老人ホームの入居に必要な資金。先々必要だと思っていても、具体的な金額は分からないという方も多いのではないでしょうか。老人ホームの形態は、公的施設から民間運営まで幅広く料金もそれぞれ異なります。こちらの記事では、老人ホームの資金計画の流れとともに、そのポイントをくわしく解説していきます。実際に必要な費用もシミュレーションしているので、ぜひ参考にしてください。
目次
資金計画を立てる際のポイント
老人ホームの入居資金を試算するためには、現状を把握し将来を見据えることが大切です。そのためには、以下のような流れがポイントとなります。
● 現在の預金と今後の収入を確認する
● 予想される入居期間を確認する
● 費用を見積もる
● 利用できる減免、補助金制度を確認する
また、老人ホームには公的施設と民間施設があり、それぞれ料金体系が大きく異なります。特別養護老人ホームや介護老人保健施設は、介護保険が適用される施設。そのため、比較的費用が安く抑えられ、その分入居待ちになることが多いのが特徴です。一方、民間が運営する有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅には、入居一時金が必要な場合があります。これらの施設は自立度の高い方でも利用できるものが多く、費用の幅はさらに広がるでしょう。そのほか、介護や居住費、食費以外に医療費や娯楽費、通信費などが必要になる場合もふまえながら資金計画を立てていきます。
現在の預貯金と今後の収入を確認する
老人ホームの資金計画は、まずは資産の把握から始めます。資産としてあげられるのは、銀行の預貯金や満期を迎える生命保険、退職金などです。売却可能である不動産や、有価証券なども合わせて確認する必要があります。売却予定の自動車や家具は、相場を調べておきましょう。そのうえで、今後考えられる収入を洗い出します。定期的な収入としてあげられるのが年金です。厚生労働省の調査によると、令和元年度の国民年金の平均額は約66,000円です。会社員や公務員の方が対象の厚生年金を上乗せすると、約14万円となります。要介護度5の方が特別養護老人ホームを利用した場合、1か月の費用は約10万円。そのほかの費用を考えると、年金だけでは心もとないことが分かります。そのため、資産はなるべく細かく洗い出し、変動する可能性のある有価証券の配当や家賃収入は低めに見積もっておきましょう。
【参考】厚生労働省「令和元年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
【参考】厚生労働省「サービスにかかる費用」
予想される入居期間を確認する
資産を洗い出したら、次は入居期間を予想します。特に、自立度が高い段階で入居する場合は、将来の介護や医療を検討する必要があります。施設によっては、胃ろうや経管栄養といった医療的なケアに対応できない場合があるからです。厚生労働省の調査によると、男性の平均寿命はおよそ81歳。女性はおよそ87歳です。また、要介護状態に認定される方の数は、男女とも80代以上から増加する傾向にあります。あくまでも目安のひとつではありますが、資産計画のひとつとして介護の必要性を頭に入れておきましょう。
【参考】厚生労働省「主な年齢の平均寿命」
【参考】男女共同参画局「要介護認定者数と認定率(年齢階級別)」
費用を見積もる
現在の預貯金と今後の収入、入居期間を予想したら、以下の項目について費用を算出していきます。
● 介護サービス費
● 居住費(入居一時金)
● 食費
● 医療費
● 予備費(冠婚葬祭の費用、娯楽費など)
この際、見積もり額を大きく左右するのが、入居一時金です。公的な介護施設の場合は多くが0円ですが、有料老人ホームの場合には数十万円から数百万円必要な場合もあります。また、入居一時金の支払い方法には、「月払い方式」と「入居一時金方式」があります。月払い方式は、一般的なマンションのように月々家賃を支払っていく方法。入居時の費用をおさえたい方や、途中でほかの施設に移る可能性がある方におすすめです。入居一時金方式は、入居時に必要家賃の全てまたは一部を支払う方法。毎月の費用がおさえられ、長く住み続けるほどお得になります。このように費用を見積もることで、「入居したい施設」「入居できる施設」をより具体的にイメージすることが可能となります。
減免制度や補助金制度について確認する
介護保険が適用される介護サービス費は、介護度が高くなるほど負担が大きくなります。ただし、どなたでも介護サービスを利用できるよう、所得に応じた減免制度や補助制度が利用可能です。「特定入所者介護サービス費」もそのひとつ。市区町村の窓口に申請をすると、所得段階に応じて居住費と食費が減額されます。また、「高度介護サービス費」は費用補助が受けられる制度です。市区町村によっても異なるため、該当すると思われる場合には自治体の窓口やケアマネジャーに相談してみましょう。
トータルでかかる費用をシミュレーション
ここからは、入居から退去までに必要な費用を実際にシュミレーションしてみましょう。有料老人ホーム、公的介護施設それぞれのケースをご紹介します。
有料老人ホームを利用した場合のシュミレーション
● 介護度 要介護2
● 入居一時金 あり
● 入居年数 5年
● 月額年金 15万円
● 介護サービス自己負担割合 1割
月々の費用(単位:円) | 詳細 | |
月額利用料 | 200,000 | 居室費、管理費、食費、水道光熱費など |
介護保険料 | 18,120 | |
医療費 | 4,200 | |
介護用品 | 3,515 | |
月額合計 | 225,835 |
5年間の合計支出 | 13,550,100 |
入居一時金 | 4,000,000 |
支出合計① | 17,550,100 |
総資産 | 10,000,000 |
年金受給額合計(5年分) | 9,000,000 |
収入合計② | 19,000,000 |
推計残高(収入②-支出①) | 1,449,900 |
特別養護老人ホームを利用した場合のシミュレーション
● 介護度 要介護5
● 入居一時金 なし
● 入居年数 5年
● 月額年金 14万円
● 介護サービス自己負担割合 1割
月々の費用(単位:円) | 詳細 | |
入院費 | 77,200 | 居住費、食費、日常生活費(おむつ)など |
介護保険料 | 25,410 | |
医療費 | 5,600 | |
合計 | 108,210 |
5年間の合計支出 | 6,492,600 |
入居一時金 | 0 |
支出合計① | 6,492,600 |
総資産 | 5,000,000 |
年金受給額合計(5年) | 8,400,000 |
収入合計② | 13,400,000 |
推定残高(収入②-支出①) | 6,907,400 |
以上のように、入居一時金の有無、施設の形態によって必要な費用は異なります。手元にある資産と将来見込める収入をもとに、資産計画は余裕を持って立てることが大切です。途中で施設を変える必要性も頭に入れながら、さまざまな条件でシミュレーションしてみましょう。
入居後に費用が払えなくなった場合
入居後、何らかの原因で費用が支払えなくなっても、多くの施設ではすぐに退去を命じられることはありません。費用が払えない問題が発生した場合には、まずは施設長や担当ケアマネジャーに相談してみましょう。場合によっては、より費用の安い施設を紹介してもらえる場合もあります。3カ月以上滞納が続くと強制退去させられるケースもあるため、早い段階で対処することが大切です。
早めに資金計画をしておこう
老人ホームの資金計画は、家族で相談しておきたい問題です。今は元気だと思っていても、突然の病や事故で入居を検討するときが来るかもしれません。老人ホームによっては入居まで時間がかかるケースも考えられます。満足いく老人ホーム選びにつなげるためにも、今からしっかりと計画し将来に備えてみてはいかがでしょうか。
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多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。