2023.01.18

ヒートショックになりやすい人とは?原因や予防対策を専門家が解説

最終更新日:2023.06.28
増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

冬の季節になるとヒートショックに関連した事故が増加します。高齢で一人暮らしをしているご家族がいらっしゃる方もおり、冬場になると心配になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。本記事では、ヒートショックやヒートショックになりやすい人、原因や予防対策について説明していきます。ヒートショックのリスクに少しでも当てはまる方は本記事を読み、ヒートショックの予防に役立てていただけますと幸いです。

目次

ヒートショックとは

ヒートショックとは

ヒートショックとは、急激な温度の変化により血圧が大きく変動する等で、身体がダメージを受ける現象を指します。ヒートショックにより、入浴中に溺水を起こして亡くなってしまうケースがありますが、厚生労働省のデータによると、2020年に家庭内の溺水が原因で亡くなった方は約5000人もいます。

出典:政府統計の総合窓口(e-Stat)(https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003411678)

ヒートショックが起こる原因

ヒートショックの原因は、血圧の変動によって起こります。人の体は気温の変化に伴い、体温を一定に調節しようとして血管の収縮・拡張を調整しています。

気温が低ければ、体の熱が外に逃げないよう、血管を収縮させて血流を減少させるため、血圧は上昇します。反対に、気温が高ければ、体温が上昇しないよう、血管を拡張させて血流を促し、身体の熱を外に逃がそうとするため、血圧は低下します。

入浴などで急激な温度差が生じると、血圧の変動も大きくなり身体に負担がかかる結果、ヒートショックが生じます。具体的には、血圧の急激な低下により、脳や心臓への血流が低下して失神や心筋梗塞を引き起こしたり、血圧の急激な上昇により脳出血や大動脈解離を引き起こしたりすることがあります。

ヒートショックの症状

ヒートショックが起きると、血圧の急激な変動により、脳や心臓・血管に異常をきたして様々な症状が出現します。

・脳に異常をきたした場合
脳の血圧が急激に上昇すると、脳出血を引き起こし、吐き気や麻痺症状が現れます。反対に、血圧が急激に低下すると、めまいや失神が生じます。

・心臓に異常をきたした場合
心臓への血流が低下した場合には、狭心症や心筋梗塞により胸の痛みが生じます。

・血管に異常をきたした場合
血圧の急激な上昇により、大動脈解離が生じ、引き裂かれるような胸の痛みが生じます。

ヒートショックが起こりやすい時期や場所

ヒートショックが起こりやすい時期として、一般的に11月~2月にかけての冬場とされています。外気が寒く、室内は暖房等で暖かくなり、また寒さで入浴も長時間になる傾向があるため、温度変化も急激になりやすいからです。

ヒートショックが起こりやすい場所に関しても、基本的には温度差が激しくなる場所とされています。具体的には室内で冷えやすい場所、すなわちトイレや廊下、洗面脱衣所、玄関などが挙げられます。

ヒートショックになりやすい人

ヒートショックになりやすい人

ヒートショックになりやすい人は、血圧変動の影響を受けやすい人、もしくは住環境や生活習慣においてヒートショックを誘発する因子がある人です。具体的には、65歳以上の高齢者、高血圧や糖尿病、肥満を有する人、不整脈、睡眠時無呼吸症候群がある人、浴室やトイレに暖房設備がない人、30分以上お風呂に浸かっている人、飲酒後にお風呂に入る人などが挙げられます。それぞれについて、具体的に説明していきます。

65歳以上の人

ヒートショックを起こす方の多くは65歳以上の高齢者であり、高齢者の方は注意が必要です。高齢になると自律神経の機能が低下し、血圧の変動がおきやすいためヒートショックも起きやすくなります。また、自律神経機能の低下のみならず、高齢になると高血圧や糖尿病の罹患率が上昇します。この点もヒートショックを起こしやすい要因の一つです。高齢者の方は注意が必要です。

高血圧・糖尿病・肥満の人

続いて、高血圧や糖尿病、肥満を有する方もヒートショックを起こしやすいです。高血圧の方は、元々血圧も高いため血圧の変動も大きくなりやすく、また動脈硬化を伴っていることも多いため、血圧の変動に伴い心臓や脳への血流が低下しやすくなります。糖尿病の人は自律神経の調節障害を伴っていることがあり、これに伴い血圧も不安定になりがちです。肥満の人も高血圧や糖尿病を合併しやすく、結果としてヒートショックが生じやすくなります。

不整脈、睡眠時無呼吸症候群がある人

不整脈や睡眠時無呼吸症候群がある人もヒートショックに対して注意が必要です。不整脈がある方は血圧低下をきたしやすく、血圧が不安定になりがちですので、急激な温度変化で血圧も変動しやすいです。また、睡眠時無呼吸症候群の方は眠りが浅くなることで自律神経の乱れをきたしやすく、血圧の調整も不安定になりがちであり、結果としてヒートショックを起こしやすくなります。

