2021.06.17

在宅介護を長く続けるためには|要介護者との関係づくり

最終更新日:2022.07.25
増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

介護が必要になっても、施設に入所したり病院に入院したりするのではなく、住み慣れた自宅で生活を続ける「在宅介護」。在宅介護を長く続けるためには、介護者と要介護者の関係づくりが大切です。こちらの記事では、在宅介護を支えるチームワークの作り方について解説。在宅介護を支える専門家たちについても紹介していきます。

要介護者との適切な関係づくり

介護

要介護者を自宅で介護し続ける在宅介護は、介護者と要介護者が適切な関係を築く必要があります。厚生労働省の調査によると、要介護者を介護する世帯のうち、核家族世帯は全体の40%以上。次いで単独世帯が28.3%と、世帯における介護者は決して多くないことが分かります。要介護者と1対1で向き合い続けるなかで、心配されるのが「共依存」の関係です。共依存とは、お互いを頼ったり、頼りすぎたりしてしまう関係のこと。特に親子関係の場合、子どもは「自分の家族なのだから」と、親への介護がすべてになってしまう傾向があります。それに対し、要介護者である親は、介護サービスではなく子どもの介護にばかり頼ってしまうようになるのです。結果、要介護者の自立した生活を支援するための適切な介護サービスが受けらくなってしまうのが、介護共依存の関係。この関係を防ぐためにも、在宅介護は多くの人々の協力を得て行う必要があります。

チームワークの作り方

介護

在宅介護を持続させるためには、多くの人々の協力が必要です。まず、家族に介護が必要になった場合には、各市町村に設置された地域包括支援センターに相談。介護認定を受けたのち、介護サービスを利用するための「ケアプラン」を作成するのがケアマネジャーです。利用する通所施設には、介護職のほか、リハビリスタッフ、栄養士などが常駐している場合もあります。医師や看護師といった医療関係者のサポートも、介護サービスの提供には欠かせません。訪問介護の現場では、生活支援や身体介護サービスを提供するための訪問介護員が活躍します。このように、ひとつの介護サービスは、多くの人のチームワークによって作り上げられているもの。その中心となるのが、要介護者と介護者、その親戚といったチームなのです。

家族や親戚でチームを組むこと

前述したように、介護者が固定された環境は共依存の関係を作り出します。そのため、在宅介護は複数人でチームを組むことが大切です。主に介護を担う方は、身近な人に頼めること、離れている人に頼めることをまず書き出してみましょう。そのうえで、誰にどのような役割を担ってもらうべきなのか、具体的な事例を相談しておきます。特に、離れて暮らす兄弟姉妹間では、親の介護に関するトラブルが発生しがちです。親の介護はいつどのようなタイミングでやってくるか分かりません。いざという時に誰がどのような介護を担当するのか、日頃からよく話し合っておきましょう。

在宅介護と関わる専門家について

要介護者の自立した在宅生活を持続するためには、行政や医療・介護の専門家たちの協力が必要です。ここからは、各専門家の役割について紹介していきます。

医療の専門家の役割

かかりつけ医

介護サービスを提供するためのケアプランには、主治医の意見書が必要です。そのほか、訪問診療や治療、必要に応じた処置を行うなど、かかりつけ医は在宅介護に欠かせない存在となります。思わぬ身体状況の変化に対応するためにも、普段から信頼のおけるかかりつけ医を決めておくことが大切。介護者が変わったときにも、要介護者の身体状況について把握しやすくなります

訪問看護

訪問看護とは、要介護者の居宅でカテーテル交換やインシュリン注射といった医療処置を行うサービスです。訪問看護では、看護師や准看護師などが、必要な処置や健康状態のチェックを行います。その他、介護に関する悩みや不安を聞き出し、担当ケアマネジャーと問題を共有していきます。

訪問リハビリ

理学療法士や作業療法士、言語聴覚士といったリハビリテーションの専門スタッフが、居宅を訪問して行うリハビリです。運動療法のほか、手先を使う作業療法など、内容は個々に対応したものとなっています。

介護の専門家の役割

ケアマネジャー

介護サービスを利用するための、ケアプランを作成する役割を担っています。また、各サービス事業所との調整や、給付管理なども行います。介護サービスを利用する方にとって、ケアマネジャーは要介護者と介護サービス事業所、行政や医療のかけ橋ともなる存在。要介護者本人や家族のニーズを把握し、可能な限り在宅で自立した生活を送るための支援を行います。

ホームヘルパー

要介護者の居宅を訪問し、生活支援や身体介護を行う介護スタッフです。正式には「訪問介護員」と呼ばれています。生活支援サービスの内容は、調理や掃除、洗濯などさまざま。家事代行サービスとは異なるため、要介護者の家族のための調理や掃除は行うことはできません。また、身体介護が必要な方の場合には、排せつや入浴、更衣の介助を行います。サービスは、ケアマネジャーの作成したケアプランに沿って提供されます。

デイサービス・ショートステイの介護職

デイサービスは、自宅から事業所まで要介護者が通い、食事や入浴、機能回復訓練といった介護サービスを利用する場所です。また、ショートステイは短期間入所できる施設。冠婚葬祭や出張などで介護者が不在となるときや、介護疲れのケアのために利用することができます。これらの事業所や施設で活躍するのが、介護サービスを提供する介護職。そのなかでも、介護福祉士は介護に関する国家資格を有した職員となります。

行政の専門家の役割

介護保険課・高齢福祉課の職員

介護保険の総合調整や保険料の徴収、介護保険証の発行など、介護保険に関わるすべてを担う課です。介護サービス利用の有無にかかわらず、介護保険に困ったときの相談窓口となります。

地域包括支援センターの相談員

介護や福祉、医療、保健といったすべての側面から地域の高齢者を支える役割を担う「総合相談窓口」です。地域包括支援センターは各市町村の日常生活域ごとに設置されており、高齢者やその家族の困りごとに幅広く対応することが可能です。介護サービスを利用した際は、地域包括支援センターのケアマネジャーを紹介してもらうこともできます。

社会福祉協議会の相談員

社会福祉協議会は、社会福祉活動の推進を目的とした民間組織です。相談員はソーシャルワーカー、ケースワーカーとも呼ばれ、各施設や事業所で相談援助業務にあたります。必要だと思われる介護保険サービスが利用できない場合には、社会福祉協議会のボランティア事業などを活用できることもあります。

民生委員

民生委員は、各地域で住民の相談に応じながら必要な援助を行う社会奉仕者です。「自宅での介護が難しい」といった相談に応じたり、利用できる介護サービスの情報を提供したりするなど、民生委員の活動内容はさまざま。地域に暮らす住民のひとりとして、在宅介護者の不安や希望に寄り添うことも役割のひとつです。必要に応じ、社会福祉協議会の事業やボランティア活動利用の調整を行うこともあります。在宅介護は、行政や医療、福祉、介護といったさまざまな職種のサポートによって支えられています。可能な限り自立した在宅生活を送るためには、それらを上手に活用することが大切です。家族内だけで介護を完結しようとせず、今回紹介した各サービスとチームを組みながら在宅介護を行っていきましょう。

増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。