2021.07.02

高齢者の不調を発見する|危険な下痢の種類と対策について

最終更新日:2022.07.22
東海林 さおり
看護師

下痢は重大な病気の兆候である

医療

普段から下痢をすることが多いと、いつものことだと思ってしまいがちですが、実際は下痢が危険な病気の兆候の可能性があります。お腹がゆるくなりやすい体質だと勝手に自己診断せずに、下痢の状態によってどのような病気の可能性があるのか見ていきましょう。

さまざまな下痢の性状

米のとぎ汁状

米のとぎ汁状の下痢になる病気として、コレラとウイルス性腸炎があります。コレラの症状は、潜伏期が1日程度であり、主症状は下痢です。軽症の場合は軟便もしくは、1日数回程度の下痢ですが、重症の場合は腹部の不快感と不安感があり、突然の下痢と嘔吐に見舞われます。特有の粘液の混じった便は、甘くて生臭い臭いがすることが特徴的で、血圧の下降や皮膚症状、意識喪失などあらゆる症状を併発します。一方、ウイルス性の急性胃腸炎の可能性もあります。ウイルスや菌に汚染された食品を食べたり、水を飲んだりすることで感染する病気であり、冬から春先に患者が増えます。家庭内感染が多いことが特徴としてあり、治療法は点滴対応が多いです。高齢者は下痢による脱水症状が命の危険となることもあるので、水分補給を行いましょう。

粘血便

粘血便が出る病気として、潰瘍性大腸炎と大腸がんがあります。潰瘍性大腸炎は、大腸や小腸の粘膜に慢性の炎症や潰瘍ができ、未だに原因不明と言われています。粘血便が出るのが主症状であり、ひどくなると1日に10回以上の粘血便が出ることも。発熱や体重減少、まれに便秘が起こることがあり、良くなったり悪くなったりを繰り返すため、長期間にわたる治療が必要です。一方、大腸がんの可能性もあるでしょう。主症状が粘血便であり、どろっとしたゼリー状の粘液を伴った血便が出ることもあります。潰瘍性大腸炎の患者を診察していたら、大腸がんができていることもあるくらい、これら二つの病気は症状が似ています。

血性下痢

血性下痢が出る病気として、虚血性大腸炎や腸チフスがあります。虚血性大腸炎は、大腸への血流が悪くなることにより、循環障害が起こることで発症する病気です。原因は、一時的な血圧の低下や動脈硬化による血流低下と言われています。腹痛と血便があり、主に60歳以上の人に発症しやすい病気です。心臓や血管の病気を持っている人や、大動脈の手術をした人は発症しやすいので注意しましょう。一方、腸チフスも血性下痢が見られることがあります。潜伏期間は2週間ほどで、サルモネラ属のチフス菌とパラチフス菌による感染症であり、衛生状況の悪い発展途上国で流行しやすく、特に南アジアで多く見られます。日本では、昭和の初めから終戦直後まもなくにかけて代表的な感染症のひとつでした。

いちごゼリー状

赤痢アメーバという原虫による感染症に罹患すると、いちごゼリー状の便となります。赤痢アメーバそのものは、肉眼では見ることができない大きさであり、経口からの侵入により、赤痢アメーバのシストから脱嚢した栄養型が増殖し、腸の粘膜に潰瘍をつくることで大腸炎を発症します。大腸から血液の流れに乗って散布された栄養体が肝臓、脳、肺などに膿瘍を形成するという、恐ろしい病気です。世界で毎年約10万人がこの感染症のために死亡し、渡航者によくみられる感染症のひとつです。国内では、福祉施設の集団感染が見られることがあります。

灰白色

閉塞性黄疸になると、胆汁が腸に流れなくなるので、便の色が灰白色になります。閉塞性黄疸とは、何らかの原因により胆管がつまってしまい、本来腸の中に排出される胆汁が血液の中に逆流して起こる黄疸のことです。胆管が詰まる原因として最も多いのは胆管結石であり、内視鏡(胃カメラ)を用いて結石を除去する治療を行います。また、胆管がんの90%には閉塞性(へいそくせい)黄疸が出ると言われています。まずは、胆管がんの治療をすることが最優先であり、治療が上手くいけば、灰白色の便が出ることはなくなるでしょう。

主な食中毒と対症療法

 

医師

下痢に嘔吐が伴うことがあれば、食中毒が疑われるでしょう。原因物質が直接的に毒物として作用する場合と、細菌やウイルスなどの微生物が増殖することによって、腸などの消化管の感染症として発症する場合の2つのパターンがあります。症状が現れるのも突然であり、激しい症状が起こることが多いです。

