訪問介護で介護ヘルパーに頼めること、頼めないこと|デイサービス・施設サービス編
自宅にヘルパーが訪問し、必要な身体介護や家事援助を行う訪問介護。実は訪問介護のヘルパーは、頼んだことを何でもやってくれるわけではありません。それでは、どのような介助を頼むことができ、どのような介助は頼めないのでしょうか。今回は、訪問介護の介護ヘルパーに頼むことができるのか判断が難しいサービス内容について詳しくご紹介していきます。
目次
介護ヘルパーに頼めること頼めないこと
訪問介護のヘルパーができる仕事内容は、介護保険制度にて明確に決められています。提供が認められている介護の種類は以下の2つです。
・身体介護(入浴、食事摂取、排泄、家屋内の移動などの介助)
・家事援助(日常の範囲内の調理や掃除、買い物、薬の受け取りなど)
例え介護保険制度提供が認められている場合であっても、訪問してきたヘルパーにその場で仕事内容を頼んでやってもらうわけではありません。仕事の具体的な内容は、ケアマネジャーのケアプランに基づいて事前に打ち合わせを行い、ヘルパー事業所が作成する支援計画書に同意することで決まります。ここからは、実際に「これってヘルパーに頼めるの?」と事業所にお問い合わせが多いサービス内容について事例と共にご紹介していきます。
デイサービスへの送り迎えは頼めるか
デイサービスの送り迎えをヘルパーに頼むことはできません。なぜなら、デイサービスの利用に必要な送迎は、デイサービスの事業所が実施する決まりになっているからです。デイサービスによる送迎は、自宅と事業所間の送迎のみが認められています。なお、デイサービスが提示する送迎時間に対応できない場合は、家族が送迎する・介護保険適応外の介護タクシーを利用する・普通のタクシーとは別にヘルパーを呼んで送り出してもらうなどの方法が考えられます。
また、例えば「デイサービスに行く前に受診に行きたい」「通所先で具合が悪くなったから、直接病院を受診してから帰宅したい」という場合、要介護1以上の認定があればホームヘルパーが実施する「通院等乗降介助」を利用することが可能です。ただし、事前に対応する事業所と契約済みであり、ケアマネジャーが作成するケアプランに予め「通院等乗降介助」の必要性が記載されていることが条件となります。
デイサービスセンターまで忘れ物を届けてもらえるか
ヘルパーからデイサービスセンターに忘れ物を届けてもらうことは、できません。利用者本人がいないのにヘルパーが単独で自宅に入ることはできませんし、そもそも「買い物代行」や「通院等乗降介助」「例外的な院内介助」を除き、ホームヘルパーが業務を実施できるのは自宅内の対応に限られているからです。利用者本人がデイサービスセンターの送迎車で出発した後に忘れ物に気付いた時は、家族が追いかけて持参するか、デイサービスセンターにあるもので代替できないか相談することになります。特にお薬を忘れると、最悪の場合命に関わるような事態に陥ることも考えられます。デイサービスに行くときは、忘れ物をしないように対策を取っておくことが重要です。
デイサービスに行く支度は頼めるか
デイサービスに行くための支度をヘルパーに頼むことは、可能です。外出する前の排泄や更衣・整容に関する介助は「身体介護」での提供が可能ですし、本人が認知症等の原因でデイサービスに行くための荷物を準備できないということであれば、「生活援助」でのサービス提供が可能です。ただし、ヘルパーにデイサービスに行くための支度を頼むためには、ケアマネジャーがその必要性を認め、サービス担当者会議において検討したうえで支援内容がケアプランに記載されている必要があります。また、デイサービスに行くための荷物をヘルパーが準備する支援については、本人が独居である場合や同居する家族も疾病や障害によって家事が出来ないという場合にのみ実施することができます。単に「夫が亭主関白で、生活上家事をした経験がないので実施できない」という場合は該当しないので注意しましょう。
デイサービスでの入浴介助は頼めるか
