2022.09.02

動脈硬化とは?要因や症状、予防を説明|高齢者の病気 循環器

最終更新日:2022.08.30
東海林 さおり
看護師

動脈硬化とは

動脈硬化

動脈硬化とは、全身に栄養分や酸素を運ぶ働きをする血管の内膜の下に、コレステロールなどの成分が蓄積した状態です。それに伴って、血管全体の弾力性が失われ傷がつく、コブのように膨らむ、破れるといったトラブルが起こりやすくなります。さらに、血管壁内にドロドロの脂(プラーク)がたまってしまう事で血管が狭くなる、あるいはプラークが破れてしまうと血栓を生じ、血管が詰まってしまう原因となります。動脈硬化を引き起こす原因としては、高血圧、脂質異常症、糖尿病、高尿酸血症、腎臓病といった病気や、喫煙、肥満、加齢や性別(男性の方がリスクが高い)などがあげられます。

動脈硬化の5つの危険因子

5つの危険因子

動脈硬化を引き起こす原因としては、生活習慣病や喫煙、肥満などがあげられます。ここでは、リスクとなる事が多い5つの危険因子について説明します。

高血圧

日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」では、至適血圧(収縮期血圧120mmHg未満かつ拡張期血圧80mmHg未満)を超えて血圧が高くなるほど、脳卒中や心筋梗塞、慢性腎臓病などの動脈硬化により引き起こされる病気に罹るリスクおよび死亡リスクが高くなることが提示されています。高血圧になると、血管内の圧力が高まってしまい、血管の内側を保護している血管内皮細胞が傷ついてしまい、内皮細胞が持つ動脈硬化を防ぐバリアーとしての機能が低下してしまい、動脈硬化が進行しやすくなります。血圧の管理としては、高値血圧(収縮期血圧130-139/拡張期血圧80-89mmHg)、高血圧(140/90以上)の場合には高血圧として生活習慣の改善や薬物療法などの対応が必要となります。

脂質異常症

血中の脂質が基準値から外れた状態を脂質異常症と言います。主にLDLコレステロール(悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(善玉コレステロール)、中性脂肪等の成分の異常の事を示します。特にLDLコレステロールは、上昇に伴い心筋梗塞などの冠動脈疾患、脳梗塞の発症や死亡確率が上昇することが知られており、LDL140mg/dLでは発症リスクが2倍以上となる事が示されています。
中性脂肪の上昇、HDLコレステロールの低値もそれぞれ動脈硬化の進行と関連があるとされています。脂質異常はLDL140mg/dL以上、HDLコレステロール40 mg/dL未満、中性脂肪150 mg/dL以上とされており、この値を外れている場合に脂質異常症と診断されます。治療については生活習慣の改善と、年齢や合併症(糖尿病、慢性腎臓病、脳梗塞、末梢動脈疾患)の有無、危険因子(喫煙、高血圧、低HDL、耐糖能異常、早発性冠動脈疾患の家族歴)などに応じてリスクが高い場合には薬物療法が必要となります。

糖尿病

糖尿病は血中の血糖が高値となっている状態です。この状態では、高血圧と同様に血管の内膜を損傷しやすくなり、プラークを形成しやすくなります。そのため、糖尿病は動脈硬化疾患の高リスク病態であることが広く知られています。冠動脈疾患、脳梗塞の発症リスクは約3倍とされており、発症後の予後も糖尿病ではない患者と比べると非常に悪くなります。診断基準は、①早朝空腹時血糖が126 mg/dL以上、②75g経口ブドウ糖負荷試験200 mg/dL以上、随時血糖200 mg/dL以上、④HbA1c6.5%以上のうち、初回検査で①~③のいずれか+④があり、別実検査で①~④のいずれかがあった場合に糖尿病と診断されます。診断された場合、食生活や運動習慣などの生活習慣の改善と、リスクが高い場合には薬物療法が検討されます。

喫煙

喫煙は冠動脈疾患、脳卒中、大動脈瘤や末梢動脈疾患など、動脈硬化性疾患の危険因子であることが多くの大規模研究で明らかになっています。これは、タバコに含まれる化学物質が血管内皮を傷つけること、脂質の代謝を悪くして脂質異常を促進すること、血液凝固系に影響し血栓を作りやすくすること等が影響しているとされています。その影響は用量依存性であり、喫煙本数が5本未満でもリスクを上昇させ、受動喫煙でも見られることが証明されています。そのため、動脈硬化を防ぐためには禁煙が必須であり、近年では内服や貼り付け薬、アプリを利用した禁煙治療が病院でも行われるようになっています。

肥満

肥満は生活習慣が乱れている事が原因で生じることが大半であり、それにより高血圧や脂質異常、糖尿病等の生活習慣病を引き起こす原因となります。①肥満、②中性脂肪150 mg/dL以上又はHDL40未満、③血圧130/85以上、④空腹時血糖110 mg/dL以上、の①+②~④のうち2つ以上を満たす場合はメタボリックシンドロームと診断され、心血管疾患などの動脈硬化リスクが非常に高い状態である事が知られています。対策としては食事や運動習慣などの生活習慣の改善が必要となります。

動脈硬化により引き起こされる病気

動脈硬化で苦しむ男性

動脈硬化そのものには症状はありませんが、様々な血管や臓器の病気を引き起こす原因となり、各疾患による症状が出現します。ここでは、動脈硬化が原因となる病気として、①冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)、②脳梗塞、③末梢動脈疾患について解説します。

冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)

胸が苦しい人のイラスト

心臓は血液を送り出すポンプの働きをしている、筋肉の塊です。その心臓の筋肉へ栄養分や酸素を供給している冠動脈が狭くなり、流れが悪くなった状態が狭心症、血管が血栓などにより詰まってしまい、血流が遮断された状態が心筋梗塞です。狭心症は動いた時(安静時の事もある)に胸が締め付けられるように苦しくなる症状が典型的です。症状は数分~30分以内で、冷や汗や吐き気を伴うような強い症状であることが多く、左肩~顎にかけても苦しくなる放散痛を伴う事もあります。心筋梗塞まで至ってしまうともっと強い症状となり、痛みも30分以上持続し、重症例では心停止に至る事もある、非常に危険な状態です。診断のためには心電図、採血検査、心臓超音波検査、冠動脈CTや心臓カテーテル検査が行われます。血管の狭窄・閉塞がある場合には心臓カテーテル治療や、重症例では冠動脈バイパス手術が行われます。

脳梗塞

頭が痛い人のイラスト

脳の血管が詰まり、血流が途絶することで脳細胞が死んでしまう病気です。脳梗塞の原因は大きく3つに分類され、脳の血管の動脈硬化が進行することで細い血管が多発性に詰まってしまうラクナ梗塞、比較的太い血管が詰まってしまうアテローム血栓性脳梗塞、心房細動などが原因で心臓にできた血栓が流れてきて脳の血管に詰まってしまう脳塞栓症に分けられます。脳梗塞は突然の神経症状が出現することが多く、手足や顔等のしびれや麻痺、しゃべりにくい、といった症状から、重症の場合突然の意識障害で発症することもありますが、中には特段の症状を伴わない無症候性の場合もあります。診断には診察での神経学的評価、CTやMRIといった画像検査が必要となります。脳梗塞発作を発症した場合には、早期に治療を行った方が後遺症などを少なくすることができるため、早期の診断と治療が大事です。
治療方法としては、超急性期には血栓溶解療法や、近年ではカテーテルを用いた血管内治療(血栓回収療法や血管拡張術、ステント留置術など)が行われることもあります。急性期から抗血小板剤の投与が必要となり、それ以外にも合併する高血圧等の生活習慣病の治療や、食事や運動習慣の改善などが必要となります。

末梢動脈疾患

つまずく人のイラスト

心臓の血管である冠動脈以外の末梢動脈に病変が生じる疾患の事を、末梢動脈疾患と定義され、特に下肢の血管で動脈硬化の病変が進行しやすいとされています。末梢動脈疾患は、急性塞栓症と慢性閉塞病変に分けられます。急性塞栓症は、心臓で形成されたの血栓が詰まる場合や、プラークの破裂などで血栓が急激にでき、詰まってしまう場合があります。突然の疼痛と色調変化で発症し、治療が遅れれば切断を必要となる事もあり、死亡リスクも15-20%と非常に高い危険な疾患です。
一方、慢性閉塞病変の場合は、下肢の動脈硬化が進行することで血流が低下することで生じます。症状としては歩行時などに下肢の痛みや重苦感が出現するため歩行が困難にあり、一休みするとまた歩けるようになる間欠性跛行が特徴的です。
診断にはABI(足関節上腕血圧比)という検査が一般的であり、足と上腕の血圧を測定し、上腕血圧÷足関節<0.9以下の場合に血流低下が疑われます。他、下肢血管のCTやエコー、MRI検査等が実施されることが多いです。
治療はリスク因子となる喫煙などの生活習慣の改善や生活習慣病等の是正、そして抗血小板剤などを使用した薬物療法や運動療法が基本です。症状が改善しない、病変の部位や状態、合併症などによっては近年進歩が著しいカテーテルを用いた血管内が行われることが多く、中にはバイパス術などの外科治療が選択されることもあります。

動脈硬化の予防

食事

動脈硬化によって引き起こされる病気は、中には重症化・死亡してしまうリスクが高い疾患もあり、一番は動脈硬化をなるべく起こさないようにする、予防が非常に重要となります。ここでは動脈硬化を予防するためにはどうしたらよいのかを解説します。

食生活の改善

体に良い食事と悪い食事

動脈硬化の基本は食生活の改善です。
・食塩の摂取は高血圧等の原因となるため、1日6g以下を目標とすることが重症です。
・食べ過ぎに注意するため、1日の摂取カロリーを適正にすることが大切です。1日に摂取する総カロリー量は、自分の標準体重=(身長m)2×22kgを求め、それに身体活動量(軽い労作で25~30、普通の労作で30~35、重い労作で35~)をかけることで計算することができます。
・肉類(特に脂分が多い部分)、それ以外にも動物性脂肪、卵、糖分を含むような加工食品、工業由来のトランス脂肪酸(バター、マーガリン、クリーム、菓子、揚げ物等に多い)をとりすぎないようにすることが大切です。
・魚、野菜、海藻、大豆製品、玄米等の未精製穀類といった、n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取を増やすことが大切です。最近ですと地中海食が動脈硬化を予防する食事として注目されています。
・お酒を飲みすぎないように心がけ、アルコール摂取を25g/日以下に心がけることが大切です。具体的にはビールは500ml、日本酒1合、ワイン2杯弱(200ml)が適量とされます。

運動習慣

ウォーキングをする女性

ウォーキングくらいの、少し汗ばむ・軽く息が上がるくらい(3Mets)の中等度強度の有酸素運動を、毎日30分以上行う事が推奨されます。

禁煙

禁煙をする男性

動脈硬化を促進する喫煙はやめる必要があります。禁煙することで、血管の内皮細胞の作用は回復することが知られているため、いつ始めても遅すぎることはありませんので、思い立った時点で禁煙をできるようにしましょう。最近では病院での禁煙治療もあるため、禁煙の成功率は上がっています。

生活習慣を改善して、動脈硬化を防ごう

HEALTH

動脈硬化はいろいろな病気の原因となる状態です。年齢とともにある程度進行しやすくなりますが、正しく理解し、正しい知識を持つことで、適切な予防策をとることはできるため、ご自身や大切な人が大きな病気に罹ってしまう事を防ぐことができます。動脈硬化はすぐに治すことはできない病気ですが、生活習慣の改善で徐々に改善することや進行を遅らせることができ、健康に過ごす時間を増やすことができます。一度に全部をやろうとすると大変で、3日坊主で終わってしまう事もあるので、少しずつ、できる範囲から始めて頂ければと思います。

東海林 さおり
看護師

看護師資格修得後、病棟勤務・透析クリニック・精神科で『患者さん一人ひとりに寄り添う看護』の実践を心掛けてきた。また看護師長の経験を活かし現在はナーススーパーバイザーとして看護師からの相談や調整などの看護管理に取り組んでいる。