家族が要介護状態になると、住み慣れた自宅で継続して安全に過ごせるよう、介護用手すりの設置を検討します。しかし、介護用手すりにはどのような種類があるの?どの場所にどんな手すりを設置すればいいの?と悩む方はとても多いです。そこで、日頃から一人ひとりに合った福祉用具を選ぶお手伝いをしている福祉用具専門相談員が、介護用手すりの種類や選び方について解説します。
この記事を読むことで、以下のメリットがあります。
・介護用手すりを設置するポイントや注意点が分かる
・家族に最適な介護用手すりが見つかる
・誰に相談したらいいのか明確になる
手すりの役割
介護用手すりは、歩行をはじめ起き上がりや立ち座りの動作をサポートし、転倒や転落を防止します。それぞれの役割別に以下で詳しく解説します。
歩行をサポートする
加齢に伴い、足の筋力や関節の運動機能が衰えます。すると、外出先でのさまざまな場所への移動はもちろんのこと、住み慣れた自宅の廊下や各部屋への移動であっても、若い頃のようにスッスッとスムーズに歩行することが困難になります。
手すりを使用することで、安全に歩行が可能です。手すりは、身体のバランスを維持しながら歩行をサポートする役割があります。
起き上がりや立ち座り動作をサポートする
高齢になると、足や腰の筋肉量が減少します。すると、自宅のトイレや洗面所、浴室やベッド、リビングや玄関、玄関アプローチなど、あらゆるシーンにおいての立ち上がりや座りこみ、起き上がりなどの動作は大きな負担です。
手すりを使用することで、安易な起き上がりや立ち座りが可能です。手すりは、身体の重心を安定させ、姿勢の変換を補助し、起き上がりや立ち座りの動作をサポートする役割があります。
転倒や転落を防止する
年齢を重ねると、視力や脳が衰え、反射神経が低下します。すると、外出先や自宅を問わず、階段やベランダ、砂利道などの道路の凹凸、乗り物の乗降などで、身体のバランスを崩して転倒や転落をし、頭を打ったり骨折したりする危険性が高まります。
手すりを使用することで、さまざまな動作を安全に行え、活動範囲を広げることが可能です。手すりは、段差での体重を支えて身体のふらつきをなくし、転倒や転落を防止する役割があります。
手すりの種類
介護用手すりの種類には、主に3つのタイプがあります。
・据え置きタイプ
・突っ張りタイプ
・工事取り付けタイプ
手すりの種類によって、設置する場所や使用方法が異なります。
据え置きタイプ
据え置きタイプは、布団やベッド、床や椅子からの立ち上がり、廊下や部屋での歩行、玄関での昇降などを補助する手すりです。手すりを引っ張ることなく立ち上がりや歩行が可能な方、立ち上がる際の歩行の支えとして使用する方に向いています。
据え置きタイプの手すりは、設置に際して工事の必要がなく、床に置くだけで使用できるため、比較的簡単に手すりを移動させることも可能で、使い勝手に優れています。
一方で、手すりを置くためのスペースを確保する必要があります。
据え置きタイプの手すりを設置する際は、手すりと手すりを設置する場所のサイズ感を事前に確認しておくことが重要です。
突っ張りタイプ
突っ張りタイプは、布団やベッド、床や椅子からの立ち上がり、ベッドと車椅子の移乗、廊下や部屋での歩行などを補助する手すりです。立ち上がりや歩行する際に手すりを強い力で引っ張る方、何かに掴まっていないと長い距離を移動できない方に向いています。
突っ張りタイプの手すりは、設置に際して工事の必要がなく、床と天井に突っ張って固定するため、安定感があります。動線上に手すりを設置する壁面がない場合は、突っ張り棒を組み合わせることで、移動の際の補して使用できるためとても便利です。
一方で、床と天井へ手すりを固定するため、強度の関係で床と天井の補強が必要であったり、設置できなかったりすることがあります。突っ張りタイプの手すりを設置する際は、床と天井の構造や材質、強度を事前に確認しておくことが重要です。
工事取り付けタイプ
工事取り付けタイプは、トイレや浴室内での立ち上がりや座りこみ、玄関や階段での昇降、廊下での歩行などを補助する手すりです。立ち上がりや座り込み動作がつらい方、歩行にふらつきなどの不安がある方に向いています。