浴室やトイレに暖房設備がない人

自宅の浴室やトイレに暖房設備がない場合もヒートショックが生じやすいです。浴室やトイレは室内でも気温が低下しやすく、ヒートショックが起こりやすい場所と言えます。暖かい室内から冷えやすい浴室やトイレに入ることで、急激な寒暖差によりヒートショックが起きることがあります。また、排便時にいきむことで血圧が急上昇することがあり、この点もトイレでヒートショックが起こりやすい要因の一つになります。

一番風呂や熱いお風呂が好きな人

一番風呂や熱いお風呂が好きな人もヒートショックに気を付けた方が良いでしょう。熱いお湯につかると一時的に血圧が上昇しますが、その後は血管が拡張して血圧が低下します。温度が高いほど血圧の変動が激しくなり、結果としてヒートショックが生じやすくなります。

30分以上お風呂に浸かっている人

長湯もヒートショックのリスクとなります。長湯をすると、通常よりも体温が上昇しやすくなるため、体温上昇に伴って血圧が大きく低下することがあります。入浴後の血圧低下が顕著になり、結果としてヒートショックが生じやすくなります。

飲酒後にお風呂に入る人

飲酒後の入浴にも注意が必要です。飲酒をすると、血管が拡張して血圧が低下しやすくなります。また、飲酒の利尿作用により脱水傾向となり、この点も血圧低下の一因となるでしょう。飲酒により血圧が低下しやすい状態で入浴をすると、血圧低下が顕著になりヒートショックを起こしやすくなります。

ヒートショックの予防対策方法

ヒートショックの予防対策方法

ここからはヒートショックの予防方法について解説していきます。基本的には、寒暖差をなくして急激な体温の変化を防ぐことが重要です。入浴時の予防対策、トイレにおける予防対策について詳しく解説します。

入浴におけるヒートショックの予防対策

入浴時におけるヒートショックの予防対策として、以下の9つが挙げられます。それぞれについて、具体的に説明していきます。

① 脱衣所と浴室を温める

先にも述べましたが、脱衣所と浴室は室内でも気温が下がりやすいです。また、衣類を脱ぐこともあり体温が急激に下がることがあるため、脱衣所と浴室は温めておいた方が良いでしょう。温める方法としては、脱衣所に暖房を設置する、または小型のヒーター等を置いておく等が挙げられます。

② お風呂の温度は低め(38~40℃)に設定する

お風呂の温度は38~40℃と低めに設定しておきましょう。お風呂の温度が高いと、体温上昇に伴って血管が拡張し、血圧の低下が顕著になりやすいです。熱いお風呂が好きな方も、我慢して温度を低めに設定しておいた方が良いでしょう。

③ ゆっくりとお風呂から出る

お風呂からはゆっくりと出るようにしましょう。入浴していると、体温上昇に伴って身体の血管は拡張します。血管が拡張した状態でいきなり立ち上がってしまうと、脳の血流が不十分になり、めまいや失神を起こしたりすることがあります。入浴時の失神は溺水にもつながるため、大変危険です。

④ 入浴前は飲酒を控え水分補給をする

入浴前は飲酒を控え、水分補給を心がけましょう。アルコール摂取は身体の血管を拡張させ、また利尿作用により脱水になりやすくなります。このような状態で入浴すると、ヒートショックを起こしやすくなるため、入浴前の飲酒は控えましょう。また、脱水の状態で入浴するとヒートショックが起きやすいため、入浴前に十分な水分摂取を心がけましょう。

⑤ 入浴前は家族に声をかける

入浴前に家族に声をかけることも重要です。万が一ヒートショックが起こってしまっても、早期に発見して適切な処置をとれば、溺水を防ぐことが可能となります。また、ヒートショックに伴い心筋梗塞や脳梗塞が発生しても、すぐに救急車を呼んだり応急処置を行ったりすれば、大事に至らない場合もあります。ご家族も、可能であれば入浴中は定期的に様子を確認してあげると良いでしょう。

⑥ 湯船につかる前にかけ湯をする

湯船につかる前にかけ湯をしましょう。急にお湯につかると、刺激により血圧が急上昇することがあります。いきなり身体全体で湯船につかるのではなく、かけ湯をして徐々に体を温めていきましょう。そうすれば、血圧の急上昇を防ぐことができます。

⑦ 浴室に手すりを設置する

浴室に手すりを設置することもヒートショック対策になります。ゆっくりとお風呂から出ることがヒートショックの予防対策になることをお伝えしましたが、手すりがあると湯船からゆっくり出やすくなります。また、仮にヒートショックによるめまいやふらつきが起きたとしても、手すりがあればそれにつかまることができ、転倒を防ぐことができます。

