目次
身体の動きの変化から見分ける
年齢を重ねると、身体に変化が見られます。腰が曲がるなどの目に見えやすい身体の特徴のみでなく、動きや仕草などにも注目することも大切です。ちょっとした気づきが転倒防止につながります。
腰が曲がってきた
加齢に伴って腰が曲がってくると、転倒しやすくなります。腰が曲がると、一般的な立位姿勢より身体の重心が前方にある状態になります。そうすると、前に転びやすくなってしまうのです。身体の重心が前方にある状態では歩きにくいので、身体のどこかを使ってバランスを取ります。たとえば「両手を腰に当てて歩く」動作がそれに当たります。両手を後方に動かすことで、重心が前方になりすぎないようにバランスを取っているのです。逆から考えてみると「腰に手を当てなければバランスを取って歩けない」状態になるので、何か予想外のことがあってバランスを崩した時、手を使ってバランスを取るという動作が非常に難しくなってしまうでしょう。また、身体の重心が下方にある状態では足が前に出にくくなってしまいます。歩行は振り子のように重心が高い位置にあって不安定な状態で行うからこそ効率が良いとされています。つまり、重心が低い状態のまま移動するのは効率が悪く、身体を移動する時には筋力や労力を要するのです。よって、腰が曲がってくると重心が前方かつ下方にある状態になり、転びやすく疲れやすい状態になっています。
手足が痩せ細ってきた
細くなってきたことの先に転倒をイメージすることはあまり無いかもしれません。しかし、痩せ細ってくると転倒しやすくなる原因になりかねないので注意する必要があるでしょう。手足が細くなると転倒しやすくなる理由は、筋力低下に影響するからです。細くなるということは、体重が減ってきている証拠になります。体重が減ってしまえば、すぐに筋力低下が起きるということではありませんが、どんどん痩せてしまえば、徐々に筋肉も痩せ細ってしまうでしょう。特に足の筋力低下が転倒に関与することを示す論文は数多くあります。つまり、転倒を予防するには足の筋力を弱らせないことが大事になるのです。痩せてしまう原因は、一概に食事量が少ないことだけが理由とは言えません。他にも、消化不良や代謝異常、リウマチなどの炎症性の疾患があるなどの原因も考えられます。理由はさまざまですが、手足が痩せ細る状態を続けていくと、いずれは転倒につながるリスクが高いので注意する必要があるでしょう。
物に掴まって動くようになった
掴まりながら移動するようになった状態は、分かりやすく歩行のバランスが悪くなったのだと判断できる現象です。掴まるところの無い環境で転びやすくなりつつあると予想されるので注意する必要があります。たとえば、普段から壁をつたって歩いたり、テーブルや椅子を使いながら立ち上がるのであれば、筋力やバランス能力の低下に対して、物品を使うことで補っていると考えられます。普段から動き慣れている自宅の環境であれば、物品の安定性や位置もしっかり把握できているため、すぐに転倒につながることは考えにくいです。しかし、自宅外の環境で掴まる物が思った様子と違ったり、掴まるところが無い空間だったりすると転んでしまう可能性が高まります。また、自宅のお部屋の模様替えなども転倒に影響するかもしれません。物に掴まって動くようになった時は、環境を含めて転倒に注意する必要があるでしょう。
精神的な変化から見分ける
身体的な変化は、目に見えやすい部分なので気づきやすいです。また、転倒につながりそうだと注意しやすいでしょう。しかし、身体面だけでなく、精神面が転倒に影響することもあるのです。
物忘れが増えた
いわゆる「年相応の物忘れ」程度であれば心配ありません。しかし「認知症による物忘れ」が増えたのであれば、転倒にも気をつける必要があります。認知症は、脳神経に障害をきたすことによって症状が現れます。それは、一般的に想像されるような物忘れなどの影響のみでなく、歩行やバランス能力にも影響を与えます。また、BPSDという認知症をきっかけに引き起こされる症状によっても転倒リスクが高まるとされているのです。
たとえば、認知症がある状態でBPSDの症状が現れるというのは以下のような行為です。
・できない行動を突然1人でできると思って動き出す
