高齢の方と一緒に外出する際、足腰が弱ってくると自家用車に乗せるのが大変に感じることが増えます。そんなときには、車椅子ごと乗車できたり乗り降りの介助までしてくれる介護タクシーが便利です。しかし、介護タクシーは料金が高いと不安に思う方も多いのではないでしょうか。実は、一部の介護タクシーは介護保険に対応しており、比較的安価で利用できる場合もあります。
そこで今回は、介護タクシーの種類や料金・利用方法について詳しくご紹介していきます。この記事を読めば、介護タクシーの上手な使い方が分かります。
目次
介護タクシーの料金
介護タクシーの料金は、以下3つの要素で構成されています。
・時間や距離の運賃
・介護に関する料金
・介護器具レンタル料金
介護保険適用の介護タクシーの場合は、介護保険適用外の介護タクシーに比べて「介護に関する料金」が安い点がポイントです。ここでは、介護タクシーの料金体系について詳しくご紹介します。
時間や距離の運賃
時間や距離の運賃については、介護保険適用・適用外のどちらの場合でも発生します。運賃については時間制運賃の場合と距離制の運賃の2つのパターンがあります。
時間制運賃、距離制運賃の具体例は以下の通りです。
時間制運賃 | 距離制運賃 |
・30分ごとに1,000円 ・1時間あたり3,000円、延長の場合は30分ごとに1,000円加算 |
・1.2㎞まで450円、以降255mごとに80円加算(いわゆるメーター料金) ・走行距離1㎞ごとに500円 |
時間制運賃は走行距離によらず料金が決まるので、目的地が遠い場合は距離制運賃に比べると安くなる場合があります。また、距離制運賃の場合は走行距離によって金額が決まるので、料金設定が分かりやすいという点がメリットです。なお、介護保険適用の通院等乗降介助の場合、「介護運賃」の認可を受けている事業所の場合は通常の半額程度の安価で利用可能な場合があります。
介護に関する料金
介護に関する料金は、介護保険適用の介護タクシーと適用外のタクシーで大きく異なります。2者の料金が大きく異なる点は、この部分にあります。
料金の具体例は以下の通りです。
介護保険適用の介護タクシー (通院等乗降介助) |
介護保険適用外の介護タクシー |
・片道97円(1単位=10円、介護保険自己負担割合が1割の場合) ・初回加算200円(1単位=10円、介護保険自己負担割合が1割、初めて利用する場合または前回利用から2ヶ月以上空いている場合) ・事業所が処遇改善加算、特定処遇改善加算、介護職員等ベースアップ等支援加算を算定している場合は別途上乗せ |
・基本介助料500~1,500円 ・屋外介助:30分ごとに1,000円 ・屋内介助:30分ごとに800円 など |
このように、介護保険適用の介護タクシーは用途が限定されていること、介護保険適用で自己負担が1~3割で済むことから、安価に利用することができます。一方で、介護保険適用外の介護タクシーは料金が高い分様々な目的で利用できるという点が特徴です。思わぬ請求額に驚かないよう、事前に両イメージを伝えたうえで、どのくらい料金がかかるのかを確認しておくと安心です。
介護器具レンタル料金
介護タクシーの事業者の中には、利用者が車椅子やストレッチャーによる移動介助が必要な場合に別途料金がかかる場合があります。
料金の具体例は以下の通りです。
・一般的な車椅子:0~1,500円/回
・リクライニング式車椅子:1,500~2,500円/回
・ストレッチャー:3,000~5,000円/回
上記以外に、例えば気管切開しているALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の人工呼吸器用電源など、身体状況に応じた特殊な医療器具にも対応している場合があります。利用の際は事業者としっかり打ち合わせするようにしましょう。
介護タクシーとは
介護タクシーとは、主に介護の資格を持った運転手が車輛への乗り降りを介助してくるタクシーのことを言います。利用する方が歩行困難な場合は車椅子対応の車輛で迎えに来てくれて、自宅に車椅子がない場合は持参してくれる事業所もあります。
介護タクシーとは「訪問介護サービス」の一つ
介護タクシーには、介護保険に対応したタクシーと介護保険対応外タクシーの2種類があります。介護保険対応のタクシーは「訪問介護(ホームヘルパー)」のひとつとして提供されているため、利用するためには所定の要件を満たす必要があります。
福祉タクシーとの違い
介護タクシーに類似するサービスとして「福祉タクシー」があります。介助が必要な方に対応したタクシーと言う点では大きな違いはありませんが、主に高齢者の方を対象にしている事業者が「介護タクシー」と名乗る傾向があります。「福祉タクシー」は利用者を高齢者に限らず障がい者・児とその家族を含む要配慮者を対象にしている事業者がこの名称を使っている場合があります。「福祉タクシー」は一般的に介護保険適用外の介護タクシーと同義として使われることが多いため、保険適用を考える場合には注意が必要です。
また、ボランティア団体が実施する「福祉有償運送」というサービスもあります。こちらは市町村やボランティア団体が自家用車を利用して公共交通機関や一般的なタクシーの利用が困難な方を送迎するサービスです。用途は受診に限らない一方、利用登録時にサービス利用の必要性について審査があるため、誰でも利用できるわけではありません。また、要介護1以上の認定がついていて通院が目的の場合は介護保険の介護タクシーが利用できるため、利用登録を認められない地域もあります。これも介護保険適用外の介護タクシーの一部と考えてよいでしょう。
介護保険適用と介護保険適用外の介護タクシーの違い
介護タクシーには、介護保険に対応したタクシーと介護保険適用外タクシーの2種類があります。それぞれの大まかな違いは以下の通りです。
項目 | 介護保険適用の介護タクシー | 介護保険適用外の介護タクシー |
利用対象者 | 要介護1~5認定を受けた介護保険被保険者 | 心身機能の低下により車輛の乗降や前後の移動に介助が必要な人 |
利用目的 | 以下の目的に限られる ・通院、入退院 ・選挙 ・公的機関における行政手続き ・預金の引き下ろし ・補装具・補聴器・眼鏡の調整など本人自身が行く必要がある日常生活必需品の買物 |
通院、買物、旅行など幅広く利用可能 |
サービス内容 | ・車両への乗降介助 ・通院先での受付 ・医療機関を除く屋内外の移動介助 ・薬の受取り ※例外的に院内介助が認められる場合あり |
・車両への乗降介助 ・外出先で必要となる受付などの手続き ・屋内外での移動介助 ・上記以外に随時発生する身体介助全般 |
利用時の注意点 | ・ケアマネジャーからケアプランを作ってもらう必要がある ・対象者や利用目的が限定的 ・同乗者は原則認められない |
・料金が高額になりやすい傾向にある ・介護スタッフの対応能力に不安がある場合も |
介護保険を使用する介護タクシーの利用について
介護保険適用の介護タクシーは介護保険制度上の「訪問介護」に分類されており、正式名称を「通院等乗降介助」といいます。利用できる人は要介護1以上の認定を受けている方に限定されています。要介護1以上の方に限定されている主な理由は、大まかな状態増として要支援2までの人は自力で歩けたり、認知機能に問題がなかったりする人が多いからです。例え杖や歩行器が必要だったとしても、自力歩行が可能で認知機能にも大きな問題がなければ、通常の車輛や公共交通機関を利用する能力を有していると考えられています。
利用対象者
介護保険を利用した介護タクシーの利用対象者は、要介護1以上の認定を持つ高齢者などです。担当のケアマネジャーが必要性を認め、ケアプランに記載した場合に利用できます。例えば認知症によって車の乗り降りに支援が必要な場合や、足腰が不自由で店頭の危険がある方・車椅子を使っている方などが該当します。たとえ要介護1以上の認定でサービスを利用していても、認定更新によって要支援になると利用できなくなるので注意しましょう。
利用目的
介護保険を利用した介護タクシーは、利用目的に制限があります。介護保険制度では、利用目的を以下のように定めています。
・医療機関への通院(入退院を含む)
・官公庁(市役所など)での生活上必要な手続き
・選挙
・介護保険施設(デイサービスなど)の見学
・預貯金の引き下ろし(郵便局、銀行など)
・日用必需品の買い物
このように、介護保険を利用した介護タクシーは日常生活に必須とされる目的のみが対象になっています。
サービス内容
介護保険を利用した介護タクシーのサービス内容は、以下の通りです。 訪問介護員等(資格を持った介護タクシーの運転手)が運転する車両への乗降に関する介助
・乗車前・乗車後の移動介助(屋内・屋外両方含む)
・目的地での受診などの受付手続きや移動介助
例えば通院の際は、自宅玄関から車両までの移動→車両への乗車→目的地到着後の降車→通院先での受付までの移動→通院先の受付上記に関する介助が具体的なサービス内容になります。
利用時の注意点
介護保険を利用した介護タクシーを利用する際は、以下の点に注意しましょう。
・付き添い家族が同乗できない場合がある
・生活上必須の目的以外は対象外
・運賃は介護保険の対象にならない
・受付後の移動介助は原則介護保険対象にならない
・乗車前後にオムツ交換などの身体介護が必要な場合、断られることもある
市区町村によっては、他の自治体とは異なる独自の決め事が設定されている場合もあります。詳しくは担当のケアマネジャーに相談しましょう。
介護保険を使用しない介護タクシーの利用について
介護保険外の介護タクシーには、細かいルールや利用制限が少ないという点が特徴です。代わりに料金が高かったり、対応するスタッフの介護に関する知識や技術に差があったりするなどのデメリットもあります。介護タクシーを利用する場合は、介護保険の対象である介護タクシーと対象外の介護タクシーについて違いの理解を深めることが重要です。この章では、介護保険制度の対象外に分類される介護タクシーの特徴について詳しくご紹介します。
利用対象者
介護保険外の介護タクシーの場合、利用対象者に関する法律的な決まりごとはありません。基本的には、以下のいずれかに当てはまる方が利用するケースが多いでしょう。
・身体障がい、知的障がい、認知機能障がいなどにより車両の乗り降りに介助が必要な方
・常時車椅子を使用しており、自家用車に乗れない方
要介護認定を受けている方でも、受けていない人でも、介護保険外の介護タクシーであれば幅広い方が利用できます。
利用目的
介護保険外の介護タクシーには、利用目的に関する明確な制限はほとんどありません。介護保険の介護タクシーでは対象外となる目的でも利用できる場合が多いです。例えば、以下のような場合にも利用できます。
・入院先を転院する場合の病院間の移動
・旅行や娯楽目的の外出
・嗜好品の買い物
・友人宅への訪問
介護保険外の介護タクシーの魅力は、幅広い利用目的で気軽に利用できるという点です。介護保険対応の介護タクシーの代替として利用することも可能です。
サービス内容
介護保険外の介護タクシーが実施するサービス内容は、基本的に介護保険サービスに該当する介護タクシーと同様です。タクシーに乗せるまでの移動や乗車に関する介助とタクシー降車から目的地の受付までの移動が主なサービスです。ただし事前相談によって事業者が認めた場合は、別料金で外出先での付き添いに対応することも可能です。介護保険サービスの介護タクシーとは異なり、柔軟にサービス内容を相談できる点が魅力です。
利用時の注意点
介護保険外の介護タクシーを利用する際は、以下の点に注意しましょう。
・利用料金を事前に確認。遠距離の場合は見積もりを
・移動自体にリスクがある方(重度の要介護者、著しく体力が低下している等)は断られることも
・対応するスタッフの保有資格や業務経験を確認
介護タクシーの料金のシュミレーション
事例①
介護保険適用の「通院等乗降介助」を利用し、自宅から10㎞先の医療機関を受診した場合(距離制運賃:1km/100円(介護運賃)、1単位=10円、介護保険自己負担割合1割、車椅子は介護保険でレンタルしている場合)
<片道>
・運賃:100円×10(km)=1,000円
・介護料:97円
・介護料に関する加算①:処遇改善加算 97円×13.7%=13円
・介護料に関する加算②:特定処遇改善加算 97円×6.3%=6円
・介護料に関する加算③:介護職員等ベースアップ等支援加算97円×2.4%=2円
・介護器具レンタル料金:手持ちの車椅子使用のため、0円
・片道料金の合計:1,188円
<合計>
1,188円×2(往復分)=2,236円
事例②
介護保険適用外の介護タクシーを利用し、自宅から3km先にある酒屋にお酒を買いに行った場合(距離制運賃:1km/500円、介護料:基本介護料500円/1時間、屋内介助:500円/30分、車椅子レンタル料1000円の場合)
・運賃:500円×3(km)×2(往復分)=3,000円
・介護料:500円(基本介護料)+500円(屋内介助料)=1,000円
・車椅子レンタル料:1,000円
<合計>
3,000円(運賃)+1,000円(介護料)+1,000円(車椅子レンタル料)=5,000円
事例③
介護保険適用外の介護タクシーを利用し、自宅から50㎞先にある観光地に遊びに行った場合(距離制運賃:1km/500円、介護料:基本介護料500円/1時間、屋内介助:500円/30分、屋外介助:800円/30分、車椅子レンタル料1000円、総所要時間6時間の場合)
・運賃:500円×50(km)×2(往復分)=50,000円
・基本介護料:500円×6(時間)=3,000円
・屋内介助料:500円×2(所要時間1時間)=1,000円
・屋外介助料:800円×3(所要時間1.5時間)=2,400円
・車椅子レンタル料:1,000円
<合計>
50,000円(運賃)+3,000円(基本介護料)+1,000円(屋内介助料)+2,400円(屋外介助料)+1000円(車椅子レンタル料)=57,400円
介護タクシーの探し方
介護タクシーの最も効率的な探し方は、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談することです。ケアマネジャーや地域包括支援センターには、その地域にある社会資源(介護保険サービス事業所や、その他介護福祉関連の制度やサービス・ボランティアなど)の情報が集まっているからです。
当然、介護タクシーに関する情報も持っているので、目的や必要性に応じた介護タクシーの業者を紹介してくれるでしょう。また、介護タクシーを実際に利用するまでには利用者の心身状況や特性・注意事項・介助方法など確認や調整をしなければならないことが多く、一般の方では大変な手間がかかります。
要介護1以上の認定をお持ちでケアマネジャーと契約している場合は担当のケアマネジャーに、それ以外の場合は地域包括支援センターに相談するとスムーズに進むでしょう。
介護タクシーと普通のタクシーの料金の違い
介護タクシーと普通のタクシーの料金で最も異なる点は、運賃の料金設定です。介護タクシーの場合は通常のタクシーの料金体系とは別に、運輸局から「ケア運賃」や「介護運賃」の認可を受けている場合があるからです。
例えば、通常のタクシーの場合は「1.2㎞まで450円、以降255mごとに80円加算」などが通常ですが、「介護運賃」の場合は「1.0㎞まで300円、以降1kmごとに100円加算」のような料金設定が可能になっています。
ただし、単に運賃だけで見れば介護タクシーの方が安くても、介護タクシーには介助料や車椅子レンタル料などの料金が別途必要になります。場合によっては普通のタクシーを利用した方が総合的に安くなる場合もあるので、利用の際は担当のケアマネジャーと相談しながら決めることをお勧めします。
介護タクシーを利用する際はケアマネジャーに相談しよう
ここまでは、主に介護保険適用の介護タクシーと介護保険適用外の介護タクシーについてご紹介してきました。
介護保険適用の介護タクシーは訪問介護における「通院等乗降介助」として安価で利用できる一方、利用条件や目的が限られる点がデメリットです。介護保険適用外の介護タクシーは利用に関する制限が少ないのが特徴ですが、一方で料金設定が事業所により大きく異なり、条件によっては高額になってしまう点がデメリットです。
介護タクシーの種類や仕組みはたくさんあり、一般の方では分かりづらいところがあります。利用にあたって確認や調整をしなければならないことも多く、専門家に任せた方が安心です。双方の特徴を活かしてうまく活用するためには、担当のケアマネジャーに相談して状況に応じて使い分けるようにするとよいでしょう。
これらの情報が、少しでも皆様のお役に立てば幸いです。
「【介護タクシーとは?】利用料金と利用方法を解説」に関連する記事
大学卒業後、通所介護・訪問介護・福祉用具貸与・居宅介護支援・グループホーム(認知症対応型共同生活介護)・有料老人ホーム・障がい者施設などを運営するNPO法人にて様々な種別の事業所に所属。高齢者支援だけでなく、障害者総合支援法に基づく業務の経験や知識も併せ持っている。事業所の新規立ち上げや初任者研修・実務者研修の設立・運営にも携わる。その後は地域でも有数の社会福祉法人に転職し、特別養護老人ホーム・ショートステイの事業所に所属した。現在は在宅高齢者を支援するケアマネジャーとして約50件を受け持つ。3児の父で、自身の祖父と父を介護した経験もあり、サービス利用者側・提供者側双方の視点を持ち、読者に寄り添う記事の執筆をモットーとしている。
多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。