デイサービスでの入浴介助を、ヘルパーに頼むことはできません。なぜなら、デイサービスの事業所内で入浴介助を行うことができるのはその事業所に所属しているデイサービスの職員に限られているからです。ヘルパーが入浴介助を実施できるのは基本的に自宅のみです。どうしてもヘルパーに入浴介助を頼みたいのであれば、ケアマネジャーに相談して自宅でヘルパーから介助してもらうようにケアプランを修正してもらいましょう。なお、自宅での入浴が困難となったために設備の整ったデイサービスで入浴をすることになった場合は、サービス担当者会議においてヘルパーからデイサービスに情報を引き継ぐことが可能です。
玄関から送迎バスまでの移動介助は頼めるか
玄関からデイサービスの送迎バスまでの移動介助を、ヘルパーに頼むことはできません。なぜなら、玄関から送迎車輌に乗せるまでの介助は、デイサービス職員の業務だからです。デイサービスでは、利用者1人1人の心身状態や自宅の状況を把握し、必要な体制を確保したうえで送迎を行っています。デイサービスの送迎時に必要な介助のことで不安な点がある場合は、担当のケアマネジャーやデイサービスの生活相談員へ相談するようにしましょう。
ヘルパーさんとデイサービスのスタッフで介護方法を話し合ってもらえるのか
利用者さんに関する困りごとを解決するため、ヘルパーとデイサービスのスタッフで介護方法を話し合うことは可能です。介護保険制度には、「サービス担当者会議」という仕組みがあります。これは担当のケアマネジャーを中心に、本人・家族・各サービス提供事業所が一堂に会してケアプランや支援内容について話し合う会議のことを言います。もしサービス利用中の利用者のことで困ったことがあった場合は、まずはそれぞれのサービス提供事業所の職員が担当のケアマネジャーに報告します。報告を受けたケアマネジャーは、本人・家族・各サービス提供事業所から詳しく情報を収集し、解決方法を検討します。その中でヘルパーとデイサービスの職員が直接話し合うことで解決すると判断すれば、双方で話し合ってもらうよう依頼する場合があります。
また、その逆でヘルパーとデイサービスで解決方法を話し合った後、担当のケアマネジャーに報告する場合もあります。在宅介護は、ケアプランという旗のもとに様々な事業所が垣根を超えてチームとなることで成立します。例え運営会社が違っても、同じ目標に向かって話し合いながら支援していくシステムになっています。どうぞご安心ください。
ショートステイ中の通院介助は頼めるのか
ショートステイ中の通院介助をヘルパーに頼むことは、できません。なぜなら、ヘルパーが通院介助を実施できるのはケアプランに必要性が記載されており、自宅発の通院であり、なおかつ通院先の病院スタッフによる院内介助が不可能であると確認されている場合に限られるからです。ショートステイ利用中でも通院することはできますが、その場合は家族が対応することが基本です。これは通院先で医師から検査への同意や治療方針の意思決定を求められる場合があるからです。家族が対応できない場合は介護保険外の自費ヘルパーに依頼するケースがあります。しかし本人に意思決定能力がない場合、自費ヘルパーが治療方針の決定や検査への同意をすることはありません。意思決定できる方が通院先に駆け付けないと治療が進まない可能性があることは、把握しておきましょう。
ショートステイをやめた場合、いつものヘルパーさんに介護を頼めるか
ショートステイの利用をやめた(途中で利用を中断して帰宅した)場合でも、普段利用しているヘルパーであればサービスを依頼することができます。ただし、利用できる支援内容については、元々ケアプランに記載されている内容に限ります。
例えば元々月・水・金曜日の10:00~11:00の間ヘルパーを利用することがケアプランに記載されていて、ショート利用のために宿泊期間中のヘルパー利用をキャンセルしていたケースです。ショートステイの利用を中断して帰宅することになった場合、ケアマネジャーに依頼してヘルパーの利用キャンセルを取り消してもらうことで元のサービスを利用できます。ただし、一度ヘルパーをキャンセルした時点でヘルパーの事業所が空いた時間に他利用者の予定を入れていた場合は元々の時間で利用することが出来ないので、他の時間に変更して入ってもらうことになります。