・物が無くなったと興奮して勢いよく歩き出す
・車イスのブレーキをかけずに立ち上がる
などが挙げられるでしょう。物忘れをしたこと自体を忘れるようになってきたら認知症の可能性があるので注意する必要があります。
眠りが浅くなった
眠りが浅くなると、睡眠不足の状態で日中活動することになります。そうすると、転倒しやすくなります。睡眠不足は、注意力を低下させたり、運動機能の障害を引き起こすリスクを含んでいます。筋力が十分で、骨も強い若い時期に睡眠不足で転んでも特に重大なケガにはなりにくいでしょう。しかし、高齢者は筋力が十分でなく、骨折もしやすい身体状況になりやすいため、転倒した場合、骨折する可能性が高いのです。高齢になると不眠になりやすくなります。原因は、日中にあまり動かなかったり、生活習慣病が影響したりとさまざまですが、眠りが浅くなってきたら転倒にも注意が必要なのは間違いないでしょう。
食事や薬の変化から見分ける
身体面や精神面だけでなく、環境や生活習慣も転倒に影響を与えます。特に食事量が変わってきたり、飲んでいる薬が変わったりすると、転倒しやすくなることがあるので注意しましょう。
食事量が減った
食事量が減っても転倒するリスクは高まってしまいます。理由は「手足が痩せ細ってきた」の章で説明したのとほぼ同様ですが、低栄養の症状が原因になることもあるでしょう。食事をしっかり食べずに過ごしていると、筋力低下の原因になります。筋力低下があると転倒しやすくなってしまうため、食事と体重には注意する必要があるでしょう。主には筋力低下に影響することが問題になりますが、食事量が減って低栄養状態になると以下のような症状が現れる可能性があります。
・疲労
・怒りやすくなる
・混迷(反応しなくなる)
このような症状によっても、転倒する可能性が高まるでしょう。低栄養は、身体的にも精神的にも良い影響を与えないので食事量が減ってきたら注意する必要があります。
睡眠剤や眠くなりやすい薬を服用するようになった
筋力低下と同様に、睡眠剤の使用も転倒と関連があるとされています。高齢者では、睡眠障害のために睡眠剤を使用するケースも少なくありません。もともと、高齢者は筋力やバランス能力の面を含め、転倒しやすい特徴を持っています。その中で睡眠剤を使用すると、より転倒するリスクを高めることになるでしょう。一概に全ての睡眠剤が転倒しやすくなるという訳ではありません。医療の現場では、睡眠剤の選択をして転倒のリスクを抑えることも考えます。たとえば、マイスリーなどのベンゾジアゼピン系睡眠薬は転倒しやすくなるとされており、ベルソムラなどの非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は比較的転倒しにくいとされています。しかし、病院の取り組みの中では睡眠剤自体の使用量を少なくすることを行っているところもあります。睡眠剤の選択は重要ではありますが、睡眠剤そのものが転倒リスクを高める可能性が十分に考えられるため気をつけましょう。
転倒防止のために、変化を把握することが大切
ここまで多くの転倒に関連する要素をたくさん頭に入れると「気をつけるべき項目が多すぎて難しい。」と感じてしまうかもしれません。たしかに、身体面・精神面・環境などを全て把握して転倒のリスクを洗い出そうとすると非常に大変です。しかし、重要なのは「今までの生活状態からの変化」です。健康的な生活を送れていたのであれば、そこから変わった部分を観察することが大切になります。ふとした生活の変化を感じ取り、早めの対応をしていくことが転倒防止につながるでしょう。
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資格取得後は整形外科におけるリハビリテーション部の立ち上げに従事。その他、中学や高校の野球チームでトレーナーとして携わる。現在は介護サービスにおいて、お客様の生きがいや生活の質を高めることをコンセプトとした生活リハビリの業務に従事している。その他、地域リハビリテーションに力を入れており、静岡市を中心に介護予防教室を30回以上開催し、自立支援型ケア会議に参加している。その他、福祉用具専門相談員に対して、福祉用具の選定方法などの講演を行う。