった
・しまい忘れや置忘れが目立つ
・ガス栓や蛇口の締め忘れが多くなった
見当識障害 ・年月日など日付や時間の感覚が不確かになる
理解、判断力の障害 ・おつりの計算ができなくなる
・ATMの操作ができない
実行機能障害 ・物事の優先順位がつけられない
その場の空気が読めない  ・感情の起伏が目立つ

接し方のポイント

認知症初期の接し方のポイント

・本人の不安を煽るようなことを口にしない
・「認知症なんじゃないの?」と何度も詰問をすることや責めるような口調で迫らない
・理解力や判断力が低下し、会話についていけない可能性があるため、丁寧にゆっくり話す
・ケガや事故などのリスクも高まるため、普段から行動を気にかけてあげる
・自分でやれるように、見守り・声掛け・手助けをする

家族の役割

・もの忘れがひどくなったら受診をすすめる
・病院には必ず同行する
・認知症についての知識を深める
・介護保険を申請する
・成年後見制度などの利用を検討
・認知症の進行を遅らせるケア(例:食事・運動・趣味・手仕事など)

認知症の進行「中期」と家族対応

認知症中期の女性

中期になると、認知症の進行は徐々に早くなります。記憶障害が初期段階よりもさらに進行してしまうため、いろいろなことを忘れてしまう可能性があります。また、周りの人が話していることをあまり理解できなくなり、会話に入れなくなることも少なくありません。

中核症状 中期
記憶障害 ・他人の言葉が理解できないときがある
・自分の見ているものがときどきわからなくなる
 
見当識障害

・近所以外は迷子になる
・季節や天候に合った服が選べない
・いつも行くお店までの道が分からず、買い物に行けない

理解、判断力の障害 ・薬の管理ができない
実行機能障害 ・料理など、順序だてて行動することが難しくなる
・思い通りの動作が出来ない
その場の空気が読めない ・世間話をしているのに、自分のことだと思い急に怒り出す

※BPSD(周辺症状)は人によっては、中期から極端に出やすい傾向である。

接し方のポイント

認知症中期の接し方のポイント

中期段階まで症状が進行すると、認知症らしいさまざまな症状が確認できます。今までしっかりしていた家族が、突然変わってしまったようで家族は悲しくなるかもしれませんが、変化をきちんと受け止めましょう。
・薬の誤飲に注意する。
・問題行動を起こさないよう注意をする。
(例)イライラして大声を上げる。危険が迫っていると誤って認識してしまい警察を呼ぶ。
・転倒などの家庭内事故や徘徊を予防する

家族の役割

・介護の担い手を増やす
・「認知症の家族の会」などに入会
・通所介護を利用する
・短期入所サービスの利用には症状が悪化しないように注意する
・認知症グループホームを検討する
・介護施設への入所を検討する

認知症の進行「後期」と家族対応

認知症後期の男性

認知症の後期・末期になると、1人で日常生活を送るのはほぼ不可能です。全面的な介護が必要となり、四六時中誰かが見守ってあげる必要性も生じます。また、人によっては運動機能が大きく低下してしまい、寝たきりになることも少なくありません。

中核症状 後期
記憶障害 ・言葉の意味が分からなくなり、会話が成立しなくなる
見当識障害 ・家族が分からなくなる
・家でトイレの場所がわからない
理解、判断力の障害 ・機械の操作が困難になる
・危険な状態であることを認識しづらくなる
実行機能障害 ・着替えの手順がわからない
その場の空気が読めない ・夜も眠れないと興奮し、乱暴な言葉を発する

接し方のポイント

認知症後期の接し方のポイント

できるだけ目を離さないことが大切です。寝たきりなら問題行動の心配はありませんが、突然体調を崩してしまうこともあるからです。また、今まで中心となる家族が1人で介護を負担していたケースでは、それが困難になります。要介護者との会話が成立しにくくなり、介護者はしばしば無気力感や絶望感を抱くこともあります。介助の担い手を増やして、なるべく多くの人が関わり、1人の負担を減らすことが大切です。

・日常の観察を怠らない
・体温・血圧・脈拍などのチェックをする
・薬の事故に注意する
・感染に気をつける
・便秘・脱水に気を付ける
・褥瘡に気を付ける

家族の役割

・ベッドでの介護や移動をしやすくするために、介護保険で介護ベッドや車いすの貸与サービスなどを受ける
・介護の担い手を増やす
・体調の変化に注意を払う
・介護施設への入所を検討する

早期発見と家族の支えが大切

高齢者の手

認知症は、早期発見・早期治療を行うことで、進行を遅らせることが出来ます。認知症の人の老化はとても早く、認知症でない人の2~3倍のスピードで進行します。認知症の人は、今から2年後は4~5歳、年を取ったことになります。おおよその生存年数は、8年前後~10数年です。認知症は、そう長くは面倒を見てあげられないのが事実です。そう思うと、介護は大変でも日々、残された時間を優しい気持ちで介護してあげようという気持ちになるかもしれません。しかし、症状が進行するとコミュニケーションをとるのが難しくなり、少しの間でも目を離せなくなることもあるため、一人で介護を続けるのは限界があります。中心となる介護者に負担が集中し、1人で抱え込まないようにするためにも、一人ひとりが出来ることを行うなど、家族で協力し合って行うことが大切です。

増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。