工事取り付けタイプの手すりは、壁面や柱などにビスなどを打ち付けて固定するため、強度があり安定感が増します。また、工事取り付けタイプの中には、水平形や縦形、L字形などのさまざまな種類があるため、使用場所に最適な手すりを選びやすいです。
一方で、設置するには工事が必要になるため、設置に時間を要したり、大規模な住宅改修を強いられたり、場所によっては設置ができなかったりすることがあります。工事取り付けタイプの手すりを設置する際は、設置までの時間や住宅改修の有無を事前に確認しておくことが重要です。
手すりの選び方
介護用手すりを選ぶ際は、手すりの高さをはじめ、太さや形状、サイズや素材などをポイントに選ぶことが大切です。以下では選び方のポイントについて深掘りします。
手すりが利用者の身長や身体状況に合っているか(高さ)
手すりの太さや形状は、利用者の握力を考慮しながら、握りやすさを重視したものを選びます。一般的に、手すりの太さは直径32mm〜45mm程度ですが、使用する場所によって最適な手すりの太さも異なります。
トイレや浴室など手すりをしっかりと握って使用する場所では、握った際に指先が軽く触れる直径28mm〜33mm程度です。廊下や階段など手すりに手を添えて身体を移動しながら使用する場所では、直径33mm〜44mm程度が良いとされています。
また、一般的な手すりの形状は、手を滑らせやすい円形が多いです。その他にも、手すりの方向に力を加えた際に、握った手が滑らないようくぼみが付いたディンブル付き手すりや、円周方向に力を加えた際に、握った手が滑らないよう楕円形をした手すり、握力が小さくてもしっかりと押しつけることができる平面形の手すりなどがあります。自宅で使用する場合には、太さは少し細めで、しっかりと握れる手すりを選ぶことがおすすめです。
手すりの握りやすさ(太さや形状)
手すりの太さや形状は、利用者の握力を考慮しつつ、握りやすさを重視したものを選びます。一般的に、手すりの太さは直径32mm〜45mm程度ですが、使用する場所によって最適な手すりの太さも異なります。
具体的には、トイレや浴室など手すりをしっかりと握って使用する場所では、握った際に指先が軽く触れる直径28mm〜33mm程度が良いとされています。また、廊下や階段など手すりに手を添えて身体を移動しながら使用する場所では、直径33mm〜44mm程度の手すりを選択することが多くなっています。
手すりの形状については、握りやすい円形がおすすめです。その他にも、握った手が滑らないようくぼみが付いたディンブル付き手すりや楕円形をした手すり、握力が小さくてもしっかりと押しつけることができる平面形の手すりなどがあります。自宅で使用する場合には、太さは少し細めでしっかり握れる手すりを選ぶことがおすすめです。
手すりのサイズや素材
手すりのサイズは、設置する場所と使用目的などに合わせたものを選びます。
手すりが大きすぎると、歩行や立ち座りを補助するどころか、身体が手すりに衝突してケガを負います。逆に手すりが小さすぎると、歩行や立ち座りの際に手すりへ力を加えづらく、身体のバランスを崩して転倒する危険性もあります。
また、手すりの素材は、設置する場所に合わせたものを選びます。一般的には、木製や樹脂製、ステンレス製があります。
木製は、手触りがよく暖かみがあり、インテリア性に優れているため、廊下や階段、寝室やリビングなどに最適です。
樹脂製は、耐水性および耐熱性に優れているため、浴室やトイレなどの水回りに最適です。
ステンレス製は、耐久性および耐候性に優れているため、屋外に使用されます。しかし、温度の影響を受けやすく、特に冬季は冷たくなった手すりに触れることで、身体を冷やす原因にもなるため、注意が必要です。
自宅(室内)での手すりの設置場所について
介護用手すりは、浴室をはじめ、寝室や玄関、階段など、日常生活を送る上で利用者が頻繁に行き来し危険性を感じる、もしくは手すりを設置した方がスムーズに動作を行える場所に設置します。
2020年10月の消費者庁のデータ※によると、自宅内での転倒事故が発生場所は以下通りでした。
1位 浴室・脱衣所
2位 庭・駐車場
3位 ベッド・布団
4位 玄関・勝手口
5位 階段
6位 トイレ
