介護保険サービスは改正が繰り返され、進化していますが、様々な人のニーズに沿った柔軟な介護サービスが、いつも受けられているとはいえないのではないでしょうか。しかし保険外サービスを活用することで、現状を打開できるヒントになるかもしれません。ぜひ参考にしてみてください。
目次
柔軟な介護サービスとは
柔軟な介護サービスとは何でしょうか。もしもそれが利用者の多様なニーズにフィットすることだとすると、介護の現場でサービスが硬直してしまうのはどうしてなのか考えていきます。
介護サービスが硬直化する理由
例えば訪問介護で要望が多い通院介助や買い物介助は、介護保険外サービスとは異なり、介護保険サービスの枠内で利用するには何かと制約が多く、使い方がむずかしいサービスです。また、デイサービス利用中の通院などの中抜けは基本的には認められず、たとえデイサービスがかかりつけの病院と近くても受診することができないなど、利便性や合理性、柔軟性に欠けているといえます。
介護サービスに不満があるときの対応
介護サービスに不満がある場合、まずは我慢せずにケアマネなどに相談しましょう。施設にとってもサービス向上のためには大切なことです。多くはこの段階で解決しますが、どうしても解決できないときは、正式な苦情相談窓口を訪れるようにしましょう。
苦情相談窓口
苦情を処理するための正式な窓口は3つです。
・介護サービス事業者が設置している苦情相談窓口
・市区町村の介護保険課
・都道府県の国民健康保険団体連合会(国保連)
まずは、苦情がある介護サービス事業所に直接相談するのがいいでしょう。それでも解決できない場合、介護サービス事業所がお住いの市区町村であれば、次の相談先は市区町村の介護保険課、所在地が別の場合は国保連になります。
担当ケアマネージャー
不満や苦情を直接介護サービス事業所に言うのは気が引けるという人もいるでしょう。そんなときはケアマネージャーに話を聞いてもらうのもいい方法です。ケアマネージャーは契約時に「公正中立の立場で支援する」という立場と示しています。利用者から苦情を聞いて客観的に事実を確認したり、必要なら介護サービス事業所に苦情を伝えてくれたりします。最終的に問題を解決するのは介護サービス事業所と利用者ですが、ケアマネージャーが動くことで、事業所が何らかの対応をしてくれることがほとんどといえるでしょう。
地域包括支援センター
地域包括支援センターとは、主に高齢者の困りごとを総合的に支えるための相談窓口です。介護(予防)サービスや保健福祉サービス、日常生活支援の相談に応じてくれます。各中学校区域に設置されているので、市区町村よりも身近な存在です。社会福祉士や保健師、主任ケアアマネジャーといった各種の専門家が相談にのってくれます。できれば事前に予約を取って概要を伝えてから訪れるのが、スムーズに相談が受けられるポイントです。
市区町村または都道府県の介護保険課
ケアマネージャーや介護サービス事業所に相談しても不満が残る、解決できない場合の次なる相談先は、市区町村または都道府県の介護保険課です。市町村や都道府県の介護保険課が苦情を受け付けるほど問題が大きくなることは稀だといえるでしょう。必要に応じて調査し、介護サービス事業所に指導してくれますが、十分ケアマネージャーや介護サービス事業所と解決策を話し合い、それでも解決できない場合の最終機関という捉え方をしておくといいでしょう。
地域の介護相談員
介護相談員の派遣は、介護保険地域支援事業の任意事業として行われており、介護保険課や国保連が受け付けるほど問題が大きくなる前に、介護サービス事業所に問題提起をして自ら解決を図ってもらうのが目的です。市区町村によってはないこともありますが、1~2週間ごとに2人1組で施設や訪問サービス利用者の自宅を回って話を聞いてくれます。個人が特定できないよう匿名で事業所に自主的な改善を提案してくれます。
地域の社会福祉協議会
苦情先がボランティアや市のサービスなど介護保険外サービスの場合、地域の社会福祉協議会が設けている運営適正化委員会に相談するのが適切です。地域包括支援センター同様、苦情がある介護サービス事業所と市区町村の介護保険課の中間に位置する相談機関です。
地域の民生委員
民生委員とは厚生労働大臣から委嘱された非常勤の地方公務員です。地域住民の生活や福祉全般に関する相談・援助を行っています。住民の最も身近な相談相手となり、行政や専門機関をつなぐ役割を担っており、守秘義務もあるので安心して相談できるでしょう。要介護認定に至らない方が、介護保険外サービスを利用している場合の苦情など、民生委員が身近な相談先になるでしょう。
介護保険以外のサービスの活用
介護保険サービスは、介護保険制度の範囲で行われますが、実際の生活ではもっと幅広い支援が必要です。また、介護認定を受けていない高齢者の中にも、何らかの手助けが必要な場面はあります。
介護保険外のサービスは制度の隙間を埋め、きめ細かい支援を可能にする貴重な資源です。
訪問理美容サービス
訪問理美容サービスとは、体が弱って外出できない高齢者の自宅や入所している施設を理美容師が訪れて、1回500円~2,500円ほどでカットや白髪染めを行うサービスのことです。移動にかかる時間や外出に伴う寒さや暑さによるダメージがない分、身体に負担をかけにくいので、とても使い勝手の良いサービスといえるでしょう。交通機関が不十分な地域では、車の運転をやめた方や、認知症で一般の利用者と一緒にサービスを受けることができない方にとって、貴重なサービスとなっています。
紙オムツの支給
紙オムツは毎日数枚使い、毎月数袋消費する生活必需品でありながら、高齢者が徒歩などで買い物して持ち帰るには大きすぎます。大きな荷物を抱えての道のりは転倒のリスクも高まるので、できれば避けたい状況です。紙オムツを毎月配送してくれる、または購入費をひと月およそ6,000~10,000円ほど助成している市町もあります。一人暮らしや老々介護の世帯にとってとても便利なサービスといえるでしょう。
配食サービス
市区町村が独自に行うサービスのひとつで、要介護者や一人暮らしの高齢者、高齢夫婦のみの世帯が対象になります。心身機能の低下によって、日々の食事の準備がむずかしい高齢者の自宅に1食500円程度で食事を配達するサービスです。コンビニや弁当チェーン、生協など民間企業でも配食は行われています。費用は高めですがサービス内容が充実しているだけでなく、誰でも利用できるという特徴があります。
傾聴ボランティア
傾聴ボランティアとは、都道府県や社会福祉協議会、傾聴ボランティア団体が連携した養成講座を修了したボランティアが、施設などを定期的に訪問し傾聴のスキルを用いて高齢者の話を聞くというものです。普段会話をする機会が少ない高齢者にとって、満足感が得られる貴重な時間となります。施設の介護職員は業務や身体介助に追われて、コミュニケーションに多くの時間をとれない場合もあり、ボランティアを頼もしく感じていることも珍しくありません。
寝具乾燥消毒
市区町村が委託している事業所が、体が弱って布団を干すなどの衛生管理が難しくなった高齢者の自宅を訪れ寝具を預かり、丸洗いと乾燥、消毒を行ったり、費用の一部を助成したりするものです。布団干しなどの重労働が体を痛めるきっかけになるほか、不潔な状態の寝具は床ずれを始めとする様々な皮膚トラブルの発生を招きます。一見高齢者の健康とは関係ないと思える寝具の衛生状態が、腰痛や床ずれなどの皮膚トラブルを予防し、医療費の削減にもつながります。
防火用具の支給
放火や自殺以外の住宅火災による死者は、7割以上が65歳以上の高齢者です。市区町村によっては高齢者日常生活用具給付事業として、65歳以上の住民を対象に、電磁調理器や火災報知器、自動消火器の給付や貸し付けを行っているところがあります。対象者の細かい要件は市区町村によって若干異なるため、役所に問い合わせてみる必要があります。
安否確認サービス
配食サービスは安否確認に大きな役割を果たしていますが、ほかにも市区町村が実施する介護予防・日常生活自立支援総合事業(1時間200円~250円程度)や社会福祉協議会の高齢者支援サービス(1時間800円程度)やシルバー人材センターの家事・福祉支援サービス(1時間1,067円程度)でも訪問による生活援助を行っており、掃除や食事の支援をしながら安否確認しています。
家族介護慰労金
非課税世帯で1年以上にわたり、要介護4~5の高齢者を介護サービスを使わずに自宅で介護している家族には年間10万円~12万円の介護慰労金が支給されます。申請が必要ですが、市区町村によって申請方法が異なるので確認が必要です。今回は、介護保険外のサービスについて解説してきました。介護保険サービスは使ってみて初めて過不足が分かる部分もあると思いますが、ケアマネージャーと相談しながら介護保険外サービスを活用して、徐々に要介護者にフィットした内容にしていくといいでしょう。