⑧ 長湯をせず、30分以内に出る

長湯はせず、30分以内にお風呂から出るようにしましょう。長湯をすることで身体の血管が拡張し、血圧が低下してヒートショックを起こしやすくなります。寒い日はどうしても長湯しがちになりますが、入浴時間は30分以内にした方が良いでしょう。

⑨ 食後1時間以上空けてから入浴する

食後1時間以上空けてから入浴しましょう。食後は食物の消化のため、胃や腸などの消化管に血液が集まるため、血圧が低下する傾向にあります。この状態で入浴すると血圧低下が著しくなり、ヒートショックが生じやすくなります。食後すぐに入浴をする習慣がついている人は、気を付けましょう。

トイレにおけるヒートショックの予防対策

続いて、トイレにおけるヒートショックの予防対策について説明していきます。予防対策としては、①トイレに暖房器具を置く②いきみすぎないように注意する③寝室はトイレの近くにするが挙げられます。それぞれについて、具体的に説明していきます。

① トイレに暖房器具を置く

トイレは室内でも特に冷えやすい場所であり、寒暖差からヒートショックを起こしやすい場所です。寒暖差をなくすために暖房器具を置くことをおすすめします。

② いきみすぎないように注意する

排便時にいきみすぎないよう注意しましょう。いきみすぎると血圧が急上昇し、ヒートショックを誘発します。また、排便後は迷走神経の影響により血圧が低下するため、いきんで血圧が上昇している状態だと血圧の変動が大きくなり、ヒートショックが起きやすくなります。

③ 寝室はトイレの近くにする

寝室はトイレの近くにしましょう。高齢者は自律神経機能の低下や前立腺肥大症の影響(男性)により、夜間トイレに行く回数が多くなりがちです。暖かい寝室から寒い廊下やトイレに行くことでヒートショックが起きる可能性があり、また廊下を歩く時間が長いと、その分だけヒートショックが起きる危険も高まります。夜間、トイレの際に寒い所にいる時間をできるだけ短くするためにも、寝室をトイレの近くにしておいた方が良いでしょう。

ヒートショックが起きてしまったら?

救急車

前述した予防対策を行っても、残念ながらヒートショックが起きてしまうことがあります。その際はどうしたら良いでしょうか。ご家族がヒートショックを起こした場合、自分にヒートショックが起きた場合について、それぞれ対策方法を説明していきます。

ご家族がヒートショックを起こした場合

ご家族にヒートショックが起きた場合、まずはすぐに救急車を呼びましょう。その上で、どこでヒートショックが起きたかが重要になります。

一番危険なのは、浴室でヒートショックが起きた場合です。浴室の場合、ヒートショックにより失神すると、転倒による外傷のみではなく溺水してしまうことがあります。浴室でヒートショックが起きた際、まずは気道確保が重要です。顔がお湯につかっていたら頭部を水面から出し、身体を浴槽から出して呼吸状態の確認および気道を確保しましょう。また、嘔吐したりして窒息しないよう、横向きになる回復体位という姿勢をとることも大事です。万が一、呼吸や脈が確認できない場合はすぐに心肺蘇生(胸骨圧迫と人工呼吸を行う。人工呼吸が難しければ胸骨圧迫のみ行う)を開始しましょう。

浴室以外の場所でヒートショックが起きた場合、溺水の危険はありませんが行うことは基本的に同じです。呼吸状態の確認および気道確保を行い、呼吸が確認できない場合は心肺蘇生を開始しましょう。呼吸や脈が確認できたとしても、嘔吐物で窒息しないよう、回復体位をとって救急車の到着を待ちましょう。

自分にヒートショックが起きた場合について

めまいや立ちくらみなどの症状が出現したら、その場にゆっくりしゃがむ、もしくは横になれるようであれば横になりましょう。立ったままでいると、転倒したり失神したりする可能性があり、危険です。入浴時に症状が出現した場合は、溺水予防のため浴槽のお湯を抜いた方が良いでしょう。また、すぐに家族を呼んで助けを求めましょう。

事前に寒さ対策をして、ヒートショックを防ごう

お風呂場

ヒートショックの原因やヒートショックになりやすい人、予防対策等について解説してきました。ヒートショックを起こしやすい人の特徴や予防対策をしっかりと頭に入れ、ヒートショックを未然に防いでいきましょう。
また、ヒートショックの予防対策として、浴室に手すりの設置をお考えの方は、介護用品・ヘルスケア商品の通販サイト「ヨイケア」から購入できますので、よろしければ一度ご検討下さい。

ヨイケア
増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。