7位 廊下
8位以降 台所・居間・ベランダ・縁側
今回は、1位、3位~7位の各場所に手すりを設置する場合のポイントと注意点について詳しく説明していきます。(2位 庭・駐車場は室内ではない為、今回は説明を記載しません)
※消費者庁.「10月10日は「転倒予防の日」、高齢者の転倒事故に注意しましょう!-転倒事故の約半数が住み慣れた自宅で発生しています-」.https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_040/assets/consumer_safety_cms204_201008_01.pdf,(参照 2022-12-15)
浴室に手すりを設置する場合のポイントと注意点
浴室に手すりを設置する場合、一般的な高さは浴槽の縁から10mm〜15mmです。ポイントは、どのような動作を補助するための手すりかということです。
浴槽での立ち上がりや座りこみを補助する場合は、L字形の手すりが適しています。浴槽をまたぐ動作を補助する場合は、水平形の手すりを縦に設置すると便利です。浴室への出入りの動作を補助する場合は、水平形の手すりを横に設置すると便利です。
また、浴槽をまたぐ動作を補助する手すりには、浴槽の縁を挟み込んで固定するタイプがあり、設置も簡単なため使い勝手が良いでしょう。
寝室に手すりを設置する場合のポイントと注意点
寝室に手すりを設置する場合、一般的な高さは床面から750mm〜800mmです。ポイントは、寝室でベッドを使用するのか、それとも布団を使用するのかによって手すりのタイプが変わることです。
ベッドでの立ち上がりや座りこみを補助する手すりを設置する場合は、据え置きタイプや突っ張りタイプの手すりが便利です。布団での立ち上がりや座りこみを補助する手すりを設置する場合は、据え置きタイプの手すりが便利です。
据え置きタイプや突っ張りタイプの手すりは、高さを数段階の間で変更できるため、利用者が実際に手すりに掴まってみてちょうど良い高さに設定しましょう。また、ベッドの場合は、ベッド本体に手すりが付属しているものもあるため、据え置きタイプと併用しながら使用すると、より安定した立ち上がりや座りこみが可能です。
玄関に手すりを設置する場合のポイントと注意点
玄関に手すりを設置する場合、一般的な高さは上がり框の最上部から750mm〜800mmです。ポイントは、靴を脱着する際に立ったままもしくは座るのかによって、手すりの高さを設定することです。
立ったまま靴を脱着する場合は、上がり框の最上部から750mm〜800mmの高さにL字型の手すりを設置すると、安定した姿勢を保持できます。
座って靴を脱着する場合は、立ち上がりや座り込みの動作が発生するため、玄関の土間から750mm〜800mmの高さに水平形の手すりを横に設置すると、安定した立ち上がりと座りこみが可能です。
また、玄関の段差の昇降で使用する場合は、据え置きタイプの手すりも設置できます。
階段に手すりを設置する場合のポイントと注意点
階段に手すりを設置する場合、一般的な高さは段鼻から750mm〜800mmです。段鼻とは、階段の踏み板の先端部分のことを言います。ポイントは、階段の最上段および最下段から、それぞれ200mmほど超えた範囲まで手すりを設置することです。
階段の最上段および最下段までのみ手すりを設置した場合、最上段を上りきることができなかったり、最下段から下りきることができなかったりするため注意しましょう。
また、階段の両側に手すりを設置することが望ましいですが、幅員が十分でないなど構造上やむを得ず片側のみしか設置できない場合は、階段を下りる際に手すりが利き手側にくるように設置することで、転落防止につながります。
トイレに手すりを設置する場合のポイントと注意点
トイレに手すりを設置する場合、一般的な高さは便座の先端から200mm〜250mmです。ポイントは、立ち上がりと座りこみの動作をスムーズに行える形状の手すりを設置することです。
縦と横が分かれた水平形、縦と横が一体となっているL字形、肘掛けが付いた跳ね上げ形などがありますが、L字形の手すりが最も一般的で便利です。