ノロウイルス

ウイルス性胃腸炎を引き起こすウイルスの一種です。あらゆる感染パターンがありますが、手指や食品などを介して、経口で感染することが多く、感染力が強いため注意が必要な食中毒です。主症状は吐き気、嘔吐、下痢ですが、腹痛、頭痛、発熱、悪寒などあらゆる症状を起こすことがあるようです。特に抵抗力の弱い高齢者については、重症化しやすく、死に至ることもあります。症状が回復したからといって安心はできません。それは、症状回復後でも1~2週間、まれに1ヶ月に亘り糞便中にウイルスを排出し続けるからです。そのため、二次感染を起こし、流行が続くというケースも見られるでしょう。感染しても発症しない人がおり、それらの人が感染拡大をすることもあるようです。

サルモネラ菌

食中毒でよく聞くのがサルモネラ菌です。サルモネラ菌は、あらゆる場所に存在する菌であり、ヒトや牛、豚、にわとりなどの家畜をはじめ、河川や下水などにも生息しています。ペットから感染することもあるので、ペットに触れたあとの手洗いや消毒は気を付けたいものです。特徴として、少量の菌でも食中毒を発症することが分かっています。潜伏期間は6~72時間程度とされており、長期にわたり保菌者となることもあるようです。主な症状は、吐き気・腹痛(下腹部)・38℃前後の発熱・下痢です。(重症の場合、致死率0.2〜0.5%)手指の消毒をしっかりして調理をすることや、調理器具の洗浄と除菌を徹底して行うことが、サルモネラ菌による食中毒の予防につながります。

病原性大腸菌

特定の疾病を起こす大腸菌菌株の総称であり、約170種類あります。そのなかで、よく聞くのがO111やO157であり、これらの大腸菌は100人以上の食中毒を起こすこともある大腸菌です。食中毒のなかでも珍しく潜伏期間が4~9日と長く、発症後4~8日で軽快します。症状として、出血を伴う腸炎や溶血性尿毒症症候群(HUS)を起こすこともあり、最悪の場合は死に至る可能性もあります。特に高齢者が感染すると、重症化することが多いので注意が必要です。予防法として、夏場は生ものを食べないようにする、食品を取り扱う前の手洗い、加熱すべき食品はしっかり加熱する、調理したものはその場でできるだけ食べる、などを徹底するようにしましょう。

黄色ブドウ球菌

黄色ブドウ球菌とは、ヒトや動物の皮膚、消化管常在菌であるブドウ球菌のひとつであり、顕微鏡で見ると、ブドウの房のように集まっていることから命名されています。食中毒の原因菌としても有名ですが、にきびや水虫などの化膿性疾患の代表的起因菌です。食中毒に話を戻しますが、食物のなかで増殖するときに、エンテロトキシンという毒素を作ります。この毒素は熱に強く、酸素のない状態でも増殖可能な毒素です。原因となりやすい食物に、にぎりめし、寿司、肉、卵、乳をはじめとする調理加工品やお菓子など幅広いことが特徴的です。症状は、吐きやや嘔吐、腹痛、下痢を伴うことはありますが、高熱は出ません。

脱水にならないように、十分な注意を

四つ葉のクローバー

下痢が起きると一般的に脱水症状になりやすいです。また、下痢の場合は1度で終わることは珍しく、複数回繰り返すことが多いので、水分不足は避けられないでしょう。特に高齢者は脱水症状になりやすく、それを本人は気が付いていないということも多いようです。介護者は高齢者が下痢を繰り返しているときは注意深く体調に配慮し、こまめに水分摂取をさせましょう。下痢をしているときには、水分摂取を嫌がる高齢者もいます。水分摂取をすることで、さらに下痢を繰り返してしまうのではないかという心配からと思われますが、脱水症状になってしまうと死に至ることもあるため、命を優先させるという意味でも水分摂取が必要です。

下痢の予防と対策について

栄養士

高齢者が下痢をしないようにするには、まずは普段の習慣として手洗いをしっかり行うようにしましょう。高齢者は足腰が悪いこともあるので、どうしても洗面所まで行くのがおっくうだとか、手洗いの姿勢が辛いということもあるようです。介護者は、高齢者の手洗いがしっかり行われているかチェックし、習慣化されるようにしてください。また、介護者もしっかり手洗いを実行することにより、食中毒に関するウイルスや細菌を遠ざけることができます。食事の支度には特に注意し、高齢者介護でおむつなどを扱うことがあれば、特に気を付けましょう。これらのウイルスや細菌は目に見えないからこそ、私たちはより一層注意しなければなりません。

東海林 さおり
看護師

看護師資格修得後、病棟勤務・透析クリニック・精神科で『患者さん一人ひとりに寄り添う看護』の実践を心掛けてきた。また看護師長の経験を活かし現在はナーススーパーバイザーとして看護師からの相談や調整などの看護管理に取り組んでいる。