なお、何らかの緊急的な利用でショートステイの利用を中断せざるを得なくなって帰宅し、帰宅に伴って臨時でケアプランに記載されていない内容のヘルパーが必要になった場合も、利用が可能になる場合があります。ヘルパーには「緊急時訪問介護加算」というオプションがあるからです。ケアマネジャーが緊急的にヘルパーのサービス提供が必要だと判断した場合に限り、ケアプランに記載されていない内容でもヘルパーを利用できます。ただし、この「緊急時訪問介護加算」は家族の急病や「今すぐ対応しないと怪我や命に係わる」というようなまさに緊急時のみが対象になるので注意しましょう。
入院中の身の回りの世話は頼めるのか
本人が入院した場合の身の回りの世話を、介護保険対応のヘルパーに依頼することはできません。入院中の方に食事介助や排泄介助などの身体介護を行うこともできません。なぜなら、病院内での患者の対応は病院スタッフが行う決まりになっているからです。また、介護保険制度の訪問介護は、利用者の自宅で提供されなければならないという前提があることも理由のひとつです。なお、新型コロナウイルス感染症の影響で、例え家族であっても入院中の患者に対する面会は大幅に制限されています。平常時なら家族が毎日でも面会に行って身の回りをすることができていましたが、現在はまだ自由に面会できる状況ではありません(2022年5月現在)。もし病棟の対応に不満やお願い事があるのであれば、まずは病棟のナースステーションに電話して相談してみるとよいでしょう。
介護保険サービスに関する相談窓口を活用しよう
ここまでは、訪問介護でヘルパーに頼める内容について、下記の通りご紹介してきました。
・ デイサービスへの送り迎えは頼めるか → ×
・ デイサービスセンターまで忘れ物を届けてもらえるか → ×
・デイサービスに行く支度は頼めるか → 〇
・ デイサービスでの入浴介助は頼めるか → ×
・ 玄関から送迎バスまでの移動介助は頼めるか → ×
・ヘルパーとデイサービスのスタッフで介護方法を話し合ってもらえるのか → 〇
・ショートステイ中の通院介助は頼めるか → ×
・ショートステイをやめた場合、いつものヘルパーに介護を頼めるか → 〇
・ 入院中の身の回りの世話は頼めるのか → ×
ヘルパーは介護保険制度に基づいて実施される専門的なサービスなので、お手伝いさんとは違って困りごとなら何でも対応してくれるというわけではありません。その場合は介護保険外の自費ヘルパーなら対応してくれる場合があり、ひょっとしたらすでにご利用しているヘルパー事業所も自費対応を行っているかもしれません。何かお困りのことがあるのであれば、まずは気軽にお近くの地域包括支援センターや担当のケアマネジャーに相談してみて下さい。
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大学卒業後、通所介護・訪問介護・福祉用具貸与・居宅介護支援・グループホーム(認知症対応型共同生活介護)・有料老人ホーム・障がい者施設などを運営するNPO法人にて様々な種別の事業所に所属。高齢者支援だけでなく、障害者総合支援法に基づく業務の経験や知識も併せ持っている。事業所の新規立ち上げや初任者研修・実務者研修の設立・運営にも携わる。その後は地域でも有数の社会福祉法人に転職し、特別養護老人ホーム・ショートステイの事業所に所属した。現在は在宅高齢者を支援するケアマネジャーとして約50件を受け持つ。3児の父で、自身の祖父と父を介護した経験もあり、サービス利用者側・提供者側双方の視点を持ち、読者に寄り添う記事の執筆をモットーとしている。
多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。