肘掛けが付いた跳ね上げ型の手すりは、水平形やL字形と異なり工事の必要がないため、簡単に設置できますが、設置するスペースを広く確保する必要があります。水平形やL字形の手すりは、利き手の壁面に設置することで、立ち上がりと座りこみの動作にかかる身体への負担を軽減できます。また、便器の前方に水平形の手すりを横に設置すると、より安易に立ち上がりと座りこみが可能です。
廊下に手すりを設置する場合のポイントと注意点
廊下に手すりを設置する場合、一般的な高さは床面から750mm〜800mmです。ポイントは、利用者の身体状況に合わせた形状の手すりを設置することです。
関節リウマチなどで手指の巧緻性が低い場合は、手すりを握らずに前腕を添えて移動できる平面形の手すりを設置します。この場合、肘を曲げて前腕を添えるため、手すりの高さは900mm前後に設置すると安全です。
手すりを設置する際の費用
介護用手すりを設置する際は、手すりの種類や選び方、設置場所によって費用が異なります。また、介護保険サービスを活用することで、設置費用の抑制につながります。手すりをレンタルで設置する場合と、工事をして設置する場合に分けて解説します。
レンタルで手すりを設置できる「福祉用具貸与」
介護保険の福祉用具貸与とは、要介護者などの日常生活の便宜を図るための用具および要介護者などの機能訓練のための用具であって、利用者がその居宅において自立した日常生活を営むことができるよう助けるものについては保険給付の対象です。
手すりをレンタルする場合は、要支援1以上の認定を受けた方で、取り付けに際し工事を伴わないものに限ります。
手すりのレンタル費用は、手すりの種類により異なります。一般的には、月額利用料金2,000円〜5,000円が多く、介護保険適用で原則1割になり、200円〜500円の自己負担額でレンタルが可能です。※なお、自己負担割合は所得に応じて2割〜3割のケースもあります。
工事をして手すりの取り付けができる「住宅改修」
介護保険の住宅改修とは、要介護者などが自宅に手すりを取り付けるなどの住宅改修を行うときに、住宅改修が必要な理由書などを添えて申請書を提出します。手すり取り付け工事の完成後に領収書などの費用が発生した事実のわかる書類などを提出することにより、実際の住宅改修費の9割相当額が償還払いで支給されます。
要支援1以上の認定を受けた方が対象で、原則要介護者1人につき1回の利用が可能です。支給限度基準額20万円の9割である18万円が上限として支給されます。
例えば、階段に手すりを設置した場合、住宅改修工事費用が税込10万円かかったとすると、介護保険適用で原則1割の税込1万円の実質自己負担額で済みます。ただし、要介護状態区分が3段階以上重くなった、もしくは転居したなどの場合は、再度20万円までの支給限度基準額が設定されます。
手すりの利用は、福祉用具専門相談員に相談しよう
ここまで、福祉用具専門相談員が介護用手すりの種類や選び方について解説してきました。
さまざまな手すりの種類の中から最適な手すりを設置したり、上手に介護保険の福祉用具貸与や住宅改修を利用したりするためには、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員への相談が必須です。そして、手すりが必要になった時点で速やかに設置することで、住み慣れた自宅で家族と安全に楽しく暮らすことにつながります。ぜひ今回の記事を参考に、あなたにとって最適な手すりを見つけてみてください。
また、直接相談に行くことは「気が引ける」「恥ずかしい」とお考えの方には、日常的な介護の困りごとをQ&A方式で質問できる「介護の広場」がおすすめです。介護のお悩みを投稿するだけで、介護経験のあるかたや専門職から回答を得ることができます。ぜひ一度アクセスしてみてください。
「介護用手すりの種類や選び方を福祉用具専門相談員が解説」に関連する記事
福祉用具貸与事業所に勤務し、住み慣れたご自宅での在宅生活で、お客様が安全・快適に過ごしていただけることをミッションとして福祉用具・住宅改修業務を通して携わる。また地域包括支援センターと連動して地域の老人会や自治会に向けて、住環境整備の大切さを啓発する勉強会を開催するなど、地域に根付いた活動に力を入れている。