在宅介護において、住まいは重要です。介護しやすい住まいかどうかで、在宅介護を長く続けられるかが決まるといっても過言ではありません。今回は、適切な介護と住まいのあり方や住宅改修について解説します。
住宅改修で使用できる制度
介護保険制度では共通して需要があり、かつ比較的小規模な改修工事として、廊下、玄関、手すりの設置、段差の解消、このほかドアの引き戸にする、洋式トイレにする、浴室のすべり止めや床材変更、寝室の床材変更などの改修費を事前申請によって給付することとしています。改修によって自立した生活が送れる見込みがあるなど優先順位の高いものから改修するようにしましょう。
住宅改修での一般的な手続きの流れ
住宅改修を介護保険を利用して行うなら、決められた手順を踏む必要があります。かかった費用の9割が支給されるよう、しっかり手続きしたいところです。詳しく見ていきましょう。
要支援1~要介護5の認定
介護保険を使って住宅改修するならば、介護認定を受けなければなりません。ケアマネジャーが決まっていないなら、まずは居宅介護支援事業所または包括支援センターに相談してみましょう。
担当のケアマネジャーが役所の窓口で相談
無事、要介護認定が下りたら、ケアマネジャーや他の専門職と住宅改修が必要か検討します。方針が決まったら担当ケアマネジャーと施工業者を選び、役所の窓口で相談しましょう。
施工業者に見積を依頼
選んだ施工業者を自宅に呼んで下見をしてもらいます。介護保険給付を伴う住宅改修に実績のある業者を選ぶと安心です。この段階で細かい要望を伝え内容を詰めていきましょう。施工業者は打ち合わせの内容をもとに後見積書を作成します。
役所の窓口に必要な書類を提出
利用者は、市町村へ必要書類提出し住宅改修の支給を申請しましょう。市町村は提出された書類等を確認して保険給付が適切な改修かどうか種類や規模を見ながら判断していきます。書類をそろえて提出するのは少々手間がかかりますが、しっかり給付を受けるためには必要な過程です。
審査・決定・工事
市町村の審査が通り改修内容が決まったら、いよいよ申請した内容に沿って工事が行われていきます。工事の箇所や規模にもよりますが、1日~数日で完了することが多いようです。
役所の窓口へ事後に必要な書類を提出
住宅改修が終わったら、領収書等のいくら費用がかかったか分かる書類を市町村など保険者へ提出することで支給申請は完了です。市町村は、事前に提出された書類と突合し、適切な工事が当該住宅改修費として使われたことを認めた場合、住宅改修費を支給します。
住宅改修費の支給
実際の住宅改修にかかった費用の9割の金額が償還払いで支給になります。要支援、要介護区分によって利用可能な金額が変わることはなく、定額で支給限度基準額(20万円)の9割相当額(18万円)までが指定口座に振り込まれます。給付率の良い制度ですので手堅く利用しておきたいものです。
家の中で危険な場所はどこ?
高齢者にとって最も安心できる場所であるはずの家庭内。しかし一日のうちの大半を過ごす屋内にこそ、たくさんの危険が潜んでいるという報告があります。当たり前の環境だからこそ見落としてしまう危険について確認していきましょう。
高齢者の家庭内事故について
高齢者の家庭内事故は住宅の屋内が圧倒的に多く、中でも居室内が45.0%程度を占めています。次いで多いのが階段で18.7%、台所・食堂が17.0%となっています。
・トイレへ行く際、ベッドから転落・転倒
・階段を踏み外し、バランスを崩しての転倒
・靴下やカーペット・バスマット・布団などに足をとられて転倒
・風呂場の濡れた床で足を滑らせて転倒
・庭の木の枝切りや屋根の修理のために脚立・はしご、屋根の上などの高いところから転落
・椅子のって電球を取り換えようとした時に転落
・玄関の段差を上がりきれず、つまずいて転倒
などの場面で転倒している高齢者が多いようです。
不慮の事故
高齢者における不慮の事故は、他の世代と比較しても頻発しています。死因においては、災害や交通事故による死者数よりも若い時だと考えにくいものが多くなっており、
・入浴中の溺死
・のどにものを詰まらせての窒息
・転倒・転落
などが多い死因としてあげられます。
窒息
高齢者の不慮の事故の中で一番死亡者数が多いのは、のどにものを詰まらせての窒息です。このうち約半数をいわゆるお正月(年始)などの餅による窒息事故が占めています。高齢者ほど餅を食べる習慣を大切にする文化が関係しているのかもしれません。また、もち以外にも高齢者はだ液の分泌が少なく、咀嚼機能が低下しているため硬いものや厚いものなどにも注意が必要です。
転倒
高齢者の転倒・転落は大腿骨骨折や急性硬膜下血腫等の重大な事故となり、これが原因で寝たきりなど介護が必要な状態になることもあります。
段差、加齢による身体機能の低下、転倒につながりやすい特定の疾患、薬の副作用によるふらつきなど原因は様々です。若いときと比べて高齢者になると一度の転倒でも、それがきっかけで結果的に命を落とす状態を引き起こす可能性は高くなるため、気をつけましょう。
火災
住宅火災における死者数は約7割が65歳以上の高齢者が占めており、大半は「逃げ遅れ」によるものとなっています。原因として、その場で逃げようと思っても加齢による体力、判断力の不足で避難し切れなかったというケースが多く見られるようです。
また、高齢者の死亡を伴う火事は「ストーブ」「コンセント等」「灯明(ろうそくなど)」「ガスコンロ」などの生活に関連したものが火元の割合が、若い世代より多く見られています。
溺死
入浴中の事故は、持病がなく前兆がない場合でも発生するおそれがあります。
・脱衣所や浴室が寒い
・湯温が42度以上、10分以上湯に浸かる
・浴槽から急に立ち上がる
・食後すぐの入浴、アルコール摂取後の入浴
・精神安定剤、睡眠薬などを内服した状態での入浴
などは危険ですので控えましょう。ときどき声をかけて安全を確認してください。
介護を意識した住宅改修
介護保険の保険給付の範囲外で住宅改修するならば、自己負担ではありますが、もっと自由に要望を組み込むことができます。改修の範囲やタイミングも様々で正解は一つではありません。
要介護者の身体状況に合わせて改修する
体調を崩して入院したのを機に住宅改修を考える人は多いでしょう。退院後の生活を無理なく送るため、介護する家族の負担を減らすために、入院中に専門職にアドバイスをもらいながら住宅改修を検討することも可能です。
特に脳梗塞で片麻痺などの後遺症が残った場合は麻痺の範囲や程度に合わせた改修が必要になります。移動の際に転倒しないように廊下や玄関などに手すりを付ける回収などが候補になるでしょう。
両親の老後のことを考えて、住みやすい家にする
元気なうちに家族みんなで老後に備えて改修箇所を考え、工事しておくのもひとつです。いざという時に介護してくれる人がいるとは限りません。家族の状況次第では、あらかじめ住宅改修しておくことが後々いい方向へ向かうこともあります。また、あらかじめ段差を解消する、開き戸を引き戸にしておくなどすれば、転倒を防いで健康寿命を延ばすことができるともいえるでしょう。
究極の在宅介護を目指して
いくらバリアフリーで介助しやすい家に住んでも、家に閉じ込もってしまっては意味がありません。近所の友人や家族と交流する機会をたくさん持ち、生活の質を向上させることが大切です。また、本人が暮らしやすいだけでなく家族が介護しやすい住宅に改修することが息の長い介護につながります。
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福祉用具貸与事業所に勤務し、住み慣れたご自宅での在宅生活で、お客様が安全・快適に過ごしていただけることをミッションとして福祉用具・住宅改修業務を通して携わる。また地域包括支援センターと連動して地域の老人会や自治会に向けて、住環境整備の大切さを啓発する勉強会を開催するなど、地域に根付いた活動に